BDI(ベック抑うつ質問票)とは?特徴やSDSとの違いについて解説

2022-06-13

人間の精神的健康を測るうえで重要となる概念である抑うつ。この抑うつの程度を測定する尺度の代表的なものの1つにBDI(ベック抑うつ質問票)が挙げられます。

それではBDIとはどのような尺度なのでしょうか。その特徴やSDSとの違いについて詳しく解説していきます。

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BDI(ベック抑うつ質問票)とは

BDI(ベック抑うつ質問票)とは、抑うつの代表的な研究者であるベックが開発した抑うつ症状の重症度を判定する自己記入式質問紙票です。Beck Depression Inventoryの頭文字を取りBDIと呼ばれています。

BDIは1961年に開発された当時は、臨床的に観察される症状と患者の訴える言葉を元に作成されており、特定の抑うつ理論やうつ病モデルを想定して作成された質問紙尺度ではありませんでした。

しかし、1994年に米国精神医学会が精神疾患の診断と統計マニュアル第4版であるDSM-Ⅳを発行した際に掲げた激越・無価値観・集中困難・活力喪失の4項目を加え、既存の質問項目を見直し、現在のBDI-Ⅱへと改良されました。

BDIの特徴

BDIは世界各国で翻訳版が開発されており、研究によってその信頼性・妥当性はしっかりと確認がなされているため、国際比較も可能であり、多くの心理学研究で用いられているということが大きな特徴です。

少ない検査項目でうつ状態の評価が可能なため、診断やスクリーニングの補助ツールとしてだけでなく、医療機関で患者の抑うつの程度の評価や治療経過の観察、企業での従業員のメンタルヘルス管理など広い分野で活用されている質問紙です。

ただし、BDIはうつ病かどうかの診断を行うためのツールではなく、被検者の抑うつの重症度がどの程度なのかを知るための目安として用いられます。

そのため、臨床的なうつ病の確定診断を得るためには医師の診察が必要となり、あくまでBDIはその補助ツールであることを忘れないでおきましょう。

BDI(ベック抑うつ質問票)の検査方法

BDIは非常に簡便ながら高い精度で重症な抑うつ症状を検知できるという特徴を持っています。

検査の所要時間は5分から10分程度であり、各質問項目は4件法、全21項目となっています。

BDIで検査される内容

  1. 悲しさ
  2. 悲観
  3. 過去の失敗
  4. 喜びの喪失
  5. 罪責感
  6. 被罰感
  7. 自己嫌悪
  8. 自己批判
  9. 自殺念慮
  10. 落涙
  11. 激越
  12. 興味喪失
  13. 決断力低下
  14. 無価値観
  15. 活力喪失
  16. 睡眠習慣の変化
  17. 易刺激性
  18. 食欲の変化
  19. 集中困難
  20. 疲労感
  21. 性欲減退

検査の実施方法と教示

実施は基本的に教示文を読み、質問項目を被検者が選択する自己記入法を取りますが、視覚障害のある方や集中力の持続が困難な方に対しては、検査者が口頭で質問文を読み上げて実施することができます。

検査は次のような教示文のもと実施されます。

【BDIの教示文】

この検査は21項目あります。それぞれの項目で、今日を含むこの2週間のあなたの気持ちに最も近い文章を一つ選んでください。当てはまるものが複数ある場合は、番号の大きいものを一つ選んでください。

BDI(ベック抑うつ質問票)の結果と解釈

各質問項目には0点から3点が設定されており、それぞれに丸のついた項目を加算し、全体の得点を算出します(得点範囲は0点から63点)。

そして、合計点数は次のような範囲で重症度の判定がなされます。

合計点数判定
~13極軽症
14~19軽症
20~28中等症
29~63重症

上の得点票は大うつ病と診断された患者の重症度の指標となる得点レンジを示していますが、BDIでは臨床上のスクリーニングや臨床研究での最適なカットオフポイント(介入が必要な抑うつの程度を示す得点)は明確に設定されていません。

これは、対象サンプルの性質とBDIを持ちいつ目的ごとに感度と特異度を考慮した調節が必要と考えられているからです。

そのため、研究などで重度の抑うつ患者を選ぶ際などはカットオフポイントを高めに、逆に健康調査などでうつ病の可能性のある人をもれなく知りたい場合などはカットオフポイントを低く設定するなどの工夫がなされることがあります。

注意が必要な項目

合計得点とは別に、次の項目の9番の得点には注意が必要です。

【BDI項目9番】

  • 自殺したいと思うことは全くない
  • 死にたいと思うことはあるが、本当にしようとは思わない
  • むしろ死んだほうがましだと思う
  • 機会があれば自殺するつもりである

うつ病で最も注意すべき事項は、患者の自殺です。

この項目で2点以上がついた場合は専門機関の受診が望ましいとされており、合計得点がそれほど高くないからといって油断することはできません。

うつ病は症状が重い重症期には自殺を行う気力が失われていますが、症状が軽快し、動けるようになってきた回復期の朝に一番自殺の危険性があることが指摘されています。

BDIの9番で得点が高い場合は、命を守るためにも速やかに専門機関による介入が必要とされるのです。

BDI(ベック抑うつ質問票)とSDSの違い

BDIの他にも抑うつを測定する質問紙尺度は多く、利用率の低いものも含めると50種類以上あるとされています。

その中でも、BDIとよく似ていて、臨床現場や研究で多く活用されている質問紙としてSDS(Self-rating Depression Scale)が挙げられます。

SDSとは

SDSは1965年にZungによって開発された尺度です。

BDIと同じように4件法によって質問に回答する方式であり、全20項目と簡便に抑うつの程度を測定することができます。

【SDSの構成】

  • 抑うつ感情(2項目)
  • 身体症状(8項目)
  • 精神症状(10項目)

BDIとSDSの類似点

SDSは質問項目数や測定概念などがBDIと非常によく似ています。

実際にBDIとSDSの相関を検討した研究では、相関係数が.71と非常に高い相関がみられています。

BDIとSDSの相違点

しかし、SDSは質問文の表現に大きな特徴があり、肯定的な表現10項目と否定的な表現10項目で構成されています。そのため、因子構造を検討すると、認知に関する肯定的な項目と感情に関する否定的な項目の2因子構造にまとめ上げられることが分かっています。

つまり、SDS得点が高いということは肯定的な認知が低いということ、ネガティブな感情が高いということが示されるということなのです。

これに対し、BDIは身体的・感情的要素と認知的要素の2因子のモデルになることが示されています。

BDIとSDSの使い方

BDIとSDSのこうした違いは項目の表現に応じて回答の内容が左右される応答バイアスを引き起こす可能性があります。

うつ病では自分の価値を低く見積もる認知バイアスの存在が古くから指摘されており、肯定的な表現の質問項目に強い否定を行うという認知バイアスの存在が指摘されています。

このバイアスは、それぞれの質問項目に等しい反応の仕方を妨げ、純粋な抑うつの測定を妨げる可能性があるのです。

このような理由もあり、臨床現場や研究において最も用いられていたSDSは近年使用頻度が落ちています。この点、BDIは応答バイアスの可能性は指摘されておらず、純粋に抑うつの程度を測定できる尺度として重宝されているのです。

BDIについて学べる本

BDIについて学べる本をまとめました。

初学者の方でも手に取りやすい入門書をまとめてみましたので、気になる本があればぜひ手に取ってみて下さい。

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BDIで測定される抑うつ。

実際にBDIを実施し測定する抑うつとがどのような概念なのかものなのかを本書でしっかりと学びましょう。

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心理臨床の現場でも用いられることの多いBDI。

ぜひ、心理査定がどのように行われ、心理検査がどのように用いられるべきなのかをぜひ本書からイメージを掴みましょう。

うつ病と抑うつ状態

BDIはあくまでうつ状態の重症度を測定する尺度です。

うつ病の診断は医師による診察があってこそはじめて下されるものであり、BDIの結果のみで判断するべきではありません。

しかし、治療経過を視覚的に把握しフィードバックするなど臨床現場で重宝されることには違いなく、BDIをどのように活用するのかをしっかりと把握することが何よりも重要だと言えるでしょう。

【参考文献】

  • 臼田謙太郎(2013)『臨床研究で使用する自己記入式抑うつ評価尺度の特徴』武蔵野大学心理臨床センター紀要 13 55-65
  • 西山佳子・坂井誠(2009)『日本人大学生に対するうつ病評価尺度(日本版BDI-II)適用の有用性(資料)』行動療法研究 35 (2), 145-154
  • 太谷明・佐藤学(1999)『SDS(Zungの自己評価式抑うつ尺度)の質問文の表現に関連した応答バイアスの検証』行動計量学 26(1), 34-45

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    • この記事を書いた人

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    臨床心理士指定大学院に在学していました。専攻は臨床心理学で、心理検査やカウンセリング、心理学知識に関する情報発信を行っています。

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