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PTSDに有効な治療法EMDRとは?そのやり方や効果、ADHDへの適用や副作用を解説

命の危険を感じる体験はこころに傷を残し、PTSDと呼ばれる精神疾患にまで発展すると、後の生活に大きな影響を与えるとされます。そのPTSDに対する有効といわれる治療法の一つがEMDRです。今回はEMDRのやり方と効果、副作用に加えて、ADHDや子供への適用、主要な学会などにも触れていきます。

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EMDRとは

EMDRとは、シャピロ,Fによって開発された心理療法です。

日本語では眼球運動による脱感作と再処理法とも呼ばれ、Eye Movement Desensitization and Reprocessingの頭文字をとった略称です。

EMDRはPTSDと呼ばれる精神障害に有効な治療法であるとされています。

PTSDとは

PTSDとはPost Traumatic Stress Disorderの略で、心的外傷後ストレス障害とも呼ばれます。

この障害では命の危険を感じるような危機的状況、つまりトラウマ体験後に起こる心的な反応によって重篤な社会不適応を引き起こします。

トラウマ体験となりうる出来事としては次のようなものが挙げられます。

  • 地震などの自然災害
  • 暴力
  • 深刻な性被害
  • 重度事故
  • 戦争体験
  • 虐待

これらの出来事を直接体験するほかにも、出来事に他人が巻き込まれているのを目撃したり、家族や親しい人物が巻き込まれたことを知ることなどもトラウマ体験になり得ます

また、PTSDの主な症状には次のようなものがあります。

  • 侵入症状
  • 回避症状
  • 認知と気分の陰性の変化
  • 覚醒度と反応性の変化

トラウマの分類

トラウマは

・自己や災害など1回の出来事で完結するもの

・虐待や監禁などの長期にわたり繰り返し起きるもの

の2つに分けることが出来ます。

前者は単回性トラウマ、後者を複雑性トラウマと呼び、複雑性トラウマによってさらに重篤な複雑性PTSDが引き起こされる可能性があるのです。

そして、EMDRは特に単回性トラウマに対して有効であるとされます。

EMDRのやり方

EMDRは脳に本来備わっている情報処理能力ためにトラウマ記憶を想起しながら、眼球を動かすという方法をとります。

一見すると、専門家でなくても真似が出来そうに見えるのですが、実際にはトラウマ記憶というショックの強いものへ向き合うことを強いる治療法なので、専門家の下で実施しなければ非常に危険です

EMDRの流れ

実際のEMDRは次のような流れで実施されます。

1. 評価

まずはクライエントのトラウマ記憶がどのようなものか、感情や身体の反応はどのようになっているか、クライエント自身はその記憶をどのように捉えているのかなどを評価します。

2. 脱感作

クライエントをリラックスした状態で椅子に座らせ、トラウマとなった体験を想起させます。

それを確認したらクライエントの前で指を左右に振り、クライエントはその指を追うように見つめます。

20回ほど往復し終えたら、クライエントに今感じていることや浮かんでくるイメージを聞き、不安や恐怖などの苦痛がない状態でトラウマ記憶を想起できるようにします。

3. 再処理

ここで日常における物事の望ましい捉え方について話していきます。トラウマ記憶に悩まされている人はその症状により認知が歪んでおり、自己の価値も低いものとして捉えがちなため、それを修正するよう働きかけます。

4. 確認

一通りセッションが済んだ後には、クライエント自身に振り返ってもらい、残っている違和感がないかを確認していきます。

ADHDに対するEMDR

不注意や衝動性、落ち着きのなさを特徴とする発達障害のADHD患者は、その特徴から虐待やいじめなどのトラウマを抱えるリスクが高いことが指摘されています。

しかし、ADHD患者は注意の向け替えや同時に複数の対象に注意を向け続けることが困難な場合があるため、EMDRにおいて指を目で追っていく両側性刺激とトラウマ記憶の両方に注意を向け続けるのが難しい可能性があります。

EMDRを行う際はそうした点に留意しつつ進めていく必要があり、実施が難しい場合には別の治療法も検討されます。

子どもに対するEMDR

成人に比べ子どもへのEMDRの適用や効果に関する報告は少ないものの、EMDRの創始者であるシャピロによれば、安心できる空間づくりのため、次のような工夫が効果的であると指摘しています。

  • 1セッション当たりの時間を45分程度にすること
  • 箱庭や描画など他の治療技法も織り交ぜること
  • 眼球運動の際に指人形やおもちゃを使用すること
  • 子ども言葉を使って接すること

EMDRの作用機序と効果

トラウマ記憶を想起しながら眼球を動かすという手続きは、なぜ有効なのでしょうか?

その理由としては、トラウマ記憶を思い出すと同時に眼球運動に対しても注意を向ける必要があり、注意が分散されるためであると考えられています。

適応的情報処理モデル

また、EMDRに関する作用機序に言及した代表的な理論として適応的情報処理モデルが挙げられます。

トラウマに遭遇すると脳は不安定な状態になり、情報処理を適切に行うことが出来なくなるためトラウマティックな出来事に関する情報が、生々しくリアルな状態で記憶されます。

そこで、眼球運動により混乱したままの情報に対する処理が急速に促されるためPTSDの症状が消失するというのです。

実際に志和ら(2004)の研究では、EMDRを実施すると主観的な苦痛(SUDS)だけでなく、主観的な情動や情報処理に深く関わる脳波(P3振幅)の振幅も低下することが示されています。

EMDRの副作用と注意点

トラウマに対する治療には、大きな負担がかかるとされています。

その理由としては、トラウマ記憶という本来向き合うことのできない記憶に触れ、それに慣れていくことで現在置かれている状況が安全であると学習する過程を含んでいるためです。

そこで、EMDRでもクライエントが安全と感じる場所をイメージするということがプロトコルの1つとして組み込まれています。

しかし、ケースによっては安全な場所を想起できなかったり、安全な場所のイメージが否定的なイメージと結びつきクライエントの精神的な苦痛を助長してしまう可能性すらあります。

そのため、EMDRは個人で行うことはせず、専門家のもとで安全に行う必要があるのです。

EMDRの学会

EMDRの主要な学会といえば、日本EMDR学会が挙げられます。

1996年に開設されたこの学会は、、EMDRの臨床実践や研究に関する情報交換、治療を求めるクライエントをリファーし合える体制作り、さらに日本におけるEMDRの健全な発展のための組織作り、災害時などにボランティアを派遣できる体制作りを目的としています。

定期的な学術大会や学術誌の刊行のほか、一定の訓練を受けた会員に対し、「日本EMDR学会認定EMDR臨床家資格」や「日本EMDR学会認定コンサルタント資格」といったEMDRの専門家及び指導者の資格制度を設けています。

会員には臨床心理士や医師が多く加入しているようで、会員になるためには医師や公認心理士(当面の間は臨床心理士も可)など一定の臨床経験のある立場の人が、特定のトレーニングを受けて初めて入会が認められます。

これはEMDRが専門的な技術を要する治療であるためで、学会に入るためにもEMDRの勉強を頑張りましょう。

EMDR以外のPTSDに対する有効な治療法

EMDRのほかにもPTSDに対する有効な治療法の一つとして、持続エクスポージャー法(PE)と呼ばれる手法があります。

これは現実エクスポージャーと想像エクスポージャーと呼ばれる2段階を経てトラウマ記憶に触れていく手法ですが、EMDRのように注意を分散させる過程が入りません。

そのため、PEに比べEMDRはクライエントに負担が少ない手法であると言えるでしょう。

しかし、EMDRは複雑性トラウマに治療効果の見込みは少ないとされているため、PEとEMDRのどちらを採用するのかはクライエントの状態像をしっかりと見極まるよう心がけましょう。

EMDRについて学べる本

EMDRについて学ぶことのできる本をまとめました。

EMDR標準プロトコル実践ガイドブック: 臨床家、スーパーバイザー、コンサルタントのために

EMDRの手続きは非常にシンプルかのように見えますが、トラウマ記憶を扱う治療法であるがゆえにクライエントが安全にトラウマ記憶を想起できるよう見極めなければならず、熟練が求められます。

この本では、EMDRに関する実践的な内容が紹介されています。EMDRがどのような流れで実施されるのかを事前に知っておくことに加え、ロールプレイなどで技術を磨きましょう。

新時代のやさしいトラウマ治療――NLP、マインドフルネス・トレーニング、EFT、EMDR、動作法への招待 (東洋英和女学院大学社会科学研究叢書 4)

トラウマに対するアプローチは数多く開発されていますが、1つの治療法のみで全てのトラウマに対処できるというものはありません。そのため、EMDRに加え様々なアプローチがあることを学ぶのは非常に有用です。

この本では、EMDR以外にもPTSDに有効とされる治療法が紹介されているため、トラウマ治療について包括的に学びたいという方におすすめです。

トラウマティックな記憶と向き合うこと

トラウマ記憶の最も困るところは、安全な状況にいている場合でさえ、また命の危険があるのではないかと誤った危機感に苛まれる点でしょう。

そのため、トラウマ記憶に向き合い、あれは過去のことだったと改めて認識し直すことで過去を清算する必要があるのです。

今回ご紹介したEMDRのほかにもPTSDに有効な治療法がありますので、様々なアプローチを知って学びを深めていきましょう。

参考文献

  • 市井雅哉(2012)『EMDR : PTSDに効果的な心理療法(社会を動かすサイコセラピーの力,2011年,第52回日本心身医学会総会ならびに学術講演会(横浜))』心身医学 52(9), 819-827
  • 山内美穂(2018)『子どもへのEMDR 適用についての展望』学校危機とメンタルケア (10), 42-51
  • 小川和代・松本真理子(2017)『子どもに対するEMDR 適用に関する文献的考察』児童青年精神医学とその近接領域 58(3), 409-423
  • 日本EMDR学会『EMDRとは
  • 志和資郎・松田俊・佐々木実(2004)『EMDRは不快な記憶を脱感作できるのか? : ERPによる実証的研究(原著)』行動療法研究 30(2), 75-86

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    臨床心理士指定大学院に在学していました。専攻は臨床心理学で、心理検査やカウンセリング、心理学知識に関する情報発信を行っています。

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