内観療法とは?具体例や効果、指導者の振る舞い方について詳しく解説

2021-06-08

内観療法とは、本当の自分はどんな人間なのかを理解し、今抱えている悩みや諸問題を解決していく心理療法です。

主観的に自己分析を行うのではなく、これまでの人生で深い関りを持ってきた人々を通して、客観的に自己を見つめ直す手法を取ります。

今回はそんな内観療法の具体的な方法や得られる効果、指導者の振る舞い方について、わかりやすくご紹介していきます。

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内観療法とは

内観療法とは、対人関係を通して自分自身を客観的に見つめ直す心理療法です。内観療法を行うことで、それまでの身勝手な思考や歪んだ認知が転換される効果が期待できます。

適用範囲は幅広く、主に以下のような症状を改善する効果があります。

対人関係に悩みを持つ人々不登校、引きこもり 等
依存症アルコール・薬物・ギャンブル依存症 等
心身症過敏性腸症候群、疼痛性障害、片頭痛 等
精神疾患うつ病、不安障害 等
その他摂食障害、家庭内暴力 等

内観療法の成り立ち

内観療法は1940年代に、吉本伊信により創始されました。

吉本は信仰心の強い母親の影響を受けて育ち、青年期に入ると浄土真宗系の信仰集団に伝わる「身調べ」という精神修養法に挑みます。それにより深く感動的な悟り体験を得た彼は、一般の人々でも行えるようにと、身調べから苦行(断食・断水・断眠)や秘密性、宗教性を取り除いた「内観」を生み出しました。

1960年代に入ると、内観は内観療法として医療現場においても活用され始めます。その効果が明らかになるにつれて、教育や実業界など多くの分野から注目を集めました。現在では海外にも及ぶ大きな広がりを見せています。

集中内観の方法と具体例

内観療法を大別すると「集中内観」「日常内観」の2つに分けられます。一般的に内観療法というと、集中内観を指す場合が殆どです。

集中内観では内観研修所やクリニックなどに赴き、一週間かけて自身の内面とじっくり向き合う方法を取ります。日常から離れて集中的に内観を行うことで、短期間であっても驚くべき効果を生み出すことがあるのです。

集中内観中の生活

原則として専門施設に1週間寝泊まりし、静かな室内で1日15時間ほど内観を行います。部屋に二開きの屏風を設置することで、音や光を遮断し、より集中しやい環境を作ることが可能です。

1、2時間置きに指導者が来て5分ほどの面接が行われます。それ以外の日常会話は極力控えましょう。他にも、テレビ、ラジオ、音楽などの視聴も厳禁とされています。

食事は屏風の中でとり、トイレや入浴以外でその場を離れてはいけません。

一見厳しい規律のようにも思えますが、繁雑な日常生活から一定期間離れるだけでも心身の回復には非常に効果的です。さらに整った環境に身を置くことで、より深い内観を行えるというメリットがあります。

集中内観の進め方

内観療法は、これまで深く関わってきた人々を通して自身を掘り下げていくという特徴があります。これまでの自分は相手に対してどのように接してきたのかを、以下の3つの観点(内観三項目)から調べていきましょう。

【内観三項目】

  1. していただいたこと
  2. して返したこと(恩返ししたこと)
  3. 迷惑をかけたこと

まず初めは、最も関わりの深い存在である母親(またはそれに代わる人)を想起します。調べる対象の順序は無理のない範囲で構いません。

自身の幼少期から現在までを数年単位で区切りながら、その当時「母にしてもらったこと」「母にしてあげたこと」「母に迷惑をかけたこと」は何だったのかを、より具体的に思い出していきます

【NG例】

  • 「母には色々と辛い思いをさせた」→ 抽象的な回答では内観が進まない
  • 「母は穏やかで優しい人だった」→ 内観療法は自己発見法であり、他者について調べるものではない

【好ましい内観の例(迷惑をかけたこと)】

「小学2年生の冬、ゲームのし過ぎで母に怒られた私は家を飛び出した。夕方から数時間街をさまよい歩き、23時過ぎに警官に保護された。交番まで迎えに来てくれた母は、息を切らし目に涙を浮かべていた。何も言わずに握ってくれた手はキンキンに冷たかった。本当に心配をかけたと思い、幼心に強い罪悪感に襲われた。」

母親について調べ終えたら、次は父親、祖父母、兄弟姉妹、配偶者や恋人、友人など、順に調べていきましょう。

また、自身がここまで育つのに掛かった養育費の総額を計算をしたり、過去に行った『嘘と盗み』について思い返すことで内観がより深まることがあります。

集中内観における指導者の振る舞い

指導者(面接者)とは、集中内観を行う際に各人の全面的なサポートを行う人を指します。基本的な仕事内容は、内観中の面接、食事の世話、内観の環境を整えるというものです。

特に初めのうちは上手く内観を進められずに戸惑う方も多いでしょう。その場合、適切なアドバイスを出したり参考になる録音テープを聞かせたりするなどして、より深い内観へと導く手助けを行います。

過去の過ちや罪悪感を思い返すだけでも苦しいものですが、それを他者に伝えるには更なる勇気が必要です。そのため指導者には、誠意と包容力を持って内観者と接することが望まれます。

内観療法の普及に尽力してきた柳田(1998)は、指導者の心得として以下の3点を挙げています。

  • 徹底的に話を聞く姿勢(絶対受容の精神)
  • 常に内観者に学ぶ姿勢
  • 面接者は常に集中内観、日常内観を怠らぬこと

日常内観の方法と具体例

日常内観とは、集中内観を自宅で行う方法です。研修所に行く余裕がない方でも内観療法に取り組むことができます。

日常内観の進め方は集中内観とほぼ変わりません。生活環境も極力集中内観に寄せると効果的です。面接の代わりに、調べた内容をテーマの一区切りごとにテープに録音したり、ノートに記しておくと良いでしょう。また電話面談という形で、内観体験者(指導者)へ定期的に電話をする方法も選択できます。

1週間というまとまった時間が取れない方には、一日内観や週末内観がお勧めです。一日の所要時間は短くても、数か月継続することで徐々に心理的な効果が表れてきます。

内観療法の効果

内観療法を行うと、さまざまな気付きを得られます。

まず「していただいたこと」について内観を行うと、他者から受けた深い恩愛の数々を実感できるようになります。それに比べて自分が「して返したこと」はそれほど多くないことにも気付くでしょう。

また、「迷惑をかけたこと」を具体的に想起すると、これまでの自己中心的な態度が明らかとなり、強い罪悪感に苛まれることになります。

このような経験を積むことで、自分は多くの人々の愛情の下で生かされているんだという自覚が芽生え、自然と深い感謝の気持ちが湧き出てくるのです。

視野が広がり心が軽くなることで、結果的に心の病気が治ると考えられています。

内観療法を行う上での注意点

内観療法は自我をもって自己を見つめ直す心理療法です。よって、統合失調症やパーソナリティ障害への使用には賛否が分かれています。

また深い自責の念を抱くことが内観療法の要でもあるため、重度のうつ病患者では自殺願望を高める危険性を伴います。精神疾患の患者に使用する際は、こうした危険性を十分に理解したうえで慎重に行われなくてはなりません。

内観療法について学べる本

内観療法についてより詳しく学べる書籍をご紹介します。

内観法

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本書は内観療法の創始者である吉本伊信が、1965年に出版した『内観四十年』の復刻版に当たります。吉本自身の半生を綴った、自伝的な内容の一冊です。

吉本は浄土真宗の修行法である「身調べ」を実修したのち、独自の改良を重ねて内観療法を発案します。彼はどのような思いから内観療法を生み出し、普及に励んだのでしょうか。

本書を読めば内観の本質理解が期待できるとともに、自分自身の内観にもより興味を持てるようになるでしょう。

親があなたにしてくれたこと 3つの問いかけで世界が変わる「内観療法」入門

現代の内観療法についてより詳しく知りたい方には、2020年の春に出版されたこちらの書籍がお勧めです。

これまで、内観療法は多くの心理臨床に応用されてきました。本書でも「心のクセを手放せない…学校に行けない…アルコールがやめられない…身近な人とうまくいかない…」といったさまざまな悩みを例に挙げています。

本文には著者の実体験に加え、内観者の声や実際の記録も掲載されているため、内観療法のより具体的な内容を理解することが可能です。初学者の方はぜひ一度目を通してみてはいかがでしょうか。

我執からの解放

我執(がしゅう)とは自分だけの小さな考えにとらわれて、そこから離れられないことを指します。

私たちは普段から良くも悪くも物事に対して強くとらわれすぎているために、心を病みやすいのかもしれません。

内観療法では、そうした拘りやしがらみから解放され、新たな自己を発見できる効果が期待できます。なんとなく心に小さな燻りを感じている方にも、ぜひ試してほしい修養法です。

参考文献

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    • この記事を書いた人

    kinu

    臨床心理学科卒。主に発達心理学、学校心理学について学んでいました。

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