エインズワース:ボウルビイの愛着理論を基に安全基地を提唱した女性心理学者

2020-11-19

今回は、メアリー・エインズワースについて学んでいきましょう。彼女の愛着理論は、ワークライフバランスやイクメンなどの現代の私たちの生活スタイルにも影響を与えています。安全基地やストレンジ・シチュエーション法についても紹介していきます。

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メアリー・エインズワースとは

メアリー・エインズワースは、ボウルビイの愛着(アタッチメント)理論を基に、愛着の形成に何が必要であるかを研究したアメリカの女性心理学者です。

愛着の個人差を測定するために考案したストレンジ・シチュエーション法や、安全基地の提唱がよく知られています。

心理学におけるメアリー・エインズワースの功績

まずは、心理学においてメアリー・エインズワースが残した偉大な功績について紹介します。

愛着理論の研究

心理学におけるメアリー・エインズワースの功績は、現在の愛着理論の研究にも影響を及ぼしています。乳幼児期の理解に留まらず、成人期の理解にも寄与している研究を見ていきましょう。

愛着理論とは

愛着(アタッチメント)とは、くっつこうとすることです。元々は、生き物が単独でいる時に恐怖を感じた場合、他の仲間と一緒に行動することで危険を回避しようとする行動です。このような行動は人にも見られます。

ボウルビイは、乳児が強い不安などを感じた時に、特定の人に感じる情緒的結びつきを愛着と呼びました。そして、施設児の発達障害を引き起こすのは母子の親密で継続的な人間関係の欠如だと考え、母性剥奪(Maternal Deprivation)と名付けました。

このような考え方から母性神話が生まれ、育児は母親の役割だという考え方が助長されていました。そのため、働く母親は肩身が狭く世間の偏見と戦わねばなりませんでした。特に1960年代から1970年代にかけては、子供の問題行動の原因を母親の就労とみなされる風潮もあったといいます。

エインズワースによる愛着理論の研究

エインズワースは、この愛着について、その形成過程を研究しました。それにより、愛着の形成に大切なのは母子がただ長く一緒にいることではなく、その交流の質が大切であることを実証したのです。

つまり、日中子供を預けて働いていても、帰宅後子供と一緒にいる短い時間の間、子供の反応に敏感であることが重要だということを実証したのです。

エインズワースの愛着理論の研究は、イクメンという言葉に見られるように男性の育児参加を後押しするものとなっています。それに伴い、ワークライフバランスなど、現代の男女の生き方にもつながるものでしょう。

「安全基地」の提唱

エインズワースは、愛着対象となる人(養育者)を安全基地と呼びました。子供は、愛着対象とくっつくことで安心を得られますが、ずっとくっついたままではありません。

はいはいが出来るようになると、愛着対象とくっつくことで得られた安心を持ったまま自分で探索を始めます。そしてその安心感がなくなると、また愛着対象の元へ戻ってきます。そして安心を回復し、また探索を始めるのです。

このように、子供は養育者と離れたりくっついたりしながら心身を発達させて行くのですが、その過程には個人差があります。エインズワースは、安全基地としての養育者の態度と子供の愛着スタイルとの関係に着目しました。

ストレンジ・シチュエーション法の考案

エインズワースが、安全基地としての養育者の態度と子供の愛着スタイルの関係を調べる方法として考案したのが、ストレンジ・シチュエーション法です。

エインズワースのストレンジ・シチュエーション法とは

ここでは、エインズワースが考案したストレンジ・シチュエーション法について簡単にご紹介します。

ストレンジ・シチュエーション法の特徴

ストレンジ・シチュエーション法は、養育者の養育態度と子供の愛着行動との関係について行われた初めての実証実験でした。

子供が養育者に近づこうとする愛着行動を引き出すために、エインズワースは「見慣れない場所」と「養育者との分離」という状況を作り出しました。つまり、子供にとって見慣れない場所で見慣れない人と出会い、養育者と分離し再会するというストレスを子供に与え、その反応を観察したのです。

ストレンジ・シチュエーション法の具体的な手続きについては、以下の記事で詳しく解説しています。

ストレンジ・シチュエーション法とは?エインズワースのアタッチメント観察法と4つのタイプ

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愛着の類型

エインズワースは、子供が養育者を安全基地として有効に使えているかどうかによって、愛着のタイプをB(安定型)、A(不安定ー回避型)、C(不安定ーアンビバレント型)の3つに分類しました。

また、エインズワースは、子供が養育者を安全基地として有効に使えているかどうかは、養育者が安全基地の役割を果たしているかに左右されると考えました。

養育者の安全基地としての役割で重視されたのは、「敏感性」です。敏感性は、子供の状況を素早く認識し、子供からの働きかけに直ぐに適切に対応できる特性です。

Bタイプ(安定型)

子供は養育者と一緒の時は養育者を安全基地として利用し探索をします。養育者が見えなくなると多少の不安を示しますが、再会時には直ぐに機嫌がよく養育者に近づいて行き、安心を取り戻すことができます。そしてまた探索を始めることができます。

このタイプは、養育者の敏感性が高い場合に多く見られました。

Aタイプ(不安定ー回避型)

子供は養育者と一緒の時でも養育者から離れて遊んでおり、養育者を安全基地として利用することがほとんどありません。養育者が見えなくなっても不安や混乱を示さず、再会時にも養育者に喜んで近づいて行くという行動が見られません。

このタイプは、養育者の敏感性が低い場合に多く見られました。つまり、養育者は子供に対して拒絶的であったり、無関心であったりしました。

子供は養育者にサインを送っても受け止めてもらえないため、「自分が近づこうとすると養育者は離れてしまう」と感じます。そのため、近づかないことで安心を得ようとすることになります。

Cタイプ(不安定ーアンビバレント型)

子供は養育者が見えなくなる時に激しい苦痛を示します。再会時には身体接触を求めつつも怒りをぶつけたりします。

このタイプは、養育者が敏感性を持って関わる時とそうでない時との差が激しい場合に見られました。この場合、子供は「自分は養育者からいつ見捨てられるか分からない」と感じることになります。そのため、養育者の関心を自分に引きつけておく必要から、怒りなどの感情を一生懸命に訴えるのです。

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メアリー・エインズワースの経歴

幼少〜ボウルビイの助手時代

1913年、アメリカで生まれたメアリー・エインズワースは、5歳でカナダに移住します。トロント大学で師事したブラアツ(Blatz, William E)の「安全理論」の影響を受け、博士号を取得しました。その後カナダ軍女性部隊で大佐まで昇進します。

ロンドンに移り、タビストリック・クニックの児童精神分析部門の研究医師であったボウルビイ(Bowlby,John)の助手を務めます。

ウガンダ時代

1954年、アフリカのウガンダへの夫の転勤に同行します。そこで、ウガンダの子供たちが周囲を探索する際、常に母親の存在を意識しながら探索していた事を発見しました。

アメリカ時代

1956年、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学の教授時代に、ウガンダで行った観察をアメリカでも実施しました。しかし、家という見慣れた環境下のアメリカの子供達には、ウガンダで見られたような養育者を安全基地として利用する行動が見られませんでした。そのため、「見知らぬ場所」を作り出すためにストレンジ・シチュエーション法を考案したのです。

メアリー・エインズワースについて学べる本

最後に、メアリー・エインズワースの生涯や彼女が行った研究について更に詳しく学べる本をご紹介します。

心理学史の中の女性たち メアリー・エインズワース

日本心理学会

が刊行している「心理学ワールド 80号」では、エインズワースの生涯が簡潔にまとめられて紹介されています。

日本心理学会のホームページからは該当ページのみ確認することもできますので、ぜひ一読してみてください。

アタッチメントと臨床領域

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こちらの本では、ボウルビイの愛着理論、エインズワースのストレンジ・シチュエーション法など、心理学における研究の臨床現場での活用についても紹介されています。

メアリー・エインズワースの偉大な功績

メアリー・エインズワースが行った愛着理論の研究や彼女が考案したストレンジ・シチュエーション法は、現在の研究にも大きな影響を与えました。この記事を通じて、メアリー・エインズワースの功績を少しでもご理解いただけたら幸いです。

心理学者の生涯にスポットが当たることは少ないですが、時には彼ら・彼女たちの人生を知ることで新しい発見があるかもしれません。

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参考文献

Ainsworth,M.D.S.,Blehar,M.C, Waters,E.,& Wall,S.(1978) Patterns of attachment; A psychological study of the strange situation. Hillsdale,NJ; Erlbaum.

サトウタツヤ(2018)「心理学史の中の女性たち メアリー・エインズワース」心理学ワールド、80号、罰、pp29

初塚眞喜子(2010)「アタッチメント(愛着)理論から考える保育所保育のあり方」相愛大学人間発達学研究、3,1-16

木脇奈智子(2012)「子育てとジェンダーを考える;日本における男性の子育ての変化を通して」家庭科・家政教育研究(7),3-12

数井みゆき・遠藤利彦(編著)(2007)ミネルヴァ書房

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    • この記事を書いた人

    こころ

     臨床心理学・実験心理学等を学んだ後、心理カウンセラーとして勤務。現在はライターとして活動中。

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