ASD(急性ストレス障害)とは?PTSDとの違いや原因・症状・診断基準と治療法を解説

2022-01-29

命の危機を感じるようなトラウマティックな経験をすると、身体だけではなくこころにも傷を負うことがあります。そしてそのようなこころの傷によって発症するのがASD(急性ストレス障害)です。

それでは、ASDとはいったいどのような精神障害なのでしょうか。その原因や症状と診断基準、治療法、PTSDとの違いなどについてご紹介します

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ASD(急性ストレス障害)とは

急性ストレス障害とも呼ばれる、Acute Steress Disorderは、頭文字を取ってASDと表現される精神障害です。

ASDは、トラウマティックな出来事に遭遇することで、強いストレスに曝され、多彩な症状を呈するという特徴を持っています。

ASDの原因

ASDの原因は生命の危機を感じたり、人としての尊厳が損なわれるような体験を経験するもしくは目撃することが原因で起こります。

このような体験のことを心的外傷体験もしくはトラウマ体験と呼びます。

トラウマはギリシャ語で身体の傷を意味する「τραύμα」が語源となっており、ドイツ語の「Trauma」が精神的な傷であるという意味ではじめて用いたのは、精神分析の創始者であるフロイト,Sです。

日本においては心的外傷や外傷体験、カタカナでトラウマなどと表現されるもので、トラウマとなりうる体験としては次のようなものが挙げられます。

【トラウマ体験の例】

  • 児童虐待
  • 強姦
  • 戦争
  • 犯罪や事故
  • いじめ
  • 暴力
  • DVの目撃
  • 大規模な自然災害

それではトラウマに曝されると私たちはどのような反応を起こすのでしょうか。

生物学的には青斑核という脳部位から大量のノルアドレナリンと呼ばれる神経伝達物質が放出され、過覚醒状態に陥ります。

このような状態だと、新しく記憶を生成する脳部位である海馬が過度に活性化され、その時に強く感じた感情と共に断片化された記憶が焼き付けられると考えられています。

こうして作られた記憶のことをトラウマ記憶と呼び、この記憶によってASDの様々な症状が現れるのです。

ASDの歴史

心的外傷体験を巡る研究は19世紀から19世紀にかけて行われたジャネ,Pとフロイト,Sが行ったヒステリー研究にまで遡ることができます。

ジャネによるヒステリー研究とトラウマ

ジャネはヒステリー(のちの解離性障害および転換性障害)の原因の多くは、幼少期に受けた心的外傷であるとして、心理臨床の現場でトラウマの存在が脚光を浴びました。

そして、そのような心的外傷を自身から切り離そうとする防衛機制として解離が働くことにより、ヒステリーが生じると主張しました。

フロイトによるヒステリー研究とトラウマ

フロイトも最初はヒステリーの原因は幼少期の性的虐待であり、その出来事によって生じる心的外傷がヒステリーを生み出すという誘惑説を捉えました。

しかし、その後フロイトは、精神分析的治療における自由連想法の中で患者の語る性的虐待の体験は患者の空想であるとして空想説を唱え、誘惑説を取り下げました。

これにより、ヒステリーの原因である外傷体験はあくまで患者のファンタジーであり、実際には存在しないという見方がなされるようになり、心理臨床の現場においてトラウマに対する関心は薄れていきました。

トラウマへの再注目

その後、改めてトラウマに脚光が当たるようになったのは、1910年代の第一次世界大戦、1930年代から1940年代後半にかけての第二次世界大戦、そして1960年代のベトナム戦争からの帰還兵の存在でした。

当時、戦争からの帰還兵は、戦地での記憶に悩まされ、社会復帰が困難となる戦争神経症と呼ばれた症状に悩まされており、深刻な社会問題となっていました。

そこで、戦争神経症を下地としたトラウマ研究に再び注目が集まり、1980年に米国精神医学会が発行したDSM-Ⅲではじめて、トラウマ体験による精神障害として不安障害群の中で分類がなされます。

その後第4版であるDSM-Ⅳにおいて、PTSDとASDという新しい臨床単位として採用され、現在用いられているDSM-5では不安障害群から独立し、「心的外傷およびストレス因関連障害群」という新しいカテゴリーにおける精神障害であるという位置を確立しています。

PTSDとASDの違い

PTSDとASDは同じくトラウマ体験を起因とする精神障害であり、同様の症状を示すため、混同しがちでしょう。

これらの違いは、症状の持続期間にあります。

【症状の持続期間】

PTSD:トラウマ体験への曝露後、3日後から1か月以内に発症し、トラウマ症状が1か月以上持続する。

ASD:トラウマ体験への曝露後、3日後から1か月以内に発症し、1か月以内で回復する

PTSDの診断基準の都合上、1ヵ月以上症状が持続しなければなりません。

そのため、トラウマ体験への曝露後、トラウマ症状を呈したらまずはASDと診断され、その中で症状が1か月以上持続するものはPTSDへ診断名が変更されます。

なお、ASDと診断された人の約80%は症状が慢性化し、PTSDへと発展するという報告もあり、ASDのまま自然回復するというケースばかりではないため、トラウマ体験をした人に対して早期介入が重視されています。

ASDの症状と診断基準

DSM-5において、次のような症状を示した場合はASDであるという診断基準を示しています。

DSM-5によるASDの診断基準

A.実際にまたは危うく死ぬ、重傷を負う、性的暴力を受ける出来事への、以下のいずれか1つ以上の形による暴露:

  1. 心的外傷的出来事を直接体験する。
  2. 他人に起こった出来事を直に目撃する。
  3. 近親者または親しい友人に起こった出来事を耳にする。
  4. 心的外傷的出来事の強い不快感をいだく細部に、繰り返しまたは極端に暴露される体験をする。

B.心的外傷的出来事の後に発現または悪化している、侵入症状、陰性気分、解離症状、回避症状、覚醒症状の5領域のいずれかの、以下の症状のうち9つ以上の存在

  • 侵入症状
  • 陰性気分
  • 解離症症状
  • 回避症状
  • 覚醒症状

C.障害の持続は、心的外傷への暴露後に3日~1か月

D.その障害は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている

参考:American Psychiatric Association(高橋三郎・大野裕監訳)(2014)『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』医学書院

ASDの症状

Bの診断基準で示されている各症状の詳細は次のようになっています。

【侵入症状】

トラウマ体験に関連した記憶がフラッシュバックしたり、悪夢にうなされるなど、自分の意思とは無関係にトラウマ記憶が繰り返し侵入してくる症状。思い出したときにはまるで、その場にいたかのように気持ちが動揺したり、動悸や発汗などの身体症状が生じます。

【陰性気分】

幸福感や満足感、愛情が減退し、恐怖感や怒り、罪悪感などネガティブな感情に支配されて状態が続くこと

【解離症状】

トラウマ体験に関する重大な記憶が抜け落ちてしまったり(解離性健忘)、自分自身の感覚がなくなり、現実感が薄れたり、まるで自分を外から眺めているような感覚に陥る(離人症状)こと

【回避症状】

トラウマ記憶を想起させるきっかけとなるような刺激(思考・感情・会話・場所・人物)などを避けること

【覚醒症状】

イライラが止まらなくなったり、眠れなくなる、集中困難、警戒心が強くなる、過剰に驚いてしまうなどの覚醒状態が持続していること

ASDの治療法

多くはPTSDへと発展してしまうおそれがあるように、ASDの治療においては早期介入が非常に重要視されています。

特に、ASDはトラウマ体験への曝露後すぐのため、症状の変化が著しく診断困難となるケースも多いため、まずは安全な環境サポートの存在を示すことによる安心の提供を行うことが求められます。

中には眠ることに対する恐怖があるため、その点へ配慮する必要はありますが、睡眠薬や抗不安薬は依存を引き起こす可能性もあるので、必要に応じて提供を行いましょう。

災害現場などでトラウマへの初期対応を行う場合は、支援者も死体の目撃などトラウマ体験への曝露や過剰労働により疲弊しがちです。

そのため、支援者のこころの健康にも留意し、業務内容を分担する、ローテーションで対応する、自らの体験を吐き出す場を用意するなどの環境確保が重要です。

ASDは暫定的なPTSDの診断名ということもあり、発症メカニズムも同様なため、基本的にはPTSDと同様の治療法が有効です。

しかし、PTSDへの治療法は、クライエントへの心理的負荷が高く、長期間を要するものも多いため、災害現場など、十分に安心できる環境を確保することが難しく、短期間で介入を行う場合などには次のような心理療法が望ましいでしょう。

EMDR

EMDRはEye Movement Desensitization and Reprocessingの頭文字を取った治療法で、眼球運動による脱感作と再処理法とも呼ばれます。

この治療法は、次のような手続きで行われます。

  1. まず中心となる最も怖い場面を思い浮かべてもらい、そこで生じる否定的な認知を明らかにします。
  2. その場面をもう一度思い浮かべ、今度は自分に関してこうだと思えれば良いなと望ましい認知を聞き、現時点でそれをどの程度信じられそうかを確かめます。
  3. 再度、怖い場面を思い浮かべ、その時の不快な感情の強さ(SUDs)を数値化して捉えます。
  4. 恐ろしい場面に注意を集中させておきながら、クライエントから30㎝ほど離れた位置で指を40~50㎝程の幅で1秒に2往復程度の速さで動かします(この時治療者がクライエントの目の前に来ると指の動きに集中できないため、左右どちらかにずれるようにしましょう)。
  5. 20~30往復程度を1セットとし、終わったら一度、思い出したイメージを消し、深呼吸をさせます。これらを繰り返し、SUDsの数値が下がるまで繰り返します。

ASDについて学べる本

ASDについて学べる本をまとめました。

赤ずきんとオオカミのトラウマ・ケア: 自分を愛する力を取り戻す〔心理教育〕の本

性被害などの場面では、現代でもなぜ抵抗しなかったのか?自分から誘ったのではないか?など被害者に対する偏見・誤解がなされるケースもあるようです。

しかし、トラウマというものが人間にどのような反応を引き起こすのかをしっかりと理解しておけばそのような誤解は生まれないはずです。

童話の赤ずきんちゃんを元としてわかりやすくトラウマとは何かを解説している本書は、トラウマを学ぶ第1歩としておすすめです。

不安症群,強迫症および関連症群,心的外傷およびストレス因関連障害群,解離症群,身体症状症および関連症群 (DSM-5を読み解く─伝統的精神病理, DSM-IV, ICD-10をふまえた新時代の精神科診断)

ASDもトラウマ体験から強い不安を抱くケースが大半で、以前は不安障害の1つとして考えられていました。

しかし、現在は心的外傷およびストレス因関連障害群」へと分かれそれぞれ大分類となっています。

この疾患概念変更の経緯を明らかにし、新たに整理された疾患分類の臨床での活用のための注意点やポイントを解説する本書で、ASDの概念理解を深めましょう。

トラウマに曝された人の尊厳

過酷な体験をした人には、つい優しくしなくてはと思いがちですが、それを直接的に表現することは果たして正しいのでしょうか。

ASDやPTSDの中核となるトラウマ記憶は恐ろしい体験の中で自分が何もできない無力な存在だったという感覚が含まれており、本人が望んでいないのも関わらず無理に手を差し伸べることは本人の無力感を助長しかねません。

ASDが慢性化し、PTSDへと移行しないためにまずするべきは、困っていることが無いかと優しく声をかけ、何か困ったことがあったらいつでも言っていいんだという安心感を与えることです。

このように、ASD患者の尊厳を大切にしながら、その時にできる適切な対応とは何かを改めて考えていきましょう。

【参考文献】

  • 金吉晴(2003)『心的トラウマと精神医学』医療 57(4), 231-236
  • 池田龍也・岡本祐子・森田修平(2013)『トラウマと心の傷に関する研究の動向と展望 : 何が人を傷つけ苦しめるのか』広島大学心理学研究 (13), 91-105
  • 久留一郎・餅原尚子(1995)『外傷後ストレス障害(PTSD)に関する治療心理学的研究--極度のいじめの事例を通して』鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編(47), 121-141
  • American Psychiatric Association(高橋三郎・大野裕監訳)(2014)『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』医学書院

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    臨床心理士指定大学院に在学していました。専攻は臨床心理学で、心理検査やカウンセリング、心理学知識に関する情報発信を行っています。

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