心理学の歴史と研究法

ボウルビィの業績とは?経歴や代表的な愛着理論、分離不安などの主要概念を解説

現代の発達心理学において愛着理論は非常に重要なものとして位置づけられています。

それでは愛着理論を提唱したボウルビィという学者はどのような経歴の人物なのでしょうか。その主な業績や母子分離不安、愛着理論を学ぶためにおすすめの書籍を取り上げ、ご紹介します。

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ボウルビィの生い立ちと経歴

ボウルビィ,Jとはイギリスの精神科医、精神分析家です。ここではまず、心理学において偉大な功績を残したボウルビィの生い立ちと経歴を振り返ってみましょう。

ボウルビィの生い立ち

ボウルビィは外科医の父(誕生時52歳)の第4子(次男)として1907年のイギリスで生を受けました。

母親も40歳でボウルビィを生んでいるなど、かなりの高齢出産だったようですが、それには父のアンソニーの生い立ちが深く関わっているとされています。

ボウルビィの祖父にあたる人物はアヘン戦争の最中に北京で命を落としており(当時アンソニーは8歳)、祖母は死去するまで再婚せずトーマスを育てました。

そのような姿からアンソニーは母親(ボウルビィからは祖母)が死去するまで結婚をせず、アンソニーが40歳の時に死去してから伴侶を探し始めたとされています。

アンソニーは外科医の仕事に就き准男爵を授与されており、母のメイは貴族の令嬢とエリート一家に育ったボウルビィの養育はほとんど使用人に任せきりだったとされています。

ボウルビィの経歴

ボウルビィが7歳の時に、第一次世界大戦が勃発。兄のトニーと共に寄宿制の学校へ入学します。

その後、海軍士官候補生としてダートマス兵学校に入学しますが、兄トニーが父の後を継ぎ外科医となることを拒否したため、ボウルビィは兵学校を退学し、ケンブリッジ大学、トリニティ・カレッジの医学生となります。

そして、精神分析へと興味を持ったボウルビィは児童精神医学者となるために、対象関係論で有名なクライン,Mをスーパーバイザーとして児童分析の仕事を行いました。

しかし、クラインが神経症の作用機序において環境的要因、特に母親との離別や家庭崩壊を重視しない立場に疑問を覚えたボウルビィはクラインの元を離れ活動を始め、発達心理学における重要な理論を数多く提唱しました。

発達心理学の発展に寄与したボウルビィの業績

ボウルビィには数々の業績がありますが、その主要なものとしてはどのような研究があるのでしょうか。

愛着理論

ボウルビィが1969年に発表した『愛着と喪失』三部作の中で愛着理論は発表されました。

愛着理論とは、主に養育者など重要な他者との親密さを表現しようとする「愛着行動」に関する理論のことです。それまで主流であった精神分析とは異なり、ボウルビィは動物行動学的な視点を重視してこの理論を提唱しました。

ボウルビィによれば愛着は次のように定義されています。

「特定の対象との情緒的な結びつきを指し、乳幼児が養育者との情緒的な相互作用を通じて形成される、確固たる絆」

生まれたばかりの乳幼児は、自分の身の回りの世話を養育者にしてもらわなければ生きていけない未熟な状態で生まれてきます。そのため、養育者の顔をじっと見つめたり、抱きつくなど行動を示します。

これを愛着行動と呼びます。

養育者はこのような行動を見かけると、そちらへ注意を向け、赤ちゃんを心から「かわいい」と思い、頼られていることに喜びを感じながら世話をするでしょう。

これは、乳幼児の示す愛着行動から誘発された行動とみなすことができ、この繰り返しによってさらに乳幼児と養育者の信頼の絆が深まるとされています。

愛着形成の4段階

ボウルビィは乳幼児と養育者の間に愛着が築かれるまでの期間を4つの段階に分けています。

生後3か月頃まで愛着はまだ形成されておらず、周囲の誰に対しても注意を引こうと泣いたり、笑いかけたりする。
生後6か月頃まで次第に愛着対象である養育者と他者の区別がつくようになり、養育者に対して強く愛着行動を示すようになる
2歳頃まで養育者との間にしっかりとした愛着関係が形成される。そして、愛着対象である養育者から一時的に離れても、強い不安を抱かなくなり、養育者を安全基地として探索行動を示すようになる。
3歳以降養育者との身体的な接触を求めることが大きく減り、養育者の意図や感情を理解するようになる。

このような流れで養育者との間の愛着は形成されていくわけですが、この愛着の形成過程において何らかの問題によりしっかりとした愛着が形成できないと、のちの社会生活において重篤な問題を引き起こす可能性があります。

しっかりとした愛着形成によって得られること

それでは愛着が形成されることは、その後の社会生活においてどのように有益なのでしょうか。

愛着の形成過程から子どもが学ぶ次の3点はその後の発達においてとても重要な意味を持っています。

  • 基本的信頼感の獲得:養育者に甘え、それを受容される経験を通じ、他者と関わることの楽しさや喜びを学ぶことで、社会性の基盤を獲得します。
  • コミュニケーション力の獲得:泣く、笑うなどの愛着行動は養育者に対する1種のメッセージです。そのやり取りの中で、自分の内的な状態をうまく他者へ伝わるよう工夫し、うまくいったときの楽しさを学びます。
  • 自己の安全の確保:未熟な状態で生まれてきた乳幼児は発達の過程においてより広い外界へと興味を示し、探索をしていくわけですが、それができるのも養育者を安全基地とみなし、困ったとき、怖いときなどはすぐ逃げ帰れるという安心感をこころの中に形成するからです。このような、探索と逃避を繰り返すことによって、自分は安全だという感覚を基盤として好奇心や積極性を発現させるのです。

なお、ボウルビィは養育者など重要な他者とのやり取りの中で形成される愛着関係は、その後こころの中へと内在化され、対人関係を築く上でのひな型となると主張しました。

これは内的作業モデルと呼ばれ、現代の発達心理学においても重要な概念として位置づけられています。

愛着形成の問題と関わる精神障害

ボウルビィは、「乳幼児と母親との人間関係が親密かつ継続的で、しかも両者が満足と幸福感こそが精神衛生の根幹であり、このような人間関係を欠いている子どもの状態を母性剥奪と名付ける」として養育者との間に形成される愛着の重要性を主張しています。

そして、前項でご説明した愛着の形成過程に問題がある場合、愛着障害や分離不安症を発症し、対人関係や情緒のコントロールに問題が引き起こされる可能性があるのです。

愛着障害

愛着障害は次の2つに大別することが出来ますが、どちらも5歳以前に発症するという特徴があります。

反応性愛着障害

他者に対する過度な警戒心を特徴とする愛着障害です。

これは、両親からのネグレクトや心理的虐待など不適切な養育と深い結びつきがあることが指摘されており、表情が乏しく笑顔がない、他の子どもとの交流がないなどの特徴があります。

しかし、愛着障害は早期から発見されることに加え、これらの症状が自閉スペクトラム症の特徴と類似していることもあるため、判断が難しくなるケースもあるようです。

脱抑制型愛着障害

反応性愛着障害とは反応性愛着障害とは真逆で、誰に対しても対人関係の距離が近く、なついていこうとする状態です。

脱抑制型愛着障害の人は初対面の人に対してもなれなれしく接したり、感情や欲求のままに行動し、他者の気を惹こうとする特徴がみられます。

愛着障害の問題

愛着関係は相互的なものであり、どのような人にもなれなれしく接し本音を見せず心を開かない人に対してはなかなか周囲もその人の対応に困るのは想像に難くありません。

また、愛着は特定の養育者との間に築かれる特別な人間関係のため、反応性愛着障害を抱えている人は、根本的に深い信頼関係を築くことが出来ません。

そのため、大人になっても表面的な関係のみで親密な関係を継続させることが難しく、社会適応に問題をきたすおそれがあります。

分離不安障害

分離不安障害とは、養育者などの愛着の対象となっている人や物、場所から離れた時に強い不安を抱える不安障害です。

主観的な強い不安やそれを低減させるための回避行動に加え、愛着対象を喪失する夢を見る、愛着対象との分離の予期が引き金となって起こる頭痛や腹痛、吐き気などの身体症状も特徴的です。

また、幼い子供どもの場合、「誰かが部屋をのぞいている」、「怖い生き物が近づいてくる」など妄想のような体験を報告してくることもあるとされます。

母親から離れた際に「母親が死んだり、病気になったり、事故に遭ったりしてしまったらどうしよう」と過剰な不安を抱き、常に連絡を取ろうとする状態などが挙げられるでしょう。

分離不安障害の問題

例えば、母親が非常に危険な仕事をしているから、仕事中の事故で死んでしまったらどうしよう、不摂生な生活を送っているため病気になったらどうしようなど妥当な理由があれば不安が生じることもあるでしょう。

しかし、分離不安障害では不安を引き起こす明確な理由がないため、苦痛な不安を避けるべく愛着の対象から離れたくないという思いが強まり、一人で出かけたり、家の中で一人で過ごすことが困難など社会適応に支障をきたす場合があります。

ボウルビィや愛着理論を学ぶための書籍

ボウルビィについて学べる本をまとめました。

ボウルビィ 母と子のアタッチメント 心の安全基地

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ボウルビィが母子関係とアタッチメント理論に関する実践例を含めて解説を行っている本書は、アタッチメント理論の起源から、虐待との関連性、パーソナリティ発達に与える影響など幅広い分野を取り上げている良書です。

これからボウルビィの提唱している理論や関係領域について学ぼうと考えている人はまず手に取ってみるはいかがでしょうか。

ボウルビイ 母子関係入門

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ボウルビィの書いた原書は難解なものが多く、特に初学者の方は読み通す前に挫折してしまうことが懸念されるでしょう。

ボウルビィが様々なところで行った講演や発表を分かりやすくまとめてある本書は母子関係の愛着をこれから学ぶ初学者へおすすめの一冊となっています。

人生経験の影響をうける研究領域への興味関心

ボウルビィの生い立ちは少なからず彼の興味の追求、そしてその研究の功績に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

これまでの偉大な心理学者の生い立ちを知ることで、新たな視点を得られるかもしれません。

また、これまでのご自身の経験を振り返り、没頭できる心理学の研究領域について改めて考えてみてはいかがでしょうか。

 参考文献
中野明德(2017)『ジョン・ボウルビィの愛着理論 : その生成過程と現代的意義』別府大学大学院紀要 (19), 49-67
下司昌(2006)『J・ボウルビィにおける愛着理論の誕生 : 自然科学と精神分析』近代教育フォーラム 15(0), 203-219

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    臨床心理士指定大学院に在学していました。専攻は臨床心理学で、心理検査やカウンセリング、心理学知識に関する情報発信を行っています。

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