子どもの発達をめぐる問題は年々取り上げられることが増え、特に子どもの成長を見守る保育園や学校などの現場では、心理的な専門家の必要性が高まっています。
そのような子どもの発達の専門資格であるのが臨床発達心理士です。それでは臨床発達心理士の仕事内容とは一体どのようなもので、臨床心理士との違いは何なのでしょうか。
臨床発達心理士になるためにはどうすればよいのか、試験の合格率などについても解説していきます。
目次
臨床発達心理士とは
臨床発達心理士とは、一般社団法人臨床発達心理士認定運営機構により認定される心理の専門資格です。
この資格の発端は、1994年に改訂された米国精神医学会の発行する精神疾患の分類と診断マニュアル第4版(DSM-Ⅳ)が刊行されたことにあります。
心理臨床の現場で用いられる精神障害の診断手引きはWHOの発行する国際疾病分類(ICD)と米国精神医学会の発行するDSMの2つが主流となっていますが、DSM-Ⅳへの改訂により、ICDとの整合性がとられ、特に発達に障害を持つ子どもを理解するうえで一定の基準が示されるようになったのです。
これにより、子どもの発達をめぐる問題に対する現場の混乱が少なくなると共に、子どもの発達をめぐる問題によりスポットが当たるようになりました。
このような経緯を受け、2001人に日本発達心理学会など4学会の連合資格として臨床発達心理士認定運営機構が設立され、初めての臨床発達心理士が2003年に誕生したのです。
臨床発達心理士の仕事内容
臨床発達心理士の仕事は大きく次のような分野に分かれます。
【臨床発達心理士の仕事内容】
- 発達をめぐる問題の心理査定
- 発達の問題を持つ人(子ども~大人)の個別支援
- 家族・地域などの集団への支援
臨床心理学では、まず来談者など社会不適応に陥った人の抱える問題がどのように生じているのか、なぜそれが不適応的に作用しているのかを情報収集から把握する心理査定を行います。
これは臨床発達心理士の業務内容にも含まれています。
また、発達というテーマは子どもだけの問題ではありません。生涯発達や大人の発達障害という観点からも支援を行う対象は広く、発達の問題を抱える人に対し、カウンセリング等個別支援を行います。
そのほかにも、発達の問題を抱える子どもの家族に発達を促すかかわり方や、保育園の先生に気になる子への対応を伝えるなど、地域社会全体を巻き込み、包括的にクライエントを支える仕組みづくりを行うのです。
臨床心理士との違いと資格の専門性
上記の仕事内容は臨床心理士にも通じるところがあります。
臨床心理士の職務内容も「心理査定」「個別援助」「地域援助」「調査・研究活動」の4領域から構成されており、同じ臨床現場で活躍する心理士であるという共通点があるのです。
それでは、両者はどのように異なっているのでしょうか。
学問領域の性質の違い
臨床心理学の大きな支柱となっている力動的心理学は、個人を動かす動機の解明を中心課題に位置付けます。
例えば、不安障害で苦しんでいるクライエントが、どのようなメカニズムで不安の対象を回避し、その回避行動からさらに不安が高まるという悪循環に陥っているのかをとらえようとするのです。
これに対し、臨床発達心理学では、ある特性や性能の発生の起源や経路を探ろうとするアプローチをとろうとするのです。
例えば、学校に行けなくなってしまった子どもは、生まれながらにして環境になじむことが苦手な特徴があるのか、不適切な養育を受けたことがあるのか、学校でいじめられた経験があったのかなどが挙げられます。
このように、臨床発達心理学は「どこから」という意味で、不適応に陥ったクライエントの理解をしようと試みる点に大きな違いがあります。
システムの違い
臨床心理学的介入の目的はクライエントの抱える問題を特定し、社会不適応状態を解消することにあります。
もちろん、臨床発達心理士の仕事にも問題を既存の理論に落とし込み、病因を特定し適切な介入・支援を行うという実践-治療の試みがなされるという演繹法的アプローチを取る必要が出てきます。
しかし、発達心理学という学問は、無数の仮説に基づき、問題を追及していく帰納法的なアプローチに基づいており、臨床発達心理士はこの2つの矛盾したアプローチをうまく融合させる必要があるのです。
そもそも生涯発達という観点では、クライエントが心理士と出会った段階は発達の途中であり、これからどのような発達を遂げるのかは誰にも予想ができません。
そのため、臨床発達心理士はクライエントを可能態(いかなる状態にも変化していく存在)として、今後の発達の過程において起こるあらゆる変化の可能性を頭に思い浮かべながら、周囲の環境(人・社会・文化)と相互作用を繰り返しながら成長していく存在として接することが大きな特徴であると言えるでしょう。
臨床発達心理士になるためには
臨床発達心理士になるためにはいくつかの資格要件があります。
この要件を満たす人は定められた試験に合格することで臨床発達心理士の資格を取得できるのですが、まずはその前提条件をクリアする必要があるのです。
【臨床発達心理士の資格要件】
- 発達心理学関連領域の大学院に在学し、必要な実習を受け、単位を取得している
- 発達心理学関連領域の大学、大学院を卒業し、臨床経験が十分にある
- 大学や研究機関で5年以上勤務歴があり、十分な研究業績を有している
- 公認心理士を取得し、決められた講習会を受講している
このような要件を満たす人は、臨床発達心理士の受験資格を有しています。
資格取得の申請は年に1度と決められており、所定の期日内にまずは申請書類を準備し、認定審査料の支払いを行います。
その後、申請要件に合わせ1次試験が行われます。1次試験の内容には書類審査、筆記試験などが含まれています。
こうして1次試験を通過したものは複数の審査者による面接試験が実施され、これを通過したものには臨床発達心理士の資格が付与されるのです。
臨床発達心理士の合格率
臨床発達心理士の合格率は公表されていません。
しかし、受験資格が認められた関係過程を卒業し、複数年の臨床経験が必要であったり、200時間以上の実習の報告書が求められる難易度を考えると、臨床心理士と同等レベルの試験の難しさが考えられます。
臨床心理士の合格率が6割であることを考えると、臨床発達心理士もそう簡単に取得できる資格ではないことが予想されるでしょう。
臨床発達心理士について学べる本
臨床発達心理士について学べる本をまとめました。
初学者の方でも読み進めやすい入門書をまとめてみましたので、気になる本があればぜひ手に取ってみてください。
臨床発達心理士 わかりやすい資格案内[第4版]
臨床発達心理士について興味がある方の中には、資格取得も検討なさっている方も多いのではないでしょうか。
それでは臨床発達心理士という資格がどのようなものなのかをもっと詳しく学びましょう。
史上最強図解よくわかる発達心理学
臨床発達心理士のバックグラウンドとなっている学問は発達心理学です。
そのため、臨床発達心理士を志している人は発達心理学に関する十分な知識を有していることが必須であると言えるでしょう。
ぜひ、図解を見ながらスムーズに発達心理学を学ぶことのできる本書で、臨床発達心理士への一歩を踏み出しましょう。
発達をめぐる問題の専門家
心理士には様々な資格があり、学校現場などで発達の問題が取り上げられることの多い昨今では、発達の問題のスペシャリストである臨床発達心理士の重要性は高まっていると言えるでしょう。
ぜひ発達の問題を抱える人への支援に興味のある人は、臨床発達心理士について詳しく学んでみましょう。
【参考文献】
- 一般社団法人臨床発達心理士認定運営機構『臨床発達心理士認定運営機構 | JOCDP』
- 本郷一夫(2013)『臨床発達心理士の専門性と果たすべき役割 』発達心理学研究 24 (4), 417-425
- 浜田寿美男(2009)『発達心理学の制度化と人間の個体化 』発達心理学研究 20 (1), 20-28