病気不安症(心気症)とは?原因・症状と診断基準、治療法について解説

2022-02-01

なんだか体に元気がなくて、もしかしたら何か病気にかかっているのではないかという不安にとらわれ、いざ医療機関を受診してみても何も問題はないけれど安心ができないという方はいらっしゃいませんか。

もしかしたらそれは病気不安症(心気症)という精神障害かもしれません。それでは病気不安症とは一体どのような精神障害なのでしょうか。その原因や症状と診断基準、治療法などについてご紹介します。

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病気不安症(心気症)とは

特に身体症状が出ているわけではないけれど、自分が重大な病気にかかっているのではないかという不安にとらわれてしまうことを不定愁訴と呼びます。

不定愁訴にはイライラ疲れやすい頭痛がする眠れないなどのものが代表的です。

このようなものは何も精神障害や身体疾患にかかっていなくても起こりうるものであり、仮にどこか悪いのかなと思い医療機関で検査を受け、問題がなければ少し休めば大丈夫かと不安もどこかへ行ってしまうものでしょう。

しかし、病気不安症はこのような不定愁訴にとらわれてしまい、例え医師から特に問題はないと保証されたとしても重大な病気の兆候ではないかという思いが頭から離れず、周囲の人に執拗に自分の体調について訴えてしまうという特徴があります。

病気不安症と心気症の違い

もとは心気症と呼ばれていた疾患が現代では病気不安症という精神障害として捉えられるようになりました。しかし、厳密には病気不安症と心気症は名称変更をされただけで、ぴったりと疾患概念が一致するというものではありません。

心気症と呼ばれていた疾患は非常にその対象範囲が広いことが特徴的です。

そして、その中には医学的には説明できない身体症状が前面に出てくるものと重大な病気に罹患している、もしくは罹患しつつある兆候が表れているのではないかという不安やとらわれが前面に出てくるものの2つが含まれています。

そこでDSM-5では、身体症状が前面に出ているものを身体症状症、病気への不安やとらわれが前面に出てくるものを病気不安症として分類を行っています。

そして、以前心気症として診断されていたものの約25%が病気不安症に含まれ、残りが身体症状症に該当するものであると予測されています。

病気不安症の原因

病気不安症は、もともと神経症の1つである神経衰弱であると考えられていたように心理的要因がその発症に大きく関わっていると考えられています。

例えば、これまでの発達段階において欲求を充足させることができず生じた葛藤を無意識に抑え込み、それが病気にかかっているのではないかという不安に置き換えられて出てきていると考えられるのです。

それではなぜこのような形での不安が出てくるのでしょうか。

精神分析では、発達段階における欲求充足の失敗により、望んでいる形で養育者に大事にしてもらえなかった経験があるはずだと考えます。

それでは、病気にかかったかもしれないという思いを自分で創り出し、それを他者に訴えることで他者からはどのような反応を引き出すことができるでしょうか。

おそらく、自分の子どもがお腹が痛いと訴えてくるならば、大方の保護者はその子どもを心配し、病院に連れて行こうか、ご飯が食べられるか、学校に休む連絡をしようかとその子を思っていろいろと世話をしたり、心配してくれるでしょう。

つまり、保護者にうまく甘えることができず、欲求を充足できないために、病気になったかもしれないと訴えざるを得ない状況を自ら作ることで代理的に欲求充足を目指し、自らが抱えている葛藤から目を背け、症状に注意を向けることができます。

このような、本人が意識していないにもかかわらず、症状を形成することで得ることのできる現実的なメリットのことを疾病利得と呼びます。

この疾病利得は多くの神経症の症状の形成・維持要因として注目されており、病気不安症にも深く関わっていると考えられているのです。

また、性格的要因としては、次のような性格を持っている人がなりやすいことが指摘されています。

【病気不安症の性格傾向】

    • 内向的
    • 内省的
    • 心配性
    • 完全主義
    • 理想主義
    • 負けず嫌い

このように性格を列挙すると全体がつかみづらいですが、内向的で心配性という引っ込み思案の弱気な性格でありながら、完全主義で競争に負けて理想を達成したいとする強気な性格が同時に存在しています。

このように、正反対の性格が同時に存在するために、強気な部分の欲求を満たそうとすると弱気な部分が邪魔をしてストレスを抱えやすい性格であると言えるでしょう。

病気不安症の症状と診断基準

病気不安症の症状は次のような特徴を示します。

  1. 身体症状はほとんど認められないにもかかわらず、重大な病気かもしれないというとらわれがあること
  2. 健康について強い不安があり、健康に関する不適切な行動がみられること

病気不安症とよく似た身体症状などへのとらわれを示す精神障害としては、身体症状症、妄想性障害、身体醜形障害などが挙げられます。

病気不安症と同じく身体症状症および関連症群の1つである身体症状症は、医学的な異常が認められないにもかかわらず、強く身体症状を訴えるという点で病気不安症とよく似ていますが、病気不安症は身体症状は前面に出てこず、重い病気ではないかという不安やとらわれが前面に出てきます。

また、病気不安症の抱える重篤な病気ではないかという思いは、あくまで疑念であり、確信を伴っているわけではないので妄想ではないという点で妄想性障害とも異なります。

また、病気不安症のとらわれは自身の健康が損なわれるということにあります。

そのため、自分の外見が醜いのではないかというとらわれを示す身体醜形障害とは異なると言えるでしょう。

病気不安症の治療法

病気不安症には基本的に薬物療法と心理療法の2つのアプローチから治療が行われます。

薬物療法としては、不安に対して効果のある抗うつ薬抗不安薬を処方することによって病気にかかっているのではないかという不安を低減させていきます。

それに加え、心因性疾患であると考えられている病気不安症には心理療法が有効だと考えられています。

代表的な心理療法は次のようなものが挙げられます。

【病気不安症への心理療法】

  • 認知行動療法:身体症状に対する誤った解釈を修正し、健康の補償や確認という行動を低減させていく
  • 森田療法:病気への不安は当然のものであると受け入れ、不安の裏にある生への欲望を建設的な形で表出させる
  • 精神分析的心理療法:患者の無意識に抑圧された葛藤や欲望に着目し、それを言語化することを援助する

心気症から病気不安症へ:転換の歴史

病気不安症は先述したように、元々は心気症と呼ばれていた精神障害の一部でした。

心気症はHypochondriaという、最も古い医学用語の1つです。

この用語を提唱したのは古代ギリシャのヒポクラテスという医師であり、肋軟骨(Hypo)下(chondria)にある解剖学的な部位を指し示すHypochondriaはにある内臓の不調により、病的な感情状態が生み出されると考えられており、自身の身体の不調へとらわれてしまうという病的な感情状態は非常に古くから注目されていました。

心気症と神経衰弱

心気症が身体疾患ではなく、精神的な不調によるものだと指摘されるようになったのは1868年に神経衰弱という疾患概念が提唱されたことが始まりです。

神経衰弱は、身体的・精神的加藤は持続すると、刺激に対して身体が過敏に反応するようになってしまい、すぐに疲労してしまうという病態を示します。

しかし、臨床的には心身の疲労のみがこのような過敏に反応する病態を作るわけではないということが指摘され、もともと素質的に過敏に反応しやすい状態については体質性神経衰弱または神経質などと呼ばれ区別されていました。

このような分類により、自らの異常に敏感であるという心気傾向は体質もしくは性格傾向に起因するという見方が強くなり、神経質な人は「自分自身の外へ目を向ける代わりに、自分自身の内側に目を向けやすい」という反省的な性格の持ち主が想定されていました。

精神分析による心気症の解釈

1970年ごろまでは初期の精神分析による心理的防衛に基づいたモデルによって解釈がなされていました。

このモデルでは、医学的に説明が出来ないにもかかわらず患者から訴えられる身体症状は、無意識から上ってくる欲動が禁止されるために、その代わりとして身体症状として表に現れるとされます。

日本では、森田療法の開発者である森田正馬が神経質の本質的な条件として、ヒポコンドリー性基調(内向的性格で、常に自己の不快な状態を心配している)と精神交互作用(自己の内側に注意を向けることでますます過敏になっていく傾向)を唱え、森田神経質という概念から心気症を捉えようとしていました。

DSMによる診断基準と分類

しかし、このような患者の内部の葛藤や精神作用から身体症状を捉えようとする見方から、DSMの登場により状況が一変します。

1980年代にDSM-Ⅲによる操作的診断基準が登場し、精神症状と医学的に説明のつかない身体症状が共存しているという考えが広まります。

従来の精神分析的の捉え方では、無意識から上ってくる苦痛が表出されることが無いよう抑え込まれることにより、それとは別の形、つまり身体症状として外部に現れるため、医学的に説明のつかない身体症状が現れる代わりに精神症状は示されないはずです。

しかし、現に示されるデータでは身体症状と精神症状が共存を示しており、この考えに基づきDSM-Ⅳまでは、身体表現性障害という疾患の中で心気症を扱っていました。

その後、最新のDSM-5では身体症状症およびストレス因関連疾患群の中で病気不安症という名称として捉えられ現在に至ります。

病気不安症について学べる本

病気不安症について学べる本をまとめました。初学者から読める入門書をご紹介していますので、気になる方はぜひ手に取ってみてください。

はじめての森田療法 (講談社現代新書)

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心気症の語源となっているHypochondria的な心性による身体へのとらわれに着目している森田療法について学ぶことは病気不安症を理解するうえで大いに役立つでしょう。

今回ご紹介した入門書をきっかけに病気不安症そして森田療法についての学びを深めましょう。

不安障害の臨床心理学 (叢書 実証にもとづく臨床心理学)

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現代では、病気不安症は不安を伴うものの、不安障害とは別の疾患であると捉えられています。

しかし、実際の臨床場面では、不安障害の患者も身体症状を訴えることがあり、混乱してしまうかもしれません。

この本では、不安と身体症状の章で心気症患者に特徴的な認知について紹介しているので、ぜひ他の不安障害と合わせて学習してみることをお勧めします。

客観的な事実からは訂正できないとらわれ

病気不安症の患者がとらわれている病気への不安は医学的に問題がないという事実のみでは訂正することが困難であり、そのような対応をするとかえって自分の訴えをわかってもらえず否定されたとしてさらに症状に引きこもってしまうおそれもあります。

そのため、まず大事になるのは患者の訴えに耳を傾け、共感的な理解を示すことであり、そのような態度に患者は安心します。

そのため、患者が医学的に問題があるかどうかに執着するのではなく、患者の想いを受け止める姿勢を示しましょう。

【参考文献】

  • 高橋俊哉(1972)『身体的訴えを前景に示す精神疾患 (誌上追加):(1) 心気症 (心気状態)』順天堂医学 17(4), 526-531
  • 村松公美子(2019)『身体症状症および関連症群の認知行動療法』心身医学 59(6), 544-553
  • 永井啓太(2013)『心気症患者の理解と心理的ケア』日本心理学会大会発表論文集 77(0), 1EV-040-1EV-040
  • American Psychiatric Association(高橋三郎・大野裕監訳)(2014)『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』医学書院

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    • この記事を書いた人

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    臨床心理士指定大学院に在学していました。専攻は臨床心理学で、心理検査やカウンセリング、心理学知識に関する情報発信を行っています。

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