心理学の歴史と研究法 臨床・心理療法

社会構成主義とは?ナラティヴ・アプローチにつながった理論的立場を解説

19世紀に世界で初めての心理学実験室が設立されてから始まった心理学は、比較的新しい学問といえます。その心理学が今日までの発展を遂げられたのは、他の学問からの影響を受けてきたからです。その一例として今回は社会構成主義を取り上げ、ご紹介します。

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社会構成主義とは

社会構成主義とは、その名にあるようにもともと社会学に位置づけられる学問です。

社会構成主義の意味と定義

社会構成主義とは、「社会の様々な事象は人々の頭の中で作り上げられたものである」とする立場のことです。

そもそも社会構成主義は、本質主義と呼ばれる考えの反証として発展しました。

本質主義では、「日本人は勤勉だ」などの人種・民族・性別といったカテゴリーには変わることのない性質があるとする立場です。

しかし、このような考え方は特定の集団に帰属する個人への偏った見方であるステレオタイプ偏見を助長しかねないという側面も持ち合わせています。

そこで、本質主義への批判として社会構成主義が台頭することとなりました。

社会構成主義の具体例

よく「日本人は勤勉だ」という言葉を耳にします。

これは日本人というカテゴリーに属する人間の本質が勤勉であるという本質主義に倣った考え方です。

しかし、ここで日本人が誰を指すのかをよくよく考えてみると、全員が当てはまるわけではないことが考えられます。

例えば、「日本で生まれたけど、幼少期から海外で育ったもの」です。

日本人が勤勉だという性質を身に着けるうえで影響を与えている要因としては次のようなものが挙げられます。

  • 道徳心や規律を重んじる教育
  • 周囲との関係性を重視する文化的背景
  • ビジネス場面における出勤時間や納期遵守といった制度

つまり、日本人が勤勉だという性質は、日本という環境において望ましい人間像が、これまでの社会的かつ歴史的な過程を経て構築されたものであると言えます。

心理学における社会構成主義

それでは、社会構成主義は心理学においてどのような影響を与えてきたのでしょうか。

ガーゲンによる社会構成主義の発展

社会心理学者であるガーゲン,K.は社会構造に焦点をあてた研究分野である社会構成主義を心理学の領域で理論化しました。ガーゲンは同じ言葉であっても社会背景によってその使われ方が異なると指摘しています。

例えば、「家」という言葉の社会的意味を考えてみましょう。封建社会での「家」は家柄つまり社会的なステータスの意味合いを強く持っていました。

しかし、現在では住居を指す言葉として用いられているのです。

このように言葉を巡る人間の認識をガーゲンは次の3点にまとめています。

  • 社会的常識は長い時間をかけた文化的歴史的産物である
  • 社会的知の構築は、言語的相互作用の中でなされていく
  • 社会行為に伴う現象は、その行為をどのように意味づけるかによって変わる

自己研究への批判

また、ガーゲンはこれまでの自己研究について次のように批判しています。

自己概念についての伝統的な研究は、広く共有された2つの特徴によって印づけられている。伝統的研究は、機械論的かつ共時的になりがちなのである

機械論的とは、人間を外部から入力された情報に対し反応する機械のように捉え、情報の入力と行動の表出との関係を明らかにしようとするものです。

また、共時的とはある一定時点での自己の一部にしか関心が向けられないことを指します。

これに対しガーゲンは自己が能動的であり、歴史的に生成される存在としてとらえ、個人の語りを重視しました。

加えて、自己物語は個人のものであるが、その生成と維持は根本的に社会的のものであると指摘し、他者との関係の中で達成される社会的な構成物であると主張しました。

社会構成主義の心理療法

社会構成主義の個人の語りを重視する姿勢は、ナラティヴ・セラピーと呼ばれる技法に応用されています。

ナラティヴ・アプローチ(ナラティヴ・セラピー)

ナラティヴ・セラピー(narrative therapy)とは「クライエントが自分の人生の専門家であり、その個人の行動はその主観的に形成された価値基準に基づいて行っている」という原理の元行われる心理療法です。

ナラティヴ・セラピーは1980年代後半にホワイト,M.とエプストン,D.の2人によって開発されました。

ナラティヴ・セラピーでは、悩みを抱えたクライエントがカウンセラーの元を訪れるのは、クライエントを取り巻く社会的な文脈の中で何らかの問題行動を引き起こす人生物語(ナラティブ)を描いているためであると捉えます。

ナラティヴ・セラピー実施の流れ

ナラティブセラピーは次のような流れで行われます。

①悩みを抱えているクライエント自身の人生の物語を聞く

②問題をクライエントから切り離し、外在化する

別の物語に書き換える

クライエントが話す幼少期からの物語は、その多くが否定的なものであり、クライエントの人生で起こったすべての出来事を網羅しているわけではありません。

そしてその物語にはクライエント自身のもつ価値観によって、自分が大切だと思っている道徳や社会規範に基づいて意味がある・重要な出来事を組み合わせて物語を作っています。

この時、クライエントは自分が認識している物語に支配されている状況であり、ナラティヴ・セラピーを開始した当初に語られる物語のことをドミナント(支配)・ストーリーと呼びます。

そこで、ナラティヴ・セラピーではクライエントが語る物語に耳を傾けながら、物語に名前を付けてもらうなどして問題をクライエントから切り離し、客観的に見つめ直します。

そして、客観的な視点を持った対話の中で現れる例外的な出来事を取り入れた別の物語(オルタナティブ・ストーリー)を構築していくことでクライエントの社会適応を援助するのです。

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社会構成主義への批判

社会構成主義は、個人の主観及び社会的な認識の枠組みに注目した立場です。

しかし、いきすぎた社会構成主義の立場では客観的な事実そのものを否定しかねません。

特に心理臨床の分野では、クライエントに対する治療的介入の効果がどれほど出ているかという客観的な指標を評価することは、クライエントの治療動機や治療アプローチの変更といった点でとても重要です。

社会構成主義について学べる本

社会構成主義を学ぶ上で参考にして頂きたい書籍は次の通りです。

現実はいつも対話から生まれる 社会構成主義入門

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社会構成主義を心理学分野に応用したことで有名なガーゲンによる社会構成主義の入門書です。

社会構成主義の基本的な理解に加え、セラピーや組織論、教育分野などの領域への応用についても説明がなされています。

社会構成主義の理論と実践

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社会構成主義が台頭してきたことの背景から、社会心理学、精神病理学の分野にある諸問題を社会構成主義的に捉えなおすという試みを行っています。

内容が少し難解なため、入門書を読み、社会構成主義に関しての理解を深めてから手に取るのがおすすめです。

ナラティヴ・セラピー 社会構成主義の実践

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社会構成主義の考えに基づいた心理療法を学びたい方へおすすめの書籍です。

ナラティヴ・アプローチや家族療法などの技法が臨床現場でどのように行われるかについて学ぶことができます。

主観と客観の両立を

本質主義など客観的事実を批判する形で台頭してきた社会構成主義は、心理学の分野においてもクライエントの主観的な認識の枠組みに対して介入するナラティヴアプローチの発展に寄与しました。

このクライエントと共に物語を書き換えていくという介入の姿勢は現代のカウンセリングに大きな影響を与えています。

今回ご紹介した書籍でぜひ社会構成主義に関する学びを深めてはいかがでしょうか。

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参考文献

  • 浅野智彦(2006)『近代的主体の変容と自己物語論』法社会学 2006(64), 28-42,27
  • 楡木満生(2005)『ナラティヴ・セラピーの理論と実際 (焦点 ナラティヴと保健医療)』日本保健医療行動科学会年報 20, 47-56
  • 崎山治男(2018)『語りへの包摂・語りへの排除 : ナラティブと心理主義化』立命館産業社会論集 54(1), 77-89

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    • この記事を書いた人

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    臨床心理士指定大学院に在学していました。専攻は臨床心理学で、心理検査やカウンセリング、心理学知識に関する情報発信を行っています。

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