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分離不安とは?大人にも関連する分離不安障害やその原因、治療方法を解説

母子分離不安という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。

これは、誰にでも起こる正常な不安反応のひとつですが、その反応があまりにも過剰であったり、長期化したりすると社会適応に支障をきたす分離不安障害に発展する恐れもあります。

今回は分離不安の原因や治し方についてご紹介します。

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分離不安とは

分離不安とは主たる養育者と一時的に離れたことにより生じる不安のことです。

分離不安の原因

生後約6か月を目安に子どもの大脳は急速に大きくなり、それに伴い認知機能も発達します。その結果、養育者(主に母親)との間に、基本的な信頼感である愛着が形成されていきます。

人間は生理的早産とも呼ばれる、非常に未熟な状態で生まれてきます。そのため、自分の身の回りの世話をし、外界の脅威から自らを守ってくれる養育者との間に特別な信頼関係を構築することで、未熟な状態であっても安心して過ごすことが出来るのです。

発達心理学者のスピッツ,R.Aは生後8ヵ月ごろになると認知機能の発達に伴い、養育者とその他に人物の見分けがつくようになり、人見知りや8か月不安が生じます。

そして、多くの場合、認知的な発達に伴い、一歳半ごろになると一時的な養育者の不在が永久的な喪失ではないことが理解され、分離不安はほぼ消失するとされています。

このように、一般的に分離不安の原因は、愛着対象である養育者との分離が永久的なものではないかという誤った信念によって生じていると考えることが出来ます。

気質と分離不安の関係

これまで、ボウルビィの提唱した愛着と分離不安に関しては多くの研究がなされており、密接な関連があることが指摘されています。

しかし、分離不安に関連する要因は愛着だけなのでしょうか。

尾崎(2001)は、それまでの先行研究において愛着と分離不安や母子分離の行動パターンの関連について言及した研究は多いものの、母子分離場面では子どもの持つ「気質」にも注目すべきであると指摘しています。

気質とは個人のパーソナリティを規定する要因のうち、生得的(生まれながらに持っているということ)な性質を持つものであり、成長の過程においても変容しにくい生まれつきの性質のことを指します。

過分離型・不分離型の共通点と違い

そこで、それぞれの母子分離の類型が持つ愛着の安定性と気質の関連を検討したところ、母親とずっと離れている過分離型と逆に母親と離れることが出来ない不分離型について、興味深い結果が示されました。

過分離型・不分離型は全く異なる行動を示すのに対し、ともに愛着の安定性は低いという共通点があったのです。

そして、両者の行動の違いを規定しているのは新奇場面へのしり込みの程度だったことが分かったのです。

つまり、これまでに直面したことのない場面についしり込みしてしまいやすいかどうかという生まれつきの傾向によって母親との分離行動は影響を受けるのです。

新奇場面へのしり込みの傾向が高い場合でも、愛着関係がしっかりしていれば母親との分離には支障をきたしません。

これらをまとめると、母親との分離が困難で、母親と離れてしまうと強い不安を抱く傾向の強い人はしっかりとした愛着を形成できておらず、新奇場面へしり込みしてしまうという気質を持っていることが推察されます。

分離不安障害とは

先に、分離不安は通常、一歳半ごろにほぼ消失する誰にでも起こる正常な反応だと述べましたが、この時期を過ぎても養育者と離れたことに起因する年齢にふさわしくない過度な不安反応が生じることがあります。

これを分離不安障害といい、子どもの示す主な不安障害の一つとして捉えられています。

分離不安障害の主な症状は次の通りです。

  • 養育者との分離や養育者を失うことによる過度な苦痛や不安
  • そのために、登園や登校が困難となる
  • 睡眠障害や悪夢にうなされる
  • 腹痛や吐き気などの身体症状

 

DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル)では、上記の諸症状もしくは症状があらわれることを防ぐための回避行動が18歳未満の場合は少なくても4週間以上、成人の場合は6ヵ月以上持続することが診断基準とされています。

なお、これらの症状の出現は18歳以前であり、青年期よりも7~8歳の年少期に見られやすいことが分かっています。

男女の発症率に差はありませんが、全体的な発症率は年少期で3~4%、青年期で1%ほどと推測されているようです。

子供の分離不安障害

子供で分離不安障害を発症すると次のような社会不適応が生じる可能性があるため注意が必要です。

  • 保育園や学校で親と離れて過ごすことが難しい
  • 友人の家に遊びに行く、泊まることが出来ない
  • 部屋に一人でいることが難しい
  • 親が部屋にいないと寝付けない

 

このような症状により、発達に必要な社会生活を送ることが阻害される可能性がある一方で、親といるときは不安が生起せず正常に見えるため、実際の深刻さと比べて問題が軽視されてしまうおそれもあります。

また、分離不安障害は長引くほど重症化が懸念されるため、早期の介入が大切です。

大人の分離不安障害

年少期に比べそこまで発症率は高くありませんが、大人になっても分離不安障害の症状を呈するケースもあるとの報告があります。

中には保護者と離れることの不安が強いことから、就学や就職への拒否、その結果による学業不振や失業などの社会不適応を呈する可能性も否定できません。

青年期では親や家から離れることに対する不安感を直接的に口に出して表現することが困難になってしまいます。

そのため、家から離れる単独行動への不快感を拒否する行動もしくは保護者に同伴を求めるなどの行動パターンとして示されるため、周囲の負担も大きいことが予想されます。

分離不安障害の治し方

それでは分離不安障害に対する治療アプローチにはどのようなものがあるのでしょうか。

行動療法

行動療法とは実際にクライエントが示す症状を誤った学習によるものであるという前提から、症状となる行動・反応を消去し、望ましい新たな行動を学習させることで社会不適応を改善しようというアプローチのことを指します。

分離不安障害の場合、親との分離によって生じる不安反応こそが誤った反応であると考えます。

つまり、保護者と離れたからと言って、実際に自分に何か困ったことが起こる、恐ろしい危機的な状況に陥るということはそれほど生じないということを実際に体験させることにより、次から保護者との分離によって不安にならないようにするというエクスポージャーという治療法が有効でしょう。

分離不安の場合は、周囲の家族が巻き込まれやすいので、家族や保育者に治療場面への同席を求める場面も少なくありません。

ポイントとしては、分離不安障害では養育者との別れに抵抗を示すため、分離場面は出来るだけ短くするようにし、クライエントの示す不安反応には感情を交えず対応するように指導します。

これと並行して、クライエント自身や家族に対するカウンセリングを行うことも有効です。

薬物療法

分離不安障害に限った話ではありませんが、あまりに不安が強い場合、抗不安薬やSSRI(セロトニン再取り込み阻害薬)などの抗うつ剤を処方することがあります。

ただし、服薬には副作用があること、そして分離不安は愛着など心理的な要因が元となっているため、あくまで症状を軽減するものであるという前提で用いられることに注意が必要です。

分離不安障害の事例

分離不安障害を抱えている子どもに対するアプローチは実際どのようなものなのでしょうか。

阿部(2000)は分離不安による不登校で苦しむ児童に関する事例を報告しています。

【事例概要】

対象児(IP):小学5年・女子

問題となる事柄:学校へ行けない

家族環境:父親、母親、姉(小6)の4人家族。近隣に祖父母が住んでいる。

両親は大学卒で共働き、1つ上の姉は優等生。保育園の時には「人見知り」が強く、姉と離れると緊張してしまう。

IPが入学後は姉妹で放課後は近くの祖父母の家で過ごす。

小学校1年の時、何かトラブルがあると泣きながら姉のいる教室へ行くことがしばしばあり、小学校2年の時には、給食を吐いてしまい、1週間不登校に。

それ以降行き渋りが出始め、不登校気味となり、小学校4年の秋ごろより、歯痛と遠足をきっかけに完全な不登校に。

それと同時期に夜尿がおさまっている。

 

阿部はIP及び母親の次のような特徴から分離不安障害にあると見立てました。

  1. 母親が席を外そうとすると泣いて嫌がる様子を度々示した。
  2. 常に母親に気遣い、一人になるのを避ける
  3. 大人の介入なしでは一人で友達と話せない

実際にIP及び母親との面接の中から見えてきた母子関係は、「過剰なまでに母親に縋りつく子供」と「仕事に追われ母親としての役割を十分に果たせていない無力感を埋めるため、子どもから甘えられることに依存する母親」という歪んだものでした。

面接の初期には、相談室に鍵をかけ、学校の中で安全な場所を確保するという不安が強くみられ、母親は子どもの不安を取り除くために過干渉・過保護気味ともいえる姿が時おり見られました。

そのため、カウンセラーはこのような母親の過干渉気味な態度を受容しつつ、暖かくも毅然とした態度を保つことで、このような態度が次第に母親の中へ取り入れられていきました。

こうするうちに、IPはカウンセリングルーム内で居場所を得ることで、抵抗なく母親と分離することが出来、学校の教師やクラスメートとも関係を構築することが出来るようになったそうです。

このケースでわかる大事なことはいきなり母子分離を行わないということでしょう。

分離不安が強い子どもの母親は、子どもから甘えられることに対しある種の満足感を抱いているケースも少なくありません。

そのような歪んだ、つながりの強い母子を無理やり引きはがそうとすると、必ずと言っていいほど強い抵抗が現れます。

そのため、母子の間にある愛情に関して受容しつつ、まずは相談室の内部から母子分離を行い、徐々に日常生活でも母子分離を推し進めることが有効であると考えられます。

分離不安について学べる本

分離不安について学べる本をまとめました。

登校しぶり・不登校の子に親ができること (健康ライブラリーイラスト版)

分離不安は子どもに多い不安障害ですが、学校での不適応に陥ることが多いという点で注意が必要です。

子どもが分離に対し抵抗した際に示す、学校への行き渋りにはどのように対応すればよいかわからない方も少なくないでしょう。

ぜひ本書に目を通し、望ましい対応について学びましょう。

母とともに治す登校拒否―母子分離不安の治療研究

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分離不安は単に母子分離に対し抵抗を示したり、ずっと母親とくっついているだけではなく、腹痛や不眠など多彩な症状を呈します。

そのため、分離不安に関する研究を網羅してある本書を手に取れば、分離不安の全容が見えてくるはずです。

親離れと子離れ

人間関係は相互作用によるものであり、家族療法的な観点では子どもの示す社会不適応は、家族システムの機能不全のためと考えます。

つまり、子どもが親から離れられないというのは、親が子どもに依存されている状況に甘んじているとも言い換えられるでしょう。

そのため、分離不安を引き起こしている母子間の愛着の質や、もともとの気質的特徴などに配慮しながら、母子お互いにとって望ましい自立へと導いていくことが求められるのです。

【参考文献】

  • American Psychiatric Association(高橋三郎,大野裕 監訳)(2014)『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』医学書院
  • 尾崎康子(2003)『愛着と気質が母子分離に及ぼす影響:2, 3歳児集団の継続的観察による検討』教育心理学研究 51(1), 96-104
  • 渥美義賢『神経症・緘黙症・精神病・脳の器質的障害のある児童生徒への教育的支援に関する研究』独立行政法人国立特別支援教育総合研究所
  • 阿部啓子(2000)『オープン・クリニック・スタイルによる不登校児童の発達支援の試み--スクールカウンセリングの一事例から』九州大学心理学研究 1, 21-28

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    • この記事を書いた人

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    臨床心理士指定大学院に在学していました。専攻は臨床心理学で、心理検査やカウンセリング、心理学知識に関する情報発信を行っています。

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