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メサイア・コンプレックスとは?その特徴や具体例とともに対処法を解説

メサイア・コンプレックスとは、他者を救うことで自分自身が救われたいという心の働きです。今回はメサイア・コンプレックスの意味や特徴とともに、カウンセラーや親に見られるメサイア・コンプレックスの具体例や対処法について、分かりやすく解説します。最後に、メサイア・コンプレックスについて学べる本についてもご紹介していきます。

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メサイア・コンプレックスとは

メサイア・コンプレックスとはどのようなものでしょうか。まずはその意味を解説します。

メサイア・コンプレックスの意味

メサイアとは、救世主の事です。人を助けるという行動がコンプレックスと結びつくというのは、一見分かりにくいかもしれません。

コンプレックスは、意識にはのぼりにくいこだわりで、感情や行動に強い影響を及ぼすものです。

つまり、コンプレックスが原動力になっていても、行動をしている本人には自覚する事が難しいと言う事になります。

人を助ける事で自分の価値が高まると感じられる場合、それは自分には価値がないというコンプレックスを解消する役割を果たすことになります。

このようなコンプレックスを、メサイア・コンプレックスと言います。

メサイア・コンプレックスの特徴

メサイア・コンプレックスにはどのような特徴があるのでしょうか。

コンプレックスはいずれも、感情が複雑に入り組んでいます。

中でもメサイア・コンプレックスから生じる反応は、「自分には価値がない」という思いと「自分は人を救うだけの力を持っている」という全く反対の感情が奥に潜んでいる事になります。

さらにメサイア・コンプレックスが背景にあるとしても、行動そのものは社会的に見たら「良い」行動に見える場合も多いため、当事者も気づきにくいのです。

相手に何かをしてあげたいと思った場合、もしそれが上手くいかなかったり、相手から感謝されなかった場合、自分がどう感じるかを考えてみると良いでしょう。

助けを断られたり、感謝されなかったりした時に相手に不満を感じるとしたら、それはメサイア・コンプレックスに突き動かされた「ありがた迷惑」なのかもしれません。

カウンセラーや親に見られるメサイア・コンプレックスの例

メサイア・コンプレックスの例を見ていきましょう。

援助職に見られるメサイア・コンプレックス

心理カウンセラー、臨床心理士、福祉関係などの「援助職」に就く人には、メサイア・コンプレックスを持つ人が多いと言われています。

吉岡(2010)は、ユングの「傷ついた癒し手」という言葉を取り上げながら、次のように述べています。

「治療者は、自分が傷ついているからこそ、人の傷つきがわかるし、人が癒されていくプロセスに寄り添うことができるのである」(吉岡、2010)

その上で、特別支援学校教員を対象に、メサイア・コンプレックスがどのように職業選択に影響を及ぼしたのかについてのアンケートを実施しています。

それによると、障害を持つ身内に対して、過去の自分の行動の未熟さを償いたい思いがある、という事例がありました。また、家族が障害を持つ事を理由にいじめられた経験から、その分優しく接したいと思った、という事例もありました。

このような事例から、援助職を選ぶ人の中には、人を助けることで自分自身の受けた傷を癒そうという動機を持つ人がいる事がわかります。

このことは、特別支援学校の教員のみならず、医師、教師、心理カウンセラー、介護職等、人を援助する職業に就こうとする人全体に言えることです。

親に見られるメサイア・コンプレックス

生まれたばかりの赤ちゃんは、食べることも排泄の処理も親の助けなくては出来ません。そのため、子どもは親に全面的に依存し、親が子どもを養うという関係が、むしろ健全といえます。

母乳という自分の一部を与える母親にとっては、自分こそが我が子にとっての救世主であり、万能感を感じる時期もあるかもしれません。

けれども子どもは次第に自分で歩けるようになり、食べられるようになり、自分の判断で行動できるように自立していきます。

この時、親は自分の中のメサイア・コンプレックスと向き合わなくてはなりません。「この子のため」と言いながら、子供の世話をする事で自分の価値を保ってきた場合、子離れや親離れが難しくなりがちです。

親子が心理的に依存し合い、いわゆる共依存となるリスクもあります。

メサイア・コンプレックスへの対処法

メサイア・コンプレックスへの対処法について見ていきましょう。

他のコンプレックス同様、メサイア・コンプレックスを持っている事自体は悪い事ではありません。

ただし、本当に相手の役に立つ援助ができるためには、メサイア・コンプレックスをしっかりと自覚する必要があります。

自分のしようと思っていることが、本当は誰のための行為なのかを知っていることが大切です。

この人を助けることで、自分も癒やされているのだと自覚しているのと、一方的に相手のためになっていると思い込むことでは大きく違います。

自分の行為が誰のためなのかを知っている人は、謙虚に相手の幸せを願うことができるでしょう。

メサイア・コンプレックスについて学べる本

メサイア・コンプレックスについて学べる本をご紹介します。

河合隼雄氏の歴史的名著「コンプレックス」

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メサイア・コンプレックスの理解には、コンプレックスについて理解する事が役立ちます。

本書は、ユング心理学を日本に広めた河合隼雄氏が、コンプレックスについて自我や夢などとの関係から記し、事例とともに様々なコンプレックスについて解説をしている本です。

劣等感コンプレックスとメサイア・コンプレックスとの関係についても、理解が深まる1冊です。

大切な人の自由を願えるか「九月姫とウグイス」

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「人間の絆」などで有名なイギリスの作家、サマセット・モーム(William Somerset Maugham)の書いた童話です。

生まれた時から何度も名前を変えられた姉達と違い、九月姫は一度も名前を変えられず、素直で優しく育ちます。

九月姫は、姉達のアドバイスに従い、大切なウグイスを籠に閉じこめてしまいますが…。

相手の幸せを願った姫はどのような行動をとったのでしょうか。

メサイア・コンプレックスに振り回されないためのヒントを得られる童話です。

情けは人のためならず

人のためになることをすると、気持ちが良いものです。

日本にも古くから、「情けは人のためならず」(人に親切にすると、やがては自分にも良い報いがやってくる)や「一日一善」などという言葉があります。

本来、人を助けること、人に親切にすることは望ましいことなのです。

問題は、それが相手の自立心を奪ってしまったり、自分の心の健康を損なってしまう場合です。

自分が感じる「助けたい気持ち」を否定する必要はありません。メサイア・コンプレックスを持つこと自体も悪いことではありません。

自分が相手に何かをしてあげた後、相手も自分もより自己肯定感が高まったとしたら、その助けは本当の意味で相手も自分も救えたと言えるのでしょう。

参考文献

河合隼雄(1975) コンプレックス 岩波書店

河合隼雄+谷川俊太郎(2018) 魂にメスはいらないーユング心理学講義

林道善義(2000) 無意識への扉を開く ユング心理学入門I  PHP研究所

文 サマセット・モーム やく 光吉夏弥(2013) 九月姫とウグイス 岩波書店

福島哲夫(2002) 図解雑学 ユング心理学 ナツメ社

水澤都加佐(2016) あなたのためなら死んでもいいわー自分を見失う病「共依存」 春秋社

吉岡恒生(2010) 子どもを援助する者の心の傷とその影響 治療教育学研究30,13-20

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    • この記事を書いた人

    こころ

     臨床心理学・実験心理学等を学んだ後、心理カウンセラーとして勤務。現在はライターとして活動中。

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