パーソナリティに関する理論や心理検査はこれまでに数多く提唱・開発されてきましたが、現代の心理学研究の領域で最も支持されているビッグファイブ理論に基づいたパーソナリティ検査がNEO-PI-Rです。
それでは、NEO-PI-Rとはどのような特徴を持った検査なのでしょうか。その解釈や無料での受検方法の有無についてもご紹介します。
目次
NEO-PI-Rとは
NEO-PI-Rとは、1990年代に提唱され、注目を集めた、自己報告や他者からの評定で測定されるような性格傾向を5つの最も基本的な性格特性から説明しようとする「ビッグファイブ理論」に基づいたパーソナリティ検査です。
ビッグファイブ理論とは
ビッグファイブ理論では、人間の知覚や感情、認知、行動など様々な傾向を総称であるパーソナリティを、5つの基本的な特性から説明しようとする理論です。
ビッグファイブ理論は提唱されてから大きな注目を集めており、現代のパーソナリティ研究で多くの支持を集めています。
この研究は元々、次の2つの流れの中から誕生した仮説です。
語彙研究:形容詞などの性格を記述した言葉の分類を行うアプローチ
質問紙研究:特定の人格理論に基づく質問紙の作成を目的としたアプローチ
性格研究として代表的なオールポートは個人の人格が他者と比較できない個人特性と他社と比較可能な共通特性から構成されていると主張し、重要な特性は言語によって表現可能であるとして、辞書などから語彙の抽出作業を行い、4504語のAllport&Odbet表を作成しました。
そして、その表を基にキャッテルが作成したキャッテル16因子質問紙をさらに分析し、集約させたものがビッグファイブ理論なのです。
5つの特性の特定までの流れ
パーソナリティ研究において、もっとも簡便に人間の性格を説明するため、核となる性格特性の特定は古くから試みられてきました。
アイゼンクが開発したMPI(モーズレイ人格検査)の元となる性格理論では、人間の人格は4層構造を成しており、その4層目、最も中核を成す性格特性として、向性(内向性-外向性)と神経症傾向の2因子を見出しています。
しかし、1970年代には、この2つの因子に加え、第3の因子として「経験への開放性」があることが指摘されています。
そして、1980年代に入ると、第4の側面として「誠実性」、第5の側面として「調和性」が見出され、今のビッグファイブ理論へと発展していきました。
NEO-PI-Rの開発
このようなビッグファイブ理論を基に、最も基本的とされるパーソナリティ特性を測定するための質問紙尺度がNEO-PI-Rです。
NEO-PI-RはNEO Personality Inventory Revisedの略称であり、日本語ではネオ人格目録改訂版となります。
ここでのNEOとは、神経症傾向(Neuroticism)、外向性(Extraversion)、開放性(Openess)の頭文字を取ったもので、当初は5因子モデルに対する研究者間の一致が得られておらず、この3因子を測定するためのNEOインベントリーがNEO-PI-Rの前身となっているという経緯があります。
NEO-PI-Rの特徴
NEO-PI-Rの特徴は何と言っても、基本的な神経症傾向、外向性、開放性、誠実性、調和性の特性の高低をそれぞれ測定できることです。
【5因子の特徴】
- 神経症傾向:不安や抑うつなどネガティブな気分へのなりやすさ、情緒不安定性
- 外向性:活動的で社交的な傾向
- 開放性:新しかったり珍しいものに興味を持つ傾向、経験や知識に対してどれだけ開かれた態度を持つかに関わる
- 調和性:他者に対する共感性や優しさの程度を表す
- 誠実性:まじめさの程度を表す
NEO-PI-Rの解釈
この5つの次元はそれぞれ6つの下位次元に分かれます。
【5因子それぞれの下位次元】
- 神経症傾向:不安・敵意・抑うつ・自意識・衝動性・傷つきやすさ
- 外向性:温かさ・群居性・断行性・活動性・刺激希求性・よい感情
- 開放性:空想・審美性・感情・行為・アイデア・価値
- 調和性:信頼・実直さ・利他性・応諾・慎み深さ・優しさ
- 誠実性:コンピテンス・秩序・良心性・達成追及・自己鍛錬・慎重さ
この5×6の合計30の特性から個人のパーソナリティを詳細に捉え、個人差を細かく検討することができる点は心理学研究においてパーソナリティを検討する際にNEO-PI-Rが多用される理由でしょう。
そして、これらの30の特性の高低を吟味することによって、その人のパーソナリティがどのような特徴を持っているのか解釈を行っていきます。
ビッグファイブを測定する質問紙検査
NEO-PI-R以外にもビッグファイブ理論に基づいた質問紙検査はいくつか種類があります。
FFPQ
FFPQ(Five-Factor-Personality-Questionnaire)は1998年にFFPQ研究会によって開発された心理検査であり、日本人のパーソナリティも理解できるよう、従来欧米中心だった5因子モデルを独自の視点から再解釈したものです。
この検査で測定できる5因子は次の通りです。
【FFPQの5因子】
- 内向性-外向性
- 分離性-愛着性
- 自然性-統制性
- 非情動性-情動性
- 現実性-遊戯性
これらの因子の下位次元にはさらに5つの特性が想定されており、5×5の25個の特性を吟味し、個人のパーソナリティの特徴を捉えるという点がNEO-PI-Rと異なっています。
主要5因子性格検査
この検査は、青年期、成人前期、成人中期、成人後期と世代別に標準化がなされたことが大きな特徴のビッグファイブ質問紙です。
この検査で測定される5因子は、外向性・協調性・勤勉性・情緒安定性・知性の5つであり、NEO-PI-RやFFPQと異なり、下位次元を持っていないことが大きな特徴です。
3尺度の対応関係
それでは、名称の異なるそれぞれの因子はどのような関連を示しているのでしょうか。
大野木(2004)はこの3尺度の相関関係を検討し、次のような結果を報告しています。
NEO-PI-R | FFPQ | 主要5因子性格検査 | |
強い関連 | 外向性 | 外向性 | 外向性 |
強い関連 | 調和性 | 愛着性 | 協調性 |
強い関連 | 誠実性 | 統制性 | 勤勉性 |
強い関連 | 神経症傾向 | 情動性 | 情緒安定性 |
弱い関連 | 開放性 | 遊戯性 | 知性 |
この結果からわかるように、上の4つの因子は非常によく似たものであると考えられますが、一番下の開放性・遊戯性・知性は関連が弱く、性格特性としての類似点が他に比べ少ないと考えられます。
このように、ビッグファイブに基づいた検査だとしても必ずしも測定できるものが同一であるとは限らないため注意が必要です。
NEO-PI-Rを無料で受検する方法
NEO-PI-Rは検査キットが商品として販売されており、インターネット等で自己診断を無料で行うなどはできません。
なお、NEO-PI-Rの検査キットは20部1組で9400円と非常に高価であり、専門機関に勤めているなどの事情が無い限りは入手が難しいでしょう。
NEO-PI-Rについて学べる本
NEO-PI-Rについて学べる本をまとめました。
性格の心理―ビッグファイブと臨床からみたパーソナリティ (コンパクト新心理学ライブラリ)
NEO-PI-Rの基となるビッグファイブ理論を詳しく学んでおかなければ、検査で示された結果がどのような意味を持っているのかしっかりと理解することができないでしょう。
ぜひ本書でビッグファイブ理論について詳しく学びましょう。
FFPQ(5因子性格検査)マニュアル
NEO-PI-Rのマニュアルや検査用紙は市販されていませんが、同じビッグファイブ理論に基づいたFFPQは検査用紙やマニュアルが市販されているようです。
NEO-PI-Rを実施する前に、よく似た検査に触れておくことで、実際にNEO-PI-Rを扱うときに役立つ経験ができるかもしれません。
性格特性は遺伝か環境か
人間の性格特性は遺伝によるものなのか、環境によるものなのかについては古くから議論されてきましたが、ビッグファイブはどのように規定されているのでしょうか。
これについても結論は出ていませんが、双子を対象とした研究では概ね半々もしくは遺伝:環境は4:6程度の影響を受けますが、開放性のみ遺伝からの影響を強く受けているようです。
遺伝的要因は後天的な影響を受けにくいことが指摘されているため、NEO-PI-Rで測定された性格特性の高低に対し、どのように介入していくべきなのかをしっかりと学びましょう。
【参考文献】
- 下仲順子・中里克治・権藤恭之・高山緑(1998)『日本版NEO-PI-Rの作成とその因子的妥当性の検討』性格心理学研究 6(2), 138-147
- 林智幸(2002)『発達的観点からのビッグ・ファイブ研究の展望』広島大学大学院教育学研究科紀要. 第三部, 教育人間科学関連領域 (51), 271-277
- NEO PI-R 人格検査|心理検査専門所|千葉テストセンター (chibatc.co.jp),https://www.chibatc.co.jp/cgi/web/index.cgi?c=catalogue-zoom&pk=11
- 大野木裕明(2004)『主要5因子性格検査3種間の相関的資料』パーソナリティ研究 12(2), 82-89
- 安藤寿康・大野裕(2000)『P19 NEO-PI-R, TCI, MPIの遺伝的関連について』日本性格心理学会発表論文集 9(0), 88-89