マズローの欲求階層説とは?意味や具体例と批判・問題点についてわかりやすく解説

2021-11-16

今回は、マズローの欲求階層説について紹介します。もともと心理学の理論ではありますが、ビジネスなど様々な分野で幅広く活用されています。

欲求階層説は、人間の欲求を「生理的欲求」「安全の欲求」「所属と愛の欲求」「承認欲求」「自己実現欲求」5段階に分類し、生理的欲求から自己実現欲求に向けてピラミッドのように層を成した構造で整理されることが多いです。

そして、低次の欲求がある程度満たされると、より高次の欲求を満たそうとすると考えられ、最高層にある自己実現に向かっていくと考えられています。

基本的には上記の5段階で語られることが多いですが、マズローは晩年に自己実現を超える「自己超越」という6段階目の欲求について言及しており、この自己超越を含めて「欲求6段階説」と呼ばれることもあります。

マズローの欲求階層論とは何か、各階層について整理するとともに、欲求階層説の活用例や理論への批判などをまとめていきます。

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マズローの欲求階層説とは

欲求階層説とは、アメリカの心理学者マズローによって理論化されたものです。人間の持つ欲求には以下に示す5段階があるとされ、低次の欲求が満たされると、より高次の欲求を満たそうとすると考えられています。

なお、欲求階層説のほか「欲求段階説」「欲求5段階説(6段階説)」「自己実現理論」など様々な呼称があります。

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欲求階層説のピラミッド構造

欲求階層説はピラミッド状の構成で整理されることが多く、ピラミッドの1層目(最下層)に「生理的欲求」、2層目に「安全欲求」、3層目に「所属と愛の欲求」、4層目に「尊重欲求」と積み上がっていきます。

そして、人間は自己実現に向かって絶えず成長するとの考え方に基づき、最も高次な欲求と考える「自己実現欲求」をピラミッドの5層目(最高層)に置いています。

基本的には低い層から順番に現れ、ある程度(完全でなくても)その欲求が満たされると次の欲求が現れる仕組みですが、必ずしも順番通りに現れるわけではなく、低次の欲求が満たされなくても高次の欲求が強く出現する場合もあります。

欲求の階層①生理的欲求

生理的欲求とは、間の生命維持に不可欠とされる食欲や睡眠、排泄などの欲求を指します。次の段階に進むためにも、まずは生理的欲求が満たされていることが前提となる土台の部分となります。

人間にとって生理的欲求を満たすことが最優先とされ、睡眠不足、空腹の状態に陥れば勉強や仕事など何も手が付かないことかと思います。

欲求の階層②安全欲求

安全欲求とは、身体的・経済的に安定した状態を得たい欲求を指します。生理的欲求がある程度満たされると、安全な環境で暮らしたい、健康状態を維持したい、経済的に安定したいといった欲求が生じるとされます。

生理的欲求と同様に生命維持に関わる不可欠な欲求であり、紛争や天災などで身の安全を脅かされたり、病気で健康を損ねたり、経済的に困窮したりする状態においては安全欲求が強く現れます。

欲求の階層③所属と愛の欲求(社会的欲求)

所属と愛の欲求(社会的欲求)とは、家族や会社など何らかの集団に所属し、所属する集団に受け入れてもらいたい、所属しているといった安心感を得たいといった欲求を指します。

生理的欲求や安全欲求が満たされても、自分を受け入れてくれる他者がいない生活においては所属と愛の欲求は満たされず、孤独や不安を感じるものと思われます。

欲求の階層④尊重欲求(承認欲求)

尊重欲求(承認欲求)とは、所属する集団で高く評価されたい、自分の能力を認めてもらいたいなど他者の評価を得ようとする欲求や、自己への評価(自己肯定感)を満たしたいといった欲求を指します。

例えば、就職することで社会的欲求はある程度満たされますが、職場において実績を評価されなかったり、自分に自信がもてなかったりすれば尊重欲求は満たされているとは言えません。

欲求の階層⑤自己実現欲求

自己実現欲求とは、自分らしく生きていくことを追求したいといった欲求であり、他の4つの欲求が満たされると現れると言われています。

自分らしさの形は人それぞれ異なっているものですが、自らの可能性を最大限に発揮したり、自分にしかできないことを成し遂げたりしようとする欲求と言えます。

「欠乏欲求」と「成長欲求」

これらの5つの欲求は、欠乏欲求と成長欲求に分類することができます。

欠乏欲求とは、足りないと不満足が生じる欲求のことであり、①生理的欲求・②安全の欲求・③所属と愛の欲求・④承認の欲求が分類されます。成長欲求⑤自己実現欲求を指し、自分自身の成長への欲求と言えます。

欠乏欲求は、ある程度満たされると弱まり、別の欲求が生じてくるものと考えられています。一方で成長欲求は、満たされていく(自身が成長する)ことで欲求が弱まることはなく、むしろ関心が増して強くなると考えられています

追加された6段階目の欲求「自己超越」

マズローは晩年に上記の5段階に加えて「自己超越(超越)」について示しています。自己超越とは、自己実現を超えた段階であると考えられ、自我を忘れて目的の遂行や達成のみをただ純粋に求めるようになると言われています。

自己実現までは自分にベクトルが向いているところがありますが、自己超越の領域になると、他者の賞賛も必要とせず自己にとらわれない行為を志向するようになります。

その結果、周囲からの評価や賞賛を求める欠乏欲求とは異なる、他者や社会のために行動したい、何か達成したいといいった奉仕や献身、利他的な状態になる点が自己実現との違いとして挙げられます。

欲求階層説の仕事等への活用例

冒頭でもお伝えしましたが、この欲求階層説は心理学のほか、マネジメントやマーケティングなど様々な分野で活用されています。

アセスメント

クライエントをアセスメントする際、相手が今どこの段階にいるのかを把握することで、サポートする優先順位を決めることができ、より適切な助言につながることが期待されます。

例えば、職場で評価されず、仕事にやりがいも感じないと語る一方で、病気によって健康が損なわれており、睡眠不足や食欲減退が続いている様子も窺えたとします。

その場合、尊重欲求や自己実現欲求だけでなく、生理的欲求や安全欲求も十分に満たされていない状態であるため、まずは休息や医療的なサポートを得るなど低次の欲求を満たすことで土台を作った上で、尊重欲求や自己実現の充足へ支援するといった道筋を検討するといったアセスメントも考えられます。

医療・看護の現場においても同様に、患者がどの段階にいるのかを把握することで必要なケアにつなげることができます。

例えば、まずは治療を行うなど生理的欲求や安全欲求の充足が優先されますが、症状が落ち着いてくれば、次の段階である所属と愛の欲求を満たすために患者とのコミュニケーションを取ることも必要となってきます。

マネジメント

組織を適切にマネジメントする上では、従業員が今どこの欲求段階にいるかを把握することが重要となります。欲求階層説をマネジメントに活用したものがマグレガーの「X理論・Y理論」です。

X理論・Y理論は、人間観や動機付けに関する理論であり、人は強制しなければ働かないといった性悪説に基づいたX理論と人は自発的に働くといった性善説に基づいたY理論に分けられます。

X理論は従業員には強制や命令によって仕事を与えて、報酬と処罰を使いながら管理していくマネジメント手法であり、生理的欲求や安全欲求など低次の欲求を多く持つ人の動機付けに有効とされます。

一方、Y理論は強制的に管理をするよりも、魅力のある目標を与えることで人を動かしていく手法であり、尊重欲求や自己実現欲求など高次の欲求を多く持つ人の動機付けに有効とされています。

例えば、生理的欲求や安全欲求など低次の欲求が満たされている状況においては、より高次の欲求を満たすことができるようY理論に基づいて自主性を重んじたマネジメントが効果的であると言えます。

マーケティング

マーケティングにおいても、顧客の欲求段階を知ることが適切なアプローチにつながるとして欲求階層説が活用されています。

例えば、住宅を販売するにしても、耐久性から安全欲求に訴求するのか、個性的なデザインで尊重欲求に訴求するのか、マイホームを持つことで達成できる夢や目標など自己実現に訴えるかは相手の段階によって変わってきます。

また、生活水準が上昇し、生理的欲求や安全欲求がある程度満たされている状況下だからこそ、SNSという誰かとつながる、承認されるといった社会的欲求や尊重欲求が満たすサービスが普及していることも考えられます。

このように、欲求階層説を押さえておくことで、顧客や市場を理解することにつながります

マズローの欲求階層説への批判

人間の欲求を5段階に分けて整理した欲求階層説は分かりやすいことから、様々な分野で活用されている理論ですが、一部で以下のような批判も挙げられています。

まず、5つの欲求自体は多くの人が持ち合わせていると考えられるものの、生理的欲求から自己実現欲求へ順番に並び、段階的に現れるという点においては、裏付けとなるエビデンスが乏しいと指摘されています。

また、自己実現に邁進するあまり寝食を忘れて没頭したり、経済的に困窮したりする人もいるなど、欲求の段階は人それぞれの価値観の違いによって変わり得るとの意見も挙がっています。

さらに、欲求階層説は一部の西洋人のライフスタイルを背景に提唱された理論であるとして、文化的な思考や行動様式の違いまで考慮されていないといった点も指摘されています。

マズローの欲求階層説について学べる本

ここでは、マズローの欲求階層説について詳しく学ぶ上で参考になる書籍を紹介します。

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マズローという人物や思想を押さえた上で、マズローの主要理論が整理されており、分かりやすい表現でまとめられています。マズロー心理学の概要を理解することができ、お勧めできる1冊です。

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マズローの著書であり、欲求階層説を含めマズローの理論について詳細に解説されています。ボリュームが多いですが、マズローの考え方や理論について正しく理解することができます。

欲求階層説は自身のモチベーション管理にも活用できる

マネジメントやマーケティングにおける欲求階層説の活用例などについて紹介してきましたが、私たちの日常生活に活用することができます。

例えば、自身の欲求を挙げていき、それらを階層ごとに分類する作業の中で、今の自分に何が不足しているか理解することができ、それを適切に補うための行動を取ることができると考えられます。

例えば、生理的欲求や安全欲求が多ければ、きちんと食事や睡眠を取るなど生活リズムの見直し、所属と愛の欲求であれば、趣味や習い事など新たな対人関係を広げるなど、自分自身の欲求段階に合わせた対策が可能となります。

自分の欲求に目を向けて整理することで、モチベーション管理の手掛かりを得ることができるなど、日々の生活をより良くすることにも役立つ考え方と言えます。是非、活用してみてください。

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参考文献

  • 村山昇 著 若田紗希 イラスト(2018)『働き方の哲学 360度の視点で仕事を考える』ディスカヴァー・トゥエンティワン
  • 中野明 著(2016)『マズロー心理学入門―人間性心理学の源流を求めて』アルテ
  • 北岡たちき 著(2020)『マズロー心理学と欲求階層~自分の本音を思い出す~』(Kindle版)

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    • この記事を書いた人

    blue_horizon

    民間企業在職中に心理カウンセラーを志し、心理学を学び始める。臨床心理士指定大学院卒業後は、司法及び産業領域の心理職として稼働。公認心理師・臨床心理士。

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