ストループ効果とは、「文字の意味するものと文字の色が異なる場合に、判断に時間がかかる現象」のことをいいます。
このストループ効果は日常の中にも存在し、心理学実験や検査でも頻繁に取り上げられるものとなっています。
今回はストループ効果の意味や、なぜ起こるのか、認知的葛藤の原理などを具体例で分かりやすく解説します。また、実験例や論文を取り上げながら、広告やトイレ、脳トレゲームなど、ストループ効果が実生活においてどのように活用できるかについても触れていきます。
目次
ストループ効果とは
まずは、ストループ効果をみる手順についてまとめ、具体的にどういったものがストループ効果といわれているのか解説します。
ストループ課題
ストループ課題はストループテストともいわれ、ストループ効果を明らかにする課題となっています。
「赤」「青」「緑」「黄」「黒」という文字が書かれた紙やモニターが用意されます。それらの文字は、その文字が意味する色とは別の色で着色されています。被験者は、その文字を順番に読み上げていくことを求められます。
この課題の実施に際して、全て黒色で書かれた文字を読み上げるタイムも計測します。その記録と、別の色で着色された文字を読み上げたときのタイムの差をみていきます。
ストループ効果の具体例
例えば「青」「黄」「赤」「黒」「黄」「緑」と画面に提示された場合、被験者は「あお」「き」「あか」「くろ」「き」「みどり」と回答しなくてはなりません。しかしながら、着色された色に引っ張られ、間違えたり読み上げるのに時間がかかったりします。
このように、異なっている色で着色されたものを読み上げるときの方が、全て黒色の文字を読み上げるときよりもタイムが長くなり、困難になる現象をストループ効果といいます。
逆ストループ効果
ストループ効果とは、先にも述べたように、文字の意味と色とが異なるものを呈示し文字の意味する方を読み上げさせた際に、判断に時間がかかる現象のことでした。
ここでいう逆ストループ効果は、文字の意味する方ではなく文字に着色された色の方を答えさせる場合に判断の時間がかかる現象のことを指します。
先程の例を用いると「青」「黄」「赤」「黒」「黄」「緑」と呈示されたものに対し、「あか」「くろ」「あお」「き」「みどり」「あか」と読み上げなければならないという課題が与えられます。この時も、ストループ効果と同様に読み上げに時間がかかるとされ、この現象は逆ストループ効果と呼ばれるようになりました。
まとめると、文字を読み上げさせるときにみられる遅れがストループ効果、色を読み上げさせるときにみられる遅れが逆ストループ効果ということになります。
ストループ効果はなぜ起こるのか
ストループ効果が生じるメカニズムには認知的葛藤や注意、干渉制御などがあります。
認知的葛藤
そもそもストループ効果自体のことを認知的葛藤と指し述べられることもありますが、厳密にはストループ効果が生じるメカニズムとして認知的葛藤という概念があるということになります。
認知的葛藤とは、2つ以上の要求があるときに生じる葛藤で、選択や注意、情報処理が抑制されることを指します。
ストループ効果においては「文字の読み」と「文字の色」という2つの情報が呈示されます。この相反する情報により認知上の葛藤が生じ情報処理が遅くなってしまいます。
この現象のことを認知的葛藤といいます。
注意と干渉制御
認知的葛藤が生じながらも、文字の色ではなく文字の読みを回答するには注意と干渉制御の働きが必要となります。
我々は目に入った情報のすべてを脳で処理し意味づけているわけではありません。目に入ったものの中から必要な情報だけを選択し、そこに注意を向けて処理を行っています。処理したい情報にのみ注目することを注意といいます。
逆に処理する必要のない情報を無視することを干渉制御といいます。ストループ効果において述べると、着色された文字が呈示されたとき、何色で着色されているかという情報には注意を向けずに、その文字が何であるかという点だけに注意を向けるということです。
これらは選択的注意ともいわれ、聴覚的な情報処理におけるカクテルパーティ効果の文脈でよく用いられますが、視覚的な情報処理でも生じるものです。
ストループ効果を説明する理論・モデル
ストループ効果には大きく2つのモデルが存在します。
まず、反応競合理論というものがあります。これは、出力の段階でストループ効果が生じているとするモデルです。文字が呈示され、それが視覚的情報として入力されるときではなく、それを実際に読み上げるときに認知的な葛藤が生じているのではないかとする立場です。
反対に入力の時点でストループ効果が生じていると説明するモデルを特徴統合理論といいます。文字をみたときに、その文字自体の意味と、着色された色という2つの情報が融合して脳に入力されてしまうことによって、認知的な葛藤が生じているとする立場です。
ストループ効果に関する心理学実験・論文
ここではストループ効果について言及された研究の紹介をします。
トイレマークとストループ効果
一般にトイレマークでは、男性マークは青色で着色され、女性マークは赤色で着色されています。
第7回の日本認知心理学会で発表された研究に、このトイレマークにおけるストループ効果を検証されたものがあります。
まず、4つの刺激が用意されます
- 寒色系の男性マーク
- 暖色系の男性マーク
- 暖色系の女性マーク
- 寒色系の女性マーク
被験者はそれぞれのマークをみたときに、男性トイレか女性トイレかを判断することを求められます
1(寒色系男性マーク)と3(暖色系女性マーク)は一般的に設置されている配色のトイレマークですが、2(暖色系男性マーク)と4(寒色系女性マーク)は一般的なジェンダーイメージとは逆の配色となっています。
この実験結果としては、一般的な配色の群(1・3)より逆の配色の群(2・4)の方が判断に時間がかかったと報告されています。つまり、トイレマークにおいてもストループ効果のようなものがみられたということでです。
認知症とストループ効果
高齢者の認知機能を測定するためのテストとしてもストループ課題は注目されています。永原ら(2012)は、加齢によってストループ課題の成績が低下すること、そしてそれが脳機能全般の低下と関連することを明らかにしています。
ストループ効果は注意機能など、前頭葉と深く関わっているのではないかといわれていますが、ストループ課題を実施しただけでは、具体的に脳のどの部分が損傷しているかなど詳細が分からないのが現状です。診断ではなく、スクリーニングテストとして用いられることになっています。
日常生活におけるストループ効果
ストループ効果は日常場面でも起こりえるものです。
広告デザイン
広告デザイン、マーケティングにおいてもストループ効果は注目されています。ここで重要なのはストループ効果を用いた広告をデザインするのではなく、ストループ効果を引き起こさせないデザインをつくるということです。
例えば、先ほどのトイレマークのデザインで考えてみます。もしストループ効果を引き起こすデザインにしてしまうと、間違って逆の性別のトイレに入る人が続出する事態となってしまいます。ストループ効果を意識しデザインを考えなければ、間違ったメッセージを利用者に与えてしまうことになるでしょう。
次に広告について考えてみます。スーパーでカイロを買おうとするとき、2つのメーカーのものがあったとして、片方は赤色やオレンジ色で描かれた広告が貼られており、もう一方は青色や水色で描かれた広告が貼られていれば、おそらく多くの人が前者を選ぶでしょう。カイロ・カイロ、この文字を見ただけでも全く印象が異なってしまいます。
以上のように広告をデザインするときは、「何を売り出すか、それはどのような性質をもつのか、利用者や消費者に何を伝えたいのかなど」しっかり考えたうえで、ストループ効果により間違った印象や意味を与えてしまわないように気をつけ作成する必要があります。
脳トレゲーム
ストループ効果は脳トレゲームとしても使われています。ストループ課題においては、色情報は右脳で、文字情報は左脳で処理されているため、右脳左脳のやり取りを活性化させ、脳機能を維持する効果があるといわれています。
ストループ課題は障害を発見するスクリーニング目的だけでなく、高齢者施設や高次脳機能障害などのケースにおいては、ストループ課題で訓練し、脳機能を維持する試みとしても利用されています。
ストループ効果について学べる本
ストループ効果は、心理学実験の講義などで頻繁に扱われ、実際に実験を体験し論文を書くまでの演習を課せられる学生も多いと思います。その際に参考となりそうな書籍を3つ紹介したいと思います。
ストループ効果ー認知心理学からのアプローチ
ストループ効果だけで一冊にまとめられています。過去の研究や学説から、著者本人による最新の研究まで収められています。ストループ効果について知りたいという方にとっては、これ一冊あれば十分といえるでしょう。
なるほど!心理学実験法
ストループ効果の概要から、レポートの実験方法、レポートの書き方まで載っており初学者向けの本です。ストループ効果の他にも心的回転や触二点、鏡映描写など、心理学実験の授業で頻出の課題を幅広く解説されているので、大学生にとってありがたい一冊となっています。
ストループ干渉に関する認知心理学的研究
より専門的にストループ効果について学びたいという人向けの本です。ストループ効果が生じるメカニズムや、人間の言語処理など基礎的な部分から理解することができます。
ストループ効果は何に役立つのか
大学においては、ストループ効果そのものについて学ぶというよりは、論文の書き方を学ぶために素材として用いられている印象があります。それゆえ、結局のところストループ効果は何のためになるのか理解しないまま通り過ぎてしまうことになります。
ストループ効果は、単なる不思議な現象ではなく、脳機能をみることもでき、また脳機能を維持する働きももつものです。今もなお、ストループ効果の臨床的応用は研究され続けています。もし、興味のある方は、より学びを深められてはいかがでしょうか。
参考文献
- 嶋田博之・箱田裕司・芦高勇気・渡辺めぐみ・石王敦子(2013).ストループ効果研究の現在 日本心理学会大会発表論文集 77(0), SS-026-SS-026.
- 嶋田 博之(1992).ストループ効果に関する認知心理学的研究,Osaka University Knowledge Archive : OUKA.
- 北神慎司・菅さやか・KIM Heejung・米田英嗣・宮本百合(2009).トイレマークは色が重要?:トイレマークの認知におけるストループ様効果 日本認知心理学会発表論文集 2009(0), 19-19.
- 永原直子・伊藤恵美・岩原昭彦・堀田千絵・八田武志(2012).認知機能スクリーニング検査としてのストループ検査の有用性の検討 人間環境学研究 2012.10.1.29-33
- 氏原 寛 他(2004).心理臨床大辞典【改訂版】,培風館.