心理学の主要な研究の一つして、人間の性格に関する特徴を追求しようとするパーソナリティ研究があります。
そして、現在のパーソナリティ研究に至るまでに大きな貢献をした心理学者の一人がゴードン・オールポートです。それでは、オールポートの経歴とはどのようなものなのでしょうか。
彼の主要な業績である特性論やサイコグラフについて解説していきます。
目次
ゴードン・オールポートとは
ゴードン・オールポートは、アメリカの心理学者です。ハーバード大学で心理学の教授を務めました。
オールポートの業績は何と言ってもパーソナリティを特性と呼ばれる基本単位から捉えようとする独自の理論を提唱したことに他なりません。
それでは、パーソナリティに関する重要な研究を行ったオールポートの経歴を見ていきましょう。
オールポートの経歴
オールポートは1897年アメリカ合衆国のインディアナ州で生まれました。
父は医者と実業家として活躍した人物で、恵まれた家庭に生まれたオールポートは、学生時代に精神分析の創始者であるフロイトと出会い、心理学に強い関心を持つようになりました。
精神分析では目に見えず、本人も自覚していない無意識の存在を仮定し、本人のパーソナリティ傾向を捉えようと試みます。
この姿勢に、オールポートは疑問を抱き、外部から捉えることにできる根拠を元にパーソナリティを捉える理論の構築を目指しました。
その後、体格と性格の関連を提唱したことで有名なシェルドンによる奨学金を利用し、心理学について深く学んだ後、主な業績となる性格特性論を提唱したのです。
この業績は高く評価され、1935年にはアメリカ心理学連合の会長に選ばれています。
オールポートの業績①パーソナリティの定義
心理学は人間の中にみられる傾向を捉えようと試みてきました。
そして、オールポートは人間の性質を表現する用語として、次の2つを挙げています。
【オールポートによる人間の性質を表現する用語】
- パーソナリティ:社会に適応するために必要な、後に獲得されるスキル
- キャラクター:生まれながら持っているもので、生涯変わらない性格傾向
パーソナリティとは
パーソナリティとは日本語で人格に該当する用語です。
元々パーソナリティは、ラテン語のペルソナ(Persona)に由来するとされています。これは古代ローマでの劇に出演する俳優が被っていた仮面を意味すると同時に仮面を被っている役者自身も指す用語です。
このようにパーソナリティという言葉は、外面(仮面)と内面(役者)の両方を指し示す用語なのです。
キャラクターとは
これに対し、キャラクターはギリシャ語のカラクテールが語源となっています。
カラクテールは彫る・刻むなどの意味を持っており、生得的な固有の性質、内面性のことを指してします。
オールポートによるパーソナリティの定義
このように人間の性質を表現する用語には2種類ありますが、オールポートが注目したのはパーソナリティの方でした。
なぜなら、無意識という外界から捉えることができない内面の特徴に注目する精神分析に疑問を抱いたように、パーソナリティは内面の性質が外面にも現れるものだとオールポートが考えたからにほかなりません。
そして、オールポートはパーソナリティを次のように定義しました。
【パーソナリティの定義】
パーソナリティとは、個人の中にあってその人に固有の行動と考えとを決定するダイナミックな心理身体的体系である
オールポートの業績②特性論の提唱
心理学において特性を初めて体系的に取り上げたのがオールポートです。
特性とは人の性格を形成する要素のことであり、複数の特性が集まり、性格としてまとめ上げられることで特徴的な傾向が示されます。
類型論と特性論
それまで性格を捉えようとする主な研究としては、血液型診断のように性格をいくつかのタイプに分類し、個人の性格がどのタイプに当てはまるのかを検討する類型論がありました。
オールポートが特性に注目した理由としては、化学における原子や生物学における細胞のように、個人を捉えるための要素を見つけ出すことによって科学としてパーソナリティを捉えようとしたからです。
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個別特性と共通特性
オールポートは様々な視点から性格特性を分類していますが、その中でも特に重要なのが個別特性と共通特性という分類です。
- 個別特性:各個人に特有の性格特性
- 共通特性:多くの人に共通して存在する性格特性
このうち、共通特性は多くの人に共通して存在しているものの、その共通特性がどの程度強いのかに関しては個人差があるものです。
つまり、共通特性を測定し、その強さ・個人差を比較することが出来れば、その人の性格の特徴を他者と比較しながら明らかにすることが出来ます。
この発見は現在のパーソナリティ研究の根底にある考え方となっています。
オールポートの業績③サイコグラフの開発
オールポートの共通特性の発見によって、個人間の比較により性格傾向を捉えようとする特性論が始まりました。
そして、その比較を行うための共通特性を同定するために作成されたのがサイコグラフです。
例えば、怒りっぽい、不安になりやすいなど、なんとなく共通特性のイメージは出来ると思いますが、実際に共通特性を網羅してそれらを比較しないと人間の性格を全体的に捉えることはできないでしょう。
そのため、オールポートは、辞書の中からパーソナリティに関連する単語を1万7千語以上抜き出し、これらを整理することで核となる共通特性を絞り込もうと考えました。
結局、この試みは成功せず、後にキャッテルという学者へ引き継がれることとなるのですが、オールポートは基本的な共通特性を14個挙げ、それらを測定、プロフィール表示し、視覚的に個人の性格傾向を捉えようとするサイコグラフ(心誌)を開発しました。
これは世界で初めてのパーソナリティ検査であり、この考えに基づいて現代の様々なパーソナリティ検査が開発されることとなったのです。
オールポートについて学べる本
オールポートについて学べる本をまとめました。
初学者の方でも手に取りやすい入門書をまとめてみましたので、気になる本があればぜひ手に取ってみてください。
よくわかるパーソナリティ心理学 (やわらかアカデミズム・〈わかる〉シリーズ)
パーソナリティ心理学の基礎的な内容を網羅した本書には、現代のパーソナリティ研究の基礎を気づいたオールポートに関する記述ももちろん記載されています。
彼が、提唱した理論がその後の研究いどのように寄与したかも理解が出来るため、これからオールポートについて学びたい方にはぜひ手に取って頂きたい一冊です。
デマの心理学 (岩波現代叢書)
あまり知られていませんが、オールポートは第二次世界大戦時に、デマに関する研究を行っています。
特性論ほど注目を集めることはありませんでしたが、彼の業績の1つである貴重な記録に目を通すことはオールポートを学ぶ上で有益でしょう。
望ましい性格とは
オールポートは単に興味本位からどのようにして性格を捉えられるのかを検討したのではなく、精神的な健康の指標を得ようとしていたのだと言われています。
彼は成熟したパーソナリティこそが精神的な健康の指標となると考えていたため、個人のパーソナリティをより詳細に捉えようとしたのです。
偉大な研究者の残す業績には、何か社会の問題を解決したいという思いが背景にあるのでしょう。
ぜひこれからもオールポートについて詳しく学んでいきましょう。
【参考文献】
- 岩熊史郎(2000)『特性の心理学的構築』文化情報学 : 駿河台大学文化情報学部紀要 7 (2), 1-14
- 鎌田靖子(2002)『パーソナリティの精神的健康に関する考察: 概念と実証的調査による検証』大阪大学教育学年報 7 71-84
- 岩熊史郎(2007)『パーソナリティと同一性』文化情報学 : 駿河台大学文化情報学部紀要 14 (2), 1-15