リーダーシップ理論は学校やビジネスなど組織をより良くすることを目的としており、現代では欠かすことのできない研究分野です。それでは、今回はフィードラー理論と呼ばれるリーダーシップ理論を取り上げます。
コンティンジェンシー理論(条件即応モデル)とも呼ばれるフィードラー理論やLPC尺度などについて詳しく解説していきます。
目次
フィードラーとは
社会心理学の分野では、様々なリーダーシップ理論を研究する中で、どのようなリーダー像こそが集団にとって望ましいのか、リーダーはどのようにして集団を導いていくべきなのかという主題に取り組んできました。
そして、リーダーシップ研究において、リーダーの持つ特性と状況との相互作用を考慮して構築されたコンティンジェンシー理論の創始者がフィードラーという学者なのです。
フィードラーのコンティンジェンシー理論(条件即応モデル)とは
フィードラーが提唱したコンティンジェンシー理論または条件即応モデルは次のような特徴を持っています。
【コンティンジェンシー理論の特徴】
- どのような状況、集団にも普遍的に通用する組織化や管理の方法を否定する
- 組織を取り巻く環境が異なれば、それに応じて有効な組織化や管理の方法も異なるため、その状況ごとに最も有効な組織化や組織の管理方法を追求する
- どのような状況にも当てはまる普遍的理論と個別的な事例研究の中間に位置する
つまり、コンティンジェンシー理論は、このようなリーダー像が望ましいとする理想像を提供する理論ではなく、それぞれの状況にあわせ、リーダーはどのように振る舞うのが効果的なのかという指針を示す理論であると言えるでしょう。
そして、コンティンジェンシー理論を考えていく上で重要となっていくのがLPC得点です。
LPC尺度とは
LPC
とはLeast Preferred Co-wokerの略であり、仕事をする上で、最も好きではない仕事相手のことを指します。
そして、リーダーとなる人物がLPCに対し、どの程度好意的な印象を持っているのかをLPC尺度によって測定することで、環境とリーダーの性格の間にある関係性を捉えようとするのです。
LPC尺度は次のような、対になっている形容詞18項目で構成されており、回答者は具体的な人物を思い浮かべながら各項目に対して1~8の物差しで回答します。
【LPC尺度の形式と項目】※抜粋例
今一緒に働いている人か、かつて働いたことのある人でもっとも一緒にうまく働くことのできない人を思い浮かべてみて下さい。この日とは一番好きでない人でなくても良いが、仕事をするにあたって、最も困難を監事つような人でなければなりません。対になっている形容詞の数字に丸を付けることによってこの人を評価してください。
愉快な | 8 | 7 | 6 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 | 不愉快な |
友好的な | 8 | 7 | 6 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 | 非友好的な |
拒絶的 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 受容的 |
支援的 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 阻害的 |
このように、〇のついた数字を足し合わせることで、合計点であるLPC得点を算出していくのです。
なお、LPC得点の高い人は人間関係志向、低い人は課題達成中心志向であるとされます。
【LPC得点の表す特徴】
- 人間関係志向(高LPC):LPCをポジティブに捉えることが出来る
- 課題達成中心志向(低LPC):LPCをネガティブに捉える
LPC得点の解釈
LPC尺度によって、リーダーが高LPCであるのか、低LPCであるのかが捉えられます。
コンティンジェンシー理論では、リーダーの持つ特性(LPCの高低)だけでなく、その特性と置かれた状況がどのようなものなのかを考慮して最善のリーダー像を決めるのでした。
そのため、LPC得点と次のような集団状況の対応を検討します。
【集団状況】
- リーダーと成員の関係:リーダーに対する信頼度の高さ
- 課題構造:集団に与えられている課題の性質がどの程度構造化されているか。(課題の目標や目標に対しどのような手順で取り組むかが明確になっているかどうか)
- リーダー地位勢力:誰がその位置につくかに関係なく、その位置に固有な勢力・権限が強いかどうか
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | |
リーダーと成員の関係 | + | + | + | + | - | - | - | - |
課題構造 | + | + | - | - | + | + | - | - |
リーダー位置勢力 | + | - | + | - | + | - | + | - |
高統制 | 中統制 | 低統制 |
フィードラーによる理論では、高統制もしくは低統制の状況においては課題達成中心志向(低LPC)のリーダーが率いる集団が高いパフォーマンスを残せるとしています。
逆に、中統制の集団においては、人間関係志向(高LPC)のリーダーが率いる集団が高いパフォーマンスを残せるのです。
このように、集団においてリーダーがどのように位置づけられているのかを考慮することによって、高いパフォーマンスを残すことのできるリーダー像は異なるのです。
フィードラーによるコンティンジェンシー理論の説明
LPC尺度と集団状況を照らし合わせることで、それぞれの集団の特徴にあったリーダー像が見えてきました。
高統制と低統制、つまり状況が良好な場合と良くない場合という真逆の環境において、課題達成志向中心のリーダーが良いパフォーマンスを残します。
それでは、なぜこのような対応関係になるのでしょうか。
フィードラー自身もなぜなのかについては「ブラックボックス」としていますが、その後の追試によってそのメカニズムの一部が説明されています。
そもそも、低LPCリーダーは人間関係よりも課題の達成に注目しやすいというパーソナリティ特徴を持っています。
しかし、このパーソナリティ特徴に基づいて行動するのは、ストレス負荷の高い条件下であり、ストレスの少ない状況ではパーソナリティと真逆の行動をとる傾向にあると言われています。
高統制の環境、つまり、集団に対しリーダーは優位性を持ち、部下に対し仕事の手順をいちいち口出ししたり、管理しなくても上手く仕事が回るような状況はリーダーにとってストレスの少ない状況です。
そのような状況下では、集団も働きやすいため低LPCリーダーが業務の指示を出したりするよりも、あえて集団に配慮し、それぞれの自主性を活かすよう働きかけるのです。
これに対し、低統制の環境は、リーダーにとってストレスの大きい環境になります。
こうなってしまうと、リーダーは抱えている負担が大きくなってしまうため、慣れ親しんだ行動、つまりパーソナリティ特徴によって導かれる行動をとりやすくなります。
低統制の集団とリーダーの関係が良好でない状況というのは、部下もどのようにとりくめば業務の成果を出せるのかが明確になっていません。
そのため、それぞれの自主性を重んじる配慮的な行動をとってしまうと、集団として1つの目標に対し効率的な行動をとることができなくなってしまいます。
そして、低LPCリーダーが本来持っている課題へコミットするよう働きかける特徴により集団を導くことによって高いパフォーマンスを残すことができると考えられているのです。
フィードラー理論について学べる本
フィードラー理論について学べる本をまとめました。
初学者の方でも手に取りやすい本をまとめてみましたので、気になる本があればぜひ手に取ってみてください。
組織の経営学―戦略と意思決定を支える
コンティンジェンシー理論が提唱されたことにより、ビジネスなど組織を導くリーダーに関する視点は状況との相互作用という視点から語られるようになりました。
そのような、大きな転換期を経て、コンティンジェンシー理論がどのように経営などのビジネス場面で応用されているのかをぜひ本書で学びましょう。
組織の条件適応理論―コンティンジェンシー・セオリー (1977年)
フィードラーがコンティンジェンシー理論を提唱してから、様々な学者によってその理論が検討されてきています。
ぜひ、これまでのコンティンジェンシー理論に関わる様々な研究について深く学びましょう。
最適なリーダー像ではなく、状況にあったリーダー像を
レヴィンによるリーダーシップ研究やPM理論はリーダーシップ研究の中でもとくに有名ですが、これらの理論ではリーダーが率いている集団の性質や集団との関係性という視点が含まれていません。
そのような意味で、重要な視点をリーダーシップ研究に取り入れたフィードラー理論は革新的なものであると言えるのです。
ぜひコンティンジェンシー理論を深く学び、自分の率いる集団にとって最適なリーダーとはどのような姿なのかを考えてみましょう。
【参考文献】
- 日野健太(2006)『リーダーシップのコンティンジェンシー理論におけるフォロワーの再考 : 状況から認識主体へ』駒大経営研究 38 (1・2), 19-60
- 白樫三四郎(2017)『フィードラーのリーダーシップ論とわたくし (1)』大阪経大論集 68 (1), 161-174
- 高橋潔(2012)『リーダーシップの本質』国民経済雑誌 205 (6), 51-66