依存性パーソナリティ障害とは?原因や特徴、症状と診断基準を解説

2022-02-25

薬物依存やインターネット依存など、「依存」という言葉が付随する用語にはネガティブなイメージがついて回ります。そして、対人関係においても他者に病的に依存してしまうと依存性パーソナリティ障害という精神障害に発展してしまうかもしれません。

それでは、依存性パーソナリティ障害とはいったいどのような精神障害なのでしょうか。その原因や特徴、症状と診断基準、治療法と接し方について解説します。

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依存性パーソナリティ障害とは

依存性パーソナリティ障害とは、他者に過度に依存してしまうことを特徴とする精神障害です。自分で何かをするのではなく他者に頼りたいという思いの強さから何をするにもアドバイスや承認を受けなければいけません。

例えば、小さな子どもは親に対し依存的な態度を示すことがあります。

ファミリーレストランで「好きなものを注文していいよ」と伝えても、親に決めてもらいたがる、これを注文してもいいかしつこく確認し承認を得ようとするなどは日常的に見られるものです。

しかし、成長を重ねることで、自立心が養われるため、成人になっても自分で判断したり、行動を起こすことができないということはないでしょう。

ところが、その依存的な性格傾向のために責任を回避するなどにより社会適応に支障をきたしてしまうのが依存性パーソナリティ障害なのです。

対人依存とは

そもそも、依存性パーソナリティ障害での特徴である対人依存とはどのようなものなのでしょうか。

対人依存研究の歴史

対人依存の研究は元々、1940年代から盛んになった親子関係や躾に関する研究の一環としてスタートしています。そのため、対人依存という現象はあくまで子育てに関する一現象としてしかとらえられていませんでした。

しかし、1953年にシアーズ,R.R,らの研究によって対人依存研究は転機を迎えます。

シアーズらはそれまでの対人依存研究を概観し、対人依存という概念が人格形成を説明する際の重要な要素の一つであるという研究方針を示したのです。

これによって対人依存はパーソナリティ特性としての立ち位置を獲得し、青年期においても社会的同調性や対人関係の問題と関連付けて検討することができるようになります。

こうした流れから、対人依存傾向というパーソナリティの偏りによって社会不適応を引き起こす患者群を依存性パーソナリティ障害として概念化されたのです。

対人依存概念の特徴

子どものときは親に甘えてしまう依存的傾向が顕著に現れますが、成人になるとそのような傾向はみられにくくなるでしょう。

それでは、この対人依存傾向というものは、発達とともに消え去ってしまうものなのでしょうか。

実は、健康な成人にも対人依存傾向は残っており、その働きが不適応的に機能するために依存性パーソナリティ障害のような病理的な心性となるという考え方が主流です。

現代での対人依存の有名な定義としては「人に普遍的なものであり、発達とともに消失するのではなく、より成熟したものとして変化していく」というものが挙げられます。

そのため、対人依存性を構成する様々な要素の中の何かが機能不全を起こすことによって、対人依存傾向が病理的な性質を帯びると考えることができるでしょう。

対人依存傾向を構成している要素としては次のようなものが挙げられます。

【対人依存概念の構成要素】

  • 依存欲求:援助・慰め・是認・注意・接触などを含む、肯定的な顧慮・反応を他者に求める欲求
  • 依存拒否:顕在的には他者に対する依存を拒否する形で現れるが、潜在的に依存不安があると推測される態度
  • 統合された依存:成熟し、安定し、統合された人格に備わっているべき依存性

対人依存に関する研究

川森(2012)は、このような対人依存傾向を構成する要素が対人関係における適応性とどのように関連するのかについて検討しています。

その結果、「統合された依存」が高い人は人と話によって関係づくりを行い、葛藤に対しても対処にも優れていることが示されています。一方で「依存拒否」が高い人は話によって関係を作ろうとせず、葛藤への対処も優れていないという特徴があります。

そもそも社会生活を送るうえで、周囲の人に適切に「頼る」ことは社会適応において重要な要素であり、依存するという欲求を持ち合わせていることはむしろ自然です。

しかし、依存拒否が高い人は、自己像が否定的であり、依存したいけれども嫌われてしまったらどうしようという自信のなさから「依存したいのにできない」という葛藤を抱えています。

そのため、依存欲求が高いにも関わらず、その欲求をうまく満たすことができないために本人に主観的な苦痛が経験されるものと考えられるのです。

依存性パーソナリティ障害の原因

パーソナリティは、生まれながらにして持っている性格傾向の気質と成育環境から受ける影響によって形成されると考えられており、遺伝と環境の両方から影響を受けるということが指摘されています。

そのため、依存性パーソナリティ障害を含む、パーソナリティ障害の原因は遺伝的なリスクとこれまでの経験によって発症すると考えられていますが、明確な原因というものは特定されていません。

対人依存傾向の心的メカニズム

確かに、病理的な依存傾向がなぜ起こるのかということについては明確な原因は分かっていません。

しかし、健常者にもある不適応的な対人依存傾向と病理的対人依存が連続体であるという考えに基づけば、対人依存傾向の心的メカニズムを探ることによって病的依存がどのようにして起こるのかについてのヒントが得られるはずです。

現在、対人依存傾向を説明するモデルには、無力な自己スキーマを用いて説明するものがあります。

無力な自己スキーマとは、自分の無力感に関わる認識の枠組みであり、このスキーマが活性化することによって、依存に関連した動機づけや行動、感情反応、依存に関わる情報への感度の上昇が報告されています。

そのため、依存性パーソナリティ障害も無力な自己スキーマという強く歪んだ認知により、その症状を呈するとも考えられるのです。

他のパーソナリティ障害とのオーバーラップ

依存性パーソナリティ障害は、確かに独立した疾患概念として確立され、DSMにおいてもしっかりとその診断基準が明記されています。

しかし、DSMにもパーソナリティ障害の分類体系は研究や教育には有用であるが、限界があり、異なった群のパーソナリティ障害を併発することもしばしばあることが指摘されています。

治療にあたっては、どのような疾患かを断定し、他の疾患とは異なるということをはっきりさせる鑑別診断が重要となりますが、この指摘された限界は、パーソナリティ障害の鑑別診断の難しさを表しているのです。

そして、依存性パーソナリティ障害と概念的な重なりが大きいであろうことが指摘されているのが、境界性パーソナリティ障害回避性パーソナリティ障害です。

依存性パーソナリティ障害と境界性パーソナリティ障害は見捨てられることを非常に恐れるという点で、回避性パーソナリティ障害とは自己不全感の強さから他者からの指示や保証を強く求めるという点で類似しています。

それでは、これらのパーソナリティ障害と依存性パーソナリティ障害の違いとはどのようなものなのでしょうか。

先行研究では、依存性パーソナリティ障害傾向における独自性が、自分の行動や判断に対する他者からの保証を強く求める点と、一人では何もできず、頼りになる他者を強く必要とし、そのような他者を失うことに対して強い不安を感じる点だとされています。

また、脳神経科学の視点を取り入れた神経心理学的な観点では、これらのパーソナリティ障害は認知行動機能が異なることが指摘されています。

そして、数ある認知機能の中でもこれらのパーソナリティ障害を差別化できるとされるものは遂行機能(実行機能)と呼ばれる認知機能です。

【遂行機能とは】

目標の設定や行動の計画、そしてその計画を実行することやそれらを効率的に行おうとするために必要な能力の総称であり、様々な認知行動機能を「統合・管理」し、「問題解決」を行うための機能

そして、依存性パーソナリティ障害傾向は情緒や思考の制御に関する機能が強く障害されており、行動の制御も弱く影響を受けるという結果が示されています。

つまり、依存性パーソナリティ障害に特徴的な「分離に対する強い不安」という感情の制御が難しく、「他者に従属的でしがみつく」という行動は行動制御の障害によって生じると考えられるのです。

依存性パーソナリティ障害の治療法と接し方

依存性パーソナリティ障害に対する治療法はカウンセリングなど一般的な心理療法がおこなわれます。

基本的にパーソナリティとは生まれつき持っている素質に加え、これまでの人生で受けてきた影響によって形作られたものであり、何らかの薬物やプログラムで性格を短期間で激変させることは難しいでしょう。

そのため、日常生活の中で起こる自立への恐れであったり、自己主張が困難となる場面での悩みに焦点を当て、心理的なサポートを行うことが求められます。

しかし、そのような介入の中で歪んだ治療関係になる接し方は避けるべきです。

心理療法の基本でもありますが、治療者がクライエントに依存されてしまうという関係性になってしまうと依存性パーソナリティ障害の症状を強めかねません。

もちろん、突き放してしまうような対応は避けるべきですが、きちんとした枠づけを行い、カウンセリングの中でクライエントの自立心を育めるような接し方が求められるでしょう。

依存性パーソナリティ障害について学べる本

依存性パーソナリティ障害について学べる本をまとめました。初学者の方でも手に取りやすい入門書をまとめてみましたので、気になる本があればぜひ手に取ってみてください。

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依存性パーソナリティ障害はしがみつきや保証を求めるなど周囲の人を大きく巻き込むパーソナリティ障害です。

そのため、依存性パーソナリティ障害について詳しく知っておかなければどのように対応するべきかわからないでしょう。

ぜひ本書から依存性パーソナリティ障害について詳しく学びましょう。

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依存性パーソナリティ障害は無力な自己スキーマという認知の歪みによって、自分に自信がない、つまり自尊感情がとても低い状態です。

そのため、自尊感情を高めるための方法をこの本から学びましょう。

自立と依存

対人依存は不適応的な特徴を持つネガティブなものとみなされがちです。

しかし、本来は、対人依存自体は誰にでも備わっており、他者に必要に応じて頼ることは社会適応に必要なものでしょう。

そして、その依存したいという気持ちや行動をコントロールできないことが依存性パーソナリティ障害の大きな問題なのです。

ぜひこれからも依存性パーソナリティ障害について詳しく学んでいきましょう。

【参考文献】

  •  川森美保(2012)『アタッチメントの側面から見た適応的な依存とは』立教大学臨床心理学研究 6(-), 19-29
  • 江口恵子(1966)『依存性の研究』教育心理学研究 14(1), 45-58
  • 市川玲子・望月聡(2013)『境界性・依存性・回避性パーソナリティ障害傾向と遂行機能障害との関連』筑波大学心理学研究 (46), 87-95
  • 市川玲子・望月聡(2013)『境界性・依存性・回避性パーソナリティ間のオーバーラップとそれぞれの独自性』パーソナリティ研究 22(2), 131-145
  • American Psychiatric Association(高橋三郎・大野裕監訳)(2014)『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』医学書院

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    • この記事を書いた人

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    臨床心理士指定大学院に在学していました。専攻は臨床心理学で、心理検査やカウンセリング、心理学知識に関する情報発信を行っています。

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