心理学の用語 臨床・心理療法

PTSD・トラウマとは?意味や症状の種類、治療方法についてわかりやすく解説

PTSDとは、トラウマ体験をきっかけに発症する心の病を指します。患者には「再体験」「回避・まひ」「過覚醒」と呼ばれる3つの中核症状が現れ、強い不安や恐怖から日常生活を思い通りに送ることができなくなってしまうのです。今回はそんなPTSDの意味や症状、診断方法などについて、わかりやすく解説していきます。具体的な治療方法や患者との接し方についてもご紹介しているので、ぜひご参考にしてください。

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PTSDとトラウマ

PTSDを学ぶためには、原因となるトラウマについて十分に理解しておく必要があります。まずはトラウマの基礎知識を見ていきましょう。

トラウマの意味とは

トラウマとは、いわゆる「心の傷」を意味します。私たちが日常的な会話で使うトラウマは、苦い思い出や不快な体験を指すものが殆どです。しかし精神医学用語としてのトラウマは、もっと深刻な状態を示します。

一般的な不安や恐怖:心の一時的な変化であり、医学的な治療を必要としない。

  • 時間の経過で不安や恐怖は薄れていく
  • 新しい体験によって救われる
  • ひとりでも対処できる

トラウマ:事件や事故によって引き起こされた心の傷。医学的な治療が必要な状態。

  • 事件を何度も思い出してしまう
  • ショックが強く、社会生活が困難になる
  • 自信を失い家に閉じこもるようになる

トラウマの受け止め方は人それぞれです。同じ事件や事故にあった人でも、本人の性格や生活環境により心身に現れるトラウマ症状の強弱が変わります。

トラウマ反応とは

トラウマ体験により引き起こされるさまざまな変化のことを「トラウマ反応」と呼びます。具体的には以下のような症状が現れます。

身体面不眠、食欲不振、動悸、体の痛み、原因不明の発熱、手足の震え
心理面抑うつ、無力感、罪悪感、情緒不安定
社会生活面人間関係に変化が出る(本人が人付き合いを避けたり周囲の態度が変わることで、疎遠になるなど)

また、病名のついた特徴的な症状が現れることもあります。

PTSD症状事件・事故の後も当時の記憶に苦しめられる。主に再体験、回避・まひ、過覚醒の3症状が現れる。
ASD症状ショックのあまり現実感を失った状態。PTSD症状に加え、解離症状が現れる。
心の病気全般うつ病、不安障害、アルコール依存症など。

トラウマ反応の全体像が見えてきたところで、PTSDについてのより詳しい解説を続けていきます。

PTSDの意味とは

PTSDとは「心的外傷後ストレス障害」とも呼ばれる心の病気の一種です。事件や事故が原因で精神的に不安定な状態が続き、日常生活がままならない状態を指します。上記の表でもわかる通り、トラウマ反応に現れた症状の一部がPTSDとなるのです。

PTSDは、トラウマ体験から1ヶ月経過しても生活に支障が出ている状態で、初めて診断が下ります。トラウマ体験直後にPTSDになるというのは誤った情報なので気を付けましょう。

PTSDの症状の種類

PTSDには特徴的な3つの中核症状が存在します。

再体験

再体験とは、トラウマとなる辛い体験を思い出したり、夢にまで見てしまうような状態です。「侵入症状」や「侵入的想起」とも呼ばれ、嫌な思い出が勝手に頭の中に入り込んでくるような感覚に陥ります。

思い出すきっかけは人によりさまざまです。自分のトラウマと関連するニュースを見たり、被害にあった場所と似たような環境を訪れた際は、特に再体験の症状が現れやすくなります。

再体験の中でも、より強い症状を「フラッシュバック」と呼びます。事件や事故の記憶を生々しく思い出し、実際に今もその出来事が起きているかのような錯覚に陥ってしまうのです。当時の痛みやにおいまでもがよみがえり、患者を強く苦しめます。

回避・まひ

回避・まひとは、トラウマ体験と似たような状況を恐れ、必死に避けようとする状態です。患者は辛い記憶を忘れ去ろうと意識しすぎるあまり、関連事物を何もかも避けて生活するようになります。

自転車との衝突事故を起こしたドライバーであれば、事故現場を通らない、車の運転をしないといった回避行動が見られます。また事故の話題を避けるために、人付き合いが減ることもあるでしょう。

前述した再体験は、嫌なことを思い出して苦しむ状態のことでした。「再体験と回避・まひ」一見対照的にも思える症状ですが、この2つの反応は並行して現れるのが特徴です。嫌な記憶に苦しめられた反動から、回避行動が強まると考えられています。

回避・まひにより行動や交流の範囲が狭まると、日常生活にも大きな支障をきたします。

過覚醒

過覚醒とは、神経が過敏になり、些細な物音や人の動きにも過剰な反応を示してしまう状態です。

人はトラウマを経験すると、突然身の安全に確信を持てなくなります。すると常に神経を張り巡らせるようになり、緊張状態が延々と続くことになるのです。例えば、鉛筆が床に落ちただけで飛び上がるように驚いたり、周囲の人が少し動いただけでもぎょっとします。

小さなことに気を取られるため、集中力は低下する一方です。また緊張状態が長引くことにより、心身ともに休まる時間がありません。怒りっぽくなる、臆病になるといった性格的な変化も見られます。

トラウマのショックにより自律神経が乱れ、緊張状態が優位になることが過覚醒の原因と言われています。

ASDとは

ASDとは、事件の直後に起きる「急性ストレス障害」を指します。

PTSDには「トラウマ体験から1ヶ月経過しても生活に支障が出ている状態」という明確な診断基準がありました。しかし実際は、事件や事故直後からPTSD症状に悩まされている方々は大勢いるのです。

そこで、トラウマ体験直後にPTSDの3つの中核症状を発症しており、尚且つ「解離症状」を伴う場合には、ASDと診断されるようになりました。

解離症状

解離症状とは、あまりに強いショックを受けたことで感情が麻痺している状態です。具体的には、現実味が沸かない、自分が自分ではないような感覚、辛くて悲しいはずなのに何も感じない、といった症状が現れます。

表面上は落ち着いているように見えるため、適切なサポートを受けられずに苦しむ患者が非常に多いです。

通常、解離は一過性の症状として現れます。時間の経過により過去について考える余裕ができると、一気に強い悲しみに襲われ、すべての気力を失ってしまうのです。

ASDはPTSDの前兆とも言われていますそのため、ASDの段階で適切なサポートを施すことができれば、PTSDの発症を防ぐことが可能です。PTSDの診断が下ったとしても、早い段階での手助けにより軽症に抑えられる場合があります。

※ 解離の慢性化はパーソナリティ障害へと発展することもある

PTSDの診断方法

トラウマ反応により日常生活に支障が出るようであれば、なるべく早めに専門機関を受診しましょう。PTSDの診断は、主に心療内科や精神科で行うことができます。

●診断までの流れ

まず初めに医師の問診を受けます。現在の症状や日常生活における悩みなどを具体的に伝えましょう。

次に2種類の検査を行います。日本では心理検査であるIES-R(改定出来事インパクト尺度)と、診断面接であるCAPS(PTSD臨床診断面接尺度)を用いることが多いようです。

IES-R過去1週間の自身の症状を振り返りながら、用紙の質問に答えていく方法。
質問例:睡眠の途中で目が覚めてしまう「0全くなし、1少し、2中くらい、3かなり、4非常に」から当てはまる状態に〇をつける
CAPS22項目の質問からなる面接法で、医師と一対一で行う。所要時間は60~90分。
訓練を受けた専門家でないと実施することができない。

※ ただし、上記以外の検査方法も存在する

こうした検査の総合的な判断により、PTSDの診断が下されます。

PTSDには主に3つの中核症状が見られると紹介しましたが、診察に来るすべての人がその条件を満たすとは限りません。一部の症状にだけ当てはまる「部分的PTSD」や、診断基準には当てはまらないものの、PTSDと似た症状に苦しむ人々が一定数いるのです。

他にも、うつ病や不安障害といったPTSD以外の病気を発症している場合があります。反対に、病気ではないけれど一時的に酷い落ち込みが見られる場合もあるでしょう。

PTSDの診断にこだわる必要はなく、個々の症状に合わせた柔軟な対応が最も大切です

PTSDの治療方法

PTSDの治療は、以下のような基本的なケアを基盤としています。

  • トラウマについての心理教育を受ける
  • 周囲の人の理解を得る
  • 生活環境を整える
  • ストレスの対処法(ストレスマネジメント)を学ぶ

中でも心理教育は、PTSD治療の導入部ともなる重要な役割を担います。これは、治療が行われる前に医師やカウンセラーとの面談を行い、患者本人がトラウマの基礎的な知識を身につけるというものです。心理教育により自身の心の変化を認識することが、PTSD治療への第一歩となります。

【心理教育により、自身の変化を4つの点で理解してもらう】

  1. 再体験、回避・まひ、過覚醒を理解し、自分の変化は症状が原因だと認識する
  2. 現在の諸症状はトラウマによる正常な反応だと考える
  3. 治療により症状が和らぐことを認識し、前向きな気持ちを引き出す
  4. トラウマ体験後はネガティブな思考に偏りやすいことを理解する

心理教育を受けた後は本格的な治療へと入っていきます。実際に使用されている治療方法を見ていきましょう。

認知行動療法

認知行動療法とは、トラウマ体験により歪んでしまった考え方や行動パターン治療する方法です。認知行動療法の中にもさまざまな種類が存在しますが、PTSDでは暴露療法や認知の修正などが行われます。

暴露療法では、事件や事故の体験を意図的に思い出し、恐怖心を克服していきます(想像暴露)。また、実際に不快なものへと近付き、徐々に慣れていく方法も有効です(現実暴露)。

認知行動療法や認知の歪みに関する詳細については、以下の記事をご覧ください。

認知行動療法とは何か?背景理論から日常生活での応用まで分かりやすく解説

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認知の歪みとは?その原因や対処法、代表的な10項目を具体例で解説

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薬物療法

服薬での治療では、SSRIと呼ばれる種類の抗うつ薬が第一選択薬として処方されます。SSRIにはPTSDの3つの中核症状を和らげる効果があり、生活の質の改善が期待できます。薬物療法には個人差があるため、効きが悪い場合は他の薬の使用を検討しましょう。

薬物療法は根本的な治療ではないため、他の治療法と組み合わせることが推奨されています。

EMDR

EMDRとは目を左右に動かして、認知の歪みを正す方法です。

EMDRには「脳を直接的に刺激し、脳が本来もっている情報処理のプロセスを活性化できる」(引用:日本EMDR学会)という効果があります。

この眼球運動はPTSD症状を軽減することがわかっていますが、日本では実施している医療機関が少ないのが現状です。

EMDRの詳細については、以下の記事をご覧ください。

PTSDに有効な治療法EMDRとは?そのやり方や効果、ADHDへの適用や副作用を解説

続きを見る

PTSDの人との接し方

PTSDの治療は、周囲の協力なくして成り立ちません。

例えば家族や友人らのサポートにより、トラウマに悩む人々の生活環境を整えることができます。暮らしを整えることには、治療の効果を高める作用もあるのです。

周囲のサポートは、助けたり支えたりすることだけが目的ではなく、患者本来の回復力を引き出すという意味でも非常に大きな意義を持つことがわかります。

サポートは、専門的な知識を有せずとも行うことが可能です。「寄り添う、付き添う、気に掛ける、手伝う、話を聞く」ということに意識を向けながら本人と接すると良いでしょう。

サポートを行う際の注意点

初めは手厚いサポートができていても、時間の経過とともに患者に対して早期回復を求めてしまいがちです。これだけ良くしているのにどうして完治しないんだろうとイライラすることもあるでしょう。

サポートに疲れて限界を迎えると「バーンアウト(燃え尽き症候群)」してしまいます。ひとりですべてを背負い込むことはせずに、支える側も負担を分散させるように心掛けてください。

また被害者の話を親身になって聞くことで、家族や友人にもPTSDの中核症状が現れることがあります。HSPのように特に共感力が高い性質の人は、こうした二次受傷に注意しなくてはなりません。

PTSDの支援は、先の長い活動となることを念頭に置きながら行う必要があります。総じて言えることは、サポートする側も頑張りすぎないことが大切です。

PTSDとトラウマについて学べる本

PTSDやトラウマについてに、より詳しく学べる本をご紹介します。

赤ずきんとオオカミのトラウマ・ケア:自分を愛する力を取り戻す〔心理教育〕の本

こちらの書籍は、赤ずきんとオオカミの物語仕立てで、トラウマによる症状、回復のプロセス、支援方法などが学べます。イラストが可愛らしくやさしい言葉で解説してあるため、トラウマの全体像が掴みやすくなるのではないでしょうか。

PTSD治療の前に初めて自身のトラウマと向き合おうとする方や、そのご家族、支援者の方々にぜひ目を通していただきたい一冊です。

これだけは知っておきたいPTSDとトラウマの基礎知識

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PTSDについてもう少し踏み込んだ内容を学びたいという方には、こちらの書籍がお勧めです。

本書では16章に渡りPTSDの詳細が綴られています。記憶や神経系との関連、向精神薬の効果、さまざまな心理療法の活用など、PTSDから回復するための知識や方法を具体的に学ぶことができます。

トラウマ・ストレスの専門家医である著者の柔軟な考え方が反映されているため、本書を読めばより広い視野を持って治療に取り組めるようになるかもしれません。

理解が患者を救う

日本におけるPTSDの研究は、阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件をきっかけに始まりました。そのためまだ日が浅く、社会的に十分な理解が広まっているとは言えません。

実際に、周囲の心無い言葉や無神経な対応に苦しむ被害者はとても多いです。こうした二次的な被害を生まないためにも、多くの方がトラウマに対する正しい知識を身につけることが望まれます。

またトラウマ体験はいつ起こるかわかりません。そのため、自分自身がPTSDになる可能性もゼロではないのです。

どの立場となっても、知識は必ず役立ちます。今後ともPTSDやトラウマに関する学びを深めていただけたら幸いです。

参考文献

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    • この記事を書いた人

    kinu

    臨床心理学科卒。主に発達心理学、学校心理学について学んでいました。

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