私たちが普段日常的に行っている推論や判断の過程には、実は様々なバイアス (偏りや歪み) があります。確証バイアスもその一つで、特に私たちの日常生活や社会問題に深く関わるバイアスです。確証バイアスの具体例や心理学的実験、問題などをみていきましょう。
目次
確証バイアスとは
確証バイアス (confirmation bias) は、私たちの考えや推論が正しいかどうかを確かめる際に生じる、自身の持つ考えや推論を支持する証拠を優先的に調査または重視し、一方で支持しない証拠を無視または軽視する傾向のことです。
確証バイアスの具体例
確証バイアスは私たちの日常生活に様々な形で関わってきています。
例えば、あなたが「糖質制限はダイエットに良い」という考えを持っており、それについてインターネットで深く調べたいとします。その際、糖質制限のメリットやそれによりダイエットが成功した話に注目し、一方でその危険性や失敗談については無視するか、過小評価してしまうかもしれません。
その結果、「糖質制限はダイエットに良い」という考えがより確固たるものになります。
確証バイアスと血液型占い
血液型占いも確証バイアスが密接に関連している具体例です。
日本では「A型は几帳面である」や「O型はおおざっぱである」といった血液型に関するステレオタイプ (stereotype: あるカテゴリーの人たちに共通する特徴に関する認知) が広く普及しています。
しかし、実際には血液型ごとの性格を調べた社会調査では、血液型による性格の差はないという結果が示されています (松井, 1991)。どのようにして確証バイアスが血液型ステレオタイプに関わっているのでしょうか?
確証バイアスがかかる仕組み
それは確証バイアスによって、血液型ステレオタイプを持つ人たちがある血液型の人を見たときに、その血液型のステレオタイプとして代表的な性格特性や行動に注目し、それらの原因を血液型に帰属してしまうからです。
その一方で、ある血液型のステレオタイプに合致しない性格特性や行動を見たときには、それらを例外化することによって、血液型ステレオタイプを支持しない証拠として重要視しません。
例えば、A型の友人の部屋がきれいに片付けられているのを見たときに、「部屋がきれいである」という結果をA型であるということが原因だと考え、「A型は几帳面だ」というステレオタイプが強まります。
一方で、A型の友人の部屋が散らかっていた場合、その行動またはその人自体を例外化することによって、「A型は几帳面だ」という血液型ステレオタイプに影響を及ぼさないのです。
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確証バイアスに関する心理学的実験
確証バイアスに関する心理学的実験には2-4-6課題 (Wason, 1960) やTHOG問題 (Wason & Brooks, 1979) といった様々なものがありますが、代表的なウェイソン選択課題 (Wason, 1968) を解説します。
ウェイソン選択課題(4枚カード問題)
ウェイソン選択課題はWason (1968) によって考案された推論課題です。この課題では両面に文字の書いてあるカードを提示されます。それらのカードは片面が数字一文字、もう一方の面にはアルファベット一文字が書かれています。これらのカードに以下の規則があります。
規則:片面の文字が母音であるカードの反対側には偶数が書かれている。
この規則の正否を確かめるためには、どのカードの裏側を調べる必要があるか考えてみましょう。なお、複数枚カードを選ぶことが可能です。
課題の回答と説明
多くの人は「Iと2」または「I」を調べると考えたのではないでしょうか。しかし、この課題の正解は「Iと5」です。
この課題は元々仮言的三段論法を取り扱ったものです。
仮言的三段論法は「pならばqである」という条件の命題を扱うときに用いられる方法で、「pならばqである」という大前提に対する、「pである」(命題の前の部分の肯定)または「qでない」(命題の後の部分の否定)という小前提から、それぞれ「qである」または「pでない」という妥当な結論が導き出されます。
仮言的三段論法による考え方
この課題で考えてみると「片面が母音ならばもう片面は偶数」という大前提に対して、「片面が母音である」または「もう片面が偶数ではない」という小前提の仮言的三段論法によって妥当な結論が得られるかを調べる必要があります。
すなわち、Bと2の裏が何であろうと規則は正しいが、Iの裏が偶数でないまたは5の裏が母音であると規則は正しくなくなるため、「Iと5」が正解となります。
確証バイアスのかかり方
しかしながら、私たちは確証バイアスにより「pならばq」という条件文に対して「pかつq」という状況を確認しようとして、大前提に関わる証拠を優先的に調査してしまいます。
そのため、Iと2またはIのみを調べるという誤答をしてしまう傾向があります。
確証バイアスによって生じる問題
確証バイアスは様々な問題へと繋がってしまうことがあります。ここでは科学、投資、そして偏見・差別における問題をそれぞれみていきましょう。
確証バイアスと科学
科学では仮説検証 (hypothesis testing) という形で研究が行われることがあります。すなわち、ある仮説を立て、その仮説の正否について検討をするのですが、その場合に確証バイアスの影響が生じることが示されています。
例えば、Zuckerman et al. (1995) の研究では、ある初対面の人に対して実験参加者が「外向的かどうか」を調べるよう求められた場合には、「外向的か内向的か」を調べるよう求められた場合に比べて、外向的な特性に関わる回答が得られやすい質問をする傾向にありました。
すなわち、「外向的かどうか」を調べるように求められた実験参加者は「あなたは社交的ですか」というように外向的な人が内向的な人よりも肯定的な反応をする質問をしやすいのです。
このような仮説検証の方法は肯定的検証方略 (positive test strategy) と呼ばれています。
確証バイアスによる誤り
肯定的検証方略で質問をされた場合に問題となるのは、たとえ回答者が内向的な人であったとしても自身の中の社交的な側面を探し、肯定的な回答をしがちだということです。しかしながら、こういった性格特性は誰にもある程度当てはまる部分があります。
そのため、仮説検証の研究では回答者の肯定的反応を導きやすく、誤って仮説が確証されてしまうという問題に繋がることがあります。
確証バイアスと投資
株やFXなどの投資においても確証バイアスの影響が出ると言われています。
例えば、Chu Xin (2018) の実験では、以前行った投資を支持または反対する記事のどちらかを選択して読む機会が与えられたのですが、実験参加者のうち、実に88%が彼らの投資を支持する記事を選択していました。
すなわち、確証バイアスにより投資家たちは自身の判断を支持する情報を選択的、優先的に入手する一方で、誤りであるという証拠を排除してしまい、結果として投資戦略の失敗に繋がることが考えられます。
確証バイアスと偏見・差別
確証バイアスは人々に対する偏見や差別にも影響を与えるとされています。
先述のステレオタイプはあるカテゴリーの人たちに共通する特徴に関する認知を意味しますが、そこへ好き・嫌い、不安、恐怖、あるいは怒りといった感情を含んだ場合、心理学では偏見 (prejudice) と呼んでいます。さらに、そこに明確な行動が加わることで差別となります。
確証バイアスが偏見・差別を生み出す仕組み
確証バイアスが偏見・差別を強めてしまう例として、レイシズムを考えてみましょう。Alsaad et al. (2018) は黒人は暴力的であるといったような人種差別的な偏見が確証バイアスによって強められ、さらにそれは人種差別的な行動をも増加させる危険性を指摘しています。
彼らは特にソーシャル・メディアにおいて、自らの偏見を支持する情報を優先的に集めてしまい、結果として偏見や差別を助長してしまうことがあるとしています。
確証バイアスといじめ
さらに、確証バイアスは偏見の強化を通じていじめにも関わると考えられます。事実、最近の研究ではバイアスに基づいたいじめ (bias-based bullying) というのが注目されてきています (e.g., Walton & Walton, 2018)。
これは人種、性別、宗教、障害あるいは性的嗜好といった社会的属性を理由としたいじめであり、確証バイアスが上述のような形で特定の社会的属性に対する偏見を強め、いじめへと繋がることは想像に難くないでしょう。
確証バイアスの罠への対策・回避法
私たちの日常生活には確証バイアスの罠が潜み、様々な問題へと繋がることを見てきましたが、どのようにしてその影響を少なくすることができるでしょうか。
確証バイアスの対策・回避方法についてはマネージメントやビジネスといった場面などでそれぞれ研究されていますが、様々な場面で共通して有用であると考えられる方法について以下にまとめました。
確証バイアスを理解し、自覚すること (Richard, 2017).
最初に挙げられる対処法としては確証バイアスについて知り、その影響を自覚することです。
自分の考えや推論について都合の良い情報のみを検索していないか、相反する情報を無視していないかということを意識して考えてみましょう。この確証バイアスの理解・自覚は以下のより具体的な対策のための第一歩だと考えられます。
様々な視点で情報を収集すること (Alan, 2016)
一度考えや推論を持つと、通常それらに合致した情報を探してしまいますが、色々な情報源から様々な視点で情報を収集することが必要です。
特に反対意見の検討が確証バイアスの軽減に重要とされています (Lord et al., 1984; Benjamin et al., 2015)。自ら悪魔の代弁者 (devil’s advocate)となって、自身の仮説が間違っているとしたらどこであるのかを考えることによって、確証バイアスの影響を少なくすることが出来るでしょう。
別の可能性を考えること (Baron, 1994)
自身の持つ考えや推論以外にも別の可能性がないかを考えてみましょう。
Benjamin et al. (2015)は可能であれば3つの仮説立てることを推奨しています。それらの仮説を比較考察することによって、より誤った仮説を識別することが可能になるとされています。
しかし、3つより多くの仮説を考えてしまうと、効果的にそれらの仮説を検討しにくくなってしまうため、注意が必要です。
確証バイアスに関する本・論文
確証バイアスについてもっと知りたい方へ、おすすめの本をご紹介します。
社会心理学
この本は社会心理学の基本的知識・理論がまんべんなく取り扱っています。そのため、確証バイアスだけでなく、他の意思決定に関わるバイアスについても勉強したい方におすすめです。
グラフィック認知心理学
この本は認知心理学全般を取り扱っていますが、上記の4枚カード問題 (Wason, 1968) だけでなく、2-4-6課題 (Wason, 1960) やTHOG問題 (Wason & Brooks, 1979) についても図説されており、確証バイアスに関する心理学的実験を詳しく知りたい初学者におすすめです。
これは経営学の本ですが、意思決定における確証バイアスを含む認知バイアスやその対策について具体例を交えつつ取り扱っているため、初学者にもわかりやすい本です。
確証バイアスの遍在性
本記事では確証バイアスの具体例や心理学的実験、問題などを見ていきました。私たちの日常生活や社会題において確証バイアスの遍在していることが理解出来たかと思います。
確証バイアスに限らず、認知バイアスというのは通常私たちの認知機能を助けるためのものであり、必ずしも避けるべきものではありません。ただ、そうしたバイアスはその遍在性故に、時に私たちの意思決定に悪影響を及ぼすことがあります。そうした場合には、上記の3つの対策・回避法が有用かもしれません。
確証バイアス以外の認知バイアスについてもそれぞれ対策・回避法がありますが、その存在を知り、理解することが対策の第一歩となりますので、もし興味がありましたら、その他の認知バイアスについて調べてみることをお勧めします。
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参考文献
Alan, C.M. (2016). Confronting Confirmation Bias: Giving Truth a Fighting Chance in the Information Age. Social Education, 80(5), 276-279.
Alsaad, A., Taamneh, A., & Al-Jedaiah, MN. (2018). Does social media increase racist behavior? An examination of confirmation bias theory. Technology in Society, 55, 41-46.
Baron, J. (1994). Thinking and deciding. Cambridge: Cambridge University Press.
Benjamin L. L, Stephen P., & James W. (2015). 5 ways to overcome confirmation bias. Journal of Accountancy. 219(2), 30.
Chu Xin, C. (2018) Confirmation Bias in Investments. International Journal of Economics and Finance, 11(2), 50-55.
Lord C. G., Lepper, M. R., & Preston, E. (1984). Considering the opposite. A corrective strategy for social judgement. Journal of Personality and Social Psychology, 47(6), 1231-1243.
Richard L. B. (2017). Cognitive bias. Recognizing and managing our unconscious biases. The Pharos, 2-6.
松井豊. (1991). 血液型による性格の相違に関する統計的検討. 東京都率立川短期大学紀要, 24, 51-54.
Walton, LM., & Walton, LM. (2018). The Effects of “Bias Based Bullying” (BBB) on Health, Education, and Cognitive–Social–Emotional Outcomes in Children with Minority Backgrounds: Proposed Comprehensive Public Health Intervention Solutions. Journal of Immigrant and Minority Health, 20(2), 492-496.
Wason, P. C. (1960). On the failure to eliminate hypotheses in a conceptual task. The Quarterly Journal of Experimental Psychology, 23, 63-71.
Wason, P. C. (1968). Reasoning about a rule. The Quarterly Journal of Experimental Psychology, 20, 273-281.
Wason, P. C., & Brooks, P.G. (1979). THOG: The anatomy of a problem. Psychological Research, 41, 79-90.
Wilson, J. P., Hugenberg, K., & Rule, N. O. (2017). Racial bias in judgments of physical size and formidability: From size to threat. Journal of Personality and Social Psychology, 113(1), 59–80.
Zuckerman, M., Kneem C.R., Hodginsm H.S., & Miyake, K. (1995). Hypothesis confirmation: The joint effect of positive test strategy and acquiescence response set. Journal of Personality and Social Psychology, 68, 52-60.