ヒューリスティックとは?認知バイアスとの関係から意思決定の判断の仕組みを解説

2021-11-23

私たちは日常的に意思決定を行っていますが、その判断のための方法はいくつか種類があることをご存知でしょうか。

今回はその1つであるヒューリスティックについて取り上げます。心理学におけるヒューリスティックとはどのようなものなのでしょうか。認知バイアスとの関係やマーケティングでの活用法などを具体例を交えてご紹介します。

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ヒューリスティックとは

ヒューリスティックとは、簡便方略と呼ばれるように、単純で直感的な判断を行う意思決定方略のことです。

例えば、「スーツを着ている人を見て、仕事中だと思う」や「ブランド物の靴だから、履き心地が凄く良いだろう」などが挙げられます。

このような、直感的な判断は、それまでの経験に基づいて下されます。

無意識的に判断を行うため、一生懸命考える認知的な努力を必要とせず、比較的楽に答えを出すことができるという特徴があります。

このヒューリスティックの研究で有名なカーネマン,Dとトベルスキー,Aは「代表性ヒューリスティック」、「利用可能性ヒューリスティック」、「係留調整ヒューリスティック」の3つを発見しています。

ヒューリスティックの種類と具体例

ヒューリスティックにはいくつかの種類があります。

順番に見ていきましょう。

代表性ヒューリスティック

代表性ヒューリスティックは、代表的なイメージと比較することで判断を下す方法のことを指します。

例えば、街中で外国人(白人)と出会ったという状況を考えてみましょう。その人と何か会話をするという状況になったとき、どのような言語で話すことになるでしょうか。

多くの人は、おそらく英語を用いて会話をしようと試みるはずです。

それは、海外で最も広まっている言語は英語であり、外国人の使う言語の代表的なイメージとして英語があるためです。そこから直感的に英語と判断するのです。

利用可能性ヒューリスティック

利用可能性ヒューリスティックとは、思い出しやすい、頭に浮かびやすい、すぐ目に付くなど気が付きやすい情報もとに瞬時に判断を行うことを指します。

例えば、毎日テレビで目にするシャンプーを、実際のお店に行った際に手に取りやすいということが挙げられます。

本当は髪質や値段、パッケージなど熟考しなければならない要素はたくさんあるかもしれませんが、

  • 忙しい中、短い時間で買いものをしなければならない
  • たくさん似たような商品が並んでいて比較するのに時間がかかる

などといった状況においては、認知的なコストが少なくて済む馴染みある商品が選ばれやすくなるのです。

係留調整ヒューリスティック

係留とはアンカリングとも呼ばれます。

これは、1番最初に得られた情報を手掛かりに推測を行うヒューリスティックのことで、この1番最初に得られた情報が、船の錨(アンカー)としての役割を持ち、その情報に近しい答えを出すようになる現象です。

例えば、「千葉県の人口は500万人以上ですか?以下ですか?」という質問をした後に、実際の千葉県の人口数を訪ねると500万人周辺の数字を回答しやすいという現象です。

ここで最初に呈示する情報を1000万人にすれば、1000万人周辺の数字となります。

また、推定を行う際に事前に知っている情報が少ないほど、この現象は生じやすくなります。

感情ヒューリスティック

感情ヒューリスティックは感情を基にして判断を行うことです。

例えば、大きく注意喚起されている「オレオレ詐欺」は感情ヒューリスティックを悪用したものです。

オレオレ詐欺では、親族を語って、事故に遭ったなど大きな不安を喚起させ、お金を振り込まなければ自分の大事な人に大きなリスクがあると誤った判断をさせることでお金をだまし取ります。

ただし、このようなリスク判断への感情ヒューリスティックの影響は、その感情を自覚できる冷静な状況においては少なくなることが指摘されています。

ネット通販に関するリスク判断への感情ヒューリスティックの影響

加藤・村田(2015)では、ネット通販に関するリスク判断への感情ヒューリスティックの影響を検討しました。

【条件分け】

  • ベネフィット高条件:ネット通販のメリットを記述
  • ベネフィット低条件:代替的な手段の存在を強調する

ベネフィット高条件では、ネット通販にポジティブな感情を抱きやすく、そのままであればよりネット通販利用のリスクは無視されやすくなるでしょう。

喚起された感情を意識化するよう評定を行わせ、ネット通販の利用に関する不安の程度を比較しました。

その結果、ベネフィット高条件群において、自身の感情を意識させると、不安を低く評定するようになったのです。

このように、危険かどうかというリスク判断に関しては、生じている感情を冷静に自覚できるかどうかということが、感情ヒューリスティックの生じやすさに関連しているのです。

ヒューリスティックと認知バイアス

ヒューリスティックには

一生懸命考える認知的な努力を必要とせず、省エネでの判断を行うことができる

というメリットがあり、基本的にそのような判断は確率的に正解である場合が多いでしょう。

しかし、ヒューリスティックによって導かれた判断が、誤った認識、認知バイアスを生じさせることがあるため注意が必要です。

飛行機事故とヒューリスティック

例えば、飛行機事故というショッキングな出来事がテレビで大きく報道されると、印象に残りやすいため、「飛行機は危ない乗り物だから、地上の自動車で移動したほうが安全」という判断に繋がるかもしれません。

しかし、実際に飛行機での事故が起こる確率は自動車事故が起こる確率よりもずっと低いため、このような利用可能性・感情ヒューリスティックによって導かれた判断は誤ったものとなっているのです。

対人関係における認知バイアスとヒューリスティック

また、対人関係における認知バイアスにもヒューリスティックが関連していることがあります。

内集団バイアスと呼ばれる、自分が所属している集団に属するメンバーのことを高く評価しがちな認知バイアスは、集団内で自分が助けあう機会があるだろうという集団内の互恵的な交換関係に自動的に期待しやすいという作用が働いています。

このようなヒューリスティックは集団協力ヒューリスティックと呼ばれています。

マーケティングに使われているヒューリスティックの具体例

実はマーケティングにヒューリスティックは活用されています。

その具体例をいくつかご紹介していきます。

CM

テレビコマーシャルは、利用可能性ヒューリスティックを応用したマーケティングです。

毎日テレビで何度もテレビCMを見ていると、消費者に対し、商品に関する強いイメージを持たせることができます。

例えば、風邪薬と言えば○○、カップラーメンと言えば××のように、商品を必要とする、選ぶという判断を行う状況で、消費者に「そういえば!」と思い出させることがあれば、商品の購買が高まるでしょう。

値引き

セール中の商品の値札には、あえて定価を斜線を引いて見えるように残しておき、値引き後の金額を書いているものがあるでしょう。これは、係留調整ヒューリスティックを応用していると考えられます。

例えば、定価が10000円の商品が30%オフの7000円になっているなどの呈示法です。

このときの定価はアンカーとしての役割を持っています。

つまり、「この商品は10000円ほどの価値があるものだ」という印象を与えておき、それよりももっと低い金額で買えるというお得感を感じさせることで、購買を促しているのです。

表記

商品に関する表記も係留調整ヒューリスティックが活用されています。

例えば、栄養ドリンクは小さなビンの中に入っているため、一見すると多くの成分が含まれているという印象は持ちにくいでしょう。

しかし、表記によってタウリン1000㎎配合と書くことで、たくさんの成分が含まれているという印象を与えることができます。

この時のコツは、なるべく数字が多く表示されるよう単位を考えることです。

上記の例では、1gと1000㎎は同じ量を指していますが、1gよりも1000㎎のほうがより多く含まれているという印象を与えることができます。

ヒューリスティックによる誤った判断を減らす方法

ヒューリスティックは便利な判断方法ですが、認知バイアスなど誤った判断を下してしまうおそれがあります。

このような事態を避けるためにはどのようにすればよいのでしょうか。

それは、一度立ち止まってよく考えてみることです。

松崎・沼崎(2019)は、行動段階理論における

  • 熟慮マインドセット(複数の目標から一つを選ぶ段階において、それぞれの良い面と悪い面を偏ることなく評価する認知的パターン)
  • 実行マインドセット(目標が選択済みで、速やかに行動を実施する段階における認知的パターン)

をそれぞれ活性化させた2群において、係留調整ヒューリスティックの用いられる度合いを比較しました。

その結果、熟慮マインドセットを活性化した群ではヒューリスティックの使用が減少し、逆に実行マインドセットを活性化した群ではヒューリスティックの使用が増加したのです。

ヒューリスティックによる判断は、無意識的に行われています。

そのため、一度立ち止まり、自分がそのような判断を下したのはどのような理由からかを振り返る癖をつけることができれば、熟慮マインドセットのような認知的パターンを活性化させ、誤った判断を減らすことができるかもしれません。

ヒューリスティックを学ぶための本

ヒューリスティックを学ぶことのできる本をまとめました。

思い違いの法則: じぶんの脳にだまされない20の法則

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思い違いがどのようにして起こるのか?どのようにして防ぐことができるのか?思い違いをどのように活かすのか?をテーマにした本書は、20のヒューリスティックを取り上げ、詳しく解説しています。

認知バイアス 心に潜むふしぎな働き (ブルーバックス) 

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¥1,100 (2024/04/25 11:27:21時点 Amazon調べ-詳細)

認知バイアスを引き起こす要因の1つとしてヒューリスティックが取り上げらえることも多いですが、そのような認知バイアスとヒューリスティックの関係を取り上げている本書では、事例を交えながら認知バイアスが起こる仕組みついて詳しく解説しています。

ぜひ初学者の方の入門書としておすすめします。

瞬時の判断と熟考の使い分けを

ヒューリスティックは認知的コストが少なく瞬時に判断ができるという非常に便利な判断の方法ですが、それに頼りすぎてはいつか誤った意思決定をしてしまうことになってしまうかもしれません。

物事の良い面と悪い面を考え熟慮することがその対処法ですが、それは意思決定の方法についても同じことです。

ぜひ、ヒューリスティックの良い面と悪い面についてよく考え、自らの判断の様式を見直してみましょう。

【参考文献】

  • 櫻井啓一郎・谷光透(2010)『最適性理論における心理学の影響--ヒューリスティックとバイアスについて』現代社会学 (11), 29-38
  • 加藤樹里・村田光二(2015)『潜在的な感情の意識化がリスク判断における感情ヒューリスティックに及ぼす影響』日本心理学会大会発表論文集 79(0), 3AM-095-3AM-095
  • 松崎圭祐・沼崎誠(2019)『熟慮-実行マインドセットがヒューリスティックスの使用に及ぼす影響』対人社会心理学研究 (20), 1-7

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    • この記事を書いた人

    t8201f

    臨床心理士指定大学院に在学していました。専攻は臨床心理学で、心理検査やカウンセリング、心理学知識に関する情報発信を行っています。

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