自己効力感とは?バンデューラが提唱したその意味や代表的な尺度を解説

2021-01-21

学校の課題や仕事のプロジェクトなど人生では様々な課題に直面します。しかし、その課題に取り組んで成功できる人とそうでない人にはどのような違いがあるのでしょうか。今回は自己効力感に注目し、ご紹介していきます。

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自己効力感(セルフ・エフィカシー;Selif-efficacy)とは

自己効力感セルフ・エフィカシー)とは、一般的に「自信」と呼ばれるものに近い概念と言えます。

自己効力感の意味と定義

自己効力感とは次のように定義されます。

個人がある状況において必要な行動を効果的に遂行できるかの認知

つまり、何らかの課題に直面した場合など、特定の状況において必要とされる行動を「うまくできる」と思えることです。

自己効力感は学校教育場面や心理臨床の現場など様々な領域で注目されている概念です。

バンデューラによる提唱

そもそも、自己効力感という概念は心理学者であるバンデューラ,A.によって提唱されました。

バンデューラはそれまでに心理学の立場で主流であった行動主義心理学の学習理論を批判し、学習理論における個人的要素の一つである人間の認知を重視した社会的学習理論を提唱しました。

社会的学習理論(モデリング)とは

バンデューラの功績として広く知られているものの一つに社会的学習理論が挙げられます。

社会的学習理論とは、他者の行動を観察することによって、観察者自身にも代理強化と呼ばれる学習効果が生じるとする理論です。

次の例を見てみましょう。

小学生のAさんは帰りのホームルームで担任の先生の話題に取り上げられました。

Aさんは出された宿題をきちんと全部やってきたため先生から褒められたのでした。

Aさんはうれしくなり、その後も宿題を頑張ってこなしました。

それに加えこの様子を見ていたほかのクラスメートも出された宿題をきちんとやってくるようになりました。

レスポンデント条件づけやオペラント条件づけを基礎とする古典的な行動主義の学習理論では、学習を行う対象自身に報酬(罰)が与えられることで強化(消去)が起こるという前提に立っています。

しかし、上の例で直接報酬を与えられているはあくまでAさんのみであり、ほかのクラスメートには報酬が与えられていないにもかかわらず、Aさんと同様に宿題を頑張るようになっています。

このように社会的学習理論では直接報酬(罰)を与えられることなくとも、学習が成立することを説明しています。

社会的学習理論と自己効力感

社会的学習理論では、人間の行動を決定する要因として次の3つを挙げています。

①先行要因

行動を起こす前の条件のことで、体調や気分、結果の予測などが当てはまります。さらに「生理・情動反応」(体調や気分のこと)、「学習の生得的機制」(これまでに得た学習)、「予期機能」の3つに分かれます。

②結果要因

過去の結果から学習したもの、つまりこれまでの行動の結果の経験です。さらに「自己強化」(自分の中から行動の意欲が出る)と「外的強化」(外部から行動の意欲が引き出される)、「代理的強化」(他者の観察から意欲が引き出される)の3つに分かれます

③認知的要因

ある行動をどう認識しているかという条件のこと、さらに「認知に基づく動機づけ」と「随伴性の認知表象」の2つに分かれます。

バンデューラは、先行要因の1つである予期機能を特に重要視し、さらに「結果予期」と「効力予期」の2つが行動を変容させるカギとなると考えました。

結果予期:行動がどのような結果を生むかという予想

効力予期:求める結果のために必要な行動をどれほどうまくできそうかという予想

例えば、万引きという行動が「逮捕される」という否定的な結果になると予想すれば、盗みという行動は起こりません(結果予期)。

また、万引きをうまくできる自信がなく、ばれてしまうと予想することでも盗みは起こらなくなるでしょう(効力予期)。

このように、予期機能は人間の行動に大きな影響を与えており、バンデューラはこのうち効力予期を「自己効力感」として概念化しました。

自己効力感の特徴

自己効力感は仕事や勉強などの課題のパフォーマンスに影響を与えるとされています。

自己効力感の具体例

例えば、安定した仕事に就くために公務員になりたいという目標があったとしましょう。

目標の達成のためにはもちろん公務員試験をパスする必要があります。

そのため、公務員試験に合格できるという自信があれば、試験勉強のモチベーションも上がり、公務員試験に合格できる可能性も高まるでしょう。

自己効力感と自己肯定感の違い

自己効力感に近似した概念として自己肯定感が挙げられます。

自己肯定感とは高垣忠一郎によって提唱された言葉であり、「自分自身のあり方を肯定する気持ちであり、自分のことを好きである気持ち」と定義されます。

自己受容や自尊感情ともつながりの深い概念であり、自分の良い面・悪い面を含めて「これでよい」と思える感情、気持ちである自己肯定感は「自己の評価」という点で自己効力感と類似しています。

これに対し、自己効力感は自分が必要とする行動を実現できるという認知のことです。

そのため、両者は感情と認知という面で決定的に異なる概念であるといえます。

自己効力感の尺度

自己効力感を含め、心理学では目に見えない「こころ」を測定し、比べることで研究を行っています。

そのための測定ツールが心理尺度と呼ばれるものです。

自己効力感を測定するための尺度は大別すると、一般的な日常生活場面における自己効力感を測定するものと課題や場面に依存した自己効力感を測定するものの2つが挙げられます。

特性的自己効力感尺度

成田ら(1995)は、自己効力感をある種の人格特性、つまりパーソナリティを構成する要素の1つとして捉え、それを測定するために特性的自己効力感尺度を作成しました。

検討した結果、この尺度は性別や年齢によらず安定した1因子構造であることが示されています。

つまり、この尺度の合計得点の高低がそのまま「自己効力感」の高さを表すということです。

信頼性(何度測定しても同じ値を示す正確性)と妥当性(測っているものが本当に自己効力感なのかという正確性)も高く、23項目と簡便に実施できるこの尺度は多くの研究でも使用されています。

臨地実習自己効力感尺度

眞鍋ら(2007)は看護基礎教育における臨地基礎実習と呼ばれる実習をうまくできるかという期待感を測定する臨地実習自己効力感を開発しています。

この尺度は臨地実習という特定の課題がある状況での自己効力感を測定するもので、特性的な自己効力感とは異なります。

ちなみに、この尺度では「対象の理解・援助効力感」「友人との関係性維持効力感」「指導者との関係性維持効力感」の3因子が抽出されています。

つまり、看護の臨地基礎実習をうまく行うための効力感は、「患者さんを理解し、うまく援助できるか」「実習中に友達とうまくやれるか」「実習中に指導教官と良好な人間関係を築けるか」という3つから構成されていることがわかります。

自己効力感に関する心理学的研究

自己効力感に関する研究は様々な領域で行われています。

特性的自己効力感と精神的健康との関連

西村ら(2012)では自己効力感と精神的健康に関する研究を概観しました。

その中には、特性的己効力感から抑うつの程度を予測できること、うつ病あるいは躁うつ病の病理群を弁別できるといった研究報告が含まれています。

つまり、自己効力感の高い人は精神的に健康であるといえるかもしれません。

しかし、森本(2001)では特性的自己効力感と精神的健康の関連は疑似的な可能性を指摘し、特性的自己効力感とエリクソンの発達段階における「基本的信頼感」(自分自身を信頼できるとおいう主体的な感覚)という概念は近似していると主張しました。

そして、特性的自己効力感と基本的信頼感、精神的健康の関連を検討しました。

その結果、基本的信頼感の影響を取り除いた場合、特性的自己効力感が精神的健康に与える影響はほとんどないことが示されました。

つまり、乳幼児期の発達課題である「基本的信頼vs不信」をポジティブに解決できることが、その後の特性的自己効力感及び精神的健康の高さを規定すると言えるかもしれません。

自己効力感と学習方略との関連

学業成績は学習方略(勉強のやり方)と密接な関連を持つとされています。

代表的な学習方略としては、自己調整学習方略が挙げられます。

自己調整学習方略とは、学習過程でより効率的に情報を処理するために行われる学習法のことで、次の3つに分けることができます。

  • 認知的側面の自己調整学習方略

学習内容をまとめなおしたり、記憶の際にリハーサルするなど学習をより効率的に行うための学習方略。

  • 内発的調整方略

イメージを膨らませたり、メリハリをつけるなどといった学習自体を楽しめるよう工夫することでやる気を維持する学習方略。

  • 外発的調整方略

ご褒美がもらえる、褒められるなどの目的をイメージすることでやる気を維持する学習方略。

認知的側面の自己調整学習方略は効率的に学習に取り組むことができ、内発的学習方略は垂木が持続しやすいため学業成績の向上と関連がみられるとされてきました。

そして、伊藤・神藤(2003)は自己効力感と自己調整学習方略との関連を検討した結果、自己効力感が高い人ほど認知的側面の自己調整学習方略と内発的学習方略をよく用いることが示されました。

つまり、自己効力感の高い人は学業成績向上に関わりのある勉強法を採用しやすいため、学業成績が高まることが示されたといえます。

自己効力感を高める方法

自己効力感は次の4つに分かれるとされています。

  • 遂行行動の達成

自分自身が経験した成功体験のこと。例えば、テストで100点をとったという経験から、次のテストのための勉強もうまくやれる自信が湧いてきます。

  • 代理体験

他人の経験を見聞きしたことによる疑似体験です。例えば、部活動の先輩が練習を黙々と頑張り、試合で活躍をしている姿を見て、自分も練習を頑張って試合で活躍するイメージがもてるでしょう。

  • 言語的説得

褒められたり、励まされても自己効力感は高まります。ポジティブな言葉を繰り返し聞くことでやる気や地震が湧いてきたという経験がある方もいらっしゃるかと思います。また、自分自身に「自分ならできる」と言い聞かせることも効果があるでしょう。

  • 生理的・情動的喚起

体調が悪かったり、気分が落ち込んでいるときは自信が湧いてこないのも納得です。こころと身体は密接な関係にあるため、自己効力感を高めたいのであれば体調管理も行うようにしましょう。

そのため、自己効力感を高めるためには、自分や他者の成功体験に目を向けたり、ポジティブで健康的な環境を整えると良いでしょう。

自己効力感について学べる本

自己効力感について更に学びを深めたいという方に向けて、おすすめの本をご紹介します。

子どもの自己効力感を育む本

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子育て中の方で、お子さんの自己効力感を育むためにどのように接すればよいのだろうかと疑問を持っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

この本では子どもの自己効力感を引き出す声掛けを30のシチュエーションで紹介しており、自己効力感を重視した子育てを目指す方にぜひ手に取っていただきたい一冊です。

セルフ・エフィカシーの臨床心理学

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自己効力感は心理臨床の現場でも注目されている概念です。

この本ではうつ病や摂食障害といった様々な症例において自己効力感の概念がどのように応用されているかを解説してあります。

自信:自己効力感を高め仕事に成功する秘訣

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昨今は一つの会社で目の前の仕事をひたすらにこなせば生き抜ける時代ではなくなっているとも言われています。

就職や転職、独立など人生で大きな転機となるキャリア選択にも自己効力感は大きな役割を担うでしょう。

本書は自信を高め、仕事につなげる方法を解説しており、ビジネスマン必見の一冊です。

自分を信じられれば結果もついてくる

困難に直面した際でも、自己効力感が高い人は挫折することなく粘り強く取り組むでしょう。

ここで得られる経験値は初めから挫折してしまう人は得られません。

自己効力感が高いことは成功を必ず約束するものではありませんが、数ある研究で自己効力感の高いことのメリットが示されているように、「失敗を恐れずチャレンジすることで成功するまで取り組む粘り強さ」によってより良い結果を引き寄せられるのでしょう。

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参考文献

  • 成田健一・下仲順子・中里克治・河合千恵子・佐藤眞一・長田由紀子(1995)『特性的自己効力感尺度の検討--生涯発達的利用の可能性を探る』教育心理学研究 43(3), 306-314
  • 眞鍋えみ子・笹川寿美・松田かおる・北島謙吾・園田悦代・種池礼子・上野範子(2007)『看護学生の臨地実習自己効力感尺度の開発とその信頼性・妥当性の検討』日本看護研究学会雑誌 30(2), 243-253
  • 西村薫・野村亮太・丸野俊一(2012)『自己効力感に関する研究の展望と今後の課題 : 展望的自己効力感の提唱』九州大学心理学研究 : 九州大学大学院人間環境学研究院紀要 13, 1-9
  • 伊藤崇達・神藤貴昭・高嶋重行・竹内温子・菅井勝雄・前迫孝憲(2004)『自己効力感,不安,自己調整学習方略,学習の持続性に関する因果モデルの検証 : 認知的側面と動機づけ的側面の自己調整学習方略に着目して』日本教育工学雑誌 27(4), 377-385

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    • この記事を書いた人

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    臨床心理士指定大学院に在学していました。専攻は臨床心理学で、心理検査やカウンセリング、心理学知識に関する情報発信を行っています。

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