職場のメンタルヘルスなどが重視される近年、精神障害として大きな注目を集めているものの中でもうつ病は有名でしょう。
しかしうつ病にはどのような特徴や種類、症状があるのかご存知でしょうか?今回はうつ病の定義や原因、治療・対応方法について分かりやすくご紹介します。
目次
うつ病とは
うつ病とは抑うつ状態を特徴とし、精神的・身体的な様々な症状が現れる精神疾患です。
米国精神医学会による精神障害の診断・統計マニュアルであるDSMでは、抑うつ気分という気分の異常をきたす障害として気分障害の中に位置づけられています。
うつ病の症状と診断基準
うつ病では非常に多彩な症状を示すことが特徴的です。
米国精神医学会によるDSM-5では厳密な診断基準を採用しており、次のような診断基準を設けています。
【うつ病の診断基準】
次の9つの症状のうち、5つ以上がほぼ毎日、ほぼ一日中存在している必要がある
- 抑うつ気分:気分が沈むあるいはすぐれない日が毎日のように続く
- 意欲・興味の低下:今まで普通に出来ていたことがおっくうで、やる気が出ない
- 自責感:周囲の人に迷惑をかけているのではないかと悩む
- 焦燥感または制止:イライラして落ち着かない、考えが前に進まない
- 倦怠感:いつも疲れを感じる、疲れやすい
- 集中力低下・決断困難:集中力が続かない、決断が出来なくなる
- 食欲低下:食欲がない、食べても美味しくない
- 不眠:寝付けない(入眠障害)、途中で目が覚めて眠れない(中途覚醒)、朝早くに目が覚めてしまう
- 自殺念慮:生きていても仕方がないと考える
うつ病の種類
うつ病と一言で呼ばれることが非常に多いですが、じつはうつ病には様々な分類があります。
DSMでの横断的分類
DSM-5では症状の違いに基づく横断的診断がなされます。
DSM-5では気分障害のカテゴリにうつ病は該当しますが、その下位分類である抑うつ障害群は次のようなものを含みます。
【DSM-5における抑うつ障害群】
- 重篤気分変調症:主に12歳までの子どものための分類で、言語的・行動的に感情の爆発の頻度が高い状態
- うつ病/大うつ病性障害:一般的なうつ病と呼ばれる障害で、抑うつ気分や興味または喜びの喪失などの症状が中核となる
- 持続性抑うつ障害(気分変調症):うつ病の基準を満たさないものの、憂うつな気分が慢性化し、2年以上続いた状態
- 月経前不快気分障害:月経手記における気分の不安定、抑うつ不安などが月経開始前から存在し、月経終了後に消失する
- 物質・医薬品誘発性抑うつ障害:何らかの物質を摂取したことによってうつ病の症状が現れる
- 他の医学的疾患による抑うつ障害:身体的な病気によりうつ病の症状が現れる
- 他の特定される抑うつ障害:抑うつ症状があり、社会機能不全に陥っているものの、診断基準のいずれも満たさないもの
- 特定不能の抑うつ障害:情報収集が十分でない場合などの暫定的な診断
このように、DSMによる横断的な診断を行うとうつ病という概念が何であるかかなり混乱してしまうでしょう。
うつ病のような症状を呈する障害
さらに、うつ病のような症状を呈する適応障害というものも存在します。
これは、はっきりとしたストレスを契機にうつや不安、行動障害などを呈するにもかかわらず、どの精神疾患の診断基準も満たさない場合に診断されるものです。
また、会社に行くと憂鬱になるにも関わらず、休日や自宅では全く問題がない新型うつ、自分は抑うつだと自覚が無いにも関わらず、うつ病のような身体症状が前面に出て、精神症状が自覚されない仮面うつ病などもあります。
近年、職場のストレスによるうつと言われているものの多くは適応障害もしくは新型うつであるとも言われており、うつ病の概念は非常に混乱しています。
病因による分類と特徴
うつ病という疾患を捉えるうえで、理解が進みやすいのは精神医学で今も採用されることの多い病因分類です。
精神疾患は病因によって以下の3つに大別されます。
- 身体部位に何らかの異常・損傷が生じることによって生じる外因性疾患
- ストレスなど心理社会的問題から発症する心因性疾患
- 明確な原因が特定されていない内因性疾患
外因性のうつ病は何らかの器質的な異常が原因であることが明確であるため、その異常を取り除く治療を行えばよいだけです。そのため、特に問題となるのは心因性うつ病と内因性のうつ病の鑑別診断になります。
内因性うつ病
内因性のうつ病は、生まれながらの性格傾向や認知の仕方(気質)が関連している可能性は指摘されながらも、明確な原因が特定されていないうつ病のことです。
気質とは、生まれながらの考え方や行動の仕方、つまり性格傾向のことであり遺伝的なものであると考えられています。そのため、生まれながらの遺伝的なリスクを負いながら、何らかの心理的なストレスが引き金(誘因)となって発症すると考えられています。
内因性うつ病の特徴
内因性うつ病の特徴は次の通りです。
【内因性うつ病の特徴】
- 発症年齢:中年・老年に多い
- 日内変動:朝方が一番つらく、夕方になるにつれ症状が軽くなる
- 自責の念:自分を責めてしまう
- 他責の念:まれであり、悪いのは自分だと思い込む
- 発病までの適応性:発病までは非常に適応的で、発病後一気に崩れる
- 性格:メランコリー親和型性格・循環気質
- 抗うつ薬:比較的効きやすく、良好
- 休養中の態度:まじめ
特に内因性うつ病は重篤化する例が多く、食欲不振、身体的疲労、思考制止(考えをまとめられず、頭の回転が落ちること)、性欲の減退など、あらゆる心理的、精神的なエネルギーが枯渇した状態を見て取れることが特徴です。
最も警戒すべきは自殺企図のリスクであり、特徴的な認知の歪み(妄想)を持っています。
- 罪業妄想:自分は罪深く、うつ病で苦しむのも当然の報いだ
- 貧困妄想:自分はお金もなく、貧しくて卑しい人間だ
- 心気妄想:ちょっとした身体の変化も、重篤な病気ではないかと疑ってしまう
心因性うつ病
心因性のうつ病は、心理的な要因が原因とされるため、社会や家庭のストレスや人間関係などのストレスにより心理的な負荷がかかり発症すると考えられているものです。
心因性うつは、抑うつ神経症や適応障害、新型うつなどを含んでいる幅広い疾病概念であり、内因性うつとは異なり、ストレスや無意識での内的な葛藤によるうつ病のような症状を呈しているものと考えることができます。
心因性うつの特徴
心因性うつの特徴は次の通りです。
【心因性うつの特徴】
- 発症年齢:青年に多い
- 日内変動:規則性はない
- 睡眠障害:必ずしもない
- 自責の念:非常にまれ
- 他責の念:しばしばみられる
- 発病までの適応性:あまり良くない
- 性格:わがまま、利己的
- 抗うつ薬:必ずしも良くない
- 休養中の態度:不真面目(休日を楽しむケースも多い)
心因性うつ病は非常に広い疾病概念であるため、必ずしも上記の特徴が全て当てはまるとは限りませんが、このようにみると、内因性のうつ病とその特徴は大きく異なっていることが見て取れます。
日内変動や睡眠障害などの特徴的な症状を示さず、患者自身の性格を見てみると、わがままで他責的なケースがあるようです。
抗うつ薬の効きが悪いことも特徴的です。また、従来の「うつ病患者を励ましてしまうとさらに追い詰め自殺リスクが高まる」などといった見解がそのまま当てはまるとは限りません。
ストレスとなっている状況からうつ症状を理由に逃避できるという疾病利得のため、さらに病気に引きこもるという可能性もあるため、内因性のうつ病との鑑別をしっかり行い、しかるべき治療を行う必要があるでしょう。
うつ病の原因
(内因性)うつ病は、現代の医学においてその原因がはっきりとは特定されていません。
しかし、発症に関わるであろう生理的要因や心理的要因は仮説としていくつか提唱されています。
脆弱性-ストレスモデル
私たちは同じ職場で似たようなストレスを受けるとしても、そのストレス耐性には個人差があり、うつ病を発症してしまう人もいれば、全く平気という人も存在します。
脆弱性-ストレスモデルはそのような個人差に注目したものです。
このモデルでは遺伝的な脆弱性や発達過程で形成したストレス耐性のなさなどの脆弱性に対し、一定のストレスがかかることでうつ病を発症するというものです。
古くから、内因性うつ病に関しては、遺伝的なリスクに対し、誘因となるストレスを伴うライフイベントが引き金(誘因)となり、うつ病を発症することが指摘されており、現代でも、うつ病には遺伝的な脆弱性と環境的なストレスの両方が発症に関連しているという見方が根強いです。
性格特徴
うつ病を発症する人には、脆弱性というリスクが関連しているのであれば、発症前から要注意の性格特徴が分かればうつの予防や早期介入が可能となるはずです。
そのため、うつ病患者の病前性格に関する研究は古くから精力的に行われていました。
最も有名な性格特徴はメランコリー親和型性格と呼ばれるものです。
これはドイツのテレンバッハという学者が提唱したもので、次のような特徴を持ってます。
【メランコリー親和型性格の特徴】
仕事上では非常に正確で、ミスをしないために綿密な準備を行い、非常に勤勉。良心的で責任感が強く、対人関係では他人との対立を避けて、他者に尽くすことで秩序を保とうとする所謂まじめで良い人
このメランコリー親和型性格は内因性うつ病の病前性格として広く知られており、発症までは持ち前の勤勉さを活かして社会に適応しているのですが、自分だけではどうにもならない事態に直面し、秩序が保てないことでうつ病を発症すると考えられていました。
近年の研究では、うつ病概念の広がりにより、メランコリー親和型性格がうつ病発症を決定づけるものではないという見解が広まりつつありますが、精神私学の現場ではうつ病相を捉えるうえでも非常に有益な概念として今も重視されています。
モノアミン仮説
これは、抗うつ薬の発展と共に指摘されている仮説です。
抗うつ薬は、脳内の神経伝達物質である、モノアミンと呼ばれる「セロトニンやノルアドレナリン」などの代謝異常に働きかけるものです。
逆説的にはなりますが、抗うつ薬により症状が改善するのであれば、それらの神経伝達の分泌異常が発症の原因であると考えられるのです。
しかし、モノアミンの濃度降下の作用を持たない抗うつ薬もうつ病に有効なケースがあったり、モノアミンの再取り込み阻害薬であるコカインやアンフェタミンなどの麻薬には治療効果が無いといった事実もあります。
これらのことから、神経伝達物質は発症に関連しているものの、明確な原因とは言い切れないというのが現在の医学の見解です。
うつ病の治療方法
うつ病の治療には大きく分けて、薬物療法と心理療法の2つのアプローチが存在します。
しかし、勘違いしてはいけないのは、これらのどちらか一方を選択しておけば良いということではなく、これらを組み合わせて用いることが重要なのです。
薬物療法
薬物療法でもっとも有名なのはSSRIもしくはSNRIと呼ばれる治療薬です。
脳神経は一本の神経が全て繋がっているのではなく、あるところで隙間が空いており、その間を電気信号が通ることができないため、神経伝達物質と呼ばれるホルモンを放出し、それを別の神経細胞が受容することで信号を伝えています。
セロトニンやノルアドレナリンと呼ばれる神経伝達物質の分泌異常がうつ病に関わっていることは前項で述べましたが、SSRIやSNRIはその伝達物質が放出・受容される量を調整する働きを持っており、うつ病の症状の改善を目指すのです。
抗うつ剤は臨床効果が出るまで10日から2週間ほどかかることが多く、薬の長期的な効果持続が難しいケースや眠気、集中力の低下などの副作用も見られるケースが多いため、初法には十分な注意が必要です。
心理療法
薬物療法で症状を緩和させたとしても、うつ病は特徴的な(自己否定的な)認知の歪みを引き起こすことで有名であり、これが社会復帰を阻害する要因として指摘されています。
また、倦怠感などの身体機能の低下により処方された薬をしっかりと飲むことができないかもしれません。
そのため、認知行動療法などの心理療法を併用し、患者の心理的なサポートや認知の歪みの改善、服薬管理などを行うことでしっかりとした治療効果が見込めるでしょう。
うつ病患者への対応方法
うつ病で最も注意しなくてはならないことは、自殺企図です。
(内因性)うつ病患者は励ましてはいけないということは広く知られていますが、まじめな性格の人がうつ病患者には多いため、休んで治療に専念することに抵抗を示す人も多いようです。
そのため、まずは休養とるよう促すことが大事です。
また、うつの症状は日内変動と呼び、朝方が一番辛く、夕方に向かって軽減していくという特徴を持っています。さらに、冬になり日照量が下がると共に症状が悪化するという1年単位でもある程度の症状の変化が起こります。
そのため、前もって症状が変化していくことをきちんと伝え、三寒四温のように厳しい冬を超えると過ごしやすく、症状も軽減していくというポジティブな見通しを伝えることが重要です。
また、そのような症状の変化に伴い、最も危険な自殺に関しても注意が必要です。
うつの症状が一番激しい時には自殺をする気力さえ失せてしまいます。最も危険なのは、回復してきた朝方や、子どもを学校に送り出し、夫も仕事へ向かった昼前などです。こうした時間帯には特に注意が必要でしょう。
うつ病の歴史
うつ病は非常に古くから注目を集めていた精神疾患です。
どのようにうつ病の捉え方が変化してきたのか、その歴史を追っていきましょう。
メランコリーの登場
古代ギリシャのヒポクラテスという医学者は精神疾患をメランコリー・マニー・パラノイアに分類を行いました。
これは現代でいう、うつ病・双極性障害・統合失調症にあたります。
これらの疾患は、精神障害の中でも治療が困難で、予後が非常に悪いということが知られており、この重篤な精神疾患を精神病と呼びます。
このうちメランコリーとはギリシア語のメランコリアという用語が語源であり、その当時、人間には主要な4つの体液が存在し、そのうちの一つである黒胆汁を過剰に分泌してしまう気質をメランコリアと呼んでいました。
この用語は、後の精神医学でもメランコリー親和型性格といううつ病に関連する性格特性を示す用語として用いられています。
メランコリーはマニーの一部か
そして、ヒポクラテスの提唱以降、これらの疾患は本当に分けられるのか、それとも同じものなのかという議論がなされていました。
例えば、ローマ時代にはメランコリーはマニーの一部であるという主張がなされます。
双極性障害という精神疾患はうつ状態と躁状態を繰り返すという特徴を持っているのですが、その症状が移り変わるスパンは人によってさまざまです。
そのため、メランコリーは本来であれば、その後躁状態へ移行するはずだが、その患者は繰り返すスパンがあまりにも長いため、マニーの症状がまだ表れていないだけと考えられていたのです。
単一精神病論の登場
その後、19世紀半ばになると単一精神病論という説が、ゼラーらによって唱えられます。
これは、精神病と呼ばれる特に病理の深い疾患は本当はただ一つであり、疾患の進行状況によって呈する症状が異なるために、まるで別の疾患のように見えると考える理論です。
そして、精神病は次のような過程を進むと考えました。
【単一精神病論】
- 第1期:うつ状態
- 第2期:躁状態
- 第3期:妄想症
- 第4期:認知症
そして、この4段階のうち、第3段階まで進むと予後が不良になるとされました。
これは現代の精神医学の分類では、第1段階がうつ病、第2段階が双極性障害、第3段階が統合失調症の陽性症状、第4段階が統合失調症の陰性症状、解体症状であると捉えることができます。
クレペリンによる二大精神病論
その後、現代に繋がる精神病の分類を唱えたのが精神医学の父、クレペリンです。
彼は、身体に器質的な異常がなく、心理的要因が原因とはいえない、内因性の精神病は大きく一度発症するとどんどん症状が進行し、最終的に認知症のような症状をきたすというものと、症状が改善したり、増悪するという症状の循環がみられるものに分けられると考え、次のような疾病分類を提唱しました。
- 早発性痴呆
- 循環病
早発性痴呆は、現代の統合失調症であり、これを若くにして認知症を発症するために起こるという風に考えていました。
そして、循環病は双極性障害にあたるものであり、クレペリンも双極性障害とうつ病は同一の疾患であると捉えていました。
単極性うつの独立
こうして、双極性障害とうつ病は同一の疾患であるという見方が強まっていった一方で、レオンハルトは抑うつ症状のみと躁うつ症状を繰り返す人がいることから、単極性と双極性の極性に基づく分類を提唱し、1966年には遺伝研究においてうつ病と双極性障害は別の疾患であるということが明らかにされ、どちらかと言えば統合失調症と双極性障害は共通する遺伝子異常があるとして近しい疾患とみなされています。
うつ病について学べる本
うつ病について学べる本をまとめました。
家族のためのうつ病 知っておきたい 声のかけ方、支え方 別冊NHKきょうの健康
こころの風邪ともいわれるうつ病ですが、様々な種類があり、人によって重篤度も様々です。
身近な人がうつにより苦しんでいる時こそ、ただの風邪だと過信せず正しい接し方を学ぶ必要があります。
そのため、ぜひ本書でうつを患った人への接し方について学びましょう。
ツレがうつになりまして。 (幻冬舎文庫)
映画化もされたうつのリアルが描かれている本書。
家族がうつ病になったとき、患者ももちろんのこと家族にも大きな負担がかかります。
あなたなら、うつになってしまった家族にどう接するでしょうか。
本書を読んで改めて考えてみましょう。
ストレス社会でのうつ
現代はストレス社会とも呼ばれるように、うつは非常に身近な存在となってしまいました。
しかし、一言でうつ病と言っても様々な病態があり、それによって治療法も異なってきます。
うつ病に関する知識を深め、正しい対応は何なのかを考えてみましょう。
【参考文献】
- 大野裕(2018)『うつ病の新しい考え方』総合健診 45(2), 359-365
- 笹野友寿・木村昌幹・櫛田寿量・野木渡・渡辺昌祐(1987)『神経症性うつ病の鑑別点』川崎医学会誌13(4), 366-371
- 岡村仁(2011)『うつ病のメカニズム』バイオメカニズム学会誌35(1), 3-8