学習障害(LD)とは?定義や種類、支援方法について分かりやすく解説

2021-03-04

学習障害(LD)とは、発達障害のひとつに分類される先天的な脳機能障害です。

その症状は読み書き、計算を始め、学習上での様々な困難を生み出します。発達障害者支援法が施工され15年以上が経過しますが、まだその実態は世間に浸透しているとは言えません。

今回は学習障害の定義や種類、診断や支援の方法について分かりやすく解説していきます。

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学習障害(LD)とは

まずは学習障害の基礎知識をご紹介します。

学習障害の意味と定義

初めに文部科学省のホームページに記載されている学習障害の定義を見てみましょう。

学習障害(LD) <Learning Disabilities

学習障害とは、基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すものである。

学習障害は、その原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となるものではない。

 

(平成11年7月の「学習障害児に対する指導について(報告)」より抜粋)

このように、知的な発達に遅れはないものの、学習上の基礎的な知識を獲得したり使用したりすることが著しく困難な状態のことを「学習障害」と言います。

英語表記の「Learning Disabilities (または Disorders)」の頭文字をとって、「LD」とも呼ばれています。学習障害の判断基準が記載されている最新版のDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版)では「限局性学習症/Specific Learning Disorder:SLD」と紹介されるようになりました。

学習障害の原因

学習障害の詳しい原因はまだよく分かっていませんが生まれつき中枢神経系の機能に何らかの障害があるからだと考えられています。

中枢神経系とは、脳と脊髄からなる神経の中心的な存在です。視覚や聴覚など、身体の様々な場所から情報を受け取り、整理や分析をしながら的確な指示を出しています。

この部分に障害が起きると、視覚や聴覚の認知、情報の処理、言語力、思考力、注意力、記憶力といった心的過程(特に認知機能)が上手く働かなくなるのです。

遺伝的な要因も有力視されていますが、親が定型発達であっても子供に症状が認められることは珍しくありません。また、周産期や感染症などとの関連性も現在研究が進められています。いずれにしても複合的な要因からなる障害だということが分かりますね。

学習障害はあくまで脳による認知機能の問題であり、親の育て方や愛情不足、本人の怠慢とは一切関係ありません。分かりにくい障害のせいで偏見や誤解を受けやすいため、周囲がきちんと理解してあげることが大切です。

学習障害の種類と特徴

学習障害の症状は人により異なりますが、大別すると「読み書き障害」と「算数障害」の2つに分けられます。以下にその特徴をまとめたのでご覧ください(こちらの名目は症状名ではなく診断名として用いられていることもあります)。

読み書き障害(発達性ディスレクシア)

読み書き障害(発達性ディスレクシア)とは、文字を読んだり書いたりすることに困難を示す症状です。主に聴覚系の短期記憶、音韻認識、視覚系の認知能力、形の記憶力、空間の認知能力、目と手の協調運動などに課題があると読み書きが難しくなります。

DSMの第4版までは、読字障害は「ディスレクシア」、書字障害は「ディスカリキュア」と分けて紹介されていました。しかし実際のところ、文字を読むのが不得意だと書くことにも困難が生じる場合が殆どです。

そのため専門家によっては「読み書き障害」と紹介しており、本記事でもそちらを採用してしています。※最新のDSM第5版では読字、書字、算数障害すべて合わせて「限局性学習症」という診断名に統合されました。

また、事故などによる後遺症で後天的に学習機能に問題が起きることもあるため、宇野(2019)は症状の前に「発達性」とつけることを推奨しています。

読字における主な問題

  • 文字と音を結び付けるのが苦手で発音が困難
  • 単語を一語として読めない、どこが文節か分からない
  • 文字が歪む、二重になる、反転して見える
  • 上手に文字を追えず、文字や行を飛ばして読んでしまう

書字における主な問題

  • 点線をなぞったり枠の中に文字を収めて書けない
  • 区別が出来ずに似た文字を混同する
  • 漢字のへんとつくりが逆になる
  • 板書が上手く書き写せない、または時間が掛かる

算数障害(発達性ディスカリキュア)

簡単な計算や図形の問題など、数にちなんだ学習に困難をきたすのが算数障害です。主に数の概念が備わっていなかったり、視覚や空間の認知能力不足、文章内容の理解が難しいために起こるとされています。

算術における主な問題

  • 数の大小が分からない
  • くり上がりやくり下がりのミスが多い
  • 図形やグラフの特徴や概念がつかめない
  • 問題文の意味が理解出来ない
  • 応用問題など、思考を発展させることが困難

その他の障害

その他の具体的な症状や、併存している可能性の高い障害をご紹介します。以下の症状は学習障害だけでなく、発達障害全般でよく見受けられるのが特徴です。

コミュニケーション困難

  • 集中して話を聞けない
  • 内容が理解出来ない
  • 気持ちを上手く言語化出来ない
  • 順序だてて説明するのが苦手

発達性協調運動障害(DCD)

  • 歩く 走る 跳ぶなどの動作がギクシャクしている
  • スキップや縄跳び、ボール運動が上手に出来ない
  • でんぐり返しや平均台などバランス感覚を要するものが苦手
  • 箸、鉛筆、はさみなどが上手く使えない
  • 靴ひもが結べない
  • ボタンが留められない

このような極端に不器用な症状のことを「発達性協調運動障害(DCD)」と呼びます。DCDが併存することで、日常生活がより困難になります。

学習障害の診断

学習において過度な困難をきたすようであれば、発達障害支援センターや保健福祉センターといった地域の専門機関に相談してみましょう。具体的な症状や日常での困りごとを伝えた後、正確な診断を勧められたら専門医のいる医療機関へと足を運びます。

不明な点が多い障害であるため、診断にもあらゆる方面からの総合的な判断が必要です。具体的には知能検査・心理検査を始め、CTやMRIを使用し中枢神経系に病変がないかを確認したり、読み書き計算のテストを行うなどの方法が用いられます。

また発達障害※では、複数の障害特性を併せ持っていることがよくあります。学習障害だと思って受診してみたら、注意欠陥・多動性障害(ADHD)の診断も一緒に下った、というようなことも少なくありません。そうした場合、他障害が学習障害にどのような影響を与えているかも考慮しながら、今後の対策を練ることが重要です。

※発達障害についての詳しい解説は以下の記事をご覧ください

発達障害とは?その種類や定義・診断・支援方法について解説

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中には、改めて学習障害だと告げられることに後ろめたさを感じる人もいるかもしれません。しかし診断が早いほど、若いうちから適切な対策が取れます。学習者の環境を整えたり、支援やサービスをフル活用したり、進路についてじっくり考える余裕も生まれるでしょう。

診断をネガティブに捉えず、障害と向き合うきっかけにしてみてください。

学習障害の支援

学習障害では周囲からの理解と支援が大変重要な役割を担います。その必要性と具体的な支援方法について見ていきましょう。

支援の必要性

学習障害を持つ場合、知的な発達に遅れがないので定型発達の子供たちと同じく通常学級(普通学級)で学ぶことが殆どです。しかし、徐々に学習についていくのが困難になり、周囲との差が開き始めます。ここで適切な支援が入らないと「二次障害」が引き起こされてしまうのです。

二次障害とは発達障害(一次的問題)を基にして起こる、心身の不調や引きこもりといった二次的な問題のことを指します。以下の表に二次障害のきっかけや症状をまとめました。

原因(一次障害)学習障害(先天的な脳機能障害)
きっかけ学習のつまずき、いじめ、ストレス、自己肯定感の低下、対人トラブル
二次障害うつ病、不安障害、不登校、暴力

適切な支援は二次障害を防ぐだけでなく、子供の自尊心を守り、養うきっかけにもなります。積極的に受けるよう心掛けましょう。

具体的な支援

  • ティームティーチング:授業を進める担任以外に、生徒に個別で指導する教員を配置する方法。児童がひとり取り残されないように学習のサポートをします。
  • 療育機関の利用:地域の放課後デイサービスなどを利用しましょう。運動療育や学習支援など、発達障害全般の困難を解消するために柔軟な対応をしてくれます。
  • カウンセリング:児童のストレスや不安などはカウンセラーに聞いてもらうのもお勧めです。
  • ペアレントトレーニング:発達障害を持つ保護者に向けたプログラム。子供の特性を理解し、関わり方を学びます。家庭でも療育機関で行われる課題に取り組んでみましょう。

学習障害に適した勉強法

学習障害を持っていても、少しの工夫と配慮でグンと力を伸ばす児童もいます。具体的にどのような勉強法があるのか例を見てみましょう。

読字の困難

  • 読んで覚えることが困難:録音や読み上げ機能を利用し、耳で聞いて覚える
  • とばし読みをしてしまう:定規や厚紙シートを用い、読みたい行以外を覆う
  • 視覚情報が多すぎて混乱する:カラー教材を白黒コピーする
  • 文字がぼやける:パソコンを白黒反転させる

書字の困難

  • 文字がはみ出してしまう:太い罫線や大きなマス目のノートを使う
  • 書くのに時間が掛かる:パソコンやデジカメを利用する

算術困難

  • 計算を解くのに時間が掛かる:テスト時間を延長してもらう
  • 応用問題を解くための簡単な計算で躓く:計算機を使う
  • 九九が覚えられない:音韻で覚えるのが困難な場合、九九一覧表を用いて視覚的に学ぶ

学習時の合理的配慮

障害を持っていても、健常者と平等に教育や就業の機会を得る権利があります。そのためには障害の特性を理解し、個々に合わせた配慮が必要です。これは「合理的配慮」と呼ばれ、上記の勉強法もそれに基づいた具体例となっています。

学習障害における合理的配慮では、ICT教育の活用が有効だとされています。ICTとは情報通信技術のことで、平たく言えばパソコンやタブレット端末を学習に取り入れてみよう、ということです。

書字障害のある児童が正確に板書を写そうとすると膨大な時間が掛かります。ノートを取ることに精一杯で、周囲との差は広がる一方です。しかし「タイピングなら半分の時間で済む」と児童に申告された場合、ぜひパソコンの導入を前向きに検討してほしいと思います。

合理的配慮は特別扱いではなく、障害者が平等な権利を得るための大切な措置です。その児童にとっては、パソコンの使用が認められてようやく健常児と同じスタートラインに立てることになります。テスト時間の延長や計算機の使用も同じことです。

しかし2016年に障害者差別解消法が施行され、合理的配慮が義務化されたにも関わらず、その認知も配慮もなかなか広まっていないのが現状です。合理的配慮を浸透させるには、周囲の理解と協力が必要不可欠となります。教育者の柔軟な対応が早急に求められます。

学習障害について学べる本

学習障害の理解がより深まる書籍をご紹介します。

ディスレクシア入門ー「読み書きのLD」の子どもたちを支援する

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本書は、学習障害の中でもディスレクシア(読み書き障害)にスポットを当てた入門書的な一冊です。

どうして読み書きが難しいのかといったメカニズムから、支援の現状、具体的な対応方法を様々な分野の専門家が分かりやすく解説しています。指導者や保護者だけでなく、LD当事者の方が自身の特性を理解するために読むのもお勧めです。

読めなくても、書けなくても、勉強したいーディスレクシアのオレなりの読み書き

著者は、43歳で自身のディスレクシアに気付いた学習障害の当事者です。この本は著者の実体験を基に綴られています。

学習障害児が理解も支援もない状態で学校生活を送るというのは、我々が想像する以上の苦しみや辛さを伴います。著者も荒れることでしか自分の気持ちを守ることが出来ませんでした。それでも「学ぶことを諦めたくない」と、大人になって奮闘する姿には心打たれます。

こちらは奥様の手を借りて一生懸命に書いた本だそうです。ぜひ、本書を通して当事者のリアルな葛藤を感じ取ってみて下さい。

通常学級で役立つ算数障害の理解と支援法

算数では色々な知識を掛け合わせて問題を解くため、同じ算数障害でも躓く場所は児童により異なります。

本書は算数障害を8つにタイプ分けし、それぞれに適した指導法や学習法を掲載しています。非常に優しい言葉で解説されているので、家庭での学習補助に役立てることも可能です。

子供の「分からない」が、何に対してか分からない…そんな悩みを抱えている方々にぜひ手に取っていただきたい一冊です。

理解こそが支援の第一歩

学習障害は比較的軽度な症状として表れるため、「やる気がない」「努力不足」といった周囲からの厳しい評価に晒されることが少なくありません。しかし、彼らの根底には学びへの意欲がしっかりと存在します。さらに少しの配慮で存分に力を発揮することも可能なのです。

「自分を理解し、助けてくれる人たちがいる」というのは当事者の大きな支えとなります。まずは障害の特性を充分に理解し、寄り添うことから始めてみましょう。

参考文献

  • 尾崎洋一郎・草野和子・中村敦・池田英俊 (2000).『学習障害(LD)及びその周辺の子どもたちー特性に対する対応を考えるー』同成社
  • 宮本信也 (2019).『学習障害のある子どもを支援する』日本評論社
  • 伊藤亜矢子 (2009). 『改訂版 学校心理学ー学校という場を生かした支援ー』北樹出版 44-46.
  • 特定非営利活動法人全国LD親の会『LDってなんだろう?ー学習障害理解の手引
  • 成田奈緒子『脳と心の発達メカニズム

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    • この記事を書いた人

    kinu

    臨床心理学科卒。主に発達心理学、学校心理学について学んでいました。

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