現在も多くの読者に愛されている河合隼雄の著作。
今回はその中から、自伝的作品や臨床心理学・ユング心理学などに関する名著・おすすめの本を厳選してご紹介します。
数ある河合隼雄の著作の中、この記事でご紹介しているのは極一部ですが、皆さまを河合隼雄ワールドに誘うきっかけとなれば幸いです。
目次
河合隼雄とは
河合隼雄は、1928年に兵庫県篠山市に生まれました。
臨床心理学者として、また日本人初のユング派分析家の資格取得者として知られています。
その著作は多数あり、内容も臨床心理学に関するものやユング心理学に関するものから遺作となった童話まで、幅広くなっています。
また、多くの講義や対談もされており、これらも本として出版されています。
2007年に亡くなってから10年以上が経つ現在でも、河合隼雄の本の出版は止まることを知りません。
河合隼雄の自伝
まず初めに、河合隼雄がどのような人であったのかを窺い知れる自伝的な作品をご紹介します。
河合隼雄最後の作品「泣き虫ハアちゃん」
本書は、河合隼雄が平成18年8月に脳梗塞で倒れる前に書かれた最後の作品です。
作品としてはフィクションですので、児童文学という分類になるでしょうが、主人公のハアちゃんもその両親も兄弟達も、全て河合隼雄自身の幼い頃の記憶を元に描かれています。
1930年代、「男の子は泣いてはいけない」という考えが主流だった時代に、兄弟の中でなぜかハアちゃんだけが泣き虫。
ハアちゃんはそんな自分が嫌で仕方がないのですが、ある時、自分が泣き虫になった訳を母から聞きます。
温もりのある両親と逞しい兄弟に囲まれて育っていくハアちゃんの姿から、河合隼雄の少年時代に想いを馳せることができる貴重な作品です。
河合隼雄の名著
河合隼雄の著書の中から、特に有名な本をご紹介します。
40年を超えるベストセラー「無意識の構造」
本書は、河合隼雄の本と言って、まず思い出す人が多い本の1つでしょう。
1977年の初版から50回を超える改訂を重ね、2017年に最新の改訂がなされました。
著者の立場であるユング心理学を中心として、無意識とはそもそもどのようなものであるのか、コンプレックスとは何かについてなどが述べられています。
また、夢分析や元型、無意識における異性像、自己実現の過程について、豊富な臨床例を挙げながら解説がなされています。
1974年にNHKテレビの大学講義で放映された「無意識の構造」をベースとした、河合隼雄の名著です。
50年に及ぶベストセラー「コンプレックス」
本書も、先に掲げた「無意識の構造」と同じく、河合隼雄の著作の中でも特に長く読み継がれている本です。
言葉としては日常的によく使われる「コンプレックス」ですが、その提唱者ユングの心理学と深くつながっています。
本書も、「ユング心理学への橋渡し」として、コンプレックスが自我を奪う二重人格の現象や神経症や対人関係に関わる問題について取り上げています。
さらに、自我とコンプレックスとの望ましい関係、夢という形でのコンプレックスから自我へのメッセージについても述べられています。
最終章では、ユングの元型についての考え方が解説され、コンプレックスとの対決を通じた死と再生の体験の繰り返しこそが、自己実現の過程である、と締め括られています。
河合隼雄とユング心理学
日本にユング心理学を広めた第一人者である河合隼雄、ユング心理学の本の中からは、次の2冊をご紹介します。
河合隼雄の処女作「ユング心理学入門」
ユング心理学について数々の本を記した河合隼雄の処女作で、初版は1967年です。
無意識を扱うユング心理学のテーマは多岐に渡ります。本書は、その中でも主要なテーマであるタイプ、コンプレックス、個人的無意識と集合的無意識、夢分析などについて解説がなされています。
「入門」と書かれていますが、文字通り無意識について学んだことのない人が本当の1冊目として手に取られると、難しいと感じられるかもしれません。
臨床心理学の現場にこれから出ようとする人、または臨床家として歩み始めた人にとっては、著者の案内によってユング心理学の世界を知る有益な本となるでしょう。
物語に潜むユング心理学「昔話の深層 ユング心理学とグリム童話」
ユング心理学における集合的無意識について理解しようとする時、古くから語り継がれる物語を無視する訳にはいきません。
河合隼雄は、物語とユング心理学についての関係について深い知見を得ています。
本書では、主にグリム童話を取り扱い、そこで見られる人間の内的な成熟過程を他人事として読み解くだけでなく、読者自身が自己の内的体験に照らし合わせて自分事として捉えられるようになる事を求められています。
読者は、グレートマザー、母親からの心理的自立、「怠け」と「創造」、影、思春期、アニマ、アニムス、自己実現などについて、自分の体験を振り返りながら読むことにより、ユング心理学について理解をより深めていく事ができるでしょう。
河合隼雄と臨床心理学
河合隼雄の著作には、臨床家の現場での様々な悩みに応えてくれるものが多数あります。ここではその中から2冊をご紹介します。
心の疲れに効く「こころの処方箋」
本書は、30年もの間多くの人に読み継がれ、多くの人を癒してきた本と言えるでしょう。
悩みや迷いがある時、日々こころと向き合ってきた著者の、ユーモアと優しさに溢れた言葉に触れる事で、生きるエネルギーを得、また歩き出す勇気を与えられます。
また、臨床家にとっては、クライエントに向き合う姿勢について改めて考えさせられる事もあるでしょう。
「人の心などわかるはずがない」から始まり、「己を殺して他人を殺す」、「マジメも休み休み言え」、「心配も苦しみも楽しみのうち」など、55章から成っている本書は、その日の気分で好きな所から読む事もできます。
河合隼雄を聴く「カウンセリングを考える 上・下」
本書は、四天王寺カウンセリング講座における河合隼雄の講演が編集されたものです。
本書を読んでいると、亡くなって10年以上が経つにも関わらず、目の前で先生が話していらっしゃるような気さえしてきます。
上では、現代社会とカウンセリング、カウンセリングにおける家族や不登校、いじめといったテーマが扱われています。
最終章の「カウンセラーの責任と資格」もそうですが、全てを通して教科書に載っているような知識ではなく、白か黒か、良いか悪いかではなく、読者が自然に自分の心を使って考え始めるような働きかけがなされています。
下では、家族関係、ユング心理学と禅、男性と女性、カウンセラーのための児童文学、生きる、というかなり広いテーマについて語られています。
人の心と向き合うためには、これだけの幅広いことを、ユーモアを持って学んでいく事が必要だと教えてくれる本です。
魂を追求した人、河合隼雄
今回ご紹介できた河合隼雄の本は、書かれた本のごく一部でしかありません。ファンの皆さまからは、「なぜあの本が載っていないのか」とお怒りを買うのではないかと懸念しております。
その位、河合隼雄は多様な分野で数多くの本を書かれた方です。そして、どの本を読んでも、魂を追求することへの厳しさと、人間に対する暖かさを感じられます。
臨床心理学の専門家のみならず、一般読者にも愛された氏の本は、人の心に関心のある方にならどなたにでも響くものがあるはずです。
また、臨床家にとっては、自分の未熟さに直面させられるとともに、そのような未熟な自分でも人の役に立てるかもしれない、という希望を与えてくれるものになるでしょう。
亡くなってから10年以上が経ったとは思えない河合隼雄の本に触れて、自分が普段見逃している景色に出会い、またその先にある癒しを体験されてみてはいかがでしょうか。