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ポリグラフとは?検査方法や仕組み、精度についてわかりやすく解説

ポリグラフとは、犯罪捜査の場面で真犯人として立証するために必要な証拠を探し出すための検査技法の1つです。

ポリグラフ検査といえば嘘発見器というイメージもありますが、実際にはどのようなものなのでしょうか。その仕組みや精度、捜査現場での利用とともに、裁判での証拠能力や信憑性について解説します。

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ポリグラフとは

皆さまは、“ポリグラフ”という心理学用語をご存知でしょうか。この用語が何を指すのか、理解している人は少ないかもしれません。

では、言い方を変えてみましょう。“ウソ発見器”といえば、一度はバラエティ番組などで耳にした機会があるのではないでしょうか。

“ポリグラフ”は、ウソ発見器のイメージとして広く認知されている心理学用語であり、海外の論文では“ポリグラフ”を指す専門用語として、“Lie detection(虚偽検出)”が用いられています。

この記事では、実際に日本国内での犯罪捜査の現場で活用されている、捜査心理学・精神生理心理学の専門知識としての“ポリグラフ”について紹介していきます。

ポリグラフ検査とは何か

はじめに、ポリグラフ検査が「どの様な場面で用いられ」、「何を明らかにすることを目的にしているのか」について解説します。

日本国内において、ポリグラフ検査は犯罪捜査機関の1つである科学捜査研究所が取り扱うものであり、犯罪捜査の場面で用いられる検査法です。

日本国内で用いられているポリグラフ技法では、窃盗事件や殺人事件において、ニュースなどのメディアによって世間に知られていない真犯人か犯罪捜査機関しか知り得ない情報を、被検査者が認知しているか否かを検査しています。

つまり、犯人が嘘をついているかを判断するのではなく、真犯人しか知らない事実を知っているかどうかを確認するのが、日本でのポリグラフ検査ということです。その意味で、ポリグラフ検査は「記憶の検査」といえます。

ポリグラフ検査とウソ発見器

ポリグラフ検査とは何かについて簡単に紹介しました。それではポリグラフは“ウソ発見機“なのか、“記憶の検査“なのか、どちらが正しいのでしょうか。

結論からいうと、日本国内におけるポリグラフ検査は“記憶の検査”です。

では何故、ポリグラフを“ウソ発見機”とする認知が広く認知されているのでしょう。その理由は、日本にポリグラフが導入された当時実施されていたポリグラフ検査法が“ウソ発見機”としても取れる検査を実施していたことにあります。

以下では、“ウソ発見機”として認知される要因となった検査技法について紹介します。その後、研究が重ねられたことによって科学的根拠を身につけた、今現在の日本国内で実際に用いられている最新のポリグラフ手法を説明していきます。

ウソ発見機としてのポリグラフ検査:CQT(対照質問法)

まずは、“ウソ発見機”としてのポリグラフ検査を説明します。

この検査法は、今現在の日本国内では実施されていませんが、アメリカを含む海外においてはまだ現存しています。

“ウソ発見機”としてのポリグラフ検査は、CQT(対照質問法, Comparative Question Test)と呼ばれています。この検査法について、具体例でみていきましょう。

CQTの具体例

ある日、行方不明者として届が出されていたAさんの遺体が、とある山中で発見されました。

その事件の被疑者として数名の人物がリストアップされましたが、被疑者を絞る決定打となる証拠が不足しているため、犯人探しが難航しています。

被疑者の中から、真犯人を見つけ出すべくCQTを実施することになりました。

CQTで用いられる質問の例

・「あなたがAさんを殺しましたか?」(直接質問)

・「あなたがBさんを殺しましたか?」(対照質問)

「あなたがAさんを殺しましたか?」といった、被疑者に対して尋ねたい内容をオブラートに包むことなく直接的に聞いてしまうのが、CQTの特徴です。

被検査者となった被疑者は、これらの全ての質問に対し、質問呈示後に「いいえ」と返答するように教示されます。

CQTでは、直接質問に対して喚起される生理反応と、対照質問に対して喚起される生理反応を比較し、“直接質問に強い生理反応を示した容疑者は黒”、“直接質問と対照質問で喚起される生理反応に大きな差が生じない容疑者は白”と端的に判断をします。

※生理反応の内容については、後の"ポリグラフ検査の仕組み"で詳しく説明します。

CQTのメリット・デメリット

CQTのメリットは、ポリグラフ検査を実施する際に必要な質問項目を、時間を割かずに簡単に作成できることです。

その反面、容疑をかけられて既に動揺している被疑者に対し、更に揺する質問を投げかける検査法のため、偽陽性(本来は事件に全く関係しない人物を黒として決定づけること)が発生する可能性が高い上に、科学的根拠がない検査法であると批判されています。

今現在でも、アメリカを含む海外ではCQTによるポリグラフ検査は実施されていますが、CQTで導き出された検査結果は、あくまで参考程度で留まり、あまり頼りにはされていません。

科学的立場のポリグラフ検査:CIT(隠匿情報検査)

続いて、今現在の日本国内でも実施されているポリグラフ検査法について説明します。

現在その検査法は、CIT(隠匿情報検査, Concealed Information Test)と呼ばれています。また、過去にはGKT(有罪知識検査, Guilty Knowledge Test)とも呼ばれていましたが、検査法の内容は同一です。

CITについても、具体例でみていきましょう。

CITの具体例

Aさんの遺体がとある山中で発見され、複数の被疑者がリストアップされました。しかし、証拠が不足しているため捜査機関は真犯人を安易に絞り込むことができません。

そこで、被疑者の中から真犯人を見つけるべく、CITを実施することになりました。

CITに基づいた質問項目を作るためには、マスコミには公表していない"真犯人と捜査機関のみが知り得る情報"が必要です。

Aさんの遺体は、アイスピックで刺殺され、凶器が体に残った状態で山中に遺棄されていました。捜査機関はマスコミに対して、刺殺遺体と公表していましたが、凶器である“アイスピック”に関しては公表していませんでした。

CITで用いられる質問の例

  • 「あなたは“カッター”でAさんを殺害しましたか?」(非裁決質問)
  • 「あなたは“包丁”でAさんを殺害しましたか?」(非裁決質問)
  • 「あなたは“アイスピック”でAさんを殺害しましたか?」(裁決質問)
  • 「あなたは“ダガーナイフ”でAさんを殺害しましたか?」(非裁決質問)
  • 「あなたは“斧”でAさんを殺害しましたか?」(非裁決質問)

繰り返しになりますが、「あなたは“アイスピック”でAさんを殺害しましたか?」といったように、真犯人と捜査機関だけしか知らないはずの情報を用いるのがCITの特徴です。

また、上記の質問項目において、"裁決質問"は真犯人と犯罪捜査機関のみが知りうる情報であり、"非裁決質問"は、裁決質問の凶器と同様に人間を刺殺できるアイスピックと同カテゴリーの凶器です。

CQTと同様に、被検査者となった被疑者は、これらの全ての質問に対し、質問呈示後に「いいえ」と返答するように求められます。また、CITでは、上記の質問内容を3-5回程度、繰り返して呈示されます。

CITによるポリグラフ検査では、無実の罪で容疑をかけられて検査を受けることになった被疑者であれば、プレッシャーを感じることなく検査をパスすることができます。

何故なら、検査中に尋ねられる内容は、質問系列内において同カテゴリーで構成された似たり寄ったりな質問で(凶器であれば凶器、死体遺棄場所であれば死体遺棄場所のみ)、真犯人でなければどれが正解なのか分からないものだからです。

CQTのように、被疑者を揺さぶることが目的の質問は1つも含まれません。

CITのメリット・デメリット

CITのメリットは、真犯人と捜査機関のみしか知り得ない情報を検査に用いるために、真犯人以外の人間は検査で黒として判断される可能性が低く、CQTとは異なり科学的根拠があるとされていることです。

一方で、デメリットとしては、偽陰性(真犯人を白として判断する)の発生する可能性が少なからずある点が挙げられます。ですが、誤認逮捕を嫌う日本人の国民性において、偽陽性が発生する検査法と比べると好まれる性質をしていると考えられています。

また、1つの事件に対してポリグラフ技官が割く時間と手間が、CQTと比べると非常に多くなる点もデメリットといえます。そのため、CITのポリグラフ技法は、犯罪件数の少ない国でなければ実際に犯罪捜査で用いることは難しいです。

幸い、世界の中で日本という国はトップクラスで犯罪発生件数が少ない平和な国であり、他国と比べると、日本の捜査機関が1つの事件に割ける時間には余裕があります。

そのためか、心理学分野の多くの知見や技術はアメリカを含む他国が先行していますが、ポリグラフ検査においては他国よりも日本の技術が最も優れていると考えられています。

ポリグラフ検査の仕組み

ポリグラフ検査の種類とそれらを実施する場面の一例を紹介してきました。

では、CQTやCIT(GKT)において、それぞれの質問項目を呈示した時、一体何を基準にして被疑者が黒か白を判断しているのでしょうか。その判断の基準となるポリグラフ検査の指標について説明します。

ポリグラフ検査の指標

ポリグラフ検査で見る項目には、以下のようなものがあります。

  • SCR(皮膚コンダクタンス反応, Skin Conductance Response)※
  • SCL(覚醒度, Skin Conductance Level)
  • HR(心拍数, Heart rate)
  • RS(呼吸曲線, Respiratory Speed)

※SCR(皮膚コンダクタンス反応)とは、手汗のことです。手汗が分泌されるとSCRの数値が上昇します。

これらの中でも、質問項目に対して有力な判断基準となるのは、SCR、HR、RSの3つです。

危機的状況に陥った人物の様子として、どのようなものを想像するでしょうか。

恐らく、自分の犯行だとバレそうな真犯人は呼吸が荒くなり、動悸を感じるほどに心臓がバクバク動いてしまうでしょう。そのため、その人物は、呼吸の停止(20秒程度止まることもあります)、心拍数の低下、手汗といった生理反応を示すのです。

これらの生理反応を、複数回の試行の中で裁決項目に対してのみ顕著に示すと、黒の被疑者(真犯人)と判断されます。

ポリグラフ検査の精度

ポリグラフ検査の精度は、1つの質問表(上述のCIT質問例の1塊)における精度は、陽性を判断できる可能性が86%、陰性を陰性だと断定できる可能性が95%であるといわれています(財津 2014)。

複数の質問表(凶器、犯行場所、死体遺棄場所、室内の状況など)を用意した上でポリグラフ検査を実施するため、検査の試行回数が重なれば重なる程に精度は上記の数値よりも高まります。

そのため、科学的に信用するに値する検査技法であると考えて問題ないといえます。

ポリグラフ検査の活用

ポリグラフ検査の結果は、実際どのように活用されているのでしょう。

ポリグラフ検査の証拠能力

“ポリグラフ検査の精度”で説明した通り、日本国内において実施されているCITによるポリグラフ検査は、精度が非常に高く科学的な説明能力があると考えられています。

そのため、刑事事件において真犯人として立証するために必要な証拠として存在する、指紋、DNA検査結果、歩容、防犯カメラなどと同様に、証拠の1つとして用いることが可能です。

また、裁判現場においてもポリグラフ検査の結果は、有力な証拠として認められています。

ポリグラフについて学べる本

以下では、ポリグラフについて学習することができる専門書を紹介しています。

3冊目の本は少し難しめな内容となっていますので、ポリグラフ初学者は1冊目や2冊目をオススメします。

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犯罪捜査においても活用される心理学

今回の記事では、犯罪捜査に深く関係するポリグラフについて説明しました。

心理学が活用される犯罪捜査というと、ポリグラフよりもプロファイリングを連想する方も多いかもしれません。

ですが、日本国内においては、プロファイリングよりもポリグラフの方が積極的に犯罪捜査場面において活用されています。

犯罪捜査に関する心理学を学び、実際に職で活かすことは難しいかもしれません。ですが、ポリグラフは様々な心理学分野と掛け合わせた実験が実施されており、心理学の学びを深めるのには良い心理学分野といえるでしょう。

google scholarやJ stageで検索すると無料で多くのポリグラフ研究の論文を読むことができますので、もし興味を持った人がいらっしゃいましたら、是非とも一読してみてください。

参考文献

  • 警察庁(2020) 令和2年1~12月犯罪統計【確定値】 捜査支援分析管理官
  • 財津 亘(2014) ポリグラフ検査に対する正しい理解の促進に向けて The Journal of cultural sciences 立命館大学人文学会 編
  • 高澤 則美(2009) ポリグラフ検査 –日本における検査実務と研究の動向– 生理心理学と精神生理学 27, 1, p. 1- 4.

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    • この記事を書いた人

    ねべあ

    学部で犯罪心理学を専攻していました。社会調査士資格を所有しています。研究補助やStudent Assistantの場で心理学同等に統計学を取扱う機会が多かったです。

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