誤信念課題とは?信念の種類や二次的誤信念課題について解説

2023-05-15

相手の様子を見て、どのような気持ちなのか、何を考えているのかをある程度推測することはコミュニケーションにおいて日常的に行われています。

そのような推測の基盤となっているものは心の理論と呼ばれ、その獲得について調べる心理学的課題が誤信念課題です。

それでは、誤信念課題とはいったいどのようなものなのでしょうか。信念の種類や非言語的誤信念課題、二次的誤信念課題について解説していきます。

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誤信念課題とは

誤信念課題とは、心の理論の獲得の有無を測定することの出来る心理学実験です。

心の理論とは、相手が何を考えているのか、どのような気持ちなのか、どのように感じているのかという心の状態を相手の行動や様子などから感じ取ることを指します。

なお、心の理論は次のような知識がベースとなっているとされます。

【心の理論の基礎となる知識】

  • 人には目に見えない「こころ」があること
  • 「こころ」は、その人の「欲求」と「信念」によって構成されている
  • その人の行為は、欲求と信念に基づいて行われる

誤信念課題の歴史と代表例

この課題はもともと、1978年に霊長類学者のデイビッド・プレマックとガイ・ウッドラフによって発表された「チンパンジーは心の理論をもつか」という論文からスタートしました。

チンパンジーなどの霊長類の動物は同種の仲間やほかの種の動物が感じ、考えていることを推測しているかのように見える行動をとることがあります。

そして、その行動の背景には、人間と同じように心の理論が形成されているのではないかと考えたのです。

この研究は結局人間以外の霊長類が心の理論を持つことを示す根拠は乏しいとして明らかとなってはいませんが、この研究では自己及び他者の目的、意図、知識、信念、思考、疑念、推測、ふり、好みなどの内容を理解することのできる心の理論が初めて提唱されたのです。

そして、この研究に触発されたハインツ・ウィマーとジョセフ・パーナーは人が心を持つ主体であることを理解しているのかを調べるために定型発達児を対象としたマクシ課題(もしくはチョコレート課題)と呼ばれる誤信念課題を考案しました。

【マクシ課題】

マクシは、買い物から帰ってきたお母さんが買ってきたものをしまうお手伝いをしています。

マクシはチョコレートを「青い食器棚」にしまいます。

彼はチョコレートが大好きなので、遊びから帰ってきたときに食べようとどこにチョコレートをしまったか正確に覚えておきます。

それから、彼は遊びに出かけました。

彼がいなくなってからお母さんはケーキ作りの準備を始め、チョコレートを青い食器棚から取り出して使いました。

そして、お母さんは使い終わったチョコレートを青い棚ではなく、緑の棚にしまいました。

その後、卵を買い忘れたことに気づきお母さんも出かけます。

そこに、マクシがお腹を空かせて帰ってきました。

チョコレートを食べたい彼は、どこにチョコレートをしまったのかまだちゃんと覚えています。

この課題では、上記のストーリーを読んで、マクシがチョコレートを食べようと、どこを探すと思うのかを質問し、その回答から心の理論が成立しているかを確かめようとするのです。

この時に、ストーリーでチョコレートは最後に緑の棚にしまわれていることが明示されていますが、マクシがチョコレートを「どこにしまった」と思っているのかとは別問題です。

そして、マクシが遊びに出かける前に最後にチョコレートを見たのは青い食器棚であり、彼は遊びから帰ってきたときにチョコレートを食べようとまず青い食器棚を探すでしょう。

このように、物語に登場する他者が、実際とは違う場所にモノがしまわれていると考えている「誤った信念」について理解することができるかを明らかにする課題として、「誤信念」課題と呼ばれたのです。

また、この心の理論は自閉症児に欠如していることが指摘されており、バロン=コーエンとアラン・レズリーそしてウタ・フリスが1985年に「自閉症児は『心の理論』をもつか?」によって、マクシ課題とほぼ同様の構成のサリーとアンの課題を開発しました。

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誤信念課題の種類

誤信念課題にはいくつかの種類が存在します。

二次的誤信念課題とは

二次的誤信念課題とは、その名の通り、二次的な信念を取り扱った誤信念課題です。

そもそも信念は、テーマをどのような階層で思い浮かべているかによって分類することができます。

マクシ課題の開発者であるウィマーとパーナーは、次のような信念の階層があることを指摘しています。

内容
0次的信念の表象自身が思い浮かべている信念・願望
一次的信念の表象信念や願望についての信念や願望
二次的信念の表象信念や願望についての信念や願望に関する信念や願望

これはいったいどのようなことを表しているのでしょうか。

例えば、0時的信念の表象では、被験者はアイスクリームを食べたいと考えている状態を指します。

そして、階層が一次元上がると、被験者は、Aさんがアイスクリームを食べたいと考えている状態にあることを知っている状態となります。

さらに階層が上がり、二次的信念の表象となると、被験者は、『「Aさんがアイスクリームを食べたいと考えている」とBさんは思っている』ことを知っている状態です。

マクシ課題やサリーとアンの課題は、登場人物であるマクシ、サリーが思い浮かべているであろうことを被検者が推測するものであるため、一時的信念の理解を対象としています。

そして、ウィマーとパーナーは、マクシ課題を改良し二次的信念課題を開発しています。

【導入】
登場人物であるジョンとメアリーは今朝、公園におり、公園にはアイスクリーム屋さんがおり、アイスクリーム屋さんの軽トラックが停まっている。

【エピソード1】
メアリーはアイスを食べたいが、お金を家に置いてきてしまったため、とても悲しんでいます。
そこでアイスクリーム屋さんはメアリーに「午後はずっと公園にいるからアイスクリームは午後は後でも買えるため、悲しまなくていい」と伝えます。
それを聞きメアリーは喜び、「午後アイスクリームを買いに行く」とアイスクリーム屋さんに伝えます。

【エピソード2】
メアリーが家に帰った後もジョンは公園に残っていました。
するとアイスクリーム屋さんが公園から立ち去ろうとするのを目にします。
ジョンが「どこに行くのか」を訪ねると、アイスクリーム屋さんは「公園ではアイスが売れないから、教会に移動する」と言いました。

【エピソード3】
アイスクリーム屋さんが教会へ向かっていると、偶然メアリーの家の前を通りました。
メアリーは窓からアイスクリーム屋さんを見かけ、「どこに行くのか」を尋ねます。
すると、アイスクリーム屋さんは「教会へ移動し、アイスを売る」とメアリーにも言いました。

【エピソード4】
ジョンも家に帰り、宿題をやっていましたが捗らないため、メアリーに手伝ってもらおうとメアリーの家を訪れました。
すると、メアリーは家にはおらず、出てきたメアリーの母から「メアリーは今出て行ったところで、アイスを買うと言っていた」と伝えられます。

この課題では、ジョンはメアリーがどこに行ったと思っており、どこへ探しに行くかを尋ねます。ジョンは、メアリーの家の前でアイスクリーム屋さんと会話があったことを知りません。

そのため、メアリーは「午後はずっとアイスクリーム屋さんが公園にいる」と思い、公園にアイスを買いに行っているとジョンは考えているはずなのです。

非言語的誤信念課題とは

誤信念課題の代表的なものの多くは、ストーリーを呈示し、その登場人物が思い浮かべているであろう信念を推測させる言語的な能力を求めるのです。

しかし、それでは心の理論の獲得は言語能力による影響を強く受けてしまうことになります。

特に自閉症児は心の理論が欠損しているとして、誤信念課題の対象となることも多いです。

しかし、自閉症は言語的なコミュニケーションにも問題を抱えているため、その症状により誤信念課題の結果は心の理論の育ち以外の要因による影響も受けかねないのです。

そのため、非言語的な誤信念課題も開発されています。

代表的なものでは、サリーとアン課題のような誤信念課題を映像で流したり、人形劇の形でストーリーを提示し、登場人物が探すであろう方向へ視線を向けているかを測定するというものです。

このように、言語能力に問題のある者の心の理論を測定するために非言語的な手続きも採用されることがあるのです。

誤信念課題について学べる本

誤信念課題について学べる本をまとめました。

初学者の方でも読み進めやすい入門書をまとめてみましたので、気になる本があればぜひ手に取ってみてください。

「心の理論」テストはほんとうは何を測っているのかー子どもが行動シナリオに気づくとき

心の理論のテストである誤信念課題に取り組む際には、ストーリーを覚えておく記憶力や質問の意味を理解する言語能力、おもちゃが実際に隠されている場所を答えようとする反応を抑え、正しい答えを出す注意制御能力など多様な能力が必要とされます。

心の理論を測定するテストで本当は何を測っているのかについて解説している本書を読んで、誤信念課題に隠された仕掛けを探しましょう。

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誤信念課題の測定対象となる心の理論。

この心の理論がしっかりと理解できていないと、誤信念課題でどのようなことをしているのか正確に把握することは困難です。

ぜひ、本書で心の理論について詳しく学びましょう。

嘘と誤信念課題

私たちはコミュニケーションにおいて事実と異なる「嘘」をよく使います。

何も嘘といったからと言って、相手をだます意図をもったものだけでなく、冗談や謙遜、お世辞などは人間関係を円滑に進めるうえで非常に重要な社会的スキルともなります。

そして、このような高度なコミュニケーションが成立するためには、私は○○だと相手は考えているだろうという二次的信念が欠かせないのです。

誤信念課題で測定される能力は日常生活に根付いているものであり、そのような視点で心理学研究を調べると新しい気づきが増えるかもしれません。

【参考文献】

  • 瀬野由衣(2011)『幼児期の「心の理論」研究の展望 』愛知県立大学教育福祉学部論集 60 25-34
  • 林創(2001)『「心の理論」の二次的信念に関わる再帰的な心的状態の理解とその機能』京都大学大学院教育学研究科紀要 47 330-342
  • 佐久間路子(2017)『なぜ歳児は誤信念課題に正答できないのか : 第2世代の心の理論研究の概観から 』白梅学園大学・短期大学紀要 53 1-14

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    • この記事を書いた人

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    臨床心理士指定大学院に在学していました。専攻は臨床心理学で、心理検査やカウンセリング、心理学知識に関する情報発信を行っています。

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