ピグマリオン効果とは、教育心理学の用語で、教師からの期待によって学習者の成績が向上する現象のことを指します(別名:教師期待効果)。教育心理学者ローゼンタールが提唱したことから「ローゼンタール効果」と呼ばれることもあります。
日常会話の中ではあまり使われないため、親しみが薄いかもしれません。ですが、人の期待が人の成長に及ぼす効果だと聞くと、身近なこととして実感できるのではないでしょうか。
今回は、ピグマリオン効果の意味や具体例に加え、関連する心理実験やそれに対する批判、実生活での活用法などをわかりやすく解説します。
目次
ピグマリオン効果とは
ピグマリオン効果とは、「将来知能が伸びる」と教師から期待された生徒の成績が、そうでない生徒の成績よりも伸びる効果を言います。アメリカの教育心理学者であるローゼンタールが発表しました。
ピグマリオン効果の意味と由来
ローゼンタールは、教師が期待をすることにより生徒への関わりが熱心になり、結果として生徒の学習意欲が向上した、と考えました。
ピグマリオンとは、ギリシャ神話に登場する王の名前が由来となっています。一流の彫刻家であったピグマリオン王は、自らが彫った女性像にの美しさに恋い焦がれてしまいます。王の祈りは、女神アフロディテに届き、女性像は生命を吹き込まれ、2人は幸せに暮らしたと言います。
ピグマリオン効果の具体例
では、ピグマリオン効果が日常で見られる具体例を考えてみましょう。
教師と生徒の関係を親子に置き換えると、親が子供を優秀だと期待することで、子供がそれに応えて勉強をし、その結果実際に優秀な子になる場合が考えられます。
ピグマリオン効果に関する心理実験
ここでは、先に述べたローゼンタールの実験をもう少し詳しく見ていきましょう。
実験の手続き
アメリカの教育心理学者であるRobert Rosenthal(以下ローゼンタール)は、サンフランシスコの小学生に知能テストを実施しました。そのテストについて、教師達に対しては「将来どの程度の成績が伸びるかを予測するもの」と嘘の説明をしました。そしてテスト結果として「今後成績が伸びると期待できる生徒」の名前が記載されたリストを各担任に渡したのです。
実験結果
8ヶ月後に再度小学校を訪れたローゼンタールが同じ知能テストを実施すると、将来伸びると教師に告げられた生徒の知能が、他の生徒に比べて伸びていたという結果になりました。
ピグマリオン効果に対する批判
ピグマリオン効果に対する批判の1つは、その実験手続きに対するものです。教師は名簿をざっと一度見ただけで、生徒の名前まで記憶していなかったというのです。
また、ローゼンタールが自身の論文で述べている以下のような報告があります。
期待を抱くことになる生徒とのつき合いがが2週間以内の教師の場合には91%の研究でピグマリオン効果が見られたが、2週間以上のつき合いがある教師では12%の研究でしか効果が見られなかった
(引用;胡琴、2017)
このことから、相手をよく知れば知る程、ピグマリオン効果が薄れていくということになります。
ピグマリオン効果を実生活で活かす方法
批判はあるものの、その後の研究から、期待の高い生徒に対しては、教師が生徒を伸ばすような行動(微笑む、うなずく、待つ、ヒントを出すなど)を取っていることが指摘されています。このことが、ピグマリオン効果を実生活で活かす時に役立つでしょう。
以下、子育て、人材育成、恋愛といった場面で、ピグマリオン効果を活かす方法を見ていきましょう。
子育て
ピグマリオン効果を子育てで活かそうとするなら、子どもが問題に直面した時、子ども自身が考えられるように待つことが考えられます。子供一人では解決できないことであれば、親が答えを与えるのではなく、ヒントを与えながら子ども自身が答えにたどり着けるようにすることもできるでしょう。
人材育成
人材育成においてピグマリオン効果を活かすためにも、上司が部下の伸び代を信じ、部下の仕事をまず認めることが効果的です。改善点があるとしても、まずは認めた上でアドバイスをすることで、部下の向上心が高まると考えられます。
恋愛
恋愛においてピグマリオン効果を活かすためにも、やはり相手を認めることから始まります。1日1回でも相手の素敵なところや頑張っているところを伝えていくと、相手のあなたへの態度も変わってくるかもしれません。
ピグマリオン効果と関連する現象
ここでは、ピグマリオン効果と関連する現象を2つ見ていきましょう。ピグマリオン効果と逆の現象である「ゴーレム効果」と、ピグマリオン効果と似た現象である「ハロー効果」についてです。
ピグマリオン効果と逆の「ゴーレム効果」
「ゴーレム効果」は、ピグマリオン効果の逆で、教師から成績の向上を期待去れない生徒が、以前よりも悪い成績を取るようになる効果です。
ピグマリオン効果と似た「ハロー効果」
「ハロー効果」は、肩書きや外見によってその人に対する評価や印象が左右されるという効果です。ピグマリオン効果では期待される相手の変化に着目しているのに対し、「ハロー効果」では相手への評価に着目しています。
ピグマリオン効果について学ぶ本
ピグマリオン効果などの心理効果について更に詳しく知りたいという方におすすめの本を3冊ご紹介します。
動機づける力 モチベーションの理論と実践
ピグマリオン効果を始めとした「やる気」を引き出すマネジメントについて解説した本です。
眠れなくなるほど面白い 図解 社会心理学
ピグマリオン効果に限らず、対人関係や社会における個人の心理について幅広く学べる入門書です。
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ピグマリオン効果のまとめ
これまで、ピグマリオン効果の意味や由来、具体例、心理実験、批判、実生活で活かす方法、関連する現象について学んできました。効果についての見解が分かれるということは、相手への期待からどのような行動を取るか、相手との信頼関係など様々な要因があるということです。
個々の対人関係の中で、相手と自分を良く観察しながら、丁寧にピグマリオン効果を活かしていけると良いでしょう。
参考文献
- 中山勘次郎(2010).「教師の期待は子どもを伸ばすかーピグマリオン効果を超えて」、児童心理7号、531-537
- 胡琴菊(2017).「ピグマリオン効果は本当なのかー教育現場での6年間の実験的研究結果からみるー」、日本教育心理学会第59回総会発表論文集
- Rosenthal,R.&Jacobson,L.(1968).”Pygmalion in the classroom.‘’,Holt,Rinehart&Winston
- 只石朋仁(2014).「ピグマリオン効果」、理学療法ジャーナル48巻8号、737