帰属とは?心理学における意味や具体例、帰属理論・帰属錯誤について解説

2021-10-11

帰属という言葉は、一般的にある特定の団体に所属すること、所属している状態のことを指す言葉です。

しかし、心理学においては、まったく別の意味合いで用いられ、そして、個人がどのような帰属の仕方をしやすいかということが行動や心理的反応に大きな影響を及ぼすことが分かっています。

そこで今回は心理学的な帰属の意味から、代表的な帰属理論、帰属錯誤について取り上げ、ご紹介していきます。

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帰属とは

一般的に帰属とは、「特定の集団や組織に所属し、従うこと」という意味を持っています。

あまり頻繁に使う言葉ではないかもしれないですが、国家に対する帰属意識、領土の帰属問題など何らかの集団や組織への所属などを指す場合で使われることが多い言葉です。

しかし、心理学における帰属は次のような意味を持っています。

【帰属】

出来事や他人、自分の行動を説明する心的過程

このように、心理学における帰属とはある出来事や行動という結果の原因がどのようなことであるかを考え、その原因と結果を結びつけることを指しているのです。

本来、起こった出来事や行動と原因の因果関係はあいまいなものです。

例えば、試合で負けてしまったという出来事の原因は、自分のミスのせいかもしれないですし、そもそも相手が強すぎたから、運が悪かったなど様々なことが考えられます。

そのような曖昧な因果関係を特定の原因に帰属させることを帰属過程と呼び、帰属過程に関する理論は帰属理論と呼ばれ、次のような様々な理論が提唱されています。

帰属理論(統制の所在)とは

帰属理論は現代に至るまで様々な発展を遂げています。

代表的な帰属理論にはどのようなものがあるのでしょうか。

ハイダーの原因帰属理論

帰属理論においてもっとも有名な心理学者はハイダー,F.です。

ハイダーは、対人認知など社会心理学の分野で活躍した心理学者であり、彼は他者の行動の原因を説明しようとする帰属過程を理論化したことで有名です。

そしてハイダーは、人間の行う帰属過程が次の2種類に分けられることを発見します。

その2種類とは次の通りです。

【内的帰属】

行動の原因を、その行動をしている人(他者)の内部の属性に求める

【外的帰属】

行動の原因を外的事象に求める

例えば、怒っている人が近くにいた場合、「その人が怒りっぽい人だから怒っているのだ」と帰属するのは内的帰属、「何か良くない出来事があったのだ」と帰属するのは外的帰属となります。

ワイナーの原因帰属理論

ワイナー,B.は達成課題における原因帰属を2×2の4つのスタイルに分類しました。

それぞれは「内的統制-外的統制」と「安定-不安定」(変化のしやすさ)の2次元によって分類されます。

安定不安定
内的統制1. 先天的能力2. 努力
外的統制3. 課題の困難度4. 運

例えば、テストの成績が悪かった時の原因帰属がどのようなものであるかを考えてみましょう。

  1. 先天的能力に帰属した場合:「自分がもともと頭が悪いからテストの成績が悪かったんだ」
  2. 努力に帰属した場合:「今回のテスト勉強が不十分だったからテストの成績が悪かったんだ」
  3. 課題の困難度に帰属した場合:「今回は難しい問題だったからテストの成績が悪かったんだ」
  4. 運に帰属した場合:「今回は運が悪かったからテストの成績が悪かったんだ」

このように分類して考えるとどのようなことが分かるのでしょうか。

これらは、その後の行動に影響を与えやすいことが指摘されています。

例えば、1の先天的能力とは内的な属性であり、変化しにくいものです。

そのため、失敗した原因が自身の能力によるものだと帰属してしまった場合、もともと頭が悪いからどれほどテスト勉強を頑張っても無駄だと考え、後の学習行動を抑制してしまいます。

これに対し、2の努力や4の運に帰属した場合、「次はもっと頑張って努力しよう」や「次は運が良くなるかもしれない」と成功を期待できるため、学習意欲が高まりやすいと考えられます。

このように、物事の原因をどのように捉えるかはのちの行動に大きな影響を及ぼすのです。

ケリーの共変モデル(ANOVVAモデル)

ワイナーの提唱した原因帰属理論は、統制の所在とも呼ばれ、どのような帰属をしやすいかというパーソナリティ特性のような個人差があることが指摘されています。

しかし、内的帰属をしやすい人であっても状況によっては外的な帰属をすることもあるはずです。

そこで、ケリー,H.H.は原因帰属が次の3つの情報によって選択されるというモデルを提唱しました。

  1. 合意性情報:その行動がどの程度一般的なのか
  2. 弁別性情報:その行動の対象が別の者でも行うのか
  3. 一貫性情報:状況に問わずその行動を行うのか

そして、それぞれは次のような原因帰属を導きやすいとされます。

内的帰属外的帰属
1. 合意性情報一般的でないこと(多くの人はしない)一般的なこと(多くの人がする)
2. 弁別性情報誰に対しても特定の人にだけ
3. 一貫性情報どのような状況でも特定の条件下だけ

これだけではよくわからないため、1から3までの事例を見てみましょう。

1.【合意性情報】

車を運転している状況を考えてみましょう。

止まれの標識があるところで車を停止させ、安全確認をしているドライバーを見かけたとき、道路標識のある所で一時停止をすることは当たり前であり、ドライバーが止まったのは標識があるためだと外的帰属をするでしょう。

しかし、標識がない多少見通しの悪い交差点においてもきちんと一時停止し、安全確認を行っているドライバーには「安全運転を心がけているしっかりとした人だ」というような内的帰属を導きやすいはずです。

2.【弁別性情報】

また、電車で席を譲るという状況を考えてみましょう。

お年寄りには席を譲るけれども、具合が悪そうでふらついている人には席を譲らなかった場合、お年寄りには席を譲るよう優先席に掲示があったため、周囲の人に睨まれるのが嫌だったから席を譲ったと考えやすい(外的帰属しやすい)でしょう。

しかし、具合が悪い人にもお年寄りにも誰にでもよく席を譲る人を見かけた場合は「その人が優しい人だから」と内的帰属を導きます。

3.【一貫性情報】

例えば、目の前の人が財布を拾い警察に届けたのを見かけたという状況を考えてみましょう。

その人が警察署の目の前で財布を拾ったとしたら、多くの人が警察に届けると予想されます。これは、警察署の前という状況に外的帰属をするでしょう。

しかし、これが自分以外誰も見ていないような暗がりでも、自分でとってしまおうとするのではなく警察に届け出た場合は、「正義感の強い人だ」というその人の内面のような内的帰属を導きやすいでしょう。

帰属錯誤とは

これまで本来曖昧な因果関係を特定の原因に結びつける帰属がどのように行われるのかについて解説してきましたが、その帰属は常に正しいものとは限りません。

そのような、誤った帰属をしてしまうことを帰属錯誤と呼びます。

帰属錯誤の代表的なものとしては次のようなものが挙げられます。

自己知覚理論

ベム,D.Jは自己知覚理論を提唱したことで有名です。

この理論では、何らかの状況や自分の行動を、自身の内的な状態と結びつけ推測しやすいとしており、情動の帰属錯誤と呼ばれることもあります。

代表的なものとしては「吊り橋効果」が挙げられます。

これは、吊り橋のような心拍数や血圧などが上昇など、不安・恐怖反応を導くような状況において相手に行為を伝えると恋が成就しやすいとしているものです。

この現象は心拍数の上昇などの生理的な興奮状態(内的状態)を誤って相手からの告白と結びつけ、「ドキドキしているのは相手のことが好きだからだ」と帰属錯誤してしまうためであると説明することが出来ます。

対応バイアス

人間の判断や推論にはある程度の偏り(バイアス)が生じてしまうことは避けられません。

この対応バイアスとは「他者の行動を目撃したとき、その行動の原因はその個人の性格や個性などの内的属性に帰属されやすい」という偏りのことを指しています。

また、これとは逆に、自分自身の行動の原因を考える場合には自分の内的な属性は無視されやすく、外的な帰属になりやすい偏りのことを行為者-観察者バイアスと呼びます。

例えば、仕事のミスが発覚し、部下に怒るという場面において、自分がミスをした部下の立場だった場合、怒っている上司は「怒りっぽい人だから怒っている」などと個人の性格に帰属しやすい傾向にあります。

逆に、自分が部下に対し怒る場合には、「話を聞いている部下の態度が悪かったからだ」などと周囲の状況に帰属しやすいという傾向にあります。

原因帰属と抑うつ

抑うつ傾向は個人の原因帰属の傾向と密接な関係にあることが指摘されています。

例えば、うつ病患者の代表的な症状として罪業妄想というものがあります。

これは、自分がとても罪深い人間であると思い込み、何か悪いことが起こったときに「この不運は何かの罰だ」というような自分を責める考えをしてしまうことです。

何か悪いことが起こるたびに全部自分のせい(内的帰属)にしているとしたら、それは明らかな帰属錯誤であるとも捉えられます。

今回は、抑うつと原因帰属に関する理論についてご紹介します。

学習性無力感

セリグマンの犬を使った実験は非常に有名です。

その実験では、嫌悪刺激(電気ショック)が与えられる環境に犬を置き、嫌悪刺激をどうあがいても回避できない状況に晒し続けることによって、嫌悪刺激を回避できる環境になったとしても諦めてしまい、回避行動をとらず嫌悪刺激を受け続けるようになるというものです。

この現象は、自分が無力であることを新たに学習したために起こると考えられ学習性無力感と名付けられているのですが、これは原因帰属とどのような関係にあるのでしょうか。

実はこの学習性無力感に関する研究は動物実験以降も続けられており、人間における学習性無力感はもう少し複雑なメカニズムであることがエイブラムソンらの研究により分かっています。

この新しい学習性無力感に関する理論は改訂学習性無力感理論(改訂LH理論)と呼ばれ、次のような枠組みの下で考えられています。

【改訂学習性無力感理論】

人は対処不可能な状況に置いて失敗を経験すると、その失敗という事実を認識すると共にその失敗の原因に対する帰属を行う。

原因帰属の次元としては、

  1. 内的-外的
  2. 安定的-不安定的
  3. 全体的-特殊的

の3つの次元が挙げられる。

このうち、失敗の原因を内的(自分のせいだ)・安定的(ずっと続く要因)・全体的(どんなことにも当てはまる)と帰属したとき、将来も対処不可能であるという期待が形成され、学習性無力感に陥るという理論。

絶望感理論

しかし、上述した改訂学習性無力感の研究において用いられていた、個人の原因帰属の傾向を測定する質問紙には妥当性に疑問が残るという批判も少なくありませんでした。

そこで、抑うつにまつわる研究として台頭してきたのが絶望感理論です。

抑うつに関する代表的な研究者であるベックは抑うつにおいて最も重要な核となる構成要素は「絶望感」であると考えました。

ここでの絶望感とは次のような要素で構成されます。

【絶望感】

  1. 否定的な出来事が起こり、肯定的な出来事は起こらないという期待(否定的結果の期待)
  2. 否定的な出来事が起こりやすいという状況を自らの力で帰ることが出来ないという期待(無力感期待)

このような絶望感理論では、絶望感は抑うつの兆候となる原因であり、十分条件であると考えられています。

それでは、この絶望感は原因帰属とどのような関連があるのでしょうか。

桜井(1989)では、絶望感と原因帰属の様式の関連を検討したところ、強い絶望感を持っていると物事に失敗したときに自分の努力不足に帰属しやすいということが分かりましたが、そのほかの帰属様式と絶望感は関連を示しませんでした。

失敗の原因として努力不足を結びつけるということは、改訂学習性無力感でいうと内的・不安定的要因に該当します。(能力はずっと変わらない生得的なものであるため時間経過によっても変化しにくいですが、努力は次は努力量を増やすなどその時その時で変更することが出来ます)

そのように考えると、失敗の原因を努力不足に求め、絶望する、つまり抑うつになりやすい人は「努力してもどうせ無駄だ」という否定的な予期を抱きやすいのだと考えられます。

帰属について学べる本

最後に、帰属について学べる本をご紹介します。

対人関係の心理学

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帰属理論の研究者として代表的なハイダーの訳本です。

これから原因帰属に関して学びたいという方は必読の一冊です。

原因帰属と行動変容―心理臨床と教育実践への応用

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原因帰属の理論は心理療法はもちろん、教育や医療の分野にも応用されています。

そのような幅広い分野での研究をまとめた本書を手に取れば、原因帰属研究に関する網羅的な知見を得られるでしょう。

考えている因果関係は果たして妥当なのか

原因帰属に関する研究をご紹介してきましたが、人間の帰属にはバイアスがかかるということが分かっています。

もし失敗場面の原因探しで気が滅入っているようであれば、その考えが果たして妥当なのか考え直してみましょう。

そうすることで、不適応的な原因帰属様式に捉われ苦しんでいる負のループから抜け出すことができるでしょう。

【参考文献】

  • 奈須正裕(1989)『Weinerの達成動機づけに関する帰属理論についての研究』教育心理学研究 37(1), 84-95
  • 大芦治・青柳肇・細田一秋(1992)『学習性無力感と帰属スタイルに関する研究』教育心理学研究 40(3), 287-294
  • 桜井茂男(1989)『児童の絶望感と原因帰属との関係』心理学研究 60(5), 304-311

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    • この記事を書いた人

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    臨床心理士指定大学院に在学していました。専攻は臨床心理学で、心理検査やカウンセリング、心理学知識に関する情報発信を行っています。

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