ゲシュタルト療法とは?その手法や技法をわかりやすく解説

2022-09-15

人間の精神機能は人格としてまとめあげられ、そして精神機能と身体機能が統合されることで人間らしく健康に過ごすことができます。

このようなまとまりが弱まってしまったときに有効な心理療法の1つとして、ゲシュタルト療法というものが挙げられます。

それではゲシュタルト療法とはいったいどのようなものなのでしょうか。そのやり方や具体的な技法、危険性などをわかりやすく解説していきます。

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ゲシュタルト療法とは

ゲシュタルト療法とは、1940年代にフレデリック・パールズによって開発された心理療法です。

ゲシュタルト療法の「ゲシュタルト」とは元々、「全体の姿」や「形の全体像」などの意味を持つドイツ語であり、主に知覚実験において、構成要素の総和と全体の持つ情報は異なるとするゲシュタルト心理学などでも用いられる用語でした。

ゲシュタルト療法の大きな特徴は「今、ここ」での体験に強くフォーカスを当て、本人が感じていることへの気づきを促すことにより、心から排除された内容を取り戻し、統合させるということにあります。

この排除されていた心の一部を統合させるという狙いは、主体的な生活を取り戻し、より創造的な生活を送ることに役立ちます。

そのため、他の心理療法が目標としている社会不適応を引き起こす症状の改善、解消が治療目標ではなく、人間的な成長をその目標としている点でゲシュタルト療法は特徴的であると言えるでしょう。

ゲシュタルト療法における3つの気づき

ゲシュタルト療法の開発者であるパールズは、気づきがゲシュタルト療法のなかでも中心的な役割を果たすとして重視しており、気づきには次のような3つの領域があることを指摘しています。

【ゲシュタルト療法での3つの気づき】

  • 自己の気づき
  • 外界の気づき
  • 中間層の気づき

自己の気づきとは、皮膚の内側で起きていることへの気づきです。

これに対し、外界への気づきは皮膚の外側で起こっていることへの気づきです。

それでは、最後の中間層の気づきとはいったいどのようなものなのでしょうか。

パールズによれば、中間層の気づきは自己の気づきと外界の気づきの中間にあるファンタジー・考え・イメージへの気づきであるとされています。

そして、ゲシュタルト療法では、人の思い込みが単なるファンタジーであると気づくことで、新しい行動が導かれ、人間的な成長につながると考えられているのです。

ゲシュタルト療法のメリット・デメリットと危険性

ゲシュタルト療法は他の心理療法と異なり、気づきの機会を通じて自己成長を促すという性質を持っています。この性質により、ゲシュタルト療法には以下のようなメリット・デメリットが存在します。

ゲシュタルト療法のメリット

ゲシュタルト療法は気づきによって自己成長を促します。

そのため、単に症状を消失させるのではなく、人間性の向上により、よりよい生き方を獲得できるということは大きなメリットであると言えます。

ゲシュタルト療法のデメリット

一方で、デメリットも確実に存在します。

ゲシュタルト療法は対話を通じて、本人の全体から排除されている要因への気づきを促すという形式をとります。

そのためにはクライエントが深い対話を行うための言語能力や排除されている内容を考える思考力が求められることになるでしょう。

このような求められる前提条件により、言語能力・知的能力の発達に大きな障害がある、認知能力の衰退が著しいケースなどには適用が難しいと考えられるのです。

ゲシュタルト療法を実施する際の注意点

また、これはゲシュタルト療法に限った話ではありませんが、十分な知識・技能を持っていない人がやみくもにゲシュタルト療法を実施することは危険でしょう。

特に、中間層の気づきに含まれる想像力を建設的に導くことができれば望むべき人生の理想像を確立することに繋がりますが、病理が深かったり、本人の抵抗が強い中で無理やり気づきを促そうとするようなアプローチでは実際に起こっていることとファンタジー・思い込みの違いが判らなくなり、人格の統合が失われたり、現実との接触を失う可能性もあるのです。

このように、ゲシュタルト療法の実施の前には必要な教育・研修を受け、クライエントを適切に導く治療者となる必要があるでしょう。

ゲシュタルト療法のやり方

それではゲシュタルト療法はどのように進められるのでしょうか。

ゲシュタルト療法は通常の心理療法と同じように心理査定、治療同盟の確立という手順を踏んだ後、クライエントの気づきを促すために問いかけを行っていきます。

ゲシュタルト療法における問いかけ

ゲシュタルト療法では、特に「今ここ」で感じているものをしっかりと味わってもらうことが狙いとなっているため、基本的な問いかけは「今、何に気づいていますか」という形式になります。

この問いかけはクライエントが感じている悲しみ、怒り、恐れなどネガティブな内容への回避を防ぐ狙いがあります。

また、ゲシュタルト療法の問いかけの大きな特徴には「なぜ?」という質問をしないということが挙げられます。

この理由を問う「なぜ?」という質問は議論や説明に陥りやすく、クライエントの知性化や合理化といった防衛を引き起こしやすくなります。

そのため、「何を?」や「どんなふうに?」のような現実に根差した問いかけによって、クライエントに無理のない気づきを促していくのです。

ゲシュタルト療法の技法

上記のような基本的なやり取りのほかに、ゲシュタルト療法には特徴的な技法があります。

代表的なものを見ていきましょう。

誇張・繰り返し

ゲシュタルト療法では、身振り・姿勢・声の調子などの非言語的な情報には、本人に自覚されていない欲求が表れるとして、言語表現だけでなく、あらゆる表出活動に注目しま

そして、動きの抑制や過剰、言語表現との不一致などを見つけたら、その動きを誇張してもらったり、繰り返してもらうことにより、クライエントが自身の動きに含まれた意味を感じ、気づけるよう導くのです。

エンプティ・チェア

エンプティ・チェアはクライエントの抱える葛藤に対する有効な技法として有名です。

心のなかに葛藤が浮かんできたときには、クライエントのそばに用意した椅子に葛藤を引き起こす対象となる人や自分がそこに座っていると想像し、クライエントに対話を進めてもらうという形で進められます。

こうすることによって、クライエントが認められず否定していたパーソナリティの側面がクライエントに自覚され、十分な対話を通じて1つのパーソナリティに統合されると考えられています。

ドリームワークス

ゲシュタルト療法では「夢はその人自身の自発的な産物」であると考え、クライエントの現在の生き方が表現されているととらえます。

そのため、夢のなかに登場する人や物はすべてクライエントの側面を表しており、それぞれの対象を思い浮かべ、一人称で語ってもらう擬人化の技法により、夢に反映されている葛藤や未解決の問題と向き合えるよう援助するのです。

実験

ここでの実験は、科学薬品を混ぜるような活動ではなく、これまで回避されていた領域へと踏み込み、新たな行動を促そうとする働きかけのことを指します。

例えば、虐待を受けていた子どもが、恐怖のため、親に対する怒りを自覚できず心理的な不調に陥っていたとしましょう。

そこでの実験は、親に対して怒りの感情表現をしてみるという新たな行動であり、その実践のためにはクライエントに安全を保障する(親の前でいうのではなく、面接室で親が目の前にいる想像をして怒りの表現をしてみるなど)ことが重要です。

このような実験によってクライエントは新たな経験をし、その経験から得られたことによって自己への気づきが促されるのです。

ゲシュタルト療法について学べる本

ゲシュタルト療法について学べる本をまとめました。

初学者の方でも読み進めやすい入門書をまとめてみましたので、気になる本があればぜひ手に取ってみてください。

ゲシュタルト療法―その理論と実際

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ゲシュタルト療法の背景理論と実際の心理療法の実践におけるポイントをまとめた良書です。

これからゲシュタルト療法について学びたい方にまず手に取って頂きたい1冊となっています。

ゲシュタルト療法―その理論と心理臨床例 (二十一世紀カウンセリング叢書)

ゲシュタルト療法の実践には十分な知識と技術を備えていることが欠かせませんが、実際の心理臨床の現場での実践の前に事例に触れておくことは大きく役立ちます。

ぜひ、ゲシュタルト療法の心理臨床例が掲載された本書に目を通し、実際にゲシュタルト療法を行う際のイメージを持てるようにしましょう。

心の全体を取り戻し成長する

ゲシュタルト療法は、排除されている心の要素や身体とのつながりを取り戻し、全体として再統合することで人間的な成長を目指す、少しほかの心理療法とは毛色の違ったアプローチをとります。

しかし、自律神経失調症や心身症などなかなか治療が難しいとされている疾患にも有効であるという報告もあり、ゲシュタルト療法に関する知識を持っていることは現場でも大きく役立つでしょう。

ぜひ、これからもゲシュタルト療法について学んでみてください。

【参考文献】

  •  入谷好樹(2005)『ゲシュタルト療法における治療技法の体系化の試み(その1) : Perls, F.の治療技法 』鳴門教育大学研究紀要 22 274-287
  • 江夏亮(2011)『中間領域の思考に対するhere and nowについて : うつに対するゲシュタルト療法の新たな可能性 』ゲシュタルト療法研究 日本ゲシュタルト療法学会編集委員会事務局 編 (1) 37-45
  • 有村靖子(2018)『ゲシュタルト療法の提案にフォーカシング的態度を加えることの意義 』ゲシュタルト療法研究 日本ゲシュタルト療法学会編集委員会事務局 編 (8) 19-28

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    • この記事を書いた人

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    臨床心理士指定大学院に在学していました。専攻は臨床心理学で、心理検査やカウンセリング、心理学知識に関する情報発信を行っています。

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