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アンカリング効果とは?意味や具体例、実験と日常での活用法を解説

アンカリングとは認知バイアスの一種であり、最初に掲示された数値が、その後の数値推定に影響を与える現象のことです。私たちの普段の生活の中でも、何かを決断する時に、このアンカリング効果が働いている可能性があります。

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アンカリング効果とは

まずはアンカリング効果についての基本的なことについてご説明します。

アンカリング効果とは、いったいどのようなものなのでしょうか。ここでは、アンカリング効果の意味や定義、具体例を解説します。

アンカリング効果の意味と定義

アンカリング効果とは、ある値を推定する際、その前もしくは同時に比較対象の値(アンカー)を提示すると、推測した数値がアンカーに引っ張られるという現象です。

比較対象として出した数値(アンカー)が、その後の数値推定に影響を及ぼしているのです。

アンカリング効果は英語では「Anchoring effect」になります。アンカー(Anchor)は船の錨のことです。Anchoring(アンカリング)は錨を使って船を係留することです。錨を海に沈めた船は、錨を中心に鎖が伸びる長さしか船は移動できません。

無意識のうちに錨を中心に思考を操作してしまうという現象です。

アンカリング効果は『認知バイアス』の1つ

ヒトは、何かしらの基準をはかる際に、最初に得た情報を基にして判断をします。このアンカリング効果は、心理学や行動経済学では有名な認知バイアスであり、私たちの普段の生活から、この心理効果が働いています。

アンカリング効果は、ある2人の人物によって知られるようになりました。その人物とは、アメリカ人の行動経済学者であり、2002年にはノーベル賞を受賞した経歴のあるダニエル・カーネマンと、心理学者のエイモス・トヴェルトスキーの2名です。

この2人は1974年に発表された「サイエンス誌」の論文の中で、「先行する何らかの要素(アンカー)によって物事の判断が左右される『認知バイアス』の1つ」として、はじめて「アンカリング効果」を紹介しています。

アンカリング効果の具体例

日ごろ生活をする上で分かりやすいアンカリング効果は、買い物をした際に割引の値札でしょう。

価格表示の札に、あえて値引き前の金額が記載があり、斜線などが引かれ横に「50%OFF」と記載された値札が貼られた商品があったとします。

本来、その商品を購入目的で着たわけでもないのに、思わず買ってしまったといった経験はないでしょうか。

これもアンカリング効果の影響で、値引き前の金額とどのくらい値引かれたのかを%で表示したことで、購買意欲が掻き立てられるのです。

アンカリング効果を説明する理論

アンカリング効果は、アンカーが数値の推定に影響を与える現象であると説明しました。認知心理学の分野では、このアンカリング効果がどのようなメカニズムで生じるのか研究されています。

これまでの研究では、大きく分けて2つの説「数的課程説」と「意味的課程説」が提唱されています。

数的課程説(「不十分な調整」説)

アンカリング効果を発表したダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルトスキーは、アンカリング効果が数的な課程で生じると考えました。これを「不十分な調整」説と言います。

「不十分な調整」説では、ある値を推測するときにアンカーを基準に数値を評価して、それらしい数値に調整していると考えます。この時、人はアンカーを起点として「それらしい」と考えられる数値の範囲を設定していて、この範囲に入った時点で数値の調整をやめているという説です。

意味的課程説(選択的アクセシビリティ説)

一方、研究が進められる中で、数的課程説(「不十分な調整」説)では説明のつかない現象も発見されました。こうしたことから提唱されたのが、意味的課程説(選択的アクセシビリティ説)です(Mussweiler & Strack, 1997)。

この説では、アンカリング効果が数的な過程で生じるのではなく、アンカーに関連した情報へアクセスしやすくなること(意味的な課程)によって生じると考えます。

例えばアンカーとして高い数値を事前に提示すると、推定する数値が高いと考える根拠になるような情報を多く想起するようになり、それによって推定する数値が高くなるという説です。

アンカリング効果に関する心理学的研究・論文

先述したように、アンカリング効果に関する研究は多数行われています。ここでは、アンカリング効果に関する興味深い論文をいくつかご紹介します。

ダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルトスキーの実験(1974)

まずは、ダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルトスキーによって行われた実験をご紹介します。

この実験では、あらかじめ0~100まで数字が表示されているルーレットを用意していました。ただし、このルーレットは細工をされており、10と65のどちらかにしか止まらないようになっています。

被験者は、この細工されたルーレットを使い数字を割り振られ記録をされます。

次に、被験者には以下の2つの質問をします。

1.国連加盟国のうちアフリカ諸国が占める割合は、今記録した数字よりも大きいか、小さいか。
2.国連加盟国のうちアフリカ諸国が占める割合は何%だと思うか。

被験者の中で10を記録した人は、国連加盟国のうちアフリカ諸国が占める割合は、平均で25%と回答しました。対して、65を記録した被験者の平均は45%と回答したのです。

このように、あらかじめ細工されたルーレットで割り振られた10または65という数字がアンカーとなり、被験者の答えに影響していることがわかります。

対象に関する知識量が少ない場合のアンカリング効果:意味的過程説と数的過程説の比較(2011)

次にご紹介するのは、神奈川大学の杉本崇氏と、東京大学人文社会研究科の高野陽太郎氏による論文です。この研究では、推論対象の知識が少ない時のアンカリング効果を検証しています。

推論の対象となるのは、江戸幕府を開いた歴史の有名な人物でもある徳川家康と、その四代目である徳川家綱の身長です。

この歴史上の人物2名のうち、有名な徳川家康は「知識大条件」、家康に対して実験参加者の知識が少ないと考えられる徳川家綱は「知識小条件」としています。また、アンカーとしては「190cm(高アンカー)」と「140cm(低アンカー)」の2条件が用意され、実験は2×2条件で行われました。

この実験では、徳川家康のような知識を多く持っている対象に対しては、意味的課程説(選択的アクセシビリティ説)に合う結果が得られました。

一方、徳川家綱のような知識が少ない対象については、数的課程説(「不十分な調整」説)に沿う結果になりました。これは、知識が少ない対象の場合、はじめからアクセシビリティを増す情報がないためだと考えられます。

この結果からすると、アンカリング効果は、知識が豊富な対象では意味的な課程(選択的アクセシビリティ)によって生じ、知識が乏しい対象では数的な課程(「不十分な調整」)によって生じると考えられます。

日常生活におけるアンカリング効果の応用・活用事例

ここでは、日常生活におけるアンカリング効果をご紹介します。

アンカリング効果はプライミング効果と同様に、日常生活でも非常によく見られる現象です。うまく活用すれば大きな威力を発揮してくれるでしょう。

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ビジネス(営業・マーケティング)

まずは、アンカリング効果を営業やマーケティングなどのビジネスシーンで活用する方法をご紹介します。

例えば、ある商品を販売する時には、実際よりも高めの金額で「あなたはこの商品に〇〇円以上出せますか?」と先に質問してみましょう。アンカーがうまく働けば、相手がその商品に払おうと思う金額は引き上げられ、購入につながる可能性が高まるでしょう。

冒頭に例として紹介した割引は、より効果的な方法です。元の金額がアンカーとなってその商品の基準価格になるため、割引後の価格が余計に安く見えるのです。

恋愛

恋愛場面でも、アンカリング効果を活用することができます。

例えば、デートの待ち合わせ時間に1時間遅刻してしまうとします。その際、相手にそのまま「1時間遅れる」と伝えて無事に待ち合わせに到着しても、相手からすると「1時間も遅刻した」という悪い印象しか残りません。

一方、相手に「1時間30分遅れる」と時間を少し盛って伝えておくと、遅刻はしたけど急いで来てくれたという印象になり、普通に遅刻した場合よりも相手からの印象は良くなるでしょう。

アンカリング効果への対策

日常生活において、アンカリング効果は身の回りにあふれています。この効果に左右されないようにするにはどうしたらよいのでしょうか。

実は、アンカリング効果は非常に強力で、その道のプロであっても影響を受けてしまうことが知られています。

そのためアンカリング効果の影響を避けることは難しいですが、アンカリング効果がどのようなものであるのかを知ることで、自分が影響を受けていると意識することはできます。

アンカリング効果について学べる本

ここでは、アンカリング効果について学べる本をご紹介します。より深くアンカリング効果のことを理解したいという方はぜひご一読ください。

世界は感情で動く : 行動経済学からみる脳のトラップ

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著者はマッテオ・モッテルリーニ 。『身近にあり得る出来事やイベントは、すべて「直感」からヒトは行動する』ということをたくさんのエピソードで解説し、「脳の罠」の回避法も紹介されています。

ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか?

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著者はダニエル・カーネマン。アメリカの心理学者、行動経済学者です。「人は本当に合理的で何事も適切な判断を行なっているのか」という観点から、人間の意思決定過程について解説されています。

上下巻がありますが、アンカリング効果については上巻で触れられています。

アンカリング効果を日常生活に活かす

アンカリング効果についてご紹介しました。

アンカリング効果とは、数値を推定する際に最初の情報がアンカーとなり、そのアンカーが以降の数値の推測に影響するという認知バイアスの1つです。

私たちは、生活をしている中でたくさんの物事を決断や判断しなければいけません。特に金額についての判断に迫られた時には、このアンカリング効果がよく働きます。

アンカリング効果をうまく利用すれば、ビジネスやプライベートをはじめとする人間関係が良好になりますので、ぜひ試してみて下さい。

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参考文献

  • 杉本崇・高野陽太郎(2011).  対象に関する知識量が少ない場合のアンカリング効果:意味的過程説と数的過程説の比較, 認知心理学研究 8(2), 145-151
  • 杉本崇・高野陽太郎(2014).  アンカリング効果のメカニズムにおける「カバー効果」の検討, 認知心理学研究 12(1), 51-60
  • Strack, F., & Mussweiler, T. (1997). Explaining the Enigmatic Anchoring Effect: Mechanisms of Selective Accessibility, Journal of Personality and Social Psychology, 73, 437-446.
  • Tversky, A.,& Kahneman, D. (1974).  Judgment under Uncertainty: Heuristics and Biases, Science 185 (4157): 1124-1131

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