臨床心理学は、心理学の知識や研究成果を用いて人を支援するための学問です。扱う領域も、臨床心理学を実践する場もさらに広がりつつあります。
そんな臨床心理学を学ぶのにおすすめの本をご紹介していきます。
目次
臨床心理学を学ぶ目的とおすすめの本
みなさんは、臨床心理学と聞くとどのような事を思い浮かべるでしょうか?カウンセリング、心理テスト、中には家裁調査官などをイメージする人もいるかもしれません。
臨床心理学が実践される場はとても広いため、それを学ぶ目的も様々でしょう。困難を抱えた人を支援するため、自己を含めた人間理解を深めるため、犯罪予防のため、現在の仕事に活かすため等。ぜひ、あなたの持っている目的を大切にして下さい。
勿論、好奇心欲を満たすためだけに臨床心理学を学ぶ人もいるでしょう。けれども深く学ぶに従って、学ばなければ気づかずにいられた事に気づいたり、心を痛める経験もあるかもしれません。
その時、臨床心理学を学ぶ目的がはっきりしていれば、それを乗り越えやすくなるでしょう。単に心を解剖して辛い経験をする事だけが目的となってしまわないように、人や自分を幸せにするために臨床心理学を学んで行っていただきたいと思います。
今回は、臨床心理学を学べる本を紹介していきます。初心者向け、専門を目指す人向け、資格取得を目指す人向けの本を挙げていますので、ご自身の学ぶ目的に応じてお読みください。
【初心者にも分かりやすい】臨床心理学がどんなものか知りたい人におすすめの本
まずは、初心者も理解しやすい臨床心理学の本をご紹介します。
カラフルかつ最新の知見まで「完全カラー図解 よくわかる臨床心理学」
「心理職の1日を見てみよう!」から始まる本書は、分かりやすく臨床心理学の全体像が捉えられるように構成されています。
臨床心理学の理論や歴史、面接の流れ等に続き、Part 3では代表的な心理療法が分かりやすくまとめられています。精神分析、行動療法、マインドフルネス、ゲシュタルト療法などから、多文化間カウンセリング、家族療法、ソリューション・フォーカスト・セラピー、統合療法まで、見開き2ページごとに絵入りで解説されており、とても分かりやすいです。
Part 5では臨床心理学を学んだカウンセラーが社会でどのように活躍しているかが解説されています。公認心理師と臨床心理士もそれぞれ見開き2ページにまとめられているので、両者の特徴も一目瞭然です。
心理療法の内容も分かりやすく「徹底図解 臨床心理学」
これも、カラーで分かりやすく臨床心理学の概要を解説している本です。10年前なので取り上げられている心理療法も最新のものではないですが、その分、夢分析、箱庭療法、自律訓練法、サイコドラマ、家族療法など、前書より丁寧に記載がされている分野もあります。特に箱庭療法については遊具の写真も載っています。
巻頭の心理療法の系譜には、フロイト、ユング、スキナー、ロジャーズなどの写真もあり、心理学をより身近に感じる事ができるかもしれません。
携帯に便利な有斐閣アルマシリーズ「臨床心理学入門 多様なアプローチを越境する」
臨床心理学を初めて学ぶ大学生に向けて書かれた本です。臨床心理学はカウンセラーの数だけ種類があると言えるほど、多様なアプローチ方法があります。本書では、精神力動アプローチ、ヒューマニスティックアプローチ、認知行動アプローチという3つのアプローチ方法が解説されています。
特徴的なのは、副題にもなっているように、各アプローチを切り離して捉えるのではなく、それぞれの関係に着目して統合的アプローチまでを視野に入れて解説がなされている点です。また、事例も散りばめられているため、各アプローチが実際にどのように用いられているのかもイメージがつかみやすくなっています。
カバンに入れて持ち運びしやすいので、移動時間やちょっとした空き時間に読むにも最適です。
カウンセラーからのメッセージ「図解入門 よくわかる臨床心理学の基本としくみ」
カウンセラーをしていると、「人の心が読めるの?」と聞かれます。本書の著者もカウンセラーとして、一般の人の臨床心理学に対する誤解を減らしたい、という思いからこの本を記したそうです。
臨床心理学の理論、こころのしくみ、心理査定、心の問題、カウンセリング方法、社会の中の臨床心理学などが、図もありながら文章メインで分かりやすく説明されています。事例2件も載っています。
筆者によると、臨床心理学を学んだカウンセラーがその他の心理学を学んだ人と一番大きな違いは話を聞く実習をしているかどうかだそうです。これから臨床心理学を学ぼうとしている人や初学者の素朴な疑問に答えてくれる1冊です。
【真剣に学びたい人向け】臨床心理学のおすすめの教科書・専門書
次は、臨床心理学を専門的に学んでいる方におすすめしたい本をご紹介します。
面接場面で活きる河合先生のことば「新装版 臨床心理学ノート」
臨床家に限らず、プロを目指したりプロとして活動している人は憧れの存在を持っているのではないでしょうか。未熟な自分からは程遠い存在であっても、憧れの存在を持つという事は意味があると思います。
本書は、「臨床心理学」誌創刊号の2001年1月から2002年11月までの12回に渡り、「臨床心理学ー見たてと援助、その考え方ー」として連載されたものに、創刊号に寄稿された「事例研究の意義」が加えられたものです。
臨床心理学の一般の教科書には書かれていない、心理療法家の姿勢を学ぶ事ができます。分かりやすいことばで書かれていても実践するのは難しい事が多いですが、その難しさを知っておく事に意味があると思うのです。
自分が『専門家』であるとは、自分のできることとできないことをよく知っていることを意味する。(本書209ページより)
有斐閣のベーシック現代心理学シリーズ「ベーシック現代心理学8 臨床心理学」
臨床心理学の基本をしっかりと学べる本です。精神力動論的な立場、行動論的な立場、ヒューマニスティックサイコロコーの立場という基本的な考え方の説明と様々なアセスメント方法が解説されています。
臨床面接の方法では、具体的な症例に基づいて解説がなされています。また、発達段階に沿って臨床心理学の対象とその代表的な心理学的問題、治療的アプローチが述べられています。
伝統的な臨床心理学の基本を学べる1冊です。
肩の力を抜いて読める本「プロカウンセラーの聞く技術」
臨床心理学の実践とは、「聴く」(しっかりと聞く)こととも言えます。本書は一般向けに「聞き上手」ヒントが書かれているので、文章も平易で読みやすいです。
臨床心理学の細かい知識を得る本ではありませんが、時にはカウンセリングを実践するプロの率直な考え方を読むのも、新鮮な発見があるかもしれません。
「『カウンセラーは自分の弱点で勝負せよ』という言葉は、私がカウンセリングを始めた最初のころに先輩から言われたものです。」(本書140ページ)
音楽と臨床心理学「こころを癒す音楽」
優れた臨床家やカウンセラーと言われる人は、ユーモアに富んでいる人が多いように思われます。本書は35名の心の専門家がそれぞれ心に残る音楽について語っています。
臨床心理学はことばを大切にしますが、ことばが紡ぎ出される元の世界はより大切です。目先のことばに翻弄されそうになったり、クライエントの理解をことばに頼り過ぎそうになった時に、音楽を聞くことで広がる世界があるのかもしれません。
もっと読みたい方へ「カウンセラーのための基本104冊」
おすすめの本は、臨床家の数だけあります。本書では、多くの臨床家がそれぞれのおすすめの本を紹介しています。カウンセリングと心理療法、精神医学と精神分析、隣接領域(心理学一般)、近接領域(文化・哲学・宗教など)に分かれています。
ここに掲載されている本を読み進めていくことで、臨床心理学の知識を深め、臨床家として成長行くことができるでしょう。
【資格取得を目指している人向け】試験対策におすすめのテキスト・参考書
最後に、心理学の資格取得を目指している方におすすめの本をご紹介します。
DSM−5に対応したコンパクトな事典「心理学キーワード&キーパーソン事典」
公認心理師試験の受験にあたり押さえておくべき重要キーワードとキーパーソンが、分かりやすく解説されています。カバンに入れて持ち歩けるサイズです。臨床心理士資格試験や臨床心理士指定大学院受験にも対応可能な1冊です。
資格取得の先を考える「先輩に聞いてみよう!臨床心理士の仕事図鑑」
公認心理師も臨床心理士も取得が簡単な資格ではありません。だからこそ、合格後何をしたいのかイメージを持っている事は大きな動機付けになります。資格を取る事以上に、現場に出ていく勇気は何倍も必要です。
この本は、教師とのチームワークが必要と語るスクールカウンセラーの真子さん、起業して臨床心理士・社会保険労務士事務所を設立した植田さん、精神保健福祉センターが運営する自立訓練施設で働く須賀さんなど、資格を現場で活かしている方々を身近に感じる事ができます。勉強を始める前に、又は勉強しながらでも、現場に出ていくイメージを作っていける1冊です。
臨床心理学は身近な存在
今回は、臨床心理学の本を紹介してきました。手に取ってみたいと思う本はありましたか?
臨床心理学は社会の中の様々なところで活用されています。学校でも職場でも病院でも、友達や家族との人間関係にも活かすことができます。さらには自分自身の成長や癒しにも使うことができます。
書店や図書館で実際に手に取ってみると、自分の心がその本を必要としているかどうかを感じやすいかもしれません。
そして、あなたがどの本に出会ったとしても、その本をどうか、あなた自身や周り人の幸せのために活かしていくことができますように。