単なる暗記学習はとても辛いものです。勉強をするのであれば、誰しもがそれを自分にとって意味のある有益なものとして吸収したいと考えているのではないでしょうか。
そのような、深い学びに大きく関連するのがデイビッド・オーズベルという学者が提唱した有意味受容学習です。それでは有意味受容学習とはいったいどのようなものなのでしょうか。
数学での具体例もご紹介しますので、今行っている勉強を有意義にするためにどのように取り組めばよいのかを見ていきましょう。
目次
オーズベルの有意味受容学習とは
有意味受容学習は、1960年代にデイビッド・オーズベルという学者によって提唱されました。
オーズベルによる学習形態の分類
オーズベルは学習のタイプを整理するために次のような2つの次元を挙げました。
【オーズベルによる2つの学習の次元】
- 有意味学習-機械的学習の次元
- 発見学習-受容学習の次元
発見学習 | 受容学習 | |
有意味学習 | 有意味発見学習 | 有意味受容学習 |
機械的学習 | 機械的発見学習 | 機械的受容学習 |
有意味学習とは未知の問題や新しい学習を行う際に自分自身がこれまでに学んで身に着けてきた既知の知識を関連付けながら活用した学びのことを指します。
これに対し、機械的学習とは、既にある知識が個々の知識として独立して存在し、新しい学習内容を学ぶたびに、いわゆる丸暗記のように個々の知識量が増えていく学びのことを指しています。
このように、機械的学習で知識間のつながりや関係性を見いだせないまま知識を集積していく学習ですが、有意味学習は既にある知識と関連付けて解釈を行うため、より深い学びが行えるという特徴があります。
もう一つの次元である発見学習は未知の問題とのかかわりの中で、学習者が知識を発見したり、生成する学習です。
そして、受容学習はあらかじめ整理された知識を教師から順序立てて学ぶ学習を指します。
これらをまとめると有意味受容学習とは次のようなものであると言えるでしょう。
【有意味受容学習】
学習に先立ってこれから学ぶ内容をまとめられた内容を与えることで、これまでに獲得している知識と結び付けていく学習方法
先行オーガナイザ
有意味受容学習を行うためには、学習に先立って準備が必要となります。
そして、有意味受容学習を行ううえで欠かせないものが先行オーガナイザです。
先行オーガナイザとは「学習情報よりも先だって提示される情報であり、学習情報よりも一般的で、抽象的で、かつ包括的な情報」のことを指します。
この先行オーガナイザを呈示することによって、後の学習が既存の知識と結び付けられやすくなるのです。
なお、先行オーガナイザは、説明オーガナイザと比較オーガナイザに分類することができます。
【先行オーガナイザの分類】
- 説明オーガナイザ:全く新しい学習内容の土台となるものを説明すること
- 比較オーガナイザ:既存の知識と学習内容を比較し、類似点と相違点を明確にすること
この2つのオーガナイザはどのような特徴を持っているのでしょうか。
説明オーガナイザの特徴と具体例
説明オーガナイザは、これまでに全く触れたことのない知識や学習内容を学ぶ際に適しているという特徴を持っています。
例えば、新しく投資について学ぶ場面を考えてみましょう。
これまで、投資をしたことが無い人は、全く知識がないためいきなり、どの株を購入すればよいのか、どのように運用していくべきなのかをいきなり説明されても理解できないでしょう。
そのため、実際の投資の運用について触れる前に、投資とはどのような種類があるのか、始めるためにどのような準備が必要なのか、どのようにして投資に関する情報を得られるのかなどの基礎知識を事前に説明するのです。
このような準備を行うことで、本題の投資の運用方法について学ぶ際は、説明オーガナイザによって得られた知識との関連付けが行われスムーズに学習することができます。
比較オーガナイザの特徴と具体例
これに対し、比較オーガナイザは、新しい学習内容がある程度学習者にとってなじみのある場合に用いると効果的であるという特徴があります。
例えば、日本料理を作ることができる人に、新しくフランス料理を教える場面を考えてみましょう。
この場合、学習者にはある程度料理を行うという下地は整っており、和風の料理の下処理や味付けなどの知識は備わっていますが、使う食材や調理器具が異なるにもかかわらずフランス料理の実際の作り方を教えても上手く呑み込めないでしょう。
そのため、この人に対し、「そもそも料理とは」や「基本的調味料とは」のような基本的な内容を説明することは効率的ではありません。
それよりも「和風料理とフランス料理のダシの取り方の違い」など、既に持っている和風料理の作り方とフランス料理の作り方の共通点と相違点を明確に示すと良いでしょう。
こうすることによって学習者は既に知っている日本料理の作り方をどのように変えればフランス料理に応用できるのかが分かり、様々なフランス料理を作ることができるようになるはずです。
有意味受容学習の具体例
それでは実際の学習場面ではどのようにすればよいのでしょうか。
数学と英語を学ぶ場面を例に挙げ考えてみましょう。
数学での有意味受容学習
数学で取り組む図形の問題は、角度に関する法則を用いて図形を回転させたり、変形させることで答えを導こうとするものがあります。
しかし、いきなりそのような応用問題を呈示したとしても、図形の形を変化させたり、回転させるという発想が無ければ、角度の法則を覚えていたとしてもそれを結びつけることはできません。
そのため、いきなり問題を解こうとするのではなく、類似した図形で回転させることで答えを導く例題を呈示する先行オーガナイザを用いてみましょう。
このようにすることで、他の図形も「もしかしたらこの問題も回転させれば解けるのではないか」という発想をもたらすことが出来るでしょう。
英語での有意味受容学習
英語の読み書きを学ぶ際に、多くの人は単語を覚えます。
しかし、この単語を覚えるという暗記学習は機械的学習に該当するため、知識の量は増えても知識間の結びつきが強化されません。
そこで、覚えた単語はどのように用いられるのかを、洋画を見る課題を出すことが深い学びに繋がるでしょう。
その際、いきなり洋画を見るのではなく、どのような文章の中で単語が用いられているのか、該当のシーンはどのようなやり取りがなされているのかを先行オーガナイザによって予習しておくと効果的です。
有意味受容学習を学ぶための本
有意味受容学習を学ぶための本をまとめました。
初学者の方でも手に取りやすい本をまとめてみましたので、気になる本があればぜひ手に取ってみて下さい。
教育と学びの心理学―基礎力のある教師になるために―
意味のある学習を提供しようとするのであれば、まず、それが本人にとって受け入れられやすく、意味のあるものとして認識してもらうことが必要です。
その意味で有意味受容学習は有効ですが、それだけで教育は成立しません。
ぜひ包括的に良い教育とはどのようにすればよいのかを本書で学びましょう。
深い学び
有意味受容学習によって得られた知識は、既存の知識と結び付けられるため、深い学びを行うことが出来るというメリットがあります。
ぜひ本書で深い学びとはどのようにすれば良いのかについて学びましょう。
有意味受容学習によって効率的な深い学びを
なじみのない知識に触れるため、新しいことを学ぶということは多くの人にとってハードルが高いものとなります。
そして、そのハードルを下げ、少しでも受け入れやすく、学んだことをその後に生かしていけるような学習方法が求められます。
単に丸暗記の辛い学習ばかりではなく、学習の方法を工夫して学びを楽しんでみてください。
【参考文献】
- 新谷しづ恵(2019)『中学校理科における有意味受容学習に関する教育心理学的研究 : 授業における先行オーガナイザーの導入が学習成果に及ぼす効果の検討を中心に』聖徳大学大学院 博士(児童学) 甲第46号
- 川上昭吾・渡邉康一郎・松本織(2009)『有意味受容学習の研究』愛知教育大学教育実践総合センター紀要 12 183-190
- 石橋怜奈・秋田美代(2019)『数学の深い理解を作る指導についての研究』日本科学教育学会研究会研究報告 33 (5), 15-20