解離性同一性障害とは?実例と原因、症状・診断基準・治療法を解説

2022-01-25

映画やドラマなどで、多重人格の登場人物を見たことがある方も少なくないでしょう。

そのような、いわゆる多重人格は、心理臨床の現場で解離性同一性障害と呼ばれています。

それでは解離性同一性障害とはいったいどのような精神障害なのでしょうか。解離性同一性障害の実例や原因、症状、診断基準に加えて、治療法と接し方をご紹介します。

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解離性同一性障害とは

解離性同一性障害とは、解離性障害と呼ばれる障害群の1つであり、2つ以上の異なる人格が存在し、それらが入れ替わり出現し、個人の行動を支配する精神障害です。

この人格間で記憶の共有は行われていないため、ある人格へ交代した際には、元の人格が行っていたことや言ったことなどは覚えられていないことが多いようです。

解離性同一性障害は、英語でDissociative Identity Disorderと記載されており、その頭文字をとってDIDと呼ばれることも多いです。

解離とは

解離性同一性障害は、解離と呼ばれるこころの働きが病的に作用することによって引き起こされると考えられています。

解離とは、自分にとって不快な体験が生じた際に、それを意識から切り離すというこころの防衛です。

例えば、クレームを受けたときに頭が真っ白になってしまい、相手が言っていたことを一時的に記憶できなかったという体験がある方もいらっしゃるかもしれません。

解離は私たちの日常においても起こりうるものです。

上記の例では、クレームという非常に不快な体験をしているときに、相手に対して抱く恐怖や怒りなどの感情、耳から聞こえてくる音声情報の知覚、出来事に関する記憶などを意識から切り離してしまうという対処が行われていると考えることができます。

このように、解離は本来人格の下でまとめ上げられているはずの知覚や思考、感情、記憶などのこころの諸機能を切り離すことによって不快な状況から自らのこころを守ろうとする働きなのです。

そしてあまりにもショッキングな出来事から身を守ろうと解離が激しくなると、解離性障害と呼ばれる社会不適応を引きおこす精神障害へと発展するのです。

解離性同一性障害の歴史

解離性同一性障害の前身である多重人格という現象は、18世紀ごろから記録が残っているように、古くから知られている精神症状です。しかし、その出現率は低く、非常にまれなものであるとされてきました。

心理学において、初めて解離という概念を提唱したのはジャネ,Pという精神科医です。

その当時流行っていたヒステリーという精神疾患(解離性障害と身体表現性障害を含んだ精神障害)の原因として、外傷体験によって生じるトラウマ性の記憶による苦痛から逃れるために生じる解離を想定していました。

これに対し、精神分析の創始者であるフロイト,Sは、幼児期における性的な外傷体験、特に近親相姦的願望などの空想的な外傷体験が原因であり、それに対して抑圧を行うためにヒステリーが生じると考えていました。

その後、一時期はヒステリーと解離に関する注目は薄れていきました。

しかし、第一次世界大戦というトラウマ体験を生き抜いた軍人の戦争神経症や児童虐待の問題が社会的な注目を集めたことで、再び外傷体験と結びつきの深い解離性障害に注目が集まるようになります。

1980年、米国精神医学会による精神障害の診断と統計マニュアルであるDSM-Ⅲに解離性障害という疾病単位が記載され、その中で多重人格障害という下位分類が示されたことにより、1990年代にはその診断数が爆発的に増加しました。

DSM-Ⅳによって多重人格障害は解離性同一性障害へと呼称が変更され、現在に至ります。

解離性同一性障害の原因

解離性同一性障害は、心理的な要因により発症すると考えられている心因性の精神障害です。

古くから指摘がなされているように、本人が認めがたいようなトラウマティックな外傷体験と深い関係があることが指摘されています。

主な解離性同一性障害の発症要因としては次のようなものが指摘されています。

【解離性同一性障害の発現因】

  • 妻の不貞
  • 被虐待虐待
  • 家庭内暴力の目撃
  • 環境の急激な変化
  • 性被害
  • 親しい人の死の目撃
  • 長時間労働
  • 両親の不仲、離婚

解離性同一性障害の形成プロセス

しかし、上記のような外傷体験を経験したからと言って、すべての人が解離性同一性障害を発症するわけではありません。

そのため、解離性障害の発症に関わるモデルとしては、次のような4つの要因が関わると考えられています。

【4要因説】

  1. (病的)解離する素質や能力を持つこと
  2. 幼児期ないしは児童期初期に一般的な防衛手段では対処できないような圧倒的な外傷体験に曝されること
  3. 解離した内容が、発達的、家族的社会的に形成されてパーソナリティと結びつくこと
  4. 外傷体験から回復するための経験や状況が欠如していること

これらをまとめると、幼い頃に外傷的な体験をしたにも関わらず、それをサポートできるような社会的資源にも恵まれなかったため、解離という対処法を常習するパーソナリティが身につくような素質を持っている人が解離性同一性障害に陥りやすいと考えられます。

これらの要因は、外傷体験というストレス要因と、サポートが得られず、歪んだパーソナリティを形成するという愛着関係の問題を抱えていると言い換えることもできます。

ほかにも解離性同一性障害発症に関わるモデルは存在しますが、いずれのモデルにおいても、解離をしやすい脆弱性や外傷体験の結果として解離が引き起こされ、それが常習化することによって、やがて病理的な解離へと発達するというプロセスを呈示しています。

解離性同一性障害の症状

解離性同一性障害で最も特徴的なのは明確に区別できる複数の人格が同一人に存在し、それらの複数の人格が交代して本人の行動を支配することです。

そして、人格間で記憶の共有は行われておらず、人格が交代した際に前の人格が行った言動を全く覚えていないという解離性健忘も生じます。

中には、人格同士が会話をしていたり、自分の行動に関して他の人格が指摘をするなどの幻聴が聞こえるケースもあるようです。

臨床例では、全くの人格間の情報の共有が断絶されているような重症例は少なく、同一性の混乱を自覚しており、日常的な記憶には問題が無いため、おかしいとは思いつつもそれが疾患であると気づかずに過ごしていたという人も少なくありません。

本人の主人格の他には、甘えられたりや渇望するもの、強さや自由奔放さを代理とした人格がみられるケースが多く、幼児や異性などの人格が生じることもよくあるそうです。

【解離性同一性障害における主な交代人格】

  • 子ども人格
  • 迫害者人格
  • 自殺者人格
  • 保護者及び救済者人格
  • 記録人格
  • 異性人格
  • 性的放縦人格
  • 管理者人格および強迫者人格
  • 薬物乱用者、自閉的人格および身体障碍のある人格
  • 特殊な才能や技術を持つ人格
  • 無感覚的あるいは無痛覚的人格
  • 模倣者および詐欺師
  • 悪魔と精霊

解離性同一性障害の鑑別診断の重要性

解離性同一性障害は他人格による幻聴が聞こえるという場合があります。この際に鑑別診断を行わなければならないのが、統合失調症のような精神病です。

精神病症状では幻聴や幻覚といった症状が特徴的であり、これらとの鑑別を行うことは治療方針を確定するうえで非常に重要です。

解離性同一性障害の鑑別診断を行ううえで非常に重要となるのは、幻聴の話し手の存在です。

精神病症状の幻聴の大きな特徴として、「自分の悪口を言っている声が聞こえる」という幻聴を誰が話しているのかは定かではないというものがあります。

これに対し、解離性同一性障害の幻聴は他の人格が話しているという特徴がある点で大きな違いがあるでしょう。

また、解離性の幻聴には「内容が多彩であること」、「意味内容が比較的明確であること」、「出現が幼少期まで遡ることができること」などが挙げられます。

心理臨床の現場でも統合失調症と解離性同一性障害の誤診は多くあるようなので、しっかりとした鑑別診断が求められます。

解離性同一性障害の治療法と接し方

解離性同一性障害は心因性の精神障害であるため、基本的に心理療法によって治療が行われます。

睡眠障害や抑うつなど2次的な症状がみられた場合は、補助的に薬を処方することもあるようですが、解離性同一性障害そのものを治す薬はないため、あくまで補助的なものであるということを覚えておきましょう。

解離性同一性障害の治療において最も慎重になるのは治療目標です。

解離性同一性障害はその人格がバラバラで統合されていないことにより症状を引き起こすものですが、人格間を統合することを伝えてしまうと、患者にとっては一部の人格を消失させるというニュアンスで捉えられかねません。

そのため、必ずしも全ての人格の共存が保証されるわけではないが、バラバラになってしまっている人格を調和させることを目標とするようにしましょう。

解離性同一性障害の多くは大きなストレスのない保護的な環境下に置かれることで自然治癒に近い経過をたどることも少なくありません。

そのため、まずは安心感を得られるような接し方、例えば、「ここに来るまでに大変でしたね」という温かな気持ちを示し信頼関係を気づきながら、主要な人格が解離以外の対処法を確保できるよう促し、家族とのつながりなどもサポートをしていくことが重要です。

解離性同一性障害の実例

それでは実際の解離性同一性障害はどのような様相を呈するのでしょうか。

細澤(2001)は解離性同一性障害の実例に対し、精神療法を行った事例を論文で発表しています。

【事例概要】

初診時16歳女性

中学生の時より男性教師との関係が悪化し、攻撃行動、成績の低下、不登校が生じ、それに伴って解離症状が出現。

中学3年時には精神科を受診しDIDの診断を受けるも、1年ほどで治療を放棄。

高校入学後も不登校、解離症状、アルコール・薬物乱用、リストカットなどの問題行動が起こり結局高校を中退。

解離性遁走を起こし、警察に保護されることで治療者の務める病院へつながる

治療開始時の方針としては、自傷行為など入院の必要性があったため、安全な環境下での休養や薬物療法により、急性解離状態を脱することを目標としていました。

しかし、入院初日にリストカットを行い、翌日の面接では粗暴な交代人格が現れ、リストカットについては覚えていないと語られます。

そのほかにも、治療者に対し良い感情を持つ交代人格は甘えてきて、依存的な要求をしてきたり、抑うつ的な交代人格は自傷行為を繰り返すなど、はっきりと独立した人格が交代で出現するというまさに解離性同一性障害の症状を呈していたそうです。

そして、治療が進むと、主人格や他の人格は影を潜め、明るく積極的な交代人格が出てくる時間が増え、治療者に対し心を許したいがうまくいかないアンビバレンスが語られます。

しかし、主人格が中年男性と不倫関係にあることを伝え、治療者と情緒的に接近すると再び行動化を起こすなど、治療は困難を極めましたが、そのような行動化にも耐えることでクライエントは次第に治療者を信用できるようになり、症状が消失していったとされます。

解離性同一性障害は、解離性健忘など様々な症状を引き起こし、場合によっては暴言や暴力、脱走などの激しい行動化が生じることもありますが、そのような事態にも動じず、クライエント受け止めることによって信頼関係が構築されます。

そして、外傷体験という辛い出来事から立ち直るためのこころのよりどころを作ることで、解離以外にも辛い出来事に対処する方法を手にすることができるのです。

解離性同一性障害について学べる本

解離性同一性障害について学べる本をまとめました。

心の解離構造―解離性同一性障害の理解と治療

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金剛出版
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解離性同一性障害の治療においてまず重要となるのが、相手を理解することです。

外傷体験という過酷な人生経験をしているからこそ、多重人格という異質な症状が現れているということを理解し、温かく迎えなければ相手はより防衛を強めてしまうでしょう。

ぜひ本書で解離性同一性障害についての理解を深めましょう。

多重人格が分かる本。解離性同一性障害(多重人格)は本当に存在するのか?虐待との関係、原因、治療方法。10分で読めるシリーズ

解離性同一性障害は非常に難解な精神障害であり、そのすべてを理解しようとすると非常に骨が折れるでしょう。

そのようなときには10分で読める本書で解離性同一性障害の概要について押さえておくと、その後の学習がスムーズに進むかもしれません。

これから解離性同一性障害について一から学ぼうとする方に手に取って頂きたい一冊です。

自分をコントロールできていないという不安感

解離性同一性障害の患者さんは異質な症状を示し、映画などでは犯罪の加害者として描かれることも多いため、偏見などの2次被害が懸念されます。

しかし、人格が交代した際に自分がしたことを覚えていないというコントロール不全から生じる不安は大きく、まずはその不安感を理解しなければならないでしょう。

そうして、苦しみを適切に理解し、安心できる環境を作ることが治療の第一歩となるはずです。

ぜひ解離性同一性障害についてこれからも学びを深めましょう。

【参考文献】

  •  内堀麻衣(2017)『解離性同一性障害における内的世界の構造と場所の機能』東京女子大学紀要論集 68(1), 219-232
  • 若林明雄(1998)『'解離性同一性障害(多重人格障害)'の精神病理学的・認知心理学的検討 : 心因性記憶障害としての多重人格症状』性格心理学研究 6(2), 122-137
  • 池田龍也・岡本祐子(2013)『解離と外傷体験の関連性に関する動向と展望 : 解離の発現因をめぐって』広島大学大学院教育学研究科紀要. 第三部, 教育人間科学関連領域(62), 125-134
  • 細澤仁(2003)『解離性同一性障害の精神療法 : 終結3症例を通して(VI.原著論文)』神戸大学保健管理センター年報 (23), 73-82
  • American Psychiatric Association(高橋三郎・大野裕監訳)(2014)『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』医学書院

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    臨床心理士指定大学院に在学していました。専攻は臨床心理学で、心理検査やカウンセリング、心理学知識に関する情報発信を行っています。

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