同調とは?意味や同調圧力に負けない方法、心理学の実験例を解説

2021-09-22

社会的動物である人間に特徴的な傾向として同調が挙げられます。

それでは、心理学における同調とはどのような意味を持っているでしょうか。同調に関する有名な心理学実験を例に挙げると共に、同調圧力に屈せず同調しない方法についてもご紹介します。

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同調効果の意味とは

同調効果とは、ある個人が、集団や他者の設定する標準もしくは期待に沿って行動することを指します。

この現象は特に集団状況において、その集団に所属している他のメンバーが一致して自分とは異なる意見を主張しているときに生じやすいということが分かっています。

同調実験の例

同調という行動は実験的操作によって作り出すことが出来ると言われています。

今回は同調実験で最も有名なアッシュの線分を使った実験をご紹介します。

アッシュの線分の実験

同調の現象が起こることを実験的に示したもっとも有名な実験が社会心理学者であるアッシュ,S.E.が行ったものです。

この実験では次のような手続きで行われます。

まず、図₁のような絵を何枚か用意し、何人かの集団に対して、左に示した線分と同じ長さの線が右の3本の中のどれなのかを一人ずつ順番に選ぶよう教示します。

このこと自体はとても簡単なので、1人で回答する場合であれば、ほぼ全員が正解することが出来ます。

しかし、この集団の被検者はあくまで1人であり、そのほか全員はサクラのため、実験者の意図した通りに行動するという仕掛けを施しています。

そして、被検者はグループの最後に回答するように設定し、1人目から順番に回答をさせていきます。

1巡目・2巡目はサクラも正解の線分を選ぶようにしますが、3巡目から急に明らかに間違った1つの線分を全員が選ぶようにし(例えばサクラ全員がどう見ても長すぎるBの線を選ぶ)、一番最後に答える被検者がどの線分を選ぶのかを観察します。

その結果、正しい長さの線分を答えられたのは50人のうち13名のみであり、約75%の人がサクラと同じ線分を選んだのです。

図₁:山際和明(2013)『1-333 Aschの同調実験を用いた技術者倫理教育の取組(オーガナイズドセッション:技術者倫理教育-I)』より

同調が起こる理由

それでは、なぜ人は正しいと思える自分の意見を持っていながら、それを隠し、他者に合わせてしまうのでしょうか。

その理由として、心理学研究では2つの同調を促す動機に注目しています。

規範的影響

規範的影響とは、端的に言ってしまえば、「多数派から受け入れられたい」という動機から生じる同調です。

これは、自分の判断に確信が持てなかったり、他者からの圧力を感じたりする場面において生じやすいということが指摘されています。

先のアッシュの線分の実験では、被検者は自分以外のサクラ全員が明らかに長さの違う線分を選んだため、自分が同じ長さだと思っている線分が正解だと確信が持てなくなってしまう状況を作り出しています。

そのため、多数派と同じ意見を答えることで集団に属する安心感を得たいという気持ちから、多数派であるサクラが回答した答えに同調してしまうという現象が起きたとも考えられます。

情報的影響

もう一つの情報的影響とは、他者からより正確な情報を得ようとする動機から生じる同調のことです。

この動機では、自分の判断や行動が正しいかを直接確認することが出来ない状況において、妥当な判断のよりどころに他者の意見や行動を求めるようになります。

先のアッシュの実験において、被検者がサクラ全員に対し、明らかに長さの異なる線分を選んだ理由を訊いて回ることが出来れば異なる結果になったかもしれませんが、そのようなことはできないため、判断が正しいのかを確認できず同調が生じたと解釈することが出来ます。

同調しやすさにおける個人差

しかし、アッシュの実験において、実験操作により同じ状況を作り出したにもかかわらず、25%の人は同調せず正しい答えを回答しています。

つまり、同調という行動が起こるのは、同調を促しやすい外的な環境と同調しやすい心理的な要因の個人差によって決定されると考えることが出来ます。

横田・中西(2011)では、同調行動の起こしやすさを、規範的影響と情報的影響への反応のしやすさ関する個人差を測定する同調志向尺度を開発しています。

この尺度は規範的影響と情報的影響の2因子から構成される尺度ですが、開発過程における分析から、この2因子には弱い正の相関が確認されています。

つまり、規範的影響と情報的影響は完全に独立した概念ではなく、多数派に属したいという欲求から同調しやすい人は他者の情報を参照しやすいという傾向を持っていることが考えられるのです。

同調圧力とは

同調圧力とは、集団で意思決定をする際に周囲の意見と同調させるよう働く圧力のことを指します。

同調圧力の例

例えば、飲食店に複数人で行ったとしましょう。

自分以外の人が「最初の一杯はビールで乾杯をしよう」とビールを注文する中、お酒が好きではないのでソフトドリンクを注文したいのに、自分だけ別の飲み物を注文することに気まずさを感じることは想像に難くないでしょう。

そして、その気まずさから周囲に合わせ(同調してしまい)、ビールを注文してしまいます。

このような、周囲と同調をしなかったときに感じられる気まずさが同調圧力であり、個人の意思決定に大きな影響を及ぼすことが指摘されています。

同調圧力の否定的な側面

井口・河村(2021)は同調圧力に関する先行研究を概観し、同調圧力の持つ否定的な側面を次の3つにまとめています。

  • 同調圧力が高まった集団においては、スケープゴートなどにみられる異質性排除の傾向がみられること
  • 集団の同調圧力が高まることで、有益な発言が抑制され、集団思考の結果、適切な合意形成が妨げられること
  • 表面的な同調は心的葛藤や認知的不協和を引き起こすが、集団から孤立する不安や緊張を低減する情緒的な作用が働き、同調行動の維持に繋がっていること

特に学校のような個人が集団を離脱しにくいような状況では、同調圧力がいじめのような問題につながる危険性もあります。

例えば、仲良しグループに同調しない人はいじめのターゲットとなり、いじめは良くないと集団のメンバーの中で思う子がいても、その発言は抑制され、自分がいじめに加担していることに葛藤を抱きながらも集団に同調していることで自分が仲間外れにされず、新たないじめのターゲットになることはないという安心感を得られるということが挙げられます。

同調しない方法とは

同調は集団としてのまとまりを強める一方で、否定的な側面も持っています。

それでは、同調圧力に屈せず、同調しないためにはどのようなことが求められるのでしょうか。

安心感の得られる人間関係

同調圧力に屈することなく、自分の思ったことを表現するためには、同調しないことで集団から除外されることへの不安を軽減することが求められるでしょう。

そのため、普段からの人間関係が非常に重要となってきます。

そもそも、集団に同調しないことで除外されるという不安を抱くということは、異なる見解をグループ内で発言し、話し合うことが出来る環境が整っていないことが予想されます。

そのため、ある発言に対し、他のメンバーは拒絶や否定をしないという心理的な安心感を得られる関係性を作るよう目指しましょう。

終始一貫した言動

また、既に同調圧力が高まっている状況では、有益な発言が抑制されがちとなっているでしょう。

そのため、適切な合意形成がなされないことは大きな問題です。

しかし、そのような集団の決定に対し、異を唱え、自分の主張がいかに正しいのかを論じねじ伏せたところで集団内で良好な人間関係を保つことはできません。

このような場合、多数派で占められた意見に対し、少数派の意見をどのように扱うのかということが重要になってきます。

少数派が多数派に対し影響力を持つためには、少数派の言動が終始一貫していることが重要であると指摘されています。

このような言動から、多数派は少数派の意見と自らの主張の間に葛藤を感じるとされており、その葛藤を解決するために両者の意見が調整され、新しい規範が生み出されます。

これによって、無理に同調することなく、集団のメンバー全員が合意した意思決定を行うことが出来るのです。

同調について学べる本

同調について学ぶことのできる本をまとめました。

集団行動の心理学―ダイナミックな社会関係のなかで (セレクション社会心理学)

同調は集団において起こる現象であり、意思決定過程や合意形成など集団行動の様々な側面について学ぶことは同調に関する学びに役立つでしょう。

同調圧力の正体 (PHP新書)

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日本では他者とのつながりを意識する自己観を持っている人が多いことが知られています。

しかし、その一方で同調圧力に関する問題は深刻なものとなっています。

同調圧力が生じる背景やメカニズムについて深く切り込んでいる本書から、空気を読むという同調圧力の正体を探ってみるのはいかがでしょうか。

自分の意見を大事に

同調は集団において、多数派の意見が自分のものと異なるときに生じやすいことが知られています。

これによって、その場の人間関係を円滑にすることが出来る場合もありますが、あまりにも周囲に合わせすぎてしまうのも考えすぎです。

これが自分にとって「負担だな」と感じられる同調圧力なのであれば、自分の意見を大事にすることをお勧めします。そして、その自分の個性を尊重してくれる人たちに囲まれるよう、人間関係を見つめ直してみるのはいかがでしょうか。

【参考文献】

  • 山際和明(2013)『1-333 Aschの同調実験を用いた技術者倫理教育の取組(オーガナイズドセッション:技術者倫理教育-I)』工学教育研究講演会講演論文集 2013(0), 522-523
  • 横田晋大・中西大輔(2011)『同調志向尺度の作成--規範的影響と情報的影響』広島修大論集 51(2), 23-36
  • 井口武俊・河村茂雄(2021)『学級における同調圧力がもたらす否定的側面とその改善を検討した先行研究の展望』早稲田大学大学院教育学研究科紀要 : 別冊 28(2), 173-181

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    臨床心理士指定大学院に在学していました。専攻は臨床心理学で、心理検査やカウンセリング、心理学知識に関する情報発信を行っています。

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