選好注視法とは?やり方やファンツの実験などをわかりやすく解説

2021-06-18

選好注視法とはその文字通り、何を選好し注視するかという点から人の知覚・認知を明らかにしようとする方法です。有名なものにファンツの実験がありますが、具体的にどのような手続きをとるのか、どのような人や場合に選好注視法が用いられるのか、詳しく解説していきます。

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選好注視法(PL法)とは

まず、選好注視法がどういったものか、その意味まとめました。

選好注視法の意味・定義

選好注視法はファンツが開発した方法で、PL法(Preferential Looking Method)とも呼ばれます。基本的には2つ以上の複数の刺激を被験者に見せ、どちらをより長く注視するか計測する方法を指します。

ただし、ファンツが用いた実験方法だけを選考注視法と呼ぶのではありません。この原理を用いた実験方法、つまり被験者が視線を何に注ぐかをみる方法を総称し選好注視法といいます。

選好注視法の実験方法

次に、選好注視法の具体的実験方法と、選好注視法を用いる上で重要となる定位反応について簡単に解説します。

定位反応とは

定位反応とは、ある刺激が呈示されたときに、その刺激の方向に姿勢や目、注意を向けることです。この反応は人間だけでなく動物にも存在します。選好注視法の実験では、この定位反応が生じることが前提となっています。

選好注視法のやり方と具体例

被験者に刺激を呈示すると定位反応として目を向けてきます。そこから計測をスタートし、どれだけの時間その刺激を見ているかを測ります。

例えば1分間同時にA・Bの写真を見せ、Aの写真を50秒、Bの写真を10秒みていたとすれば、その人はAにより興味を示しているということがわかります。

ファンツによる選好注視法の実験

選好注視法の先駆けであったファンツの実験を目的から方法、結果の流れでわかりやすくまとめました。

目的

ファンツは、乳児が人の顔をどう認知しているかを明らかにするために選好注視法を考案し実験を行いました。

方法

ファンツは以下の6つの刺激を用いています。

  1. 人の顔のイラストが描かれた円
  2. 文章が羅列された円
  3. 幾何学模様の図形が描かれた円
  4. 色に着色された円
  5. の円
  6. 色の円

乳児にこの6つの図形をみせたとき、どの刺激を長くみているか時間を計測しました。

結果

ただ色がついているだけの円である④、⑤、⑥よりも、何かが描かれた刺激である②、③を長く注視し、そしてそれ以上に人の顔の描かれた①を長く注視していたことが明らかにされました。

この結果から、生まれて間もない乳児であっても人の顔を別のモノと区別し、特別なものとして認知していることがわかりました。

同時に、選好注視法という方法を用いれば、言葉でやりとりできない乳児の内的世界を解明できるということが証明されたことになります。

選好注視法のメリット・デメリット

選好注視法は万能の実験方法というわけではありません。以下にまとめたメリットとデメリットに注意して用いるようにしましょう。

選好注視法の長所

一番のメリットは、言葉を離せない赤ちゃんの内面を推測できるという点です。手が動かせなくても言語を獲得していなくても、目の動きさえわかれば、そこから知覚や認知の構造、好みなどを見出すことができます。

また、現在では乳児研究だけではなく様々な領域で使われるようになっています。動物を対象としたケースもあり、例えばニホンザルが人間の大人と幼児を区別してみているという研究報告があります。ただ視線をみるというシンプルな方法なので、様々な研究に組み込みやすいといえるでしょう。

選好注視法の短所

選好注視法においては、視線の向きや時間を計測し分析しますが、その意味の解釈には慎重になる必要があります。例えば、犬と猫の写真2枚を見せた乳児が犬をよく見ていた場合、直ぐに「この子は犬が好きなのだ」と結論づけるのはよくないということです。犬におびえて目を離せなかったという可能性があるからです。

また、選好注視法を用いるときは、馴化というものを考慮しなくてはなりません。馴化とは、同じ刺激が続けて呈示されると、徐々に反応が小さくなる現象のことです。選好注視法においても同じものを見せ続けると注視時間などは減少していくことになります。より厳密に実験を計画するうえではこの点にも注意する必要があります。

選好注視法について学べる本

選好注視法について書かれている本を3冊紹介します。選好注視法のみを扱った本はありませんが、赤ちゃん研究や視覚研究の一節として、しっかりまとめられた本になります。

赤ちゃんの視覚と心の発達 補訂版

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選考注視法に興味がある人のほとんどは、赤ちゃんの視覚世界や顔認知の研究にも興味のある人だと思われます。この本では、具体的な実験方法から、形・空間・色・顔認知など様々な視覚領域の研究が網羅されています。特に赤ちゃんの研究をしたいと考えている人には必読といえます。

赤ちゃんは世界をどう見ているのか

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赤ちゃんの視覚研究について、新書という形で一般の人に向けわかりやすく書かれた本です。赤ちゃんの知覚・認知などの研究に興味があるけれど、難しい専門書には手をつけづらく何から読めばいいか迷われている人は、この本から読んでみられてもいいでしょう。

乳児の世界

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海外の著書の翻訳版で、ファンツの実験から幅広く記載されています。選考注視法に限らず、さまざまな研究方法を知ることができる一冊です。

選好注視法はなにができるのか

選好注視法では、言葉を交わさずともその人の世界を知ることができます。心理学にはさまざまな研究法がありますが、目の動き1つだけでも研究が成立するという点は選好注視法の最も特徴的なところです。

ファンツの実験として選好注視法というものがあった、と過去のものとして扱われがちですが、この方法にはまだまだ可能性があり、現在でも顔認知研究や幼児研究などでは外せないものとなっています。人がどのように世界を見ているのか、その心理学の根本的な問いを解明するために選好注視法は大きく寄与しているといえるでしょう。

 参考文献

  •  佐藤  杏奈 他(2013).ニホンザルにおける乳児選好性の検討:顔・性・年齢・異種の効果,霊長類研究 Supplement 29(0), 252.
  •  山口 真美(2010).赤ちゃんは顔をよむ,日本視能訓練士協会誌 39,1‐8.
  •  氏原 寛 他(2004).心理臨床大辞典【改訂版】,培風館.

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    • この記事を書いた人

    Kafka

    臨床心理士、公認心理師として主に教育分野に携わっている。

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