アルフレッド・アドラーの業績とは?個人心理学の重要概念である目的論や課題の分離などを解説

2022-04-22

精神分析はフロイトによって創始され、現在でも支持されている心理学理論・治療法です。しかし、精神分析は様々な学者によって異なる理論が提唱され、フロイトとはまた違った視点での理論が提唱されています。

今日はその中でもアルフレッド・アドラーの業績を取り上げます。彼が築き上げた個人心理学の重要概念である目的論や課題の分離などをわかりやすくご紹介していきます。

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アルフレッド・アドラーの経歴

アルフレッド・アドラーは19世紀後半から20世紀初頭にかけて活躍した精神分析家です。

ウィーン大学の医学部で医学について学んだアドラーは当初内科医として活動をしており、劣悪な労働環境で働く当時の労働者の抱える社会問題に興味を持ち、病気の予防や人々を支える社会制度に強い関心を示していました。

1902年にウィーンで活躍していたフロイトが創始したウィーン精神分析協会と呼ばれる精神分析のサークルに参加することによって、心理臨床の分野に足を踏み入れます。

アドラーは非常に優秀な学生であり、フロイトのお気に入りの学生の一人だったようです。

しかし、アドラーが精神分析を学び、自分の理論を構築していくにつれ、小児性欲を根幹とするフロイトの理論を批判したのです。

これにより、フロイトとアドラーは決別することとなり、アドラーは個人心理学という自らの理論を発展させていったのです。

アドラー心理学の基本前提

アドラー心理学には基本前提となる人間観がいくつか存在します。

目的論

心理学の多くは、ある反応が生じた原因に目を向けます。

これを原因論と呼びます。

例えば、行動主義では、不適応行動を生じさせる環境からの刺激はどのようなものを見極めようとしますし、精神分析では症状の原因となる無意識の葛藤を浮き彫りにすることで治療を行います。

確かにアドラー心理学でも人間の行動には全て理由があるという前提に立っています

しかし、他の心理学と異なるのは、アドラー心理学ではこの理由を原因ではなく、目的だと考えることです。

アドラー心理学では、生じた行動や感情には、たとえ本人が自覚していなくとも何らかの目的を持っていると考えるのです。

そして、人間は自分で決めた「仮想的目標」に向かって行動を起こしていく主体的な存在であると考えるのです。

このような点で、小児性欲を心的エネルギーと考えたフロイトの精神分析とは大きく異なることが分かるでしょう。

ライフスタイル

目的に向かって感情や行動が生じると捉えるアドラー心理学では、生じた行動や感情を理解するために、その個人がこころの中で抱いている目標が何であるかに注目します

なぜなら、その目標によって生じる行動や感情は異なってくるからです。

そして、行動や感情の生起に影響を与える要因として目標の種類の他にもライフスタイルが挙げられます。

ライフスタイルは目標に向かうためのルートや癖に該当するものであり、どのように目標を達成しようとする傾向があるのかが分かれば、現在の行動の意味や今後の生き方についてもある程度予測が出来ると考えるのです。

個人のライフスタイルは10歳までの無力感を感じる体験にから生じる劣等感を克服しようとする試みの積み重ねによって形成されます。

全体論

心理学では、知覚や感情、思考、行動など精神現象の諸要素を細分化し、それぞれを検討することでこころの働きを捉えようとしてきました。

しかし、アドラーは人間の頭や足、胴体、腕などの部分を分けてしまうと生きた人間として機能しなくなるように、こころも一つのまとまりであり、意識と無意識、理性と感情のように分けて考えるべきではないと主張しました。

アドラーの個人心理学は英語でIndividual Psychologyと書きますが、このIndividualには個人という意味に加え、分割不可能な性質という意味が込められているのです。

このように、人間のこころが目的に向かってひとまとまりとなり進んでいくという前提に立っているため、自我とイドのような心的要素間の対立・葛藤は存在しないと考えます。

認知論

認知論とは、主観的な意味づけを通じてのみ現実を捉えられるとする立場のことを指します。

アドラー心理学では、人間は幼少期からの生活において物事を理解するための枠組みである「統覚スキーマ」を発達させ、それを通じて経験を解釈し、意味づけを行うと考えるのです。

ただし、アドラー心理学では客観的な現実の存在は否定していません。

そして、客観的現実と統覚スキーマを通じて知覚した主観的な現実の乖離が大きく、自己の幸福のみを志向するような認知の仕方は「私的論理」と呼ばれ、不適応的なライフスタイルの指標とされています。

逆に、客観的現実との乖離が少なく、周囲の幸福を志向する認知の仕方は共通論理と呼ばれ、精神的健康度の指標として考えられたのです。

対人関係論

アドラー心理学は目的志向という立場を持って人間の反応を捉えると先ほどお話ししました。

そして、人間のあらゆる行動は、対人関係上の問題解決を目的としていると考えたのが対人関係論です。

人間の行動は一見すると対人関係とは無関係のように思えるものもありますが、アドラーはそのような行動もよく考えてみれば対人関係の中でのみ意味を成すと考えたのです。

例えば、夢を見るという行動は、人が関わるとは思い難い行動の1つでしょう。

しかし、夢の中で行われる行動は未来の対人関係に向けたリハーサルであると考えることで夢を見るという行為にも対人的な目的を見出すことが出来ます。

そして、対人関係は解決を迫られることとなる人生の課題であるとして、ライフタスクと呼び、次の3種類があると提唱しました。

【ライフタスクの種類】

  • 愛のタスク:家族関係や異性関係など非常に近い関係
  • 交友のタスク:友人やご近所づきあいなど一般的な人間関係
  • 仕事のタスク:人間以外の物的環境との付き合い

創造性

人間は自分の意志で決めることのできる創造性を持った存在であるとアドラー心理学では考えます。

精神分析では、無意識の発見により、自分が自覚しコントロールをしている範囲は一部であり、自分のこころの中には自己決定により結果をコントロールすることが出来ない部分もあるという前提があります。

しかし、アドラー心理学派誰もが遺伝的・環境的条件がもたらす種々の制限を受けるものの、その制限の中で自分がどのように考え、そのような態度・行動をとるのかは自由に選択ができるという前提に立っているのです。

使用の心理学

アドラー心理学は既に説明したように、目的論、全体論という前提のもとで理論化されています。

つまり、人間の知能や感情などの精神機能、そして神経症や精神病の症状も含めすべてはライフスタイル・人生の目標のために使用されていると考えられるのです。

これを使用の心理学と呼びます。

アドラーの言葉に「重要なことは、人が何をもって生まれたかではなく、与えられたものをどう使いこなすかである」というものがありますが、これは使用の心理学を表す最たるものだと言えるでしょう。

アドラー心理学の心理臨床的アプローチ

これまでアドラー心理学の基本的前提を見てきました。

もちろん、アドラー心理学は不適応に陥らず、日常をよりよく生きるための考えとしても有益ですが、精神的な病理を捉える心理学理論でもあるのです。

例えば、目的論と使用の心理学的観点に基づき社会不適応を考えてみると、無益・もしくは破壊的な目的のために自分の精神機能を用いることで精神疾患や犯罪・非行に陥ると考えるのです。

そのため、患者が自分の症状を利用していることを見落としてはいけないという考えがアドラー心理学の心理臨床的アプローチの前提にあると言えるでしょう。

それでは、アドラー心理学的カウンセリングにおいて重要となるポイントを見ていきましょう。

共同体感覚の育成

人間は古くから集団でお互いに助け合うことによって生きてきました。

このような人間が社会的存在として機能するために必要な心理特性が共同体感覚です。

共同体感覚の高い人は自分だけではなく、他者の幸福にも関心を持ち、そのために貢献や協力を嫌がりません。

この共同体感覚はどの人にも備わっています。

しかし、その素質が十分に発達するのかは人との関わりや教育などの外部からの働きかけが必要です。

社会不適応に陥った人は、社会生活を送ることが出来ない、つまり共同体感覚が弱ってしまっている状況のため、カウンセリングなどの関わりによってクライエントの共同体感覚を育てることを目指すのです。

そのため、アドラー心理学は心理臨床を教育という観点で捉えていることが大きな特徴です。

アドラー心理学では、次の3つの学びをクライエントに与える場だと言えるでしょう。

【教育的プロセス】

  • 相互尊敬に基づく協働的態度:合意された目標に向かって対等な立場で共同する体験により、共同体感覚の育成を行う
  • 認知・行動パターンの理解:カウンセリングによって自らの私的論理やライフスタイルの特徴について理解する
  • 社会的スキル:望ましい振る舞いを身に着けることにより、ライフタスクへの取り組みに役立つ内的なリソースを豊かにする

勇気づけ

アドラー心理学のカウンセリングの目標は共同体感覚の育成でした。

しかし、不適応に陥っている人は、ただ望ましいものを教えるというだけでは回復することは難しいでしょう。なぜなら、不適応に陥った人の多くは、人生をかけて向き合うべきライフタスクに取り組む勇気をくじかれた状態だからです。

アドラー心理学での勇気とは、自分の内部及び外部から生じる創造的生命力であり、困難に直面したとしても自己や他者のために諦めないエネルギーを指します。

多くのクライエントが陥る勇気がくじかれた状態では、「何をやっても駄目だ」、「どうしていいかわからない」、「周りは自分のことをわかってくれない」というネガティブな状態にいます。

そのため、やるべきことが共同体感覚の育成だとわかっていても、必要な行動を起こすだけのエネルギーが足りないのです。

そこでカウンセラーは勇気づけと呼ばれる技法により、クライエントに勇気づけられた状態をもたらそうとするのです。

課題の分離

人間のあらゆる行動は対人関係の問題を解決するために行われるという対人関係論に基づくアドラー心理学では、精神疾患によりもたらされる社会不適応も対人関係に関するものであると捉えます。

そして、その治療では課題の分離と呼ばれる技法が重要となるのです。

課題の分離とは、対人関係の問題が「自分の問題なのか」それとも「他者の問題なのか」をしっかりと分けて考えましょうということを指しています。

アドラー心理学的カウンセリングでは、クライエントを勇気づけていき、問題について話し合いを進めていくにつれ、この問題は誰が責任を持つかという責任の所在を明らかにしていき、他者の課題に不当介入しないもしくは自らの課題を他者に押し付けないようにしなければなりません。

例えば、依存症に苦しむ患者のカウンセリングにおいて、話を聞いていても、なかなか依存から抜け出せないとカウンセラーはうまく進まない治療にいら立ちを感じるかもしれません。

しかし、そのような感情に対処をしなければ、クライエントは勇気づけられず、依存状態から抜け出すのはますます難しくなるでしょう。

現実的に依存状態か抜け出すかどうかは、あくまでクライエントの課題であり、心理的支援や依存から抜け出すために役立つサポートを提供することが自分の課題であると分けることで、不必要なストレスを感じることなく対等な関係で治療を進めることができるのです。

アドラーについて学べる本

アドラーについて学べる本をまとめました。

初学者の方でも手に取りやすい入門書をまとめてみましたので、気になる本があればぜひ手に取ってみてください。

マンガでやさしくわかるアドラー心理学

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独特な用語が多いアドラー心理学を学ぼうと考えている方は、読み進めやすい漫画から入ってみるのはどうでしょうか。

漫画での具体的な場面とその解説という形式で進む本書であれば、難解なアドラー心理学にも親しみを持つことができるでしょう。

アドラー心理学入門 (ベスト新書)

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どのようにすれば幸福に生きることが出来るのか。

この本質的な問いに応えようと試みたものがアドラー心理学の大きな特徴です。

まだアドラー心理学に不慣れな初学者は本書のような入門書を手に取ることをおすすめします。

未来志向のアドラー心理学

精神分析は過去に起こった出来事が無意識に抑圧されるため、不適応に陥る症状を作り出すと考えます。

しかし、精神分析を学び、フロイトの弟子として学んだアドラーは異を唱え、当時革新的であった、これからの目標に向かって人間の精神機能は作用すると主張したのです。

このような未来に向かってどのような行動が望ましいのかを考えていくアドラーの考えは悩みの多い現代人に必要なものとして改めて注目を浴びています。

ぜひ、これからもアドラー心理学について詳しく学んでいきましょう。

【参考文献】

  • 浅井健史(2015)『アドレリアン・コンサルテーションの理論と実践』コミュニティ心理学研究 19 (1), 94-111
  • 重信京美(2009)『教育講演”勇気づけ”について』アドレリアン22(2),1-10
  • 鎌田穣(2002)『カウンセリングにおける課題の分離に関する一試論-コミュニケーションの矢印を用いた視覚的理解の試み-』アドレリアン16(2),1-7

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    • この記事を書いた人

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    臨床心理士指定大学院に在学していました。専攻は臨床心理学で、心理検査やカウンセリング、心理学知識に関する情報発信を行っています。

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