人間性心理学とは?マズローやロジャーズによるアプローチと特徴、批判を解説

2020-12-28

現代のカウンセリングの大前提となっている「受容」や「共感」。これらがカウンセリングを行ううえでの基本的態度とした心理学派こそが人間性心理学(ヒューマニスティックサイコロジー)と呼ばれる分野です。

目の前にいるクライエントのあるがままの姿を重視し、面接を通じた人間的成長を目的とした独自の治療方針とはいったいどのようなものなのでしょうか。

第三の心理学と言われる人間性心理学の特徴や精神分析、行動療法との違い、マズローやロジャーズによる研究のアプローチに加え、批判についてもわかりやすく解説します。

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人間性心理学とは

人間性心理学とは、人間を心と身体が一体となった全体としてとらえ、自由意思を持った主体的な存在としてとらえる前提に立った心理学です。ヒューマニスティック心理学、ヒューマニスティックサイコロジーとも呼ばれます。

第三の心理学「人間性心理学

人間性心理学は心理学の第3学派ともいわれ、臨床心理学において3つ目の立場として位置づけられます。

それまでの心理療法では精神分析と行動療法が主流となっていたという背景があります。

精神分析

無意識の存在を仮定し、クライエントの認めがたい感情や欲求、記憶が発達過程においてどのように形成され、対処されてきたのかに注目します。

そしてクライエントの語りに対し解釈を与えることで、気付き(洞察)をもたらす(この一連の家庭を繰り返すことを徹底操作と呼びます)ことによってクライエントを悩ます諸症状の改善を図るものです。

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行動療法

行動療法では、クライエントが示す症状や不適応が不適切な学習によって形成されたものであるとみなし、学習理論を用いて不適切な行動を消去し、望ましい適応的な行動を再学習させることを目的とした立場です。

そもそも行動主義は、精神分析が仮定する目には見えない無意識という存在に対する科学的な疑念から始まりました。

そして、外部から観察可能な行動に心の動きが反映されているという前提のもと、その治療理論を発展させていったのです。

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人間性心理学の特徴

上述した2つの立場に対し、人間を受動的な立場としてとらえ、その人間性を軽視しているという批判を加え、台頭したのが人間性心理学です。

精神分析では、人間の病理的な部分に焦点を当て、過去に形成された無意識的なこころの働きに支配されているという前提に立っています。

行動主義では治療対象はあくまでクライエントの示す行動であり、適応的な人格の再形成などは治療における2次的な効果として重視してないともいえます。

そこで、人間性心理学の立場では、人間が本来自らで成長し、自己実現を達成しようとする能動的・主体的な存在であると捉え、そのクライエントの人格自由意思を尊重した立場をとります。

人間性心理学の心理学的研究

マズローの自己実現理論

人間性心理学の創始者ともいえるマズロー,A.H.は、人間は性善的存在であり、「こうありたい」自分を目指す「自己実現」の欲求を備えた存在であるという人間観を持ちました。

そして、人間の欲求には次の5つの階層があり、その最終的な欲求・目標として自己実現が位置づけられるという「欲求5段階説(欲求階層説)」を提唱したのです。

【欲求5段階説】

①生理的欲求食欲、睡眠欲など人間の生体機能を維持するために最低限必要な欲求
②安全欲求危険を遠ざけ、自分の命や生活を守り、安心して暮らすことを求める欲求
③社会的職級社会の中で所属したコミュニティの一員になろうとする欲求
④承認欲求所属したコミュニティのメンバーから認められ、自分の存在意義を示そうとする欲求
⑤自己実現欲求自分自身が、さらなる高みを目指して成長していきたいという欲求

この理論では、次元の低い(上の一覧だと数字の小さい)欲求が満たされることで初めて次の欲求が芽生えるとしています。

例えば、ホームレスになってしまったという状況を考えてみてください。

いきなり、「良い職業に就きたい」や「30歳までに結婚したい」などを求めるのではなく、まずは食事など生きることに直結する身体の生理的な欲求を満たすことを考えるはずです。

そして、それが満たされることで「雨風がしのげて、鍵のかかる家に住みたい」という欲求(安全欲求)が生じてくるのです。

このように、人間の欲求にはまず満たすべき優先順位があり、次の階層の欲求が生じることで人間は成長を目指そうという主体的な存在であることを示したのです。

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人間性心理学の心理療法・アプローチ

人間性心理学は、心理療法として他の立場と異なった介入をします。

その中で代表的な手法をいくつかご紹介します。

ロジャーズによる来談者(クライエント)中心療法

ロジャーズ,C.R.によって確立された来談者(クライエント)中心療法では、「精神障害や社会不適応に振り回されるクライエントの問題を見つけ、治療する」というそれまでの心理療法とは異なり、「主体的で自律的なクライエントの成長を援助する」という非指示的なアプローチをとります。

そもそも、ロジャーズは、人間が不適応に陥る原因を自己一致の大きさであるとしています。

自己概念(自分はこういう人間であるというイメージ)と経験(現実での自分)が一致している領域(自己一致)が少ないほど、現実を受け入れることができず、心理的不適応の状態に陥ってしまいます。

そこで自己一致の領域を広げるため、援助者であるカウンセラーがとるべき基本的な姿勢として次の3つを挙げています。

  1. 共感的理解:クライエントの語りに耳を傾け、まるで自分の体験であるかのように感じ取ること。
  2. 無条件の肯定的配慮:自分の価値観を押し付けず、クライエントを一人の人間として受け入れること
  3. 純粋性:セラピストが自分自身に嘘偽りのない姿であること。

このような基本姿勢は現代のカウンセリングにおいても基本的な姿勢として重視されています。

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エンカウンター・グループ

来談者中心療法でもご紹介したロジャーズの開発した集団心理療法です。

この技法では様々なメンバーをあつめ、それぞれの意見を批判することなく言い合う場を設けることで自己・他者理解を促進し、対人スキルの獲得を目的としています。

主な形態としては事前に場の設定を行う構成的エンカウンターとフリートークを主体とする非構成的エンカウンターの2つが挙げられます。

援助者は特に指示などをせず、メンバーが安心して発言できる場を整えるためのファシリテーター(促進者)としての役割を担います。

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ゲシュタルト療法

パールズ,F.S..らによって提唱されたこのセラピーは、過去に何があったのかではなく、治療が行われている「いま、ここ」において自分が何をしているかに焦点を当てます。

そして、過去に合った問題が何であるかではなく、いまここで何を感じているかへの気づきを促し、身体感覚や外的世界を含めた自己の全体性の回復や自己を変容させ、成長することができる存在への気づきを促すこと目的として介入します。

代表的な技法としては「エンプティ・チェア」や「ロールプレイ」などが挙げられます。

人間性心理学に対する批判

どのような心理学も一長一短で、優れる面もあれば不十分な面も存在します。

人間性心理学は、問題の原因に焦点を当てず、いまここで感じている自己を受け入れ、自己実現発言させようという方針に基づいています。

そのため、科学としての根拠が不十分であるという意見や問題の原因を究明しないため、対症療法的であるという批判もなされています。

人間性心理学について学べる本

人間性心理学を学ぶ方へおすすめの書籍をまとめました。

マズロー心理学入門 人間性心理学の源流を求めて(中野明著)

原典をいきなり当たるのは初学者にとってハードルが高いでしょう。

この本ではマズローの思想から理論などがポイントごとにまとめられ解説してあるため、事前知識がそれほどなくても読み進めることのできる入門書です。

人間性心理学ハンドブック(日本人間性心理学会編)

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日本人間性心理学会が人間性心理学の基本的な考え方とアプローチを丁寧に紹介しています。

また、これまで蓄積された研究を整理しなおし「読んでためになるワードマップ事典」も収録されています。

人間性の心理学―モチベーションとパーソナリティ(A.H.マズロー著)

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人間性心理学の創始者マズローの原著が邦訳された本書では、マズローの考えに直接触れることができる貴重な一冊です。

マズローの基本的な考えから心理療法への適用など網羅的にまとめられている本書で人間性心理学への学びを深めましょう。

悩み・苦しみを受容して成長の糧に

人間性心理学はそれまででは異例であったクライエントの存在そのものを一人の人間として、尊重し、寄り添う姿勢を特徴とする立場です。

人が悩み、苦しむということは、よりよく生きたいという望みの裏返しとなっているとも言い換えられます。

今回ご紹介した人間性心理学の基本的な姿勢の多くは現代のカウンセリングの前提となっていることも多く、これを機にぜひ詳しく学んでみることをお勧めします。

参考文献

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    • この記事を書いた人

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    臨床心理士指定大学院に在学していました。専攻は臨床心理学で、心理検査やカウンセリング、心理学知識に関する情報発信を行っています。

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