今回は心理検査の中から「Y-G性格検査(矢田部ギルフォード性格検査)」を紹介します。
Y-G性格検査は、質問紙法(質問文に対して選択肢から当てはまるものを回答する方法)の心理検査であり、回答者の性格傾向や行動パターンなどを把握することができます。実施や採点が比較的簡便なこともあり、医療・産業・教育など様々な場面で広く活用されています。
ここでは、Y-G性格検査とは何か、概要や特徴、実施の方法、代表的な類型や結果の解釈などについて解説していきます。
目次
Y-G性格検査(矢田部ギルフォード性格検査)とは
Y-G性格検査(矢田部ギルフォード性格検査)
とは、アメリカの心理学者ギルフォードが作成したギルフォード性格検査をモデルに、矢田部達郎らが日本版として作成した質問紙法の心理検査です。
性格傾向、思考や行動のパターン、対人関係の特性などを測定することが目的であり、後述する12の尺度の強弱をグラフ化することで、回答者の特性を視覚的に把握することが可能となります。検査の概要は以下のとおりです。
対象年齢:小学2年~成人
所要時間:約30分
質問項目:小学生用96問、中学・高校・一般用120問
医療点数:80点
Y-G性格検査の特徴
Y-G性格検査の特徴としては、実施及び採点が簡便な点が挙げられます。
120項目(小学生用は96項目)の質問に対して「はい」「いいえ」「どちらでもない」で回答する方式で、所要時間も30分程度であるため、受検者への負担が比較的少ないと言えます。
採点は「はい」「いいえ」「どちらでもない」の数を集計し、グラフ化するといった比較的容易な方法であり、その場で自己採点することも可能となります。また、自己記入型の回答用紙であるため、一度で多人数(集団)に実施することができることも特徴です。
そのほか、実施において「強制速度法」が採用されている点も特徴です。強制速度法とは、検査者(監督者)が質問を読み上げ(読み上げの録音を聞かせ)それに合わせて回答をさせる方法です。
次の項目に移る前に回答しなければならず、考える時間が短くなるため、質問紙法のデメリットである回答の意図的な歪曲(より良く見せようする操作)がある程度は防げることが期待されます。
Y-G性格検査のやり方
検査方法は、性格などに関する短い質問に対して「はい」「いいえ」「どちらでもない」から当てはまるものを選んで回答します。回答はできるだけ「はい」「いいえ」から選択し、決まらない場合は「どちらでもない」を選択します。
既に説明したように、実施に際しては強制速度法が用いられ、質問が読み上げられる速度に合わせて回答していきます。
回答用紙に記入する際は「はい」か「いいえ」に「〇」、「どちらでもない」に「△」を付けます。回答を修正する場合は、最初の回答はそのままにしておき、変更したい方の回答を塗りつぶします。(「はい」を「いいえ」に変更したい場合:「はい」は「〇」のまま、「いいえ」を「●」とする)
なお、インターネット上でも受検することが可能な検査であり、近年ではオンラインで実施する場合も少なくありません。
Y-G性格検査の12尺度
Y-G性格検査は性格傾向や行動特性などを把握する検査ですが、具体的に何を測定しているかについてを紹介します。
尺度(得点)が高い場合・低い場合それぞれに意味が込められており、結果の解釈に役立てられます。
D尺度(抑うつ性)
抑うつ性を示しています。得点が高いと、気分が落ち込みやすく、悲観的になったり、罪悪感を抱いたりする傾向が高いと言えます。得点が低いと、明朗で楽天的な性格傾向であることが窺えます。
C尺度(気分の変化)
気分の変わりやすさを示しています。得点が高いと、感情が変化しやすく情緒が不安定な傾向にあることが窺えます。得点が低いと、冷静で感情に動かされない傾向にあると言えます。
I尺度(劣等感)
劣等感情を抱きやすさを示しています。得点が高いと、自信に乏しく、人より劣っていると思いやすい傾向が窺えます。点数が低いと、自信に満ちており、ともすれば自信過剰な傾向が窺えます。
N尺度(神経質)
神経質的な傾向を示しています。得点が高いと、細かいことが気になりやすく、心配性なところがあると言えます。得点が低いと、おおらかで精神が落ち着いていると言えますが、極端に低いと無神経でデリカシーのない言動が見られることも少なくありません。
O尺度(客観性)
客観性・主観性を示しています。得点が高いと、独善的・空想的になりやすく、自分の感情や空想に基づいた言動に及びやすいことが窺えます。得点が低いと、客観的・論理的に物事を判断し、行動することができると言えます。
Co尺度(協調性)
協調性や猜疑心について示しています。得点が高いと、非協調的で、人を信用せず不信感を抱きやすい傾向が見られます。得点が低いと、人を信用し、協調的に振る舞うことができると言えます。
Ag尺度(攻撃性)
物事や人に対する攻撃や衝動性を示しています。得点が高いと、短気で攻撃的な傾向、または積極的な行動傾向が見られます。得点が低いと、優しく温厚で、怒りを表さない傾向が窺えます。
G尺度(活動性)
心身両面の活動力について示しています。得点が高いと、活発ですぐに行動に移すことができる傾向が見られます。得点が低いと、大人しくて慌てない面、鈍重なところなどが窺えます。
R尺度(呑気さ)
気軽さや決断力について示しています。得点が高いと、物事を余り気にせず、決断に迷いがない傾向が窺えます。得点が低いと、心配性で慎重な面があると言えます。
T尺度(思考的外向)
物事を深く考えるかどうかを示しています。得点が高いと、小さいことを気にせず、大雑把で無計画なところがあると言えます。得点が低いと、計画的・熟慮的で、深く思考することを苦としないような傾向が窺えます。
A尺度(支配性)
リーダーシップの高さを示しています。得点が高いと、指導的意識や自己顕示欲が強く、リーダーシップを取ろうとする傾向にあると言えます。得点が低いと、服従的であり、大人しく従順である傾向が高いと言えます。
S尺度(社会的外向)
社交性を示しています。得点が高いと、社交的で、人との交流を好む傾向が高いと言えます。得点が低いと、集団よりも一人を好む傾向にあることが窺えます。
Y-G性格検査の結果の解釈と代表的な類型
結果の解釈は、上記の12尺度の強弱の程度から性格傾向などを掴んでいくほか、各尺度の得点をグラフ化して全体のプロフィール傾向から特徴を把握していきます。
A・B・C・D・Eの5種類の類型に大別され、各型において典型・準型・混合型(亜型)の3つの形容があります。どうしても当てはまらない場合はF型(疑問型)となります。
A型(平均型)(Average Type)
平均的でバランスが取れているタイプです。平凡でやや面白みに欠けるところがあるものの、目立った問題行動はなく、調和的で社会や環境に適応しやすい特性であると言えます。
準型(Aに似ている形)をA’(ダッシュ)、混合型(Aほどの特徴はないが、他の型に分類できるほどの特徴もない)をA’’と分類します。
B型(不安定不適応積極型)(Blacklist Type)
情緒面に不安定な傾向あり、自分にとって不利なことが発生すると、感情的になりやすく、周囲と良好な関係を維持することができず、社会的不適応を生じる場合があります。
他方、活動的・外向的であるため、良い方向に向かうと優れたリーダーシップを発揮することができます。準型をB’、混合型をABと分類します。
C型(安定適応消極型)(Calm Type)
穏やかで情緒的に安定しているタイプです。内向的で、自分の意見を言わないなど消極的な面がありますが、真面目で勤勉であり、問題を起こすことは少ないです。準型をC‘、混合型をACと分類します。
D型(安定積極型)(Director Type)
情緒的に安定しており、社会適応力も高いタイプです。活動性や積極性が高く、外向的で良好な対人関係を築くこともできます。
好ましい性格であると言える一方で、自分を良く見せようとする傾向にある人の場合に現れやすいと考えられます。準型をD‘、混合型をADと分類します。
E型(不安定不適応消極型)(Eccentric Type)
内向的・消極的で、情緒が不安定になりがちなところがあり、社会に適応しにくいタイプと言えます。
問題が生じると自分の殻に閉じこもる傾向が高いですが、その半面、創造性が高く、芸術的・技術的な面で優れた能力を発揮するタイプと言われています。準型をE‘、混合型をAEと分類します。
Y-G性格検査の活用例
Y-G性格検査は、集団実施が可能で、しかも短時間で実施できること、上記の12尺度や類型が視覚化(グラフ化)されるため性格傾向を判別がしやすいことなどから、臨床現場のみならず様々な場面で活用されています。
例えば、人材採用において、求めている人材に適しているかの判断材料になるほか、回答者の性格傾向を把握した上で面接選考に臨むことで、より効果的な面接を行うことができるとして、適性検査などで用いられることが少なくありません。
さらに、入社後の人材育成や配置においても、従業員の強みや伸ばすポイントを把握することで育成方針を検討したり、本人の適性に合った業務や役割を与えることにつながるとして活用されています。
Y-G性格検査について学べる本
Y-G性格検査を含む代表的な心理検査について、実施手順や解釈の方法などが具体的で分かりやすく紹介されています。代表的な心理検査をまずは押さえたい場合に適した1冊です。
心理アセスメントの技法ついて、様々な心理検査を取り上げながら、分かりやすく紹介されています。知能、パーソナリティー、状態・症状など幅広く検査が紹介されています。
性格傾向に優劣はなく、正直に回答することが大切です
性格検査全般に言えることですが、その人の強み・弱み、向き・不向きなどを把握することに役立てられるものであり、性格の「良い・悪い」を判断するものではありません。もちろん、Y-G性格検査においても5つの類型に優劣もありません。
良く見せたいとの気持ちから望ましい方向に回答を操作しても、その後に実際の人物像と矛盾が生じて苦労することにもなりかねませんので、普段の自分を思い浮かべて回答することが大切です。
参考文献
- 下山晴彦 編集(2009)『よくわかる臨床心理学[改訂新版] (やわらかアカデミズム・〈わかる〉シリーズ) 』ミネルヴァ書房
- 下山晴彦 監修・編著 宮川純・松田修・国里愛彦 編著(2021)『公認心理師のための「心理査定」講義』北大路書房
- 長谷川好宏 著(2018)『YGテスト入門』ウイズダムマネジメント出版部