子ども・大人のチック症とは?原因や対処法、トゥレット症候群について解説

2021-03-05

自分が思ってもいないのに、急に言葉を発してしまったり、身体が動いてしまう。そんなチック症やトゥレット症候群と呼ばれる疾患を患っている人は、自分をコントロールできない不全感や周囲から変な目で見られることに苦しんでいます。そこで、今回は子どもだけでなく大人にみられることもあるチックを取り上げ、その原因や対処法などについてご紹介していきます。

このサイトは心理学の知識をより多くの人に伝え、
日常に役立てていただくことを目指して運営しています。

Twitterでは更新情報などをお伝えしていますので、ぜひフォローしてご覧ください。
→Twitterのフォローはこちら 

チック症とは

チック症とは、本人の意思とは全くの無関係ながら、身体の動作が起こってしまう疾患のことを指します。

チック症の症状は大きく「運動性チック」と「音声性チック」の2つに分けることが出来ます。そして、それらはそれぞれ単純性・複雑性と2つに分けることが出来ます。

【運動性チック】

単純性:瞬き、肩をすくめる、顔をしかめる、首を急速に振るなど

複雑性:蹴る、ジャンプする、自分を叩く、倒れこむなど

【音声性チック】

単純性:咳ばらいをする、鼻を鳴らす、鼻をすする、「ん」と声を出す、唸るなど

複雑性:自分の言ったことを繰り返す(反復言語)、他人の言ったことを繰り返す(反響言語)、その場にそぐわないことを言う(汚言)

チック症は症状の出現前に「どうしてもその行為をしたい」という気持ちが強まり、実際に行うことでスッキリするという特徴があり、チック症状は心理的な緊張を放出するための運動であると広く認知されています。

また、チックは男女比の差がある疾患であることも有名で、圧倒的に男児のほうが多いとされています。

チック症の類型(暫定的チック症・持続性チック症・トゥレット症候群)

チック症はその症状の内容と持続期間によって、次の3類型に分類されます。

暫定的チック症持続期間が1年以内の運動チックまたは音声チック
持続性運動または音声チック症持続期間が1年以上の運動チックまたは音声チック
トゥレット症候群運動チックと音声チックの両方が1年以上持続してみられる

世界的にも著名な歌手であるビリー・アイリッシュは自身がトゥレット症候群であることを表明していますが、彼女には慢性的な運動チックと音声チックの症状がみられるということなのでしょう。

また、大人になってもチック症がみられるということは既に慢性化しているということを意味しており(チック症の発症は18歳以前)、持続性運動または音声チック症かトゥレット症候群のどちらかを発症しているということになります。

チック症の原因

チック症の原因は現在、特定されていません。しかし、次の要因が関わり合うことで発症すると考えられています。

心理的要因

チック症の大きな特徴として、強いストレスに晒されている際や疲労感、不安、緊張を抱えている場合などに悪化することが知られています。例えば、年度末の仕事で忙しい、受験を控えているなどの状況です。

生理学的・遺伝的要因

また、チックの基本的な原因は、生まれつきの脳の特徴にあると考えられています。

チックの治療には、ドーパミンと呼ばれる神経伝達物質の作用を制御する薬が有効であるという報告があります。つまり、脳の一部に何らかの異常があり、そのためにチック症状が現れるのです。

さらに、この脳の特徴は遺伝する可能性があります

例えば、トゥレット症候群では、家族や兄弟でも同様の疾患を抱えているものが多いという報告があり、チックになりやすい脳の特徴は遺伝しやすいのだと考えられています。

また、チックの発症が幼児期の終わりから学童期の間に見られやすいことを勘案すると、生まれつきチックになりやすいリスクを抱えた人が、発達の過程で脳の構造が変化したり、大きなストレスを受けることで、神経伝達物質の分泌のバランスが崩れてしまい発症すると考えることが出来るでしょう。

チック症の診断

チック症と診断と診断するためにはどのような基準があるのでしょうか。

子どもと大人のチック症の特徴

米国精神医学会が発行しているDSM(精神疾患の診断・統計マニュアル)において、チックは18歳以前に発症するものと明記されています。

また、チック症は就学前後(5歳から6歳)ごろの子どもに単純性運動チック(瞬きをする、肩をすくめるなど)がみられることが多く、そのほとんどが1年以内に症状が消失することが知られています。

しかし、1年以上症状が継続する、つまりチック症状が慢性化してしまった場合は、思春期に症状が最も激しく現れ、その後は大人になるにつれ症状が改善もしくは消失していくとされています。

診断を行ううえでの注意点

チック症は本人がコントロールできない行動(不随意運動)をとってしまうことが大きな特徴ですが、チックのような行動が見られたからといってそれをチック症だと決めつけてしまうことは危険です。

糸田(1995)は情緒的な問題によるチック症だと考えていた臨床例が違う疾患だったという事例を報告しています。

【クライエント情報】

小学校4年生男児

「時々、一瞬、全くわからないような言葉を言い、片目が引きつり、おどおどした感じで落ち着きがなくなる」

言葉の獲得が遅く、母親への依存が強い。カトリック系の幼稚園や家庭では厳しいしつけを受け、小学校ではいじめにあった。

これだけの情報を見ると、運動チックと音声チックの両方がみられるトゥレット症候群のようです。もともと脳の神経伝達物質の分泌に異常をきたしやすいリスクがあり、家庭や幼稚園、学校での強いストレスが引き金となって発症したと考えがちです。

糸田はこの例に対し、ロールシャッハ・テストとP-Fスタディ、バウムテストの結果と心理査定面接から、基本的なストレス耐性が不安定で、厳格なしつけや級友からのからかいなどの心理的ストレスによってチック症を発症したと考えていたようです。

そして、厳しいしつけをやめ、両親とともに屋外でのびのびとした体験(サイクリングやキャンプなど)をすることによってチックの誘因を減らすように保護者へ指導を行いました。

しかし、医学的な検査を行ったところ、頭部CTでチック様の筋肉運動を引き起こす脳腫瘍が発見され、即刻手術をすることになりました。脳腫瘍によってチック様の筋肉運動が起きているのならば、環境調整によって心理的なストレスを軽減しても症状に対する効果はないことが予想されます。

このように、診断が誤ってしまうと、それに基づいた援助の方針が望ましくないものとなってしまいます。

精神疾患を考えるうえでは、まず器質的な異常(脳腫瘍がある・副腎が悪いなど)、つまり外因性の疾患を疑い、それが除外できたうえで内因(原因不明だが、心理的ストレスによるものではない疾患)、心因(心理的ストレスが原因で発症する疾患)という順番でクライエントが何の疾患を患っているのかを考えていく必要があるのです。

チック症の対処法

それでは、チック症の対処法・治療にはどのようなものがあるのでしょうか。

心理療法

チックの症状の誘因や重症化の原因としては、先述したように心理的なストレスが挙げられます。そのため、カウンセリングなどによってできるだけ身体やこころのストレスを軽減させるような取り組みをすることが重要となります。

また、チック症はその症状自体に注意が向くとさらに悪化してしまうという特徴を持っています。そして、チックの多くは1年以内に症状が消失します。

そのため、クライエントやチックを不安に思っている保護者に対する心理教育を行い、家族がチックを過度に気にしてしまう環境を作らないよう援助することが有効でしょう。

薬物療法

チック症は脳の神経伝達物質であるドーパミンの分泌異常が原因であるとされます。そのため、薬物によってドーパミンの分泌を制御する治療を行うことがあります。

しかし、精神疾患の治療に用いられる薬物には副作用が大きいものも多く、なるべく服用は避けるべきです。

汚言が出るのが心配で会社に行けなくなってしまった、音声チックのため授業中に声が出てしまい授業の進行に支障をきたしているなど、あまりにも重篤なチック症状がみられ、社会適応が困難な場合などやむを得ないケースに対して処方されます

チック症の治療事例

神澤・尾崎(1996)は思春期前期のチック症男児に対する治療事例を紹介しています。

【クライエント情報】

12歳男児

小心者で、神経質。失敗を気にしやすい反面で明るく優しいところもある。

姉と妹のいる5人家族で、父親との交流は少なく、母親は口うるさく過干渉気味。姉と妹は口が達者で口論で蒔かされてしまうところがある。

幼稚園の発表会の前などに空咳やまばたきなどの運動チックが出現。小4に学校で禁止されている買い食いを友人から誘われ断れず首を横に振る不随意運動が始まる。

知能検査と家族画、バウムテストを実施したところ、IQは113とやや高めで、やや肥大した自意識を持ち、女性に対しては潜在的な怒りと攻撃してくる対象というイメージが見受けられ、家族の中での疎外感がうかがえるものでした。

そこで、家族間の葛藤の強さや感情表出の困難さに対し、母親の不安に対する援助と並行して、クライエントに対し、キャッチボールなどの遊戯療法と箱庭療法を実施しました。

その結果、遊びや箱庭の中で攻撃性をうかがわせる表現がみられていたものの、次第に他者とのルールに則ったゲームを楽しんだり、家族の中で居場所を見つけたような箱庭の表現へと変わっていきました。

神澤・尾崎(1996)はチック症状が心理的緊張を放出する運動であるという見解に基づき、抑圧された感情、特に怒りや攻撃性を表出させることはチックの治療に有効であり、本事例の遊びや箱庭の変化が、解放された怒りや攻撃性を本人なりにコントロールしていこうとする過程が表れたと考察しています。

チック症について学べる本

チック症について学べる本をまとめました。

チックとトゥレット症候群がよくわかる本 (健康ライブラリーイラスト版)

入門書としては詳しくチック症について解説してある本書は、文章とイラストが整理してあり、初学者でも非常に読みやすい1冊です。

まずはこの本を手に取り、チック症について学んでみるのはいかがでしょうか。

チックをする子にはわけがある―トゥレット症候群の正しい理解と対応のために (子育てと健康シリーズ)

チック症の子どもを持つ親の中にはチックについてインターネットなどで検索し、母親の性格や過干渉などが原因であると断定している誤った情報から自責的になってしまうパターンもあるようです。

そのような方にはぜひ、本書を手に取っていただき、チックは脳が原因であることを知ってもらいたいなと思います。

内容も分かりやすく、平易な表現を用いるよう工夫されているので、お知り合いのお父さん・お母さんに渡してあげるのも良いかもしれません。

チックに対する正しい理解をしましょう

授業中に急に言葉が出てきてしまったり、会議中に急に動いてしまったりなど、チックはその異様に見える行動から、周囲からどう見られているのか非常に不安になることもあるようです。

しかし、そのような不安はさらに症状を悪化させてしまい、悪循環へと陥ってしまうでしょう。

そのため、チックに対する正しい知識を持ち、チック症の人にも理解を示してあげる環境づくりが求められるのです。

参考文献

  • 東邦大学医療センター佐倉病院小児科『子どもによくみられる症状ーチック』
  • 糸田尚史(1995)『心理判断に誤謬のあった二例 : 心理学と医学の連携の必要性』現代行動科学会誌 (11), 17-22
  • 神澤創・尾崎孝子(1996)『思春期前期チック症男児の治療例』心身医学 36(8), 685-689

こちらもおすすめ

    • この記事を書いた人

    t8201f

    臨床心理士指定大学院に在学していました。専攻は臨床心理学で、心理検査やカウンセリング、心理学知識に関する情報発信を行っています。

    -精神障害

    © 2020-2021 Psycho Psycho