P-Fスタディとは?特徴や解釈、分析方法を解説【勉強におすすめの研修会・書籍も】

2021-01-04

皆さんは納得のいかない状況におかれたとき、どのような行動・態度を示しますか。P-Fスタディと呼ばれる心理検査は日常生活でも頻繁に起こりうる欲求不満場面を取り上げ、クライエントの人格を検査する一風変わった心理検査です。

今回はP-Fスタディの実施から解釈まで幅広く取り上げ、ご紹介していきます。

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P-Fスタディ(絵画欲求不満テスト)とは

ローゼンンツァイク,S.が開発したP-FスタディはThe Picture-Frustration Studyの略称であり、フラストレーションつまり欲求不満場面が描かれたイラストを被検者に提示し、その反応を分析することによって、その人の人格像を把握する検査です。

P-Fスタディは欲求不満を引き起こさせるような24場面のイラストを提示し、被験者の自由な反応を求める検査であり、心理検査の中でも投影法に分類されます。

その他の投影法の代表的な心理検査にはロールシャッハ・テストTAT(主題統覚検査)などが挙げられます。

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P-Fスタディの特徴

P-Fスタディの特徴は何といっても、その名前に「検査」や「テスト」という文言が使われていない点が挙げられます。

そもそも「検査」は施行結果を判定するための外的な基準を備えていますが、P-Fスタディは各個人ごとの反応を母集団として、反応間の内的一貫性から個性を理解しようとする特徴を有しています。そのため、検査やテストという用語を用いて呼ばれていません。

また、P-Fスタディにおいてはアグレッション(Aggression)と呼ばれる概念を測定することが特徴の一つです。

通常アグレッションは日本語で攻撃性と訳されますが、開発者のローゼンンツァイクはアグレッションを「主張性」という外的世界への反応の仕方に注目するより広い意味合いで使っています。

  • P-Fスタディの特徴を他の代表的な投影法検査として挙げられるロールシャッハ・テストTATの特徴と併せてまとめました。
検査名P-Fスタディロールシャッハ・テストTAT(主題統覚検査)
開発者ローゼンツァイクロールシャッハマレー、モーガン
手続き欲求不満を引き起こさせるような場面に対して、登場人物ならどのように答えるかを回答左右対称のインクの染みの図版10枚を呈示し、何に見えるかを回答・その後に質疑を試みる場面設定が曖昧な絵画図版ストーリー(過去・現在・未来)を自由に語る
解釈アグレッション(主張性)の(障害優位型、自我防衛型、要求固着型)と方向(他責・自責・無責)など反応領域(どこにそれが見えたか)決定因(どんな特徴からそう見えたか)反応内容(何を見たか)などストーリーに反映される欲求(人が環境に働きかける行動を引き起こす内面的な力)や圧力(環境から人に働きかける力)など

P-Fスタディのやり方

P-Fスタディは24の欲求不満場面が描かれたカードを提示し、検査者が刺激文を読み上げるという形で進められます。イラストには登場人物の1人の吹き出しが空欄になっており、「この人ならどのように答えそうか」を記入させます。

欲求不満場面は大きく「自我阻害場面」と「超自我阻害場面」の2つに大別されます。

自我阻害場面トラブルの原因が他者にある場面(例:待ち合わせに相手が遅れてきた)
超自我阻害場面トラブルの原因が自分にあり、他者から非難される場面(例:相手の大事なものを壊した)

なお、検査中に回答を修正する場合、初めに現れた反応も重要な意味を持つため消しゴム等では消さず、二重線を引くなどして後から見返すことができるよう工夫しましょう。

P-Fスタディの適応年齢

P-Fスタディには「児童用」・「青年用」・「成人用」の3種類があり、幅広い年齢を対象に実施することができます。

適応年齢は、児童用小学生・中学生青年用中学性・高校生・大学生成人用20歳以上の一般成人と大学生となっています。なお、年齢的に重なりのあるところについては、どちらを使っても可能となっています。

<補足>P-Fスタディが2020年に改訂されました。
主な変更点としては、児童用・青年用・成人用ともに用紙サイズがB5判からA4判に拡大し、質疑応答を記録しやすくなっているほか、スムーズに採点できるよう整理票も見直されています。
また、成人用においては、時代背景に合わせてシチュエーションが描き直されていたり、人物構成が男女等しくなるように変更されるなど図版の改訂も行われています。

P-Fスタディの解釈・分析方法

ここではP-Fスタディの結果をどのようにまとめていくのかについてご紹介します。

P-Fスタディの採点(スコアリング)

P-Fスタディで得られた回答は3つの攻撃型と3つの方向性によって分類されます。

3つの攻撃の型

障害優位型問題そのものに怒る(例:服が汚れてしまったという事実に怒る)
要求固執型問題解決にこだわる(例:弁償を要求する)
自己防衛型人に感情を向ける(例:相手に「ふざけるな」と不満を口に出す)

3つの攻撃の方向性(フラストレーション場面を引き起こした原因の所在)

自責型原因を自分にあるとして、自分を責める(例:私が気を付けていなかったのが悪いんです)
他責型原因を他者にあるとして、他人のせいにする(例:壊れたのはお前のせいだ!)
無責型原因を誰のせいともせず、責任の所在をはっきりさせない(例:壊れてしまったのは古いからでしょう、誰も悪くありませんよ)

そして、アグレッションは3つの型×3つの方向、計9つの分類によって分類されます。

障害優位型要求固執型自我防衛型
自責型自責逡巡反応自責固執反応自罰反応
他責型他責逡巡反応外責固執反応他罰反応
無責型無責逡巡反応無責固執反応無罰反応

GCR(集団一致度)

P-Fスタディはその研究の積み重ねによって、その場面で起こりやすい反応というものが存在することが分かっています。

ロールシャッハテストでもP反応(平凡反応)が設定されているように、一般的な反応の起こりやすさと照らし合わせることは、被検者のパーソナリティが一般的なものとどれほど逸脱しているかを検討するにあたり1つの指標となりえます。

P-Fスタディではその常識的な反応を示す割合としてGCR(Group Comformity Rating)が設定されているのです。

つまり、「標準集団の典型的な反応」と「被検者の反応」の一致度(それぞれのカードで出やすい回答がどれほど出ているか)を算出するのです。

ちなみに、GCRが顕著に低い場合は適応の困難さが、GCRが顕著に高い場合は過剰適応(周囲を気にし、良い人であろうとして自分を犠牲にしてしまう)が示唆されます。

反応転移分析

反応転移分析とは、検査の前半と後半の反応の質を比べることを指します。

P-Fスタディを含む心理検査、特に投影法は被検者の心理に大きな影響を与えるとされています。

例えば、検査の最初のほうは常識的な反応を示していたとしても、後半になり検査の疲れや心理的負担などからかなり変わった反応を示すケースなどが挙げられます。

P-Fスタディでも1回の検査内で起こる前半の反応と後半の反応の出現状態を比較することで、検査中に起こった被検者の心理的変化を捉え、不適応の原因を探る一助とすることがあります。

超自我因子

先にP-Fスタディのカードは大きく「自我阻害場面」と「超自我阻害場面」の2つに分けられることをご紹介しました。

超自我阻害場面で出現しうる2つの反応には大きな意味があるとされ、それぞれが特殊因子として分析されます。

超自我評点E他罰反応の変形であり、他者から追及に対し自分に責任がないと否認する反応
超自我評点I自罰反応の変形であり、一応自分の非を認めるが、避けられない状況のせいにし、本質的には自分の失敗を認めない反応

例えばE反応が多く確認される場合、それは日常生活でも起こっていることが推測できます。

例えば、上司から仕事のミスを指摘されたとしても、その責任は自分にはなく「仕事の引継ぎ方がそもそもおかしかった」など相手に反逆的な態度をとっている可能性が高いのです。

このように超自我因子に注目して分析を行うことで、その人のパーソナリティを知る重要な手がかりとなることがあります。

P-Fスタディの解釈支援ソフト

P-Fスタディでは検査結果をまとめ、分析するまでに大きな労力がかかります。

そこで解釈を行うための支援ソフトが開発されているのでご紹介します。

P-Fスタディ解析支援サービス

このシステムでは検査実施後に回答結果をマウスで選択し入力するだけで、GCRやプロフィール、超自我因子、主要反応、反応転移を算出することができます。

また、平均値や標準偏差と大きくかけ離れているケースなども表示をしてくれるため、検査の解釈を行う労力を削減できる有用なツールです。

P-Fスタディの活用

それではP-Fスタディはどのように用いられることが多いのでしょうか。いくつかの例をご紹介します。

P-Fスタディによる人格分析

P-Fスタディは投影法であるため、対象者のより深いパーソナリティを測定することができます。この特徴はこれまで理論的説明が難しかった人格理論の整理に役立てられるという研究があります。

工藤(2006)は成人の愛着スタイルの4類型のうち、おそれ型(Fearful)と攻撃性の関連を検討した先行研究の結果が一貫しない(関連ありとする研究もあれば関連無しとするものもある)ことを指摘しています。

この原因として、おそれ型は無意識的な防衛機制である抑圧によって攻撃性を抑え込んでいるため結果が一貫しないという仮説を立て、P-Fスタディとの関連を検討しました。

その結果、おそれ型の愛着スタイルには攻撃性の抑圧が確認されました。

これを踏まえると、自己・他者ともに否定的なイメージを抱き、親密さを求める一方で不信感を抱いているおそれ型の愛着スタイルの人は、他者との関係が危機的になると、自分を守りきれず激しい攻撃性を示すようになるということが考えられます。

P-Fスタディと発達障害

また、社会適応に問題を抱えやすい発達障害との関連を検討した研究もあります。

井上ら(2019)は成人の自閉スペクトラム症(ASD)の診断を受けた人にP-Fスタディを実施し、フラストレーション場面での反応がどのような特徴を示すかを調査しました。

ASDは社会的コミュニケーションや対人相互作用における障害を示すため、トラブルに巻き込まれた場合、理解しがたい言動をしてしまい、不適応に陥る可能性があるわけです。

調査の結果、ASD患者はGCR%が低いことが示されました。

そして、これを受け、GCR%の高さはASDを否定しやすいことを明らかにされています。(あくまで関連があったのみで、P-Fスタディは発達障害を診断する検査ではありません)

P-Fスタディへの理解を深める方法

P-Fスタディをより深く学ぶためにはどのようにすればよいのでしょうか。

P-Fスタディを無料で体験できるサイト

現在、P-Fスタディを試行したり、分析を体験できるサイトは存在しません。

もちろん、P-Fスタディは医科診療報酬得点のつく心理検査ですので、何らかの問題があり、それを知るために病院へいくというケース以外受験することが難しい状況にあります。

ただ、公認心理士指定の大学・大学院などでは、授業の一環で心理検査を学生同士で取り合ったり、同じゼミの大学院生がケースのための練習台を探している場合があります。

このような場合は無料でP-Fスタディに触れることができるかもしれません。

P-Fスタディの研修会

P-Fスタディを学ぶための研修会としては、東京P-Fスタディ研究会が主催の講習会や研究会が挙げられます。

参加するためには研究会への入会が必須となっていますが、隔月で研究会を実施するなど精力的に活動をなさっているようです。

P-Fスタディを取り始めたけど自信がないなどの、若い臨床家などは研修会へ参加し、より深くP-Fスタディを学んでみるのはいかがでしょうか。

P-Fスタディについて学べる本

P-Fスタディへの理解を深める参考になる本を3冊ご紹介します。

P-Fスタディの理論と実際

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初級者から上級者までを対象とした本書はP-Fスタディの理論的背景から実際に施行するまでを幅広くカバーしています。

P-Fスタディ解説 基本手引き

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P-Fスタディを学ぶなら、まずはこの本と強くお勧めできる一冊です。検査の実施から採点・解釈までを丁寧に記載されているため、これからP-Fスタディを学ぶ方にはまず手元に置いておくと安心でしょう。

P-Fスタディ アセスメント要領

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こちらの本もP-Fスタディの概要から実施~解釈までが説明されている本ですが、特に事例が豊富なのが特徴です。

様々なクライエントの事例が掲載されているので、実際に検査を取ってみる前に目を通しておくと役に立つかもしれません。

関連するキーワード

今回ご紹介したP-Fスタディに関連するキーワードをまとめます。サイト内に記事があるものについてはリンクを付けておりますので、併せてご参照ください。

心理検査

投影法

ロールシャッハテスト

TAT(主題統覚検査)

防衛機制

心理検査はあくまでツール

今回ご紹介したP-Fスタディも含め、心理検査はこれまでになかった視点を与えてくれるものですが、出た結果が被検者のすべてを表しているわけではありません。

また、被検者にも負担が掛かるものでもあるため、必要に応じて使い分けることを意識するようにしましょう。

【記事のまとめ】

P-Fスタディは、ローゼンツァイクによって開発された心理検査(投影法)であり、欲求不満を引き起こさせるような場面に対する反応からパーソナリティ傾向などを測る

欲求不満場面は24場面あり、自我阻害場面(原因が他者にある)と超自我阻害場面(原因が自分にあり、他者から非難される)に大別される

・欲求不満場面への反応をアグレッション(外的世界への反応の仕方・主張性)の方向からスコアリングし、分析していく

アグレッションの型には、障害優位型(問題そのものに怒る)・要求固執型(問題解決にこだわる)・自己防衛型(人に感情を向ける)の3つの型がある

アグレッションの方向(欲求不満場面を引き起こした原因の所在)には、自責型・他責型・無責型の3つの方向がある。

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参考文献

  • 藤田圭一(1990)『心理学教科書とP-Fスタディ』城西大学女子短期大学部紀要 7(1), 129-140
  • 心理テスト出版三京房『P-Fスタディ解析支援サービス
  • 工藤晋平(2006)『おそれ型の愛着スタイルにおける攻撃性の抑圧―P‐Fスタディを用いた検討:――P-Fスタディを用いた検討』パーソナリティ研究 14(2), 161-170
  • 井上 勝夫・緒方 慶三郎・滝澤 毅矢・宮岡等(2019)『成人自閉スペクトラム症診断とP-Fスタディの集団一致度の関連』北里医学49(2), 79-85

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    • この記事を書いた人

    t8201f

    臨床心理士指定大学院に在学していました。専攻は臨床心理学で、心理検査やカウンセリング、心理学知識に関する情報発信を行っています。

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