箱庭療法とは、自由に箱庭の中に世界を作ることで自己治癒力を促す技法で、現在では医療機関、児童福祉機関などで広く実施されています。
ここでは、箱庭療法の内容、特徴、効果などについて説明し、人気ゲーム「あつまれどうぶつの森」との関係も考えてみます。
目次
箱庭療法とは
箱庭療法とは、砂を入れた平たい木箱の中に、立っている人、歩く人、寝転んだ人、僧侶、戦闘員、動物、昆虫、怪獣、ビル、病院、民家、寺院、教会、車、飛行機、船、戦車、信号機、木、花、柵などさまざまな小さな玩具を置いて、一つの世界を築いてもらう技法です。
箱の大きさは、縦57㎝、横72㎝、高さ7㎝で、底には砂が水平に敷き詰められています。箱の内側は水色です。底も水色ですが、砂があるため底の色は見えません。
木箱はテーブル状の台の上に置かれており、その横にはたくさんの小さな玩具が入った棚があります。
箱庭療法のやり方
箱庭療法を受ける人(クライエント)は、木箱の中に自由に玩具を置いていきます。セラピストは、最初に「何か作ってください。」と言う他は特に口をさしはさまずに、作る様子を見守ります。
また、自由に砂を触ったり、掘ったり、盛ったりすることもできます。砂を掘れば水色の底が現れ、それが川になったり海になったりしていきます。作るのは一度だけではなく、間隔をあけて継続的に何度か作るのが通常です。
箱庭療法の歴史
この技法は、1929年に、イギリスのローエンフェルトという遊戯療法の先覚者によって創始され、ユングの分析心理学の影響を受けたスイスのカルフが現在の形に整え、ユング研究所に留学した河合隼雄(元京都大学教授)によって1965年に日本へもたらされました。
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箱庭療法の特徴
箱庭療法の概要についてはご理解いただけたでしょうか。ここからは、箱庭療法の特徴についてご紹介します。
クライエントに対する「守り」
箱庭療法の特徴は、クライエントに対する「守り」の強さです。カウンセリングルームという場所で守られ、セラピストによって守られ、更には箱の枠で守られます。
加えて、砂や玩具を使用することで童心に返る部分があり、防衛的な構えが和らぎます。玩具を使うので、絵を描く時のように上手いか下手かといったことを気にして委縮することもありません。
そのため、木箱の中に、自分でも意識していない無意識の部分を含んだ世界を作ることができるのです。それまで表現できていなかった自分自身を十分に表現していくことで、自己治癒力が促され、心理的な問題の改善へとつながります。
対象となる人の幅広さ
もう一つの特徴として、言葉で表現することが苦手な人や、言葉で表現できないような問題を抱えている人、更には言葉を発せない人に対しても、箱庭療法が有効な点をあげることができます。
また、対象となる年齢が、3歳くらいからお年寄りまで幅広いことも特徴です。
箱庭療法の効果と事例
箱庭療法の効果については、種々の事例
が報告されています。ここでは、論文に報告されている事例を紹介します。(河野博臣、1979)
・20代の過敏性大腸症候群の男性に箱庭療法を施した事例では、継続して箱庭を作る中で、親族からの攻撃を受けていることに気づき、現実場面での話し合いや洞察が進み、治癒しています。
・20代の神経性食欲不振症の女性に箱庭療法を施した事例では、10回以上の箱庭を作成し、イメージが豊富になり、新しい外界に旅立とうとするようになっていきました。その後は仕事に復帰できています。
・小学校低学年の学校恐怖症の女児に箱庭療法を施した事例では、5回目の箱庭で自我の殻を破った新しい旅立ちを示し、休まずに登校するようになっています。
箱庭療法における解釈の意義
箱庭療法では、基本的にはクライエントに対して解釈を伝えることはしません。
クライエントが作った作品である箱庭を、セラピストは受容的に観察し、芸術作品を鑑賞するかのように味わいます。クライエントに寄り添っていくと言ってもいいでしょう。そうする中で、クライエントは安心して箱庭に無意識部分を含んだ自分自身を表現でき、自己治癒力が機能していくようになるのです。
ただし、セラピストの側では解釈をおこない、クライエントの状態を把握します。玩具の配置と方向性、テーマ、使用した玩具等の象徴性、砂への接触の有無、玩具の使用量、配色など種々の観点から解釈します。連続して作った箱庭の変化などをシリーズとして解釈していくことが大切です。
箱庭療法のデメリット
箱庭療法は、幅広い人を対象とすることができる技法です。言葉での表現が難しい人や問題にも有効で、クライエントは安心感を得ることができます。
ただし、箱庭療法が向いていない人にとっては負担が大きくなってしまう場合があり、注意が必要です。
箱庭療法が向いていない人
それでは、向いていないのはどんな人でしょうか。箱庭療法は、心の深層に作用する技法ですが、それだけに、内面を混乱させる可能性があります。
したがって、統合失調症などで病理が重くなっている場合は、箱庭療法をおこなわないことが原則となっています。
箱庭療法について学べる本
箱庭療法に関してもっと詳しく知りたい方は、以下の本も参考にしてみてください。
どうぶつの森と箱庭療法の関係
次に、人気ゲーム「あつまれどうぶつの森」と箱庭療法との関係についてみていきましょう。
「あつまれどうぶつの森」では、ゲーム内という守られた疑似空間の中で、無人島に移住し、好きなようにテント、家、家具などを配置し、ゲームが進むと地面を掘ったり、土を盛ったりできるようになっていきます。また、他の人と一緒にプレイすることができます。
箱庭療法における、セラピストに見守られながら行う点や、一度作った箱庭は壊して次の時にはまた新しく作る点、原則的には他の人とのコミュニケーションはとらずに箱庭を作る点などは、「あつまれどうぶつの森」とは異なります。
しかし、「あつまれどうぶつの森」の守られた空間、自由な配置や、土を掘ったり盛ったりできることは、箱庭療法に通じるものがあります。そうしたこともあり、「あつまれどうぶつの森」で癒し効果を感じる人もいらっしゃるのだと思います。
箱庭療法への期待
箱庭療法とはどんなものか、その内容や特徴、効果、事例、解釈、デメリットなどについて触れ、人気ゲーム「あつまれどうぶつの森」との関係について考えてみました。
箱庭療法は、セラピストや箱の枠で守られた中で、防衛や委縮のない無意識部分をも含んだ自由な世界を表現することで自己治癒力を促していく技法です。言語表現の得手不得手や、3歳程度以上であれば年齢も選びません。
優れた特徴を持つ箱庭療法のますますの発展を期待します。
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参考文献
- 岡田康伸著「箱庭療法の基礎」(1984)誠信書房
- 岡田康伸講演録「箱庭療法の治療的要因について」広島大学大学院心理教育センター紀要 第6巻(2007)4-12
- 長坂正文 日本学校教育相談会研修テキスト「58箱庭療法」
- 河野博臣 心身症に対する箱庭療法の適応と限界(1979)心身医学 第19巻第2号 115-123
- 丹治光浩 心理アセスメント技法としての箱庭の可能性(2011) 花園大学社会福祉学部研究紀要 第19号 1-14