カリギュラ効果とは、心理学の世界では「物事に対して制限・禁止を受けた際に却ってやってみたくなるヒトの心理現象」を説明する用語として知られています。
ここでは、カリギュラ効果の意味や定義を具体例を織り交ぜながら説明し、現実世界での応用法についてもお伝えします。
目次
カリギュラ効果とは
この記事では、はじめにカリギュラ効果についての意味や定義について説明し、カリギュラ効果に深く関連する心理現象を紹介します。
カリギュラ効果の基本的情報をお伝えした後に、実際にカリギュラ効果を題材として研究された論文や、日常生活への応用方法まで深く説明していきます。
カリギュラ効果の意味・定義
カリギュラ効果とは、禁止された物事をやってみたくなるヒトの心理現象です。
カリギュラ効果に似た心の働きとして、“心理的リアクタンス”と呼ばれる心的現象が存在します。カリギュラ効果と心理的リアクタンス、どちらもキーワード名は耳にしたことはあるけど、違いを説明することはできないといった人もいるのではないでしょうか。
以下の項目では、カリギュラ効果に酷似する心理的リアクタンスについても掘り下げて説明いたします。
カリギュラ効果と心理的リアクタンス
心理的リアクタンスとは、第三者に奪われた“選択の自由”を取り戻すために反発しようとする心の働きです。
強力な金属バネに加圧し続けると、やがては加えられる一方的な加圧に抵抗し、バネ全長の体積をも超えた力強い反発を示して元の状態へ戻ろうとします。この働きを彷彿とさせるヒトの心の働きこそが心理的リアクタンスです。
カリギュラ効果と心理的リアクタンスがどのような場面で発生するのかについて、分けて説明します。
改めてカリギュラ効果と心理的リアクタンスの説明
カリギュラ効果とは、自分自身がしたい・したくないに関わらず、誰かに物事を禁止されると反対にやりたくなってしまう心理現象です。
一方、心理的リアクタンスとは、自分自身に準備されている物事をどうするかの選択肢の選択を、第三者に勝手に選択されそうになり、自分自身に存在したはずの選択的自由が奪われてしまう危機に直面した際に発生する心理過程です。
以下では、心理的リアクタンスについて、具体例を織り交ぜながら説明していきます。
心理的リアクタンスの具体例
皆さまの中には、子どもの頃に親から1日に何回も「勉強しろ、勉強しろ」と口煩く説教を受けた経験のある方もいるのではないでしょうか。
ではその中で、「勉強しろ」と指示を受け、趣味の時間をほっぽり出して素直に勉強時間を確保した人はいるでしょうか。恐らくですが、親の言うこと全てに従順な子ども時代を過ごした方は多くはないと思います。
誰かを説得する際に用いるメッセージは反復しがちとなり、反復する言葉は3回までは説得効果を持っているといわれています。ですが、3回を超えると心理的リアクタンスが発生し始め、数を重ねれば重ねる程に反発の力が比例して強まっていきます。
説得とは相手の選択の自由を奪う行動であり、説得の試行回数が極端に増えすぎると心理的リアクタンスが発生し、やがては、説得を受けていた者は説得者の意図する真逆の行動をとり、負の道を爆走するようになります(この現象をブーメラン効果と呼びます)。
カリギュラ効果と心理的リアクタンスは類似した心理現象であり、カリギュラ効果が発生している時には、心理的リアクタンスも併発していることが多くあります。
カリギュラ効果の具体例
ここでは、カリギュラ効果の具体例について説明します。
ネット広告とカリギュラ効果
ネットなどのメディア媒体での広告などで、“痩せる覚悟がある人以外は絶対に見ないでください”や、“本気で学業成績をあげたい人以外は見ないでください”といったキャッチコピーが一時流行したこともあり、一度は目にした経験があるのではないでしょうか。
例えば、自社のダイエット商品に対して、他社製品に負けない確固たる自信を持っていたとしても、
と一方的に訴えかけても顧客の心には響かず、購買意欲を湧かすことは至難の技です。
上記の一方的にメリットだけを列挙した広告バナーであれば、痩せたい意欲がある人物であったとしても、どこにでもあるつまらない広告と一括りにされて流されてしまうことだってあるでしょう。
そこで、ネット広告から企業ホームページへ顧客を呼び込むために
といったカリギュラ効果を使うのです。
こうしたキャッチコピーの広告は、痩せる覚悟のない人をふるいにかけたいわけではありません。むしろ、このキャッチコピーは閲覧することを禁止された閲覧者の公式サイトへの訪問意欲を駆立てています。
カリギュラ効果とは、禁止される(痩せる覚悟のできていない“対象者”が閲覧を制限される)もの程、やってみたくなる(実際にホームページを閲覧して、他社製品とどの点が違うのか確認してみたくなる)ものなのです。
以上が、ネット広告を例としたカリギュラ効果の具体例でした。
カリギュラ効果に関する心理学的実験・論文
ここでは、実際に心理学研究として発表された論文を紹介します。
以下で紹介する論文は、"カリギュラ効果"ではなく、"心理的リアクタンス"を題目として取扱われた研究について記されたものです。
"カリギュラ効果"に関して紹介するはずの記事で別件の論文を紹介する理由は、心理学の研究論文では、"心理学リアクタンス"に類似した心理現象(カリギュラ効果)は、"リアクタンス"と総括して、大部分が扱っているからです。
※参考
心理学専門書においても、"心理的リアクタンス"の派生先である"カリギュラ効果"そのものが記載されている本は数少ないものです。とは言いましても、心理学を専門的に学ぶ機会を得ると"カリギュラ効果"のキーワードは、心理学専門知識として触れる、歴とした専門用語の1つであることには変わりはありません。
数多い心理学用語の中には、"カリギュラ効果"と"心理的リアクタンス"のような関係に類似するキーワードは、他にも存在します。心理学用語を勉強している際に、説明文が類似していると勘づいたものを、一度は深く調べてみると新たな発見があるかもしれません。
児童を調査対象とした心理的リアクタンスの研究
ご紹介するのは、第83回日本心理学会発表論文集に掲載されている、大谷・山村(2019)の研究です。
この研究では、小学生に学級規範の教育をする際に用いる伝達方法によって、児童側に生じる心理的リアクタンスが強化されるのか検討するために、小学4-6年生を対象とする実験を行いました。
児童に対する実験刺激として、後日に宿題提出を求める場面が作成されました。実験刺激呈示の内容は、論文原本の文章が分かりやすいので以下に引用します。
(1)提案・勧誘+接近 (e. g., 宿題をもってきましょう)
(2)提案・勧誘+回避(e. g., 宿題をわすれないでください)
(3)指示・強制+接近(e. g., 宿題をもってきなさい)
(4)指示・強制+回避(e. g., 宿題をわすれないようにしなさい)
この研究の結果では、提案・勧誘(〜しましょう、〜ください)よりも、指示・強制(〜しなさい)の方が強く心理的リアクタンスが喚起されることが明らかにされています。
上記の結果は、先にも触れた通り、指示を受けた児童自身の選択肢(宿題をするorしない)の選択の自由の、阻害具合から生じた結果だと考えられます。
その他、指示・強制(〜しなさい)の中でも、遠回し気味に伝える回避表現よりも、直接伝える接近形式の方に、より強い心理的リアクタンスが喚起されることも示されました。
私たちも命令口調で行動を指示された時には、どれだけ指示内容が的確なものだったとしても、反発したくなることがありますよね。この研究の結果で示されたことは、日常生活にも活かせるのではないでしょうか。
日常生活におけるカリギュラ効果の活用
ここからは、カリギュラ効果を現実場面で応用するための方法のヒントを、より詳しく具体例を挙げながら紹介します。
広告・マーケティング
ビジネス場面でカリギュラ効果を活かす場面としては、既に具体例として取り上げたネット広告が代表的です。それでは、広告においてカリギュラ効果を活かすには、実際どの様なテクニックを使えば良いのでしょうか。
ここでは、商品をPRして顧客や先方へ売り込もうとしている場面を想像してみましょう。
相手へ売り込む商品が優れていることを示すエビデンスが揃っていたとしても、広告バナーと同様にメリットだけを一方的に説明すると、相手に十分な魅力が届くことはありません。
そこで用いると効果的なテクニックの1つに"両面提示"があります。
両面提示
両面提示とは、相手に訴えたいメリットにデメリットを抱き合わせて投げかける技法です。
例えば、顧客に対して洗濯機をPRする際に、「この商品は運転時の音が静かで、電気代も安くて汚れ落ちも良いので大変おすすめですよ。」と良い点ばかりを取り上げた説明をしたとしましょう。
このメリットだけを並べた説明は、今時の洗濯機のほとんどに当てはまるものばかりで陳腐な文章となってしまい、商品に魅力を感じることができません。
対して、「他社製品に比べると洗濯容量が少ないモデルしかございませんが、運転時の静音性が特に優れておりまして、集合住宅でも深夜帯に気にせずにお使いいただくことができますよ。」と、両面提示技法を用いた説明をしたとしましょう。
他社製品と比較した上で発生する欠点を挙げた上で、数多くの長所の中から1つをピックアップして説明したことによって、前者の説明よりも魅力的に見えるのではないでしょうか。
両面提示を技法を用いる時の注意点は、デメリットを先にいうようにすることです。この技法は、前よりも後に続くものを大きく見せる心理技法であるため、順番を逆転させるとデメリットが強調されることとなります。
両面提示技法は商品PRの場面だけでなく、就職面接での自己PRや日常生活でも用いることができるテクニックです。
恋愛
恋愛でカリギュラ効果が生じる場面として代表的なのは、シェイクスピアの悲劇「ロミオとジュリエット」です。
「ロミオとジュリエット」は、イタリア北部に位置するヴェローナ内で、対立するモンタギュー家とキュピュレット家にそれぞれ属するロミオとジュリエットが恋仲となる物語です。
ロミオとジュリエットの関係のように、恋愛関係を外部から禁止を受けたり、妨害する何かしらの障害がある場合に、より一層深い関係になっていくといった展開はよく見られます。
上記は創作物ですが、現実世界であっても、こうした現象を目にする機会は多々あるのではないでしょうか。
このように、ルールとして禁止されたり、恋愛に障害があったりすると、心理的リアクタンスが生じて却って関係が深まることがあります。
カリギュラ効果について学べる本
ここでは、カリギュラ効果(リアクタンス)を含めて、心理学について幅広く学習することができるオススメの本をご紹介します。
カリギュラ効果と説得
この記事では、カリギュラ効果を取り上げて説明してきました。
誰かを説得しようとする際に、筋の通った正しい情報を相手に伝えているつもりでも、何故か相手は正反対の方向へ進んでしまう。その様な場面を見た経験がある人は多いのではないでしょうか。
説得の内容がもっともであったとしても、説得相手に対する伝達方法を誤るだけで逆の選択をさせてしまう可能性があるのです。
相手を説得できない場合は、この記事で紹介したような心理学を応用した技術を用いてみるのが良いかもしれません。同じ説得を繰り返すのは3回まで。これを忘れないようにしてください。
引用文献
- 大谷和大・山村麻予(2019) 学級の規範の伝え方が児童の心理的リアクタンス、規範の取り入れ意図に及ぼす影響(教育 3A-087)pp.955
- おもしろ心理学会 著 「誰にも知られたくない大人の心理図鑑」(2017) 青春出版社
- 亀田達也 監修 「眠れなくなるほど面白い 図解 社会心理学」 (2019) 日本文芸社