サイコパスとは?心理学の観点からその正確な意味や特徴を解説

2021-02-13

新聞の一面を飾るような大事件が世間を賑わせるときにしばしば「サイコパス」という言葉を耳にします。しかし、サイコパスと呼ばれるような人には、どのような特徴があるのでしょうか。今回はサイコパスの意味や犯罪との関係性を学び、単なる「怖い人」というイメージから脱しましょう。

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サイコパスとは

サイコパスとはいったいどのような概念なのでしょうか。

その意味や特徴を見ていきましょう。

サイコパスの意味と定義

サイコパス(Phychopaths)とは、精神病質パーソナリティ(Phychopathic Personality)を指す用語です。

様々な研究者による定義づけが発表されていますが、共通項をまとめると次のようになります。

精神病質者とは、非社会的・攻撃的で極度に衝動的な人物であって、ほとんどの場合全く罪悪感を持たず、また他人とも永続的な愛情のきずなを結ぶことが出来ないものをいう。

この言葉は精神医学の父とされるクレペリン,Eのパーソナリティ研究にまで遡ることができます。

古くからパーソナリティの異常を対象とした研究は存在していましたが、クレペリンは1986年に、心理臨床の現場で得られた知見を通じて、異常な人格である精神病質パーソナリティの分類を行いました。

シュナイダーによる異常性格の類型

そして、クレペリンによる精神病質をより詳細に記述したのがシュナイダー,Kです。

シュナイダーは、サイコパスを「本人が異常に苦しむ」もしくは「周囲の他者が苦しめられる」パーソナリティであるとし、次のような10類型を提唱しています。

なお、これらの類型は先天的な個性であるとされています。

シュナイダーによる異常性格の類型

  • 発揚性:明るくて行動的だが、浮かれやすく思慮が浅い。
  • 抑うつ性:自己否定的で物事を悲観的に考え、絶望しやすい性格。
  • 自信欠乏性:自分に自信がなく、些細な悩みを抱えたり、しきたりや決まりにとらわれ強迫的な行動を示す。
  • 狂信性:単一の思想や価値観に傾倒し、それ以外を排除しようとする。
  • 顕示性:優れた人物として周囲から尊敬・注目を集めるためにどのような手も用いる。
  • 気分易変性:気分が変わりやすく、ハイになったり抑うつになったりを繰り返す。
  • 爆発性:衝動や怒りを抑えられず、短気で暴力的。
  • 情性欠如性:感情表現が乏しく、周囲と親密になることが困難で幸福感が乏しい。
  • 意思欠如性:しっかりとした主張ができず、周囲に流されやすいため、他人からの勧誘・誘惑にすぐ乗ってしまう。
  • 無力性:意欲や行動力が乏しく、自分が重篤な病気でないかと不安を抱きやすい。

このシュナイダーによる異常性格の分類は現在のパーソナリティ障害の類型のベースとなっています。

サイコパスと犯罪

一般的にサイコパスという言葉は連続殺人など猟奇的でショッキングな犯罪と密接な結びつきを持っているイメージが強いかと思います。

これに最も近いのは、上記のシュナイダーによる異常性格の分類のうち情勢欠如型です。

情勢欠如型のパーソナリティは羞恥心や良心がまったくもって欠けており、暗く、冷淡で行動はしばしば活動的かつ粗暴という特徴を持っています。

そのため、多くの人には理解しがたい残忍かつ思いもよらない犯罪を行ってしまうと考えられているのです。

サイコパスの原因

結論から言うと、サイコパスの原因は特定されていません。

先にご紹介したシュナイダーは、精神病質を先天的要因、つまり生まれ持って備わった性質であると考えていました。

しかし、現在では遺伝学的な立場、神経学的な立場、環境論の立場など様々な原因論が提唱されており、どの立場が正しいかという議論は続いているようです。

その理由としては、それぞれの研究分野で取り上げられるサイコパスの立場が不統一であり、それぞれの研究者が自分の立場に固執していて他の研究分野での知見を十分に取り入れていないことが挙げられます。

犬塚(1966)によれば、これらの混在するサイコパスを巡る議論の中から最も納得のいく説明は神経学的立場と環境論の立場を組み合わせた神経社会的立場であるとしています。

多くのサイコパスを対象とした研究では、幼児期に両親から拒否(虐待)された経験があることと頭部外傷等による何らかの精神異常が生じているという2パターンが示されています。

そのため、脳の器質的な異常と養育環境の2つがサイコパスの要因として考慮すべきだというわけです。

サイコパスを巡る心理学研究

サイコパスに関しての研究は犯罪心理学の分野で行われてきました。

サイコパス研究によって新たな知見が示されることで、犯罪を未然に防いだり、再犯を防止できる可能性があるのです。

それではどのような研究が行われてきたのでしょうか。

サイコパシー尺度

PCL-R(Phychopathy Checklist-Revised)は犯罪加害者のサイコパシーを測定するために開発された質問紙検査です。

全20項目で構成され、主に次のような2つの因子で構成されています。

要因①(PCL-R F1)

サイコパスの感情的・対人関係の傾向

具体的には、自責、共感性、責任の外罰化、魅力、誇大的、虚言、操作性などを測定する。

要因➁(PCL-R F2)

慢性的な社会的逸脱の傾向

具体的には、想起の行動上の問題、非行、刺激性追求、攻撃性、衝動性、他人への寄生、無責任、計画の失敗などを測定する。

サイコパスを測定する際にPCL-Rはもっとも有効で、広く用いられている尺度だと言われています。

ただし、反社会的な犯罪の構成員(例えば事件を起こした宗教団体や暴力団など)を対象とした実施を想定しており、すべてを記入し終えるまでに時間を要するという欠点を持っています。

サイコパスのタイプ

上記のPCL-Rの欠点から、通常のコミュニティに属する非犯罪者を対象とした自記式尺度として、PPI(The Phychopathic Personality Inventory)が開発されました。

PPIはPCL-Rと類似した「情緒-対人関係」と「社会的逸脱」の2要因から構成されています。これにより、サンプル数が少なく研究が困難であったサイコパスの特徴を扱う研究が行えるようになったとされます。

PPIの開発によってサイコパスは下位類型に分けられるということが分かっています。PPIでは「情緒-対人関係」と「社会逸脱」の2因子が抽出されており、どちらが高いかによってパーソナリティ特徴に違いがあります。

【PPI-Ⅰ型】

PPI-Ⅰ型は「情緒-対人関係」、つまり狡猾さや表面上の魅力、冷淡さなどが特徴的なタイプです。PPI-Ⅰ型のサイコパスは認知機能や言語性知能に優れており、自分の攻撃性や衝動性を調節できるという特徴が示されています。

つまり、頭が切れ、口がうまく、普段は良い人を演じながら、いざというときまでその恐ろしさを隠しておく人ということです。

このような人は、良い子として育てられ、権威者には従順ですが、地位や名声を求める野心家であり、自分の目標を邪魔する相手を排除するために手段を選ばないという冷徹さを備えるような特徴を持っています。

ただ、このようなタイプは社会的逸脱行動や衝動性との関連が低いことが示されており、どのようにして反社会的行動に結びつくのかについては検討がなされていません。

【PPI-Ⅱ型】

PPI-Ⅱ型は「社会的逸脱」、つまり衝動性や無責任さ、社会通念に従わないという社会的逸脱の側面が特徴的なタイプです。

PPI-Ⅰ型と異なり、知的な能力が高いとは推測しがたいため、自らの衝動性や攻撃性をうまくコントロールできず、何かストレスフルな出来事があるとその攻撃性によって問題を解決しようとする人物であると思われます。

また、感情に任せたストレス解消は身体的・精神健康を損なうということが示されています。

そのため、反社会的行動という形でストレスを発散しようとするも、その内面ではイライラや不安などの不快な状態は解消できず、反社会行動を繰り返してしまうという行動パターンに陥ると考えられます。

ただし、PCL-R、PPIは共に日本語版の開発はなされていません。

所属する文化や人種によって示される特徴が大きく変わる可能性も十分に考えられるため、いち早い日本語版の開発とそれを用いた実証研究が求められています。

サイコパスの類似概念

サイコパスに似た概念についてご紹介します。

反社会性パーソナリティ障害

サイコパスは古くからある言葉ですが、臨床心理学・精神医学における診断名として採用はされていません。

しかし、サイコパスはもともと健常者と精神病の間に位置する概念であり、現在のパーソナリティ障害に非常に近いと考えられます。

パーソナリティ障害には様々な類型があることが知られていますが、その中でも反社会性パーソナリティ障害についてご紹介します。

というのも、反社会性パーソナリティ障害は攻撃的・衝動的で無責任な行動を繰り返す、人を騙したり、犯罪を行うことに良心の呵責がまるでないといった、サイコパスのPPI-Ⅱ型に酷似した特徴を示します。

よく似たパーソナリティ障害に「自分の価値を高めるため、賞賛をや注目を浴びるために手段を選ばない」自己愛性パーソナリティ障害というものがあります。

両者は他者への共感性の欠如や利己的で他人を利用することに躊躇ないという共通点を持っています。

しかし、自己愛性パーソナリティ障害は賞賛を得るために不適応行動をとるという明確な理由があり、その攻撃性や衝動性の表出は社会的制裁を受けるような事件性のあるものにまで発展することは通常ないという違いがあります。

ソシオパス

ソシオパス(社会病質)とは、リッケン,Dによって提唱された用語です。

この概念は米国精神医学会の診断基準であるDSMの初版では精神障害の1つとして掲載されていたようです。

リッケンによればサイコパスは生まれながらの気質や性格といった先天的なものであるのに対し、ソシオパスは生後の養育などから形成された反社会的な性格であるという違いがあるとされます。

しかし、サイコパス研究が進むにつれ、サイコパスの原因に遺伝的な要因のみではなく、非遺伝的な要因も関連していることが明らかになってきたことにより、両者はほぼ同義として使われることも多いとされています。

サイコパスを学ぶための本

最後に、サイコパスについてさらに深く学ぶための本をまとめます。

サイコパス -冷淡な脳-

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シリアルキラーなどの異常犯罪者を現代の脳科学や神経科学の観点から説明している本書は犯罪心理学分野で大きな問題となっている「サイコパス」を深く掘り下げている良書です。

これからサイコパスについて詳しく学びたいという方にはぜひ手に取っていただきたい一冊です。

まんがでわかる 隣のサイコパス

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凶悪犯罪者のイメージが強いサイコパスですが、PPIなど一般を対象としたサイコパス研究の発見から、サイコパスの傾向がみられる人は社会の中に溶け込んで過ごしていることが明らかになってきました。

漫画形式で書かれているため、難解な表現に挫折してしまうこともなくスラスラと読み進められるでしょう。

犯罪心理学研究を行う重要性

サイコパスなどの犯罪者の心理を研究することは非常に重要です。

通常では心神喪失状態とみなされない限り、更生させるために刑務所へ送られます。

しかし、サイコパスは精神病院や刑務所での介入の成功率が低いことが知られており、刑罰を加えても再犯率を下げることが出来ないのです。

しかし、異常性格であると判断された時点で、社会復帰できないよう犯罪の重篤度を問わず永遠に隔離してしまうというのは人権の問題にも抵触します。

そのため、犯罪者の心理的な傾向をつかみ、どのようにすればそのパーソナリティの偏りに対して有効なのか、反社会的行動を減らせるのかについて研究していく必要があるのです。

参考文献

  • 犬塚石夫(1966)『精神病質』犯罪心理学研究 3(2), 56-59
  • Kilmann Peter R. [著] , 沢田 豊 [訳](1977)『社会病質者の会費学習に対する刺激強度の影響』犯罪心理学研究 12(2), 21-31
  • 金子周平(2018)『非犯罪者のサイコパス類型におけるパーソナリティ特性および精神病理の検討』人間学研究論集 (7), 129-139

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    • この記事を書いた人

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    臨床心理士指定大学院に在学していました。専攻は臨床心理学で、心理検査やカウンセリング、心理学知識に関する情報発信を行っています。

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