イド・自我・超自我とは?精神分析の最重要概念を具体例でわかりやすく解説

2021-02-08

みなさんは自分のこころの全てを理解していますか?

精神分析の創始者であるフロイトによれば、人間のこころはイド・自我・超自我と呼ばれる3つの層で構成されており、多くの人が「これは自分のこころの働きだ」と自覚しているのは自我の一部分に過ぎないのです。

自分のこころでありながら、自分が自覚していないこころの層とはどのようなものなのでしょうか。

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フロイトによる構造論

精神分析の創始者であるフロイト,Sは自我イド(エス)超自我と呼ばれる三つのこころを発見しました。

この人間のこころは3つの層に分けられるとするという理論のことを構造論と呼びます。

自我とは

自我とは意識的あるいは無意識的に「これは自分」だと認めることができるこころのことです。

初期のフロイトは、ヒステリー患者を対象として催眠療法を行っていました。

そして、催眠がかけられた患者が治療中に語られた内容はその人のこころの一部であるはずなのに、催眠が解けると患者は治療中に語った内容を全く覚えていないということに気付きます。

このことを受けて、フロイトは「これが私であると認める」ことのできる領域は自覚できるのに対し、通常では認められないものが意識されないように抑え込まれていると主張しました。

この「自分として認めることのできるこころ」こそが自我を指しています。

自我の諸機能

自我はこれが私だと認められるこころだということを説明しましたが、その認められる自分を守るために様々な機能を果たしています。

というのも、先ほど自我は意識的あるいは「無意識的」にこれは自分と認められるこころであると主張したように、普段は意識しなくてもその機能を果たしているのです。

学者によって自我の機能の種類の主張は異なりますが、今回は自我の代表的な機能である現実機能防衛機能(適応機能)の2つを取り上げ、解説します。

現実機能とは:「現実検討」と「自我境界」

現実機能とは、自分の現実感覚を適切に保つ機能のことです。

現実機能は大きく「現実検討」と「自我境界」の2つの機能があります。

現実検討

現実検討とは、現実世界に置かれている自分の状況を観察し、どのように自分が行動すべきか状況判断をしていく機能のことを指します。

例えば、仕事で疲れてしまったときに、ふと今何をしようとすればわからなくなったという経験があると思います。

このようなときは疲れによって一時的に自我の現実検討がうまく機能しなくなるため、「ど忘れ」が起こっているのです。

自我境界

自我境界とは、自分と自分ではないものを区別するための境界線のことです。

例えば、ためになる本を読んで、他者の考えを勉強になったと実感できるのは、本に書かれている他者の考えが自分のものではないと認識できているからです。

統合失調症では、自我境界が壊れてしまうという症状を呈することがあります。

例えば「他者の考えによって自分が操られている」などの自我障害では、自我境界が壊れてしまい、行動の基となる意思・考えが自分の中ではなく、自分以外の外的世界からもたらされたと知覚してしまうことによって生じていると考えることができます。

防衛(適応)機能とは

自我は「認めることのできる自分」を安定させておくために、外的世界や自我以外の自分のこころから自我を守る機能を持っています。

これを防衛機能と呼びます。

このために防衛機制と呼ばれる方法を用いて自我を守っているのですが、この対処法は複数あり、どのような方法を用いやすいかという傾向はその本人の適応の仕方にもつながっています。

そのため、防衛機能は適応機能と呼ばれることがあります。

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自我の働き

このような自我の機能は常日頃から無意識的に行われているため、このような機能が自分のこころで働いていると言われてもしっくりこない方もいらっしゃるかもしれません。

先に自我は意識的あるいは無意識的に自分だと認められるこころと述べましたが、自我は多様な働きを並行して行っているため、すべてを意識的に行おうとすると疲弊してしまいます。

そのため、無意識の(気付かない)うちに行われているのです。

よく似たフロイトの理論の中に局所論というものがあり、これは意識・前意識・無意識という3つのこころの領域があることを示す理論です。

よく自我=意識と勘違いしている人がいますが、自我は意識・前意識・無意識の3領域全てにわたって位置していることに注意しましょう。

イド(エス)とは

先にフロイトが催眠療法の最中に自我を発見したことをご紹介しましたが、それと同時にイド(エス)も発見しています。

催眠中に語られたにも関わらず、催眠が解けると内容を覚えていないという自分のこころの中にありながら、認めらないこころはイドと呼ばれています。

これは、自分以外のモノ、つまり、Itという意味です。

人間は動物でありながら、その他の動物とは大きく異なり理性的な部分も持ち合わせています。そして、現実に沿うよううまく自分を調節する自我が理性的な部分だとすれば、残りの本能的なイドに対応するわけです。

イドには動物として生きていくために必要な生存欲求や衝動(敵意や性的欲求、愛の欲求など)が入っています。

しかし、イドをそのままの形で表出してしまうのは現実に即していません。

例えば、女性を巡って愛の欲求を動物のように出し、他の男性と取り合いになってケンカをしているようでは社会秩序が守れないでしょう。

そのため、自我は自分に認めがたいとして防衛し、現実に即した形に変換させることでその本能的な欲求を満たそうとするのです。

イドから湧き上がってくる欲求・衝動はまったくもって不必要ではなく、エネルギーの源となっており、それを現実的な形に変換することで私たちが生きるために必要な行動を起こすことができるのです。

イドの具体例

イドはそのままの形では本人に望ましくないため表面(現実世界)に現れてこないよう抑え込まれています。

しかし、ただ抑え込むだけでは自我(の防衛)とイドが常に衝突し、葛藤を生むだけです。そのため、自我の用いる防衛の中には、イドからの欲動を認められる形に変換して表出するというものがあります。

例えば、昇華と呼ばれる防衛機制は芸術家が作品作りにおいて用いているということが知られています。

素晴らしい絵画作品の中には、何とも言えない生命力や力強さを感じられることがありますが、これはイドから上ってきた欲動が形を変えて表現されたものだとみなすことができるのです。

超自我とは

超自我とは自我へ湧き上がろうとしてくる欲求・衝動が自分として認められるものか検閲するためのこころのことです。

自我は常に様々な機能を果たしていることを先に説明しましたが、それと並行して常にイドからの欲動を見張っていると疲弊してしまいます。

そのため、超自我は自我に代わって、イドから上ってくる欲動が適切なものかどうかを道徳的な判断に基づいて監視しているのです。

超自我と自我理想

発達の過程において、養育者からの躾を取り入れることによって道徳的な判断基準である超自我は形成されるとされていますが、発達が進むにつれ、次第に親の言っていたこと全てをそのまま守って生きていくだけでは生きづらいことに気付きます。

思春期などは親への反抗が起き、自分らしさを形成していきますが、こころの中でも一度は親の価値観に基づいて作り上げた超自我を自分になじむ形にするよう作り替えていくのです。

そうしていくと、次第に道徳的な原則に基づいて作用する超自我はイドや自我と反発するもの(こうあらねばならないという懲罰的な性質)ではなく、調和をもってより良く生きていくための理想的な姿、つまり自我理想と呼ばれるもの(こうなりたいという柔軟な性質)へと変化していきます。

若原(2001)は青年期における超自我型のパーソナリティ(○○してはならないという懲罰的なパーソナリティ)と自我理想型のパーソナリティ(○○したいという柔軟で共同的なパーソナリティ)におけるこころの充実感の違いに違いが表れるかを検討しています。

その結果、自我と反発しやすい超自我型のパーソナリティのほうがこころの充実感は低くなることが示されています。

超自我の具体例

超自我も普段意識されることの少ないこころですが、それを感じられる最たる例として挙げられるのが良心です。

良心が痛むという経験をしたことがある方も多くいらっしゃると思いますが、それは超自我の持つ非道徳的なことに対する反応です。

イド・自我・超自我を学べる本

イド・自我・超自我を学ぶ上でおすすめの本をまとめました。

精神分析的人格理論の基礎 心理療法を始める前に

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日本における精神分析の大家である馬場禮子先生が書いた本書は、フロイトが自我やイドを発見するに至った経緯から、それぞれがどのような働きを持っているかについて易しく、かつ詳細に解説してあります。

高校生からのフロイト漫画講座

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精神分析は目には見えないこころの中でも自覚することの難しい、無意識の領域までも対象とした学問であるためにイメージが湧きづらいという難点があります。

本書はフロイトの提唱した学説を漫画形式で紹介しているため、これから精神分析について学び始める方におすすめの一冊です。

全てを意識することは難しいこころの領域

自我・イド・超自我は精神分析における最重要用語の一つですが、普段意識されることのないイドや超自我の存在にイメージが湧きにくい面もあるかと思います。

しかし、自我とのやり取りの中でそれらの機能の一端が見えることを知ればもっと精神分析を身近に感じられるはず。

今回ご紹介した例以外にもイドや超自我の働きで思いつくものがないか振り返ってみるのも良いでしょう。

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参考文献

  • 若原まどか(2001)『青年期における超自我と自我理想のあらわれ(個人発表3)』日本青年心理学会大会発表論文集 9(0), 45-46
  • 馬場禮子(2008)『精神分析的人格理論の基礎 心理療法を始める前に』岩崎学術出版社

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    • この記事を書いた人

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    臨床心理士指定大学院に在学していました。専攻は臨床心理学で、心理検査やカウンセリング、心理学知識に関する情報発信を行っています。

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