ラベリング理論とは?意味や関連する理論、犯罪との関係を具体例と共に解説

2021-02-15

今回は、ラベリング理論について学びます。ラベリング理論の意味や内容を、従来の逸脱論との比較や犯罪などの具体的な事例を通して見ていきましょう。また、ラベリング理論への批判・問題点や実生活への応用についても考えていきます。

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ラベリング理論とは

まず初めに、ラベリング理論の意味や特徴についてみていきましょう。

ラベリング理論と逸脱行動

ラベリング理論は、逸脱行動の研究から生まれました。逸脱行動とは、社会規範に反する行動です。

何が逸脱行動となるのかについての議論は複雑ですので、今回はひとまず置いておきましょう。因みに奥村(2018)は、逸脱の諸形態として、犯罪、非行、問題行動、異常行動をあげています。

従来の逸脱論とラベリング理論の違い

ラベリング理論を理解するには、従来の逸脱論との比較が役立ちます。

従来の逸脱論では、人が逸脱行動をする説明として、次のような事が考えられてきました。

  • 統制理論:逸脱者の社会とのつながりが希薄で、社会の規範に縛られる事が少ないため逸脱行動を行う
  • 構造的緊張理論:逸脱行動自体を成功に近づく方法と考えたり、成功を諦めた逃避行動として逸脱行動を行う
  • 逸脱下位文化論:逸脱行動が当たり前の環境に育ったため逸脱行動を行う
  • 合理的選択理論:逸脱行動を行う方が合理的な選択だと考えたため逸脱行動を行う

以上の考え方は全て、逸脱行動を行なった人と、逸脱行動と判断した人との間には何の関係も認めていません。従って、逸脱行動は当然のように非難されるべきもので、逸脱行動の責任を問われるのはそれを行なった人のみです。

当たり前じゃないか、思う方も多いでしょう。ところが、ラベリング理論では、これと全く異なった見方をするのです。

ラベリング理論では、逸脱行動はそれを批判する周囲の人達によってつくられると考えます。

ドキリとしますね。これまでニュースやワイドショーを見て、ただ逸脱行動をした人を他人事のように見ていた私達が、逆転して当事者となりかねないというのですから。

ラベリング理論の事例・具体例

では、ラベリング理論の具体例を見てみましょう。

ラベリング理論と犯罪

逸脱行動の責任を、単に逸脱行動をした人だけに押し付けないというラベリング理論の考え方は、当然犯罪に対する考え方にも影響を及ぼします。

従来の逸脱理論によれば、犯罪行為を行なったからその人は犯罪者となり、罰せられると考えます。ところが、ラベリング理論では、ある人を犯罪者として扱い罰するという事が犯罪者を作り出す、と考えます。

蒼井優主演の映画「百万円と苦虫女」(2008)では、短大卒業後アルバイト生活を送る平凡な女の子である鈴子(蒼井優)が、些細なきっかけで前科者となってしまいます。一旦前科者というラベルを貼られた事から、鈴子の生活は「前科者」として生きざるを得なくなってしまうのです。

つまりラベリング理論では、犯罪だと判断すること、犯罪を犯した人としてみることが、二次的に犯罪者を作っていくという考えます。

ベッカーは、社会の中で権力を持つ者がラベルを貼ることに力を発揮し、社会の中で権力を持たない社会的弱者(負け犬)がラベルを一方的に貼られやすいと考えました。

ラベリング理論の問題点と批判

ラベリング理論に対する批判には、どのようなものがあるのでしょうか。

従来の逸脱行動が、逸脱行動を行なった人だけの問題にしていたのに対し、ラベリング理論では、一方的にラベルを貼る側だけを取り上げる傾向がありました。

つまり、どちらも視点は逆方向ですが、ラベルを貼る側と貼られる側のどちらかしか見ていないと言えます。

この問題点への批判として、構築主義の考え方が出てきます。

ラベリング理論と社会問題の構築主義

ラベリング理論と社会問題の構築主義との関係を見てみましょう。

ラベリング理論では、権力者がラベルを貼る事で逸脱行動が作られるという考え方をしました。これが、1980年代以降の社会学における構築主義という考え方につながっています。

構築主義では、ラベルを貼る側の影響も認めつつ、ラベルを貼る側と貼られる側の双方の相互作用を考えていきます。人は関係の中で生きている以上、その行動はお互いに影響を及ぼし合っていると考えるわけです。

また、構築主義では逸脱行動という客観的な事実がある訳ではなく、逸脱行動だという認識があるだけだというのです。

これについて、丸山(2016)は児童虐待を例に挙げ、次のように述べています。

「虐待に苦しむ子どもたちの存在を社会に訴え、その救済に取り組もうとしても、虐待そのものがあるかないかを問題にしない構築主義の立場を徹底させるなら、子どもたちの苦しみ自体をあつかうことができない。」

社会問題の本質を捉えようとしているにもかかわらず、問題の客観性を否定する事で、問題の扱いが複雑になってしまうのです。

ラベリング理論の実生活への応用

ここまでラベリング理論を解説してきましたが、実生活にはどのように応用できるでしょうか。

人との関係の見直し

まずは、自分が誰にどのようなラベルを貼っているのかに気づく事です。

気づきやすいのは、自分が嫌いな人に対するラベルではないでしょうか。その人を嫌いだと思うのは、どういうラベルのためでしょうか。

「すぐ怒る人」「人の話を聞かない人」「約束を守らない人」など、ラベルを貼った人自身は「事実だから当然」というかもしれまんが、それも全てラベルなのです。

貼ったラベルを剥がすのは難しいのですが、少なくとも自分はあの人にこういうラベルを張っていると気づく事も、その人との関係を変化させる第一歩かもしれません。

ラベリング理論とピグマリオン効果

ラベリング理論において、逸脱行動とは逆のポジティブなラベルが貼られた場合にはどうなるのでしょうか。

知能が伸びると教師から期待された生徒は、実際に成績が上がるという効果を、ピグマリオン効果といいます。
※ピグマリオン効果については以下の記事で詳しく解説しています。

ピグマリオン効果とは?意味や具体例と子育て・恋愛に活かす方法

ピグマリオン効果とは、教 ...

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つまり、ラベリングが相手への期待というポジティブな方向で行われると、相手の行動もポジティブな方へ向かうと考えられます。

ラベリング理論について学べる本

ラベリング理論についてさらに詳しく知りたいという方に向けて、わかりやすく学べる本をご紹介します。

社会学を学べる小説「 シャガクに訊け!」

留年を免れるため、仕方なく人気のない上庭ゼミに入った社会学部の松岡えみる。ゼミの内容は学生相談室で上庭のアシスタントをする事でした。

ラベリング理論を始め、えみると共に身近な社会学を学んでいく事ができます。

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ラベリングに気づく事の難しさ

今回はラベリング理論について学んできました。逸脱行動は周囲の人の行動によって作り出されるという理論です。

差別も、周囲の人が人を平等と扱わない事から作り出されます。そのような差別発言をしたとして、最近では森元会長が批判されていました。

ラベリングは自分でもなかなか気づきにくいものです。森氏は、差別というラベリングをしている事に気づいていなかったのかもしれません。

けれども、森氏を批判している人達の中で、実は自分達も「差別発言をした人」というラベリングをしている事に気づいている人は、果たしてどの位いるのでしょう。

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参考文献

奥村隆(編著者)(2018) はじまりの社会学ー問いつづけるためのレッスンー ミネルヴァ書房

大石大(2019) シャガクに訊け! 光文社

丸山里美(2016) ラベリング理論 映画は社会学する 法律文化社 25-36

北折光隆(2017) セレクション社会心理学ー30 ルールを守る心ー逸脱と迷惑の社会心理学ー サイエンス社

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    • この記事を書いた人

    こころ

     臨床心理学・実験心理学等を学んだ後、心理カウンセラーとして勤務。現在はライターとして活動中。

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