認知行動療法とは何か?背景理論から日常生活での応用まで分かりやすく解説

2021-03-03

認知行動療法とは、英語でCognitive Behavior Therapyといい、CBTと略されます。数ある心理療法の中でも、最もエビデンス(科学的根拠)の強い方法ですが、批判も多い心理療法です。CBTが有効な人、向かない人の違いや、CBTの理論的背景、アプリを使って日常生活に取り入れる方法、学会や研修、関連資格まで、分かりやすく解説します。

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認知行動療法(CBT)とは

一般の人も、名前くらいは耳にしたことがあるのではないでしょうか。それほど有名な心理療法である認知行動療法(CBT)とは、一体何なのでしょうか。まずは認知行動療法の意味や定義について紹介します。

認知行動療法の意味

認知行動療法とは、その名の通り「認知」と「行動」の変容を目指す心理療法です。多くの心理療法には、提唱者がいますが、認知行動療法は、多くの心理療法を統合したものであるため、提唱者や開設者がいません。

認知行動療法の定義

認知行動療法とは、パブロフ(Pavlov,I.P.)やワトソン(Watson,J.B.)による古典的条件付けや、スキナー(Skinner.B,F.)によるオペラント条件付けを理論的背景とした「行動療法」、エリス(Elis.A.)による「理性感情行動療法」、ベック(Beck.A.)による「認知療法」を系統立て、統合したものを言います。

エリスの「理性感情行動療法(rational emotive behavior therapy)」、マイケンバウムの「自己指示法」および「ストレス免疫法」、そのほかゴールドフリード(Goldfried, M. R.)らの「系統的構成法(systemic rational restructure)」これらをおしなべて、認知行動療法と呼ぶことが妥当とされています(心理臨床大辞典, 2008)。

つまり、「認知行動療法」とは、多くの認知療法や行動療法の総称であり、端的に「これ」と定義できるものではないと言えます。

認知行動療法の理論的背景

ここからはもう少し踏み込んで、認知行動療法の理論的背景について解説します。

認知行動療法は大きく分けて、スキナーによるオペラント条件付けを理論的背景とした「行動療法」の面と、エリスによる理性感情行動療法を理論的背景とした「認知療法」の面があると言えるでしょう。

オペラント条件付けとは

オペラント条件付けでは、行動を三項随伴性によって説明します。

三項随伴性とは「先行条件(弁別刺激)―行動(反応)―結果(強化)」です。例えば、私達は横断歩道の「青信号(先行条件)」を見て、「横断(行動)」します。青信号で横断することで「安全(結果)」に目的地に辿りつくことが出来るため、これからも青信号を横断しようと学習します。

このように、生物の行動は三項随伴性によって成り立っているという考えに基づくものが行動療法です。

理性感情行動療法とは

理性感情行動療法は、ABC理論によって、人間の信念を説明しようと言うものです。人間の信念は「合理的信念(Rational belief)」と「非合理的信念(irrational belief)」に分けられます。

私達がミスをおかした時(出来事: Activation event)、そのミスをどう捉えるかは人それぞれの信念に左右されます(信念: Belief)」。

「私はミスを犯すダメな人間だ(非合理的な信念(irrational belief)」では、「もうどうせやってもダメなんだから、挑戦なんか止めてしまおう(結果: Consequence)」に繋がるかもしれません。しかし、「あの方法が間違ってたんだ(合理的信念: rational belief)」を持てば、「じゃあ、方法を変えてチャレンジしよう(結果: Consequence)」に繋がるかもしれません。

同一の出来事でも、信念によって結果が変わるとする前提に基づくものが理性感情行動療法です。認知行動療法は、これら二つの理論的背景に根差しています。

認知行動療法の特徴と長所・短所

認知行動療法は、良くも悪くも「○○をする。次に××をする。」といったように、パッケージがしっかりと決められているのが最大の特徴です。この特徴ゆえに、他の心理療法では得られない様なメリットがありますし、逆にデメリットもあります。

どの様な長所・短所があるのか、簡単にまとめてみます。

認知行動療法のメリット

認知行動療法のメリットは大きく分けて3つ挙げることが出来ます。

  1. 効果研究が進んでいる
    認知行動療法は、パッケージがしっかりしているため、効果研究も盛んに行われています。「○○症の患者に、××習慣、△△を行うと、□□%で改善が見込める」など、しっかりとしたエビデンスに基づいて心理療法を実施することが可能です。
  2. 比較的誰にでも実施しやすい
    認知行動療法は、「○○をする。次に××をする。」としっかりとしたパッケージがあるため、アマチュアのセラピストからベテランのセラピストまで、しっかりと勉強すれば比較的誰が行っても同様の効果が得られます。ベテランのセラピストなら上手く出来るけど、アマチュアのセラピストだと上手くいかなかないといった問題が少ないのも、認知行動療法のメリットです。
  3. 保険点数がつく
    公認心理師法の制定に伴い、認知行動療法には保険点数がつくようになりました。エビデンスがしっかりとした心理療法であるため、保険会社も安心して保険金を支払うことが出来ます。認知行動療法が昨今、最も有名な心理療法の一つたらしめる最大のメリットと言えるでしょう。

認知行動療法のデメリット

しかしながら、認知行動療法は以下の点でデメリットをはらんでいるとも言えます。

対処療法でしかない

認知行動療法に批判的な心理療法家は、認知行動療法をその場しのぎの対処療法でしかないと言います。患者及びクライエントの症状を消し去っているに過ぎず、根本的な解決にはなってないのではないかという声もあります。また、症状を消すことでまた別の問題が起こると主張する心理療法家も多いです。

認知行動療法の種類

先ほどもいったように、認知行動療法は多くの心理療法の総称です。では、どの様な心理療法が認知行動療法の枠組みにあるのか、主なものを簡単に挙げてみます。

エクスポージャー療法

恐怖や不安とは、間違った学習により形成されているものも多いとする前提に基づく心理療法です。例えば、犬が怖い患者が居たとします。この人は過去に、犬に噛まれた経験があり、犬全般に対して強い恐怖心を持っています。

こうした患者に対し、まずは「犬の絵を見る」次に「犬の写真を見る」、次に「ゲージに入った犬を見る」、次に「子犬に少し触れてみる」といったように、段階的に恐怖対象に晒されることで、慣れて行くように訓練するものを指します。

自己教示訓練

マイケンバウムによって提唱された方法です。まずは「自分のなりたい理想像」や「手に入れたい習慣」をしっかりとイメージして、自分にそれを達成する様に言い聞かせます。そして、何らかの行動を起こし、この目標に近づくことが出来たら、報酬を自分へ与えることで行動を強化することを言います。

マインドフルネス認知療法

頭に浮かんだ考えや思考を「こんなこと考えちゃダメだ」「こう考えなくては」といった評価を下さずに、「あ、私は今こう考えたんだな」と、一歩引いて自分の考えを眺めることをマインドフルネス認知療法と言います。日常的に行うことで、うつ病の改善等に効果が期待されている最新の認知行動療法です。

認知行動療法の具体例と流れ

では、認知行動療法は具体的にはどのような流れに沿って行われるのでしょうか。

先ほども登場した、「犬が怖い」患者をAさんとして、具体例に沿って見てみましょう。

不安階層表の作成

まず、Aさんがどういった場面で犬を怖いと感じるのか、階層的に捉えることから始まります。

  • 「犬がたくさんいる公園に行くのは、とっても怖いから80点」
  • 「ペットショップはゲージに入っているとはいえ、犬がたくさんいてちょっと怖いから50点」
  • 「室内犬を飼っている友達の家に行くなんて、考えられないほどとっても怖い!100点」

といったように、点数をつけてどういった場面で犬が怖いという症状が出るのかを具体的に聞き取ります。

行動実験

そうしたら、点数が低い場面から順に、身を置いてみます。Aさんは「犬の写真を見るだけでも、ちょっとだけビックリするので10点」が最低点だったとします。

では、Aさんが犬の写真にびっくりしなくなるまで。つまり10点の場面をクリアできるまで、犬の写真を見続けます。最初はびっくりするかもしれませんが、段々と犬の写真にも慣れてきて、恐怖反応がなくなってきたら、次に点数が高いものへと移行します。

このように、不安階層表の点数が低いものから順に、行動実験を行い、セラピストとの面接でフィードバック(実際やってみてどうだったかを話し合う)を行うことが、認知行動療法のオーソドックスな方法です。

認知行動療法の対象になるケースと効果

認知行動療法は、不安症を始め、パニック障害や強迫性障害など多くのケースに対して効果が確認されています。では、逆に認知行動療法が上手くいかないケースはどういったものでしょうか。

認知行動療法が向かない人

これは一重に「動機付けの弱い人」。つまり、「あまりやる気のない人」と言うことが出来るでしょう。

認知行動療法は、患者およびクライエントの動機づけに大きく影響を受けます。先ほどのAさんの例でも、Aさんが「本気で犬嫌いを克服したい!」と思っているのなら、セラピストの指示に従って、不安階層表のレベルの低いものから順に行動実験を行うことが出来るでしょう。

しかし、Aさんが「いや。そこまで大した問題じゃないから、放っておいても良いかな」と思っていたらどうでしょう。Aさんは行動実験を途中で投げ出して、認知行動療法を実施しなくなることは明白ではないでしょうか。

このように、認知行動療法は、患者やクライエントが「本気で症状をどうにかしたい!」「この問題を解決したい!」と思っている際には、非常に強力で有効な手段となりますが、「そこまで困ってないから、あまり頑張りたくはないな」と思っている場合には、その有効性も弱くなってしまい、患者やクライエントが面接に来なくなってしまう「ドロップアウト」という現象に繋がります。

認知行動療法に対する批判

認知行動療法は、先ほども述べた通り、「対処療法に過ぎないのではないか」「根本的な解決にはならないのではないか」といった批判があります。他にも認知行動療法には多くの批判があります。具体例と共に見てみましょう。

症状の消失は根本的な解決か?

何度も手を洗ってしまう。「もう十分手は綺麗になっている。おかしな行動だと分かっていても止められない」といった特徴を持つ強迫性障害は、その心理的背景として「自分という物を確立したいがために、外界の物を排除したい」という無意識的欲求が往々にしてあります。

細菌やほこり、ウイルスといった外界の物を自分の家や手に持ち続けたくないために、過剰なほどに手洗い行動を取ってしまったりします。

こうした患者やクライエントに対し、「手を洗う」という行動のみを消失させることが、果たして根本的解決と言えるのでしょうか?

全ての症状は「非合理的な信念によるものなのか?」

認知行動療法の理論的背景として、先ほども紹介した「非合理的信念(irrational belief)」があります。しかし、人間の問題や症状、疾患、行動とは、果たしてすべてが非合理的信念と呼べるのでしょうか?

「犬が怖いAさん」は、犬に一度噛まれたことで、犬に対して強い恐怖反応を示していました。たったの一度噛まれた経験であれば、確かに「犬が怖い」という考えは、非合理的な信念と言えるかもしれません。しかし、何度も過去に噛まれた経験があったとしたらどうでしょう?犬に噛まれることで、生死のはざまをさまよった経験をAさんが持っていたとしたら?それは非合理的な信念と言えるのでしょうか?

そして何より、例え犬に噛まれた経験がたったの一度だとしても、「犬が怖い」という考えは、客観的には非合理的だとしても、Aさん本人にとっては合理的な信念と言えるのではないでしょうか?

こうした信念に対する主観的な評価と、客観的な評価の齟齬はどう解決されるのでしょうか。

認知行動療法の学会と研修・資格

ここまで認知行動療法について解説してきました。ここからは更に深く学びたいという方に向けて、学びに役立つ情報をご紹介します。

認知行動療法を本気で学びたいという方には、やはり学会への参加が最高の学びとなるでしょう。学会では、日本最先端の学説が学べます。一般社団法人 日本認知・行動療法学会では、心理学系大学卒業と同等かそれ以上の学識を持つと認められたものしか入会が認められていませんが、大学で心理学を専攻している方は、ぜひ卒業後の入会をご一考ください。

また、日本推進カウンセラー協会のページでは、認知行動療法士資格の習得についての詳細が記載されています。資格を手に入れて、プロの認知行動療法家となりたい方には、ぜひこちらのページのご一読をおススメします。

認知行動療法のアプリ

認知行動療法は、アプリを用いることで、お一人でもお手軽に実践できます。「心理学を日常に取り入れたい」「クリニックや精神科まで行くのはやや敷居が高いけど、ちょっと自分でも試してみたい」といった方は、以下のURLへ飛んでみて下さい。

Happifyはストレスや不安を軽減するために、認知行動療法の考えを取り入れたアプリです。「自分でちょっと心を軽くしたい」という方にオススメのアプリです。

Reflectは認知行動療法の最新の学派である「マインドフルネス」を取り入れています。「ストレスに強い自分を作りたい」という方にオススメのアプリです。

認知行動療法について学べる本

認知行動療法を学びたいという方には以下の本がオススメです。

マンガでやさしくわかる認知行動療法

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心理学を学び始めた初学者の方にオススメ。漫画で分かるシリーズはとても読みやすく、「認知行動療法ってどういうもの?」といった下地作りに最適です。

認知行動療法〔改訂版〕

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放送大学教育振興会
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放送大学の教材に使われているこちらの本は、一般の読者にも読みやすく、それでいて専門的な良書です。より認知行動療法を専門的に学び、深めたいという方にとっては、地図となる一冊かもしれません。

認知行動療法実践ガイド

認知行動療法の専門家には必須の一冊と言えます。認知行動療法をセラピーの中で実践的に使うにはどうしたら良いか。どういった注意点があるのかについて詳しく書いてあります。やや上級者向けの本ですが、専門家を志すには避けられない一冊です。

最高の心理療法とは?

最高の心理療法とは何でしょうか?カウンセラーの基本となっているクライエント中心療法でしょうか。心理療法の歴史の始まりである精神分析でしょうか。はたまた、遊戯療法か。箱庭療法か。EMDRか。エクスポージャーか。フォーカシングか。はたまた...はたまた...。

米国では、すでに400を超える心理療法があると言われています。あらゆる精神疾患に対し、どの方法が有効なのか、あらゆる手段を使って効果研究がされています。

しかし、どの心理療法も一貫して欠かせない要素があります。それは「患者ないしクライエントに寄り添うこと」でしょう。認知行動療法も例に漏れません。パッケージが確立されているからといって、患者を無視するわけにはいきません。「○○して、その次は××して」とそればかりに頭が行ってしまい、クライエントを置き去りにしてしまっては、どんな素晴らしい方法であろうと、無意味な愚策となってしまいます。

心理臨床のプロフェッショナルを目指す方は、たとえどのような方法を用いるにしても、目の前の患者やクライエントを第一に考えることを忘れない様にしましょう。最高の心理療法は本や授業にはありません。目の前の患者・クライエントとセラピストの間にのみ生まれるものなのです。

参考文献

・心理臨床大辞典 〔改訂版〕(2018), 氏原寛, 亀口憲治, 成田善弘, 東山紘久, 山中康裕, 培風館.

・認知行動療法〔改訂版〕―実践手続きを具体的に知ることができる―(放送大学教材), (2020). 下山晴彦, 神村栄一.

・マンガでやさしくわかる認知行動療法. (2016). 玉井仁, 星井博文, 深森あき. 日本能率開発協会マネジメントセンター.

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    • この記事を書いた人

    こっけ

    臨床心理学学科大学卒業後、臨床心理学研究科の大学院に在学。恋愛をテーマに研究。19歳で上級心理カウンセラー資格習得。20歳で心理学検定10領域全領域を合格し、心理学検定特一級を習得。

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