傾聴とは?その意味やロジャーズの傾聴の3条件、傾聴力の高め方などを学ぶ

2021-02-19

今回は、傾聴について解説します。傾聴の意味や目的を理解し、ロジャーズによる傾聴の3条件についても学びましょう。また、日常生活における傾聴の実践事例や望ましい態度についても見ていきます。

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傾聴とは

まず初めに、傾聴とは何でしょうか。その意味と目的を見ていきましょう。

傾聴の意味

傾聴は、来談者中心療法の創始者であるロジャーズ(Carl Rogers)が提唱しました。心から共感して耳を傾ける事です。

傾聴の目的

傾聴の目的を考える時、人間観、つまり人はどのような存在だと思うかが大きく関与します。

あなたが誰かに相談されたとしましょう。もしあなたが、相手には問題を解決する力がなく、相談を受けたあなたがアドバイスをしてあげなくてはならないと思ったとします。

あなたの頭はもう、相手を楽にしてあげたい、自分が何かアドバイスをしなくては、という考えで一杯になってしまいます。

これは、(悩んでいる)人は問題を自分で解決する力がない、という人間観を持っているためです。

ロジャーズは、クライエントは全て、自己治癒力(自分で問題を解決する力)を持ち、成長しようとする意思を持っていると信じ続けました。

だからこそ、傾聴によって、クライエントの心理的な問題は解決すると考えたのです。

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ロジャーズの傾聴の3条件

カール・ロジャーズは、来談者中心療法において、セラピストには次の3つの条件が必要だと述べています。自己一致・無条件の肯定的受容・共感的理解です。

この3つの条件が満たされているほど、傾聴がうまく行われている事になります。では、1つ1つ見ていきましょう。

自己一致(純粋さ)

セラピストはクライエントの話を聴きながら、様々な感情や感覚を持ちます。それら全ての感じている感情や感覚と、自分が表している言動を自覚している事が自己一致です。

自分の感じている全ての感情や感覚を自覚するなんて不可能だ、と思った方は、聴き手としてのセンスがあると思います。

実際には、クライエントに対して批判する気持ちがあるのに、それを実感できる前に「それはお辛いですね」などと言ってしまう事もあるかもしれません。

大切なのは、その時に感じる「違和感」「心地悪さ」に気づく事です。「違和感」こそが、自己一致に導いてくれる感覚です。

「違和感」を頼りに、なるべく自己一致の状態を保つように心がける事が、傾聴の第一の条件です。

完全な自己一致の状態は難しいかもしれませんが、これを無視する事はクライエントの助けにならないばかりか、セラピスト自身が迷路にはまってしまう危険にもつながりかねません。

傾聴のプロセスは、クライエントの自己一致の過程に付き添う事ですから、セラピスト自身の自己一致が不可欠なのです。

無条件の肯定的配慮(受容)

クライエントの悩みは、自分を受容できていないために生じています。自分の身に起きている事を受容できれば、悩みは悩みでなくなります。

そしてクライエントが自己受容できるようになるために、まずはセラピストがクライエントを受容するのです。

クライエントの言動や感情について、批判も評価も判断もせず、そのまま受け止める事が受容です。

赤ちゃんや子供は、自分が受容されているいう体験を蓄えていく事で、外の世界を知ろうという意欲が湧いていきます。

クライエントも、セラピストから受容される体験を蓄えていく事で、自分の感情を探索していこうという意欲が湧いてくるのです。

共感的理解

共感という言葉は、日常生活でも使った事のある方は少なくないのではないでしょうか。「あなたの意見に共感した」とか、「この物語の主人公には共感できる」など、自然に使われています。

自己一致や受容に比べると、共感が最も身近に感じられるかもしれません。実際にロジャーズも、3つの条件のうち、共感が最も身につけやすいと述べています。

自己一致しているセラピストに受容される体験をしたクライエントは、今度は自分の世界を探索し始めます。

ロジャーズは、共感について、次のように述べています。

「一時的にその人の人生を生きること、判断を下すことなく配慮をしながらその中で動き回ること、その人が自分ではほとんど気づいていない意味を感じ取ること…あなたは、その人にとって、その人の内なる世界での信頼に足る同伴者なのです。」(Rogers,1980:142)

セラピストがクラエイントの同伴者となる時、セラピストはクライエントの世界を「まるでクライエントになったかのように」味わうのです。これが共感です。

この「まるで」(as if)というのが大切で、クライエントの世界から、自己一致をしているセラピスト自身の世界に引き戻してくれる呪文のようなもの、と言えば良いでしょうか。

映画はどんなに感情移入をしていても、終われば自分の世界に戻れますし、ミステリー小説でも本を閉じれば安全な世界に戻れます。

けれども傾聴では、クライエントと対面しているその時に、その世界に入り込んだり自分の世界に戻ったりという事が安全にできる必要があります。

この「まるで」を持ってクライエントの同伴者となる時、共感こそが人間性を回復させるのだと、ロジャーズは言うのです。

日常生活における傾聴の活用場面

心理カウンセリング以外では、日常のどのような場面で傾聴が活用されているのでしょうか。

ビジネス場面における傾聴

あるレストランの経営者は、自分の下積み時代がそうであったように、従業員の言葉には耳を傾けず常に怒ってばかりいたそうです。

そのうち従業員は次々と辞めていき、店の雰囲気も悪いため客足も遠ざかってしまいました。

なんとかしなければと思った経営者は、ファミレスで働き始めます。所謂ダブルワークです。そこでは、上司は部下の言う事を取り入れていました。

そこから、その経営者は自分も従業員の言う事を取り入れていく事を決意しました。そのうち、従業員も増え、お店も繁盛します。

従業員の提案を採用しテイクアウトも行っていた事で、コロナ禍においても黒字を出せたと言います。

ビジネスにおける傾聴の効果は、話し手(部下)だけでなく、顧客、聴き手(上司)にも及ぶものである事が想像できるのではないでしょうか。

傾聴力の高め方

傾聴力を高めるにはどうすれば良いのでしょうか。

傾聴はスキル(技法)ではなく態度

ロジャーズ自身は、簡単に行えるような技術のマニュアル化は行なっていません。傾聴を技術としてマスターしようとする人は、まずこの点に留意する必要があります。

本来、(ロジャーズの言う)傾聴は単純なトレーニングで簡単に身につけられるものではなく、心理カウンセラーが実践の中で手探りをしながら、自分のものにしていくべきものなのです。

傾聴はスキルというよりも「相手と関わる時の態度」であると捉えておくことが大切です。

傾聴力を高める

とはいえ、ビジネスや医療などで、傾聴をする事の効果も認められ、より一般の人でも傾聴の力を身につけて行きたいというニーズが高まっています。

ここでは、専門のセラピストのトレーニングではなく、一般の人が傾聴力を高める方法を考えてみます。

まずは、自分が「良く聴いてもらえた」と思えた経験を思い出してみましょう。その時の自分の感覚、感情を思い出します。

また、相手のどのような態度によって「良く聴いてもらえた」と思えたのでしょうか。気がつく事を挙げてみてください。

相手と自分の距離はどうでしたか?相手の表情はどうでしたか?自分の考えや感情に対して、相手はどのように反応しましたか?

沈黙の時、相手はどのように待っていてくれたでしょうか?相手からのどのような質問が、話しやすいと感じましたか?批判や評価をされましたか?

傾聴力を身につけようと思った時、真っ先に「練習」を思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれません。

けれども、まずは自分が傾聴してもらう経験を持つ事が何より大切なのです。

傾聴を学べる講座や資格

傾聴は、その内容からも想像がつくように、実践を通して学んでいく必要があります。

傾聴を学べる講座や、傾聴に関する資格にはどのようなものがあるでしょうか。

傾聴を学べる講座

すぐに役立つ傾聴入門

NHK学園 生涯学習通信講座の講座です。

傾聴ボランティア養成講座

日本傾聴塾で行われている傾聴ボランティアの講座です。

傾聴に関する資格

傾聴療法士

日本精神療法学会の講座を修了する事によって取得可能な資格です。

高齢者傾聴スペシャリスト

ユーキャンの講座を修了する事によって取得可能な資格です。高齢化社会の現在、高齢者の傾聴は需要が高くなってきています。

傾聴について学べる本

傾聴について学べる本をご紹介します。

終末期医療の専門医から学ぶ「傾聴力 相手の心をひらき、信頼を深める」

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大和書房
¥880 (2024/04/23 05:08:25時点 Amazon調べ-詳細)

終末期医療の専門医として、2000人以上の最期を看取ってこられた著者による傾聴の本です。

身近な人に寄り添い、どのように聴けば良いのか。著者が関わった方々との対話を通して学ぶ事ができます。

傾聴をもっと身近に「一生使える! プロカウンセラーの傾聴の基本」

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総合法令出版
¥1,760 (2024/04/23 17:23:23時点 Amazon調べ-詳細)

実例を挙げながら、傾聴の基本について分かりやすい言葉で書かれています。

沈黙の時の対応、本音を話さない話し手への傾聴、話し手の質問の意味など、難しい場面での対応についても書かれています。

本物の傾聴に近づく

今回は、傾聴について学びました。記事を読んでもどかしく思われる方も少なくなかったのではないでしょうか。

それ程、傾聴を実践なくして学ぶ事は難しいのです。

細かい知識がなくても傾聴が上手な方もいらっしゃいますし、ノウハウを知っていても傾聴ができていない方もいらっしゃいます。

まずは自分にとって、お手本となる人を見つけるのも良いかもしれません。

ミヒャエルエンデの「モモ」は、批判も評価も判断もせず、ただその場に共にいるだけで、話し手が自ら道を切り開いていきます。

そのような聴き方に私は憧れるのですが、あなたは、誰のような聴き方をお手本にしたいと思われるでしょうか。

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参考文献

ブライアン・ソーン(Brian Thorne) 諸富祥彦(監訳)(2003) カール・ロジャーズ 星雲社

古宮昇(監修)(2015) プロカウンセラーが教える場面別 傾聴術レッスン ナツメ社

古宮昇(2020) 一生使える! プロカウンセラーの傾聴の基本 総合法令出版株式会社

松原達哉(編著者)(2010) 史上最強カラー図解 臨床心理学のすべてがわかる本 ナツメ社

大津秀一(2020) 傾聴力 相手の心をひらき、信頼を深める 大和書房

Rogers,C.R.(1980) A Way of Being. Boston: Houghton Mifflin.

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    • この記事を書いた人

    こころ

     臨床心理学・実験心理学等を学んだ後、心理カウンセラーとして勤務。現在はライターとして活動中。

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