就学前の子どもは、特に遊びを通じて多くのことを学び、吸収しています。子どもは発達段階に合わせ様々な遊びを展開しますが、様々な遊びのなかでごっこ遊びは子どもの学びと深くかかわっています。
それではごっこ遊びとはいったいどのようなもので、いつから見られるものなのでしょうか。見立て遊びとの違いやごっこ遊びから身につくことなどを具体例を挙げながら解説していきます。
目次
ごっこ遊びとは
ごっこ遊びとは、「言葉を使い始めた幼児にみられる、大人の動作などを模倣した遊び。ままごとなど。」と定義される、何かを模倣する、何かのふりをする遊びのことです。
保育園や幼稚園など就学前の子どもは食事や睡眠以外の時間の多くを遊ぶことで過ごし、その中で多くのことを学びますが、その中でもごっこ遊びは子どもの発達の指標の1つとなり、ごっこ遊びの中から様々なことを学びます。
それでは、ごっこ遊びとはいったいどのような特徴があるのかを詳しく見ていきましょう。
ごっこ遊びの構成要素と例
ごっこ遊びはヒーローごっこやお医者さんごっこ、おままごとなど様々なやり方がありますが、それらには共通するごっこ遊びの構成要素があります。
【ごっこ遊びの構成要素】
- 役割
- 物
- 動きのプラン
- 状況
例えば、おままごとでよく見かける、食べ物を食べるシーンを考えてみましょう。
砂場にいる子どもたちは、石(物)をイチゴに見立て、お店の人になったつもり(役割)でお客さん(役割)に「イチゴです」と渡します(動きのプラン)。
これでお客さんがイチゴを受け取り食べるふりをすることで、食べ物をやり取りするという状況が生まれるわけです。
このように、ごっこ遊びでは役割をとることで、その役に応じた物の扱いが生まれ、そのことから動きのプランが引き出され、そこにごっこ遊びの状況が生まれるという構造となっているのです。
ごっこ遊びの種類
○○ごっこと呼ばれるごっこ遊びの分類は子どもの想像性に合わせた種類だけあるため、その下位分類は無数にあることになります。
しかし、ごっこ遊びを取り上げた幼稚園や保育園における保育実践に関する日本の研究を概観した松原ら(2022)は様々なごっこ遊びは次の2つに大別することができると指摘しています。
【ごっこ遊びの分類】
- 日常的ごっこ:おままごとやお店屋さんなど日常的な生活現実を模したごっこ遊び
- 非日常的ごっこ:ヒーローごっこなど非日常的な内容を模した内容
ごっこ遊びはいつから見られる?
ごっこ遊びは幼児の持つ様々な能力の発達を伴って現れるものであると考えられています。
最もごっこ遊びが盛んになる時期は4~5歳ごろであるとされていますが、ごっこ遊びの基礎となる「イメージする力」の出現はおよそ1歳半ごろであるとされています。
1~2歳の幼児は身体的な発達とともに、身の周りの様々なものに興味を持ち、探索活動を始めるようになります。
この探索活動は、1~2歳の子どもの中心的な遊びを担っており、まだごっこ遊びの段階には至っていませんが、この探索の背景には身の回りの事物に対する予測や期待があります。
そして、このような探索活動を通じて印象に深く残った事柄がイメージとして心に残るようになり、これが初期のごっこ遊びとしてあらわれるとされています。
初期のごっこ遊びとして最も代表的なものとしては、「ふり」遊び、見立て遊び、「つもり」遊びなどが挙げられます。
ごっこ遊びと見立て遊びとの違い
見立て遊びはおおむね1歳半ごろから見られるようになる遊びです。
見立て遊びとは、身の回りにあるものを別のものに見立てて遊ぶことを指します。
例えば、子どもが積み木をトラックに見立てて走らせる遊びをしたり、空のコップに飲み物を入れるふりをして飲む遊びなどがあります。
この時、外側からは単に積み木を手にもって動かしているようにしか見えませんが、子どもは自身の想像性を活かし、モノを見立てて遊んでいるのです。
この段階ではあくまで身の回りにあるものを見立てている状態ですが、これがさらに発展すると、自分自身や周囲の人も別の役割に見立てる(警察ごっこでは、自分は子どもでも、まるで警察官のようにふるまう)というごっこ遊びに発展するのです。
ごっこ遊びから身につくこと
ごっこ遊びに代表的な「○○ごっこ」を考えてみましょう。
お医者さんごっこという遊びでは、未だ経験したことのない医師という職業ではどのようなことをしなければならないかを「想像力」や医師の仕事を見る「観察力」を働かせています。
そして、お医者さんごっこが成立するためには、医師はもちろんのこと、患者さん、看護師さん、受付など様々な役割が必要です。
お医者さんごっこをするためには、参加する子ども全員がお医者さんをやってしまうのではごっこ遊びが成立しません。
そのため、全員が主役をやるのではなく、順番に役を交代するなどお友達を思いやる優しさやコミュニケーション能力など重要な社会性を養う場としても機能するのです。
つまり、同じお医者さんごっこという目標に向かって、複数の子どもが協力してルールを作り、役割分担をしながらそれぞれの役割で表現するという高度なことが行われていると言えるでしょう。
これらをまとめると次のような能力がごっこ遊びで養われることになります。
【ごっこ遊びで養われる力】
- 想像する力
- 観察力
- 社会性・コミュニケーション能力
- ルールを作る力
ごっこ遊びをしないときに考えられること
ごっこ遊びの大きな特徴は自由な想像力を働かせ、周囲の人を巻き込み遊ぶようになるということが挙げられます。
多くの子どもは4歳ごろから盛んにごっこ遊びをするようになりますが、中にはごっこ遊びをしないで本をずっと読んでいたり、○○ごっこの輪の中に入っていかない子どもがいることも事実です。
この時にはどのようなことが考えられるのでしょうか。
人見知りが強い
大勢の輪に入ることが苦手な人見知りの強い子どもには、ごっこ遊びが難しいかもしれません。
ごっこ遊びの多くは、参加する子どもそれぞれが役割を全うすることで、警察官ごっこやお医者さんごっこなどが成立するでしょう。
そのためには、一人で遊ぶのではなく、そのごっこ遊びを一緒にするお友達の存在が必要です。
しかし、人見知りが強く、遊びにお友達を誘うことができない、もしくはお友達がやっているごっこ遊びに入ろうと声をかけることができない子どもの場合は、ごっこ遊びが難しいかもしれません。
発達の個人差がある
おおむね、4~5歳の子どもは熱心にごっこ遊びをするようになりますが、これはあくまで一般論です。
例えば、男の子は中学生の時期に大きく身長が伸び、高校~大学の時期はあまり身長が伸びないことがありますが、中には小学校の終わりに大きく身長が伸びたり、高校になって身長が伸び始めるという人もいるように、遊びも発達には個人差があるのです。
一見すると、○○ごっこの輪に入っていない子どもも、その前段階である見立て遊びを近くで行っており、しばらく見守っていると自然とごっこ遊びの輪の中に入っているケースなどもあるようです。
子どもがなかなかごっこ遊びをしないときにはどうしても不安になってしまいますが、子どもがどのようなことに興味を示し過ごしているのかを温かく見守ることが大切です。
自閉スペクトラム症
自閉スペクトラム症とは、次の3つの特徴を示す発達障害の1つです。
【自閉スペクトラム症の特徴】
- 社会的相互作用の障害:アイコンタクトなどの非言語的コミュニケーションが苦手
- コミュニケーションの障害:言語的なコミュニケーションが苦手
- 想像性の障害:興味関心の幅が限局される
このような3つの特徴は主に対人コミュニケーションの場において問題として顕在化し、社会適応に支障をきたすケースも少なくありません。
それでは、このような自閉症の特徴はごっこ遊びとどのように関連しているのでしょうか。
ごっこ遊びは先述のように○○ごっこという目的達成のため、周囲の子ども達と役割分担をするという高度なコミュニケーションが求められます。
しかし、自閉症児はコミュニケーションが苦手であるという特徴から、集団となじむことが少なく、興味関心の幅が限定されることで、自分の経験している世界と苦熱された別の世界を体現することが難しいという指摘があります。
ただし、ごっこ遊びをしないという特徴から自閉症であると断言することはできないため、過度な不安を抱き、障害という目線で子どもを見ることは避けたほうが望ましいでしょう。
ごっこ遊びについて学べる本
ごっこ遊びについて学べる本をまとめました。
初学者の方でも読み進めやすい入門書をまとめてみましたので、気になる本があればぜひ手に取ってみてください。
なぜ ごっこ遊び? 幼児の自己世界のめばえとイメージの育ち
ごっこ遊びはなぜ子どもの発達において重要なのでしょうか。
ごっこ遊びのなかで子どもたちは自分の世界やイメージを表現するという、その後の思考やコミュニケーションなどにもつながる活動を行っているのです。
ぜひ、本書からごっこ遊びによって子どものなかで育まれる能力を深く学びましょう。
ごっこあそびアイディアBOOK: 0~5歳児 (保カリBOOKS)
子どもとごっこ遊びの世界を共有することは、親や保育者にとっても非常に重要です。
子どもがごっこ遊びによって様々なアイデアに触れていく機会を増やすためにも、ごっこ遊びのアイディア本を読んでみることも大切となるでしょう。
ぜひ、本書から新たなごっこ遊びのアイデアを子どもと共有していきましょう。
自由なアイデアを周囲と共有すること
子どもは遊びの中で多くのことを学んでおり、ごっこ遊びはその最たるものであるということができます。
一人、もしくは身近な保護者との遊びで限定されていた子どもの世界は、ごっこ遊びによってイメージを周りの子どもと共有することで大きく広がるのです。
ぜひ、子どもがごっこ遊びの中でどのようなことを学んでいるのかを温かく見守り、保育者など周囲の大人がごっこ遊びをしやすい環境を整える温かいサポートをするようにしましょう。
【参考文献】
- 松原乃理子・大滝茜・織壁佐和子・富田貴代・深沢佐恵香・森末一代・請川滋大(2022)『「ごっこ遊び」研究の傾向 ― 保育実践を対象とした調査に着目して 』日本女子大学紀要. 家政学部 69 1-12
- 利根川彰博(2022)『幼児のごっこ遊びにおける「役割」についての検討 幼児が「何者かになっている」ということの位置づけに注目して 』秋草学園短期大学紀要 38 113-125
- 入不二敬子(1986)『子どものごっこ遊びに関する発達的研究--遊具の特性と子どもの表象との関連について』家政学雑誌 日本家政学会 編 37 (8), p705-710