ハリー・スタック・サリヴァンの業績とは?対人関係論や名著・精神病理学私記とともに解説

2022-04-07

精神分析は現在の心理臨床の基礎を気付いたと言っても過言ではない心理学理論であり、フロイトをはじめとする偉大な精神分析家によってその地位は築かれていきました。

今回はその中の一人であるハリー・スタック・サリヴァンを取り上げます。彼の生涯や有名な対人関係論とは一体どのようなものなのでしょうか。名著である精神病理学私記もご紹介しますので、この記事を読んでサリヴァンに興味を持たれた方はぜひ手に取って読んでみましょう。

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ハリー・スタック・サリヴァンの業績:対人関係論

サリヴァンは自らの生い立ちの影響を強く受けた人生を送っています。

自らが苦悩した対人関係に焦点を当て精神障害を捉える対人関係論こそ彼の人生観を反映しているものであると言えるでしょう。

人格発達に関する理論

古典的な精神分析では、人格発達をリビドーと呼ばれる性的な欲求の移り変わりによって説明しようと試みています。

これに対し、サリヴァンの対人関係論では人間の基本的欲求として次の2つを仮定します。

【対人関係論における基本的欲求】

  • 満足欲求:生理的な欲求
  • 対人安全保障感:安定した対人関係を求める欲求

サリヴァンは、人間が他の動物と異なる点として対人関係に注目しています。

他の動物と異なり、非常に未熟な状態で生まれてくる乳幼児は、一人のみでご飯を食べたり、トイレに行ったりなど満足欲求を満たすことはできません。そのため、満足欲求を満たすためにも他者からの助けを必要とします

そして、満足の欲求は他者から助けを得られるために必要な対人安全保障感という基礎があってこそ成立するため、サリヴァンは良好な対人関係を築くことの重要性を説いたのです。

対人安全保障感と人格形成

人間は絶えず対人関係の中に存在し、その対人関係において対人安全保障感を満たそうとしています。

しかし、対人安全保障感が満たされないと根源的な不安が生じ、感情状態が不安定となってしまうのです。このようなパターンは、子どもの人格形成に大きく関与しています

子どもにとって一番安定した対人関係を築くべき養育者から否認されてしまうのか、それとも受け入れられ、賞賛されるのかということに注意が向くことで自我が発達していきます。

そのため、親から否認されてしまうような悪い自我の部分を意識して不安になってしまわないよう、自分から切り離す解離を行うことによって自我は何とか対人安全保障感を満たした状態を保とうとします。

しかし、あまりにも解離が多いと、人格は統合されていない部分が多く、未成熟なものとなってしまいます

このような人格が未成熟な状態は、何かのきっかけで統合が崩れ、行動の妥当性が失われるリスクを内包しています。そして、それが精神異常を引きおこすとされます。

統合失調症の発生機序に関する理論

当時の精神医学では、器質的な異常により精神症状を呈するという見方が強く、統合失調症はその最たる例でした。

しかし、サリヴァンはそのような考えではなく、統合失調症の発症は人間的な過程であるとしたのです。

彼自身が統合失調症を発症するまでの間、複雑な家庭環境や友人に恵まれず、孤独に苦しみ、こころを許せる親友・チャムを求めていました。

しかし、孤独に苦しみ人間らしい人生を送れていなかったとしても、それで直ちに死が訪れるわけではありません。

サリヴァンの対人関係論では統合失調症の人格が崩壊していく病理は、その人が対人関係を築けなくても生きていくための自分を守る機能であると捉えたのです。

現代の医学においても、統合失調症の原因については特定されておらず、このサリヴァンの知見が全面的に支持されることはありません。

しかし、多くの精神障害の発生機序として想定されている脆弱性ストレスモデル(生まれながらの遺伝負因というリスクに対し、環境からのストレスを受けることによって発症するとするモデル)のように、サリヴァンは環境から受ける影響をいち早く指摘していたのです。

サリヴァンによる治療論

サリヴァンによる人格理論では、対人安全保障感が傷ついてしまっているため、人格に統合されない部分が多くなり、結果として人格は統合されず未成熟な状態になっているため、統合失調症のような精神異常をきたすと仮定しています。

そのため、そのような精神異常の大元となっている対人安全保障感の回復により、不安を引き起こすような他者から否認されてしまうような解離されている悪い自分の部分を意識化し、自我の中に取り入れられるよう取り組むのです。

対人安全保障感は、安定した対人関係によって満たされるのであり、心理療法を行う治療者は自分自身そして患者の不安の生起に敏感であり、その不安が彼らの経験において持つ意味を敏感に把握することができるよう関与しながらの観察を行う必要があるとされています。

このように、患者-治療者間の深い対人関係によって患者の対人安全保障感を修正し、不安を低減させることで人格の成熟を促す対人関係理論に基づいた治療は、統合失調症に対して高い治療効果を持っているとされ大きな注目を浴びたのです。

ハリー・スタック・サリヴァンの生涯

サリヴァンはアメリカにおける精神療法の第一歩を築いた人物としてその名を知られています。

しかし、彼が独自の精神分析理論を提唱するに至ったことには、彼の生涯が大きく関係しているのです。それではサリヴァンはどのような人生を送ってきたのでしょうか。

幼少期

ハリー・スタック・サリヴァンは1982年2月21日にニューヨーク州のノーウィッチという小さな町で生まれました。

母親はサリヴァン誕生時に39歳のエラ、父親は35歳のティモシーという人物で、2人の兄がいましたが幼くしてなくなっているため、事実上一人っ子として育てられていました。

母親から愛されて過ごしていたサリヴァンですが、彼が2歳半の1894年の夏に転機を迎えます。ハンマー会社の熟練工で働く父ティモシーが不況にもかかわらず家を購入したところ、母エラが発狂して失踪してしまったのです。

これにより、サリヴァンはスマーナ村というところの祖父母が運営する農場へ父と共に移り住みます。

幼いサリヴァンの面倒を見てくれたのは主に祖母でしたが、祖母と実母の教育方針など考えには大きな違いがあり、大きな混乱をもたらすものでした。そして、このような混乱は後の児童期にもからかいの対象になるなど大きな精神的なハンディキャップを引き起こすのです。

スマーナ村の学校に入学してからサリヴァンは成績優秀な優等生でしたが、いじめやからかいの対象となる辛い小学校時代を過ごします。

家族や学校などの人間関係に恵まれず葛藤を抱えていたサリヴァンですが、5歳上のクラレンスという友人を作り、友情を深めていきます。

このことが後にサリヴァンの理論の核となる、性欲とは無関係な親友との水入らずの関係であるチャムシップに完全な愛があるという考えへつながっていくのです。

精神医学の道へ

辛い幼少期を乗り越えクラレンスと友情を育みながら育ったサリヴァンは、高校を卒業後コーネル大学へと進学しますが、そこでまた孤独に陥ってしまいます

その孤独を埋めるために素行の悪い学生とつるむようになり、郵便を利用した詐欺に加担したことで逮捕され、大学を退学してしまうのです。この当時のサリヴァンの居所尾は不明ですが、この素行が悪かった2年間という時期は統合失調症を発症していたと考えられています。

その後、改めてシカゴの医学校へと進学し、卒業するまでの6年間の間に、製鉄所の産業外科医やイリノイ州の兵士にもなりました。

この当時は第一次世界大戦が起こっている時期で、シカゴの医学校を卒業してからサリヴァンは陸軍へと志願し、新兵の身体検査や医学的管理の仕事を行います。

第一次世界大戦が終わった後、社会問題となる軍人の心理的なストレスに関心を持ち予防精神医学に注力します。フルタイムでの臨床医の食を求め、シェパード病院に勤務したことから本格的に精神医学への道を進み始めます。

当時では権威的な存在であった医師と看護師や患者の間の地位の差を出来るだけ抑え看護師には助手としての待遇を与えることで自分の思想や技術を教育していったのです。

そして、統合失調症をはじめとする精神障害は対人関係の問題があると指摘し、対人関係論という新たな理論を作っていきました。

ハリー・スタック・サリヴァンについて学べる本

サリヴァンについて学べる本をまとめました。

初学者の方でも手に取りやすい入門書をまとめてみましたので、気になる本があればぜひ手に取ってみてください。

精神病理学私記

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日本評論社
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サリヴァンが活躍した当時、主に精神医学の知見はヨーロッパからもたらされており、アメリカでの著名な学者はほとんどいませんでした。

そのような、アメリカ精神医学の先駆者であるサリヴァンが生前に書き下ろした唯一の書籍であり、サリヴァン自身の性的志向や統合失調症経験などを赤裸々に綴っているのですが、当時は同性愛へ肯定的な意見は倦厭され、出版は差し止められていました。

しかし、サリヴァンの残した知見は彼の死後高く評価され、今でもその対人関係に注目した心理臨床の姿勢は重視されています。

そのようなサリヴァンの貴重な翻訳本から彼の生涯とその考え方について学びましょう。

ハリー・スタック・サリヴァン入門: 精神療法は対人関係論である

サリヴァンの理論は非常に難解なことで有名です。

そのため、初学者の方がまず手に取るべきともいえる入門書である本書では、対人関係論において欠かすことのできない主要概念の紹介から、発達理論、治療法までを丁寧に解説しています。

ぜひこれからサリヴァンの対人関係論を学ぼうとする方は手に取ってみてください。

ハリー・スタック・サリヴァンの人生

サリヴァンの対人関係論に基づく心理療法は治療が困難な統合失調症にも高い治療効果がみられたという報告もあります。

しかし、それは自身が対人関係に苦しみ、統合失調症を発症していたという壮絶な過去があるからこそ、共感することが難しい統合失調症患者のこころを捉えることが出来たのでしょう。

ぜひ、様々な心理療法、心理学理論を提唱した学者の生い立ち、背景にも注目して勉強してみましょう。

【参考文献】

  • 中野明徳(2011)『H. S. サリヴァンの生涯と対人関係論』福島大学総合教育研究センター紀要 (11), 27-36
  • 佐藤文子(1971)『心理療法における人間関係についての理論的考察(1) : Harry Stack Sullivanの対人関係理論の検討』県立新潟女子短期大学研究紀要 (8), 13-26
  • 川畑直人(2013)『精神分析、対人関係論、そしてサリヴァンの思想』心理相談センター年報 (8), 3-12

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    臨床心理士指定大学院に在学していました。専攻は臨床心理学で、心理検査やカウンセリング、心理学知識に関する情報発信を行っています。

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