「フロー」とは、自我が埋没し、行っている活動や行為、体験に対して、完全に集中した状態を指します。イタリアの心理学者ミハイ・チクセントミハイ(Mihaly, Csikszentmihalyi)によって提唱されました。フローの意味や立脚する理論、日常生活での応用についてまで具体例を交えて分かりやすく解説していきます。
目次
フロー状態(フロー体験)とは
まず初めに、フロートはそもそも何なのか、その意味や具体例について説明していきます。
フロー状態(フロー体験)の意味
フロー(flow)とは、人間がその時にしている行為や行動、体験に対して完全に没入し、精神的に集中している状態を指します。フローは隠喩であり、ピークエクスペリエンス、没我状態、無我の境地などとも呼ばれます。
運動選手などは「ゾーンに入る」と表現することも多く、これらは総じて、完全に集中しきった状態の精神状態を指していることから、フローと同義として用いられています。
フローにある人は完全に集中していて、考えや不適切な感情をあちこちに散らす余裕はなく、自意識は消失し、いつもより自分が強くなったように感じると言われています(Csikzentmihalyi, 2010)。時間の感覚は歪み、何時間もがたった一分に感じられ、人の全存在が肉体と精神のすべての機能に伸ばし広げられます。
フロー状態(フロー体験)の具体例
多くの人がテレビゲームや絵を描くなどの創造的行為においてフローを体験していると言われています。幼少期にはテレビゲームに熱中する余り、親からの声掛けに全く気付かず、何時間もゲームをプレイし、気がついたら窓の外が暗くなっているなんて経験を持っている人も多いのではないでしょうか。
こうした、時間的感覚が歪み、外界からの刺激(親の声掛けなど)に注意が向かないほど、深く体験に集中している状態こそがフローです。
ミハイ・チクセントミハイのフロー理論
フロー理論の提唱者であるミハイ・チクセントミハイは、フロー状態に入るためには、3つの条件が必要であるとしています。この3つの条件について具体例を交えて分かりやすく解説していきます。
達成目標の存在
その活動によって達成しようとしている目標が明確に定められていて、それにより心理的機能の秩序性が高まる時にフローは体験されやすくなります。
逆に、活動によって達成される目標が明確ではない、または魅力的ではない場合にはフロー状態に陥ることは困難になると言われています。
つまり「この活動をすることで、一体どんな意味があるのか分からない」「この活動をしたところで、得られるものは、さして魅力がない」といった状態では、フローは発生しづらいのです。
課題の適度な困難度
フローは、体験する個人のスキルで丁度処理できる程度のチャレンジを克服することに没頭している時に起こる傾向があるとされています(Csikzentmihalyi, 1990)。
もし、達成するべき課題が困難でありすぎる場合には、チャレンジ精神は徐々に不安に移行し、心配に移ろいでいきます。逆に達成すべき課題が余りに容易であると、課題に対し退屈を感じ、フローは体験しづらくなります。
具体的には「明日からいきなり、宇宙飛行士になろう」という課題を考えてみると良いでしょう。余りの困難度に、集中して努力するどころではありません。
逆に「これから24時間、紙を開いては閉じるを繰り返す」という課題を考えてみましょう。余りにも、この課題が簡単すぎるあまり、退屈しそうだというのは火を視るよりも明らかかと思います。
フィードバック
フローは、すぐにフィードバックを得られる課題への活動や集中によって起こりやすいとされています。
すぐにフィードバックを受けることで、自分がその課題をどれくらい上手く出来ているのかがハッキリと分かり、自分が課題達成に近づいているか、遠ざかっているかが直ぐに判断できる場合に、フローは体験されやすいです。
具体的には、あなたが数学の問題をしているところを想像してみると分かりやすいかもしれません。一問解くごとに、あなたの回答が正解か間違いかが分かれば、「次は正解してやろう」とより集中でき、モチベーションも保てます。
しかし、問題を解いても、正解か間違いかが分かるのは1か月も先だとされたら、なかなかモチベーションを保つのは難しいのではないでしょうか。
フローに関する心理学研究
フロー理論が提唱されて以来、日常生活で人間はどれほどフローを体験しているのかについて注目する研究が多く行われました。
ヴィドウェルら(Bidwell, et al. 1997)では、アメリカのティーンエイジャー824人を対象に、どのような活動を行っている時にフローを感じやすいかを調査しています。
また、近年はセリグマンら(Seligman, M.E.P.et al. 2005)によって、人間の幸福を追求する新しい心理学領域であるポジティヴ心理学が提唱されたことから、フローも人間の幸福を構成する一要素として注目され、フロー体験の程度と人生に対する幸福感の関連について研究されています。
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実生活で体験するフロー状態
それでは、実生活ではフローはどのように発生しているのでしょうか。具体例を交えながら考察してみたいと思います。
勉強
勉強は特にフローを感じやすい活動の一つです。
「テストで良い点数を取りたい」「○○大学に受かりたい」という明確な目標は、フロー体験の条件である「達成目標の存在」を満たし、「この問題は丁度いい難易度だ」といった問題に出会うことが出来れば、「課題の適度な困難度」も満たせます。
さらに、一問一答の問題集などは即座に「フィードバック」を得られるため、3つの条件が揃いやすいのが勉強です。
問題を解きながら、「正解して嬉しい」「間違って悔しい」といった感情を体験し、気付けば数時間も勉強していたという経験を持つ人も多いのではないでしょうか。
スポーツ
スポーツでは、「ゾーン」と呼ばれるフロー体験を経験する人も稀にいます。野球選手では、ホームラン後のインタビューで「ボールが止まって見えた」と語る選手もいます。
これは、実際にボールを打つという体験に注意が完全に集中し、ボールが投手の手を離れてバットに当たるまでの数秒という現実時間ですが、時間感覚が歪み、その現実時間が引き伸ばされるために起こる現象です。
ゲーム
ゲームも忘れてはならない、フローを体験しやすい活動の一つです。テレビゲームやスマホゲームに時間を費やし、「ちょっと暇つぶしに」ゲームをするつもりが、気付けば何時間も経っていたという経験をした方も多いのではないでしょうか。ゲームもフローに入るための3つの条件が揃いやすい活動の一つです。
フロー状態(フロー体験)について学べる本
フローについてさらに詳しく知りたいという方には以下の本がオススメです。
フロー体験入門 楽しみと創造の心理学 (著)ミハイ・チクセントミハイ
フロー体験の提唱者であるミハイ・チクセントミハイによる著作ですが、一般向けに書かれている為、非常に読みやすく、内容も充実しています。
フローを体験することで私達はどうなるのか。フローによって何がもたらされるのかを丁寧に解説してくれています。
私達はフロー体験できているのか
人生を充実させるには、フロー体験が必要だとミハイ・チクセントミハイは言います。これまでフローを体験する方法を特に重点的に解説してきました。これはつまり、人生を充実させる方法だと言い換えることも出来るかもしれません。
あなたは、いったい一日のうちでどれほどフローを体験できているのでしょうか。自我が埋没し、時間を忘れてしまうほど集中して取り組める活動をどれほど挙げられますか。時間を忘れる程何かに熱中した体験を思い返してみると、幼少期の体験を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。
「私は一日でどれほどフローを体験できるほど楽しい活動が出来ているだろうか」大人と呼ばれる齢になった今こそ、これを考えるべき時かもしれません。
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参考文献
・フロー体験入門 楽しみと創造の心理学. (2010).(著)M・チクセントミハイ. (監訳)大森弘. 世界思想社.
・フロー体験とビッグビジネス. (2008). (著)M・チクセントミハイ.(監訳)大森弘. 世界思想社.
・内発的動機づけ論としてのフロー理論の意義と課題. 石田潤. 人文論集 第45巻.